第22話 カレーうどん(攻撃力200)
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翌日、アルバイト雑誌をめくり面接予約の電話を掛けるとパソコンで履歴書を印刷した。
散髪にも行って於こう。近くの1,080円の所が早くて安い。
戻って鍵を差し込み回すがと閉めた筈のドアが開いている。
”奴らか?!”
警察を呼ぼうか迷ったがあれからこの時の為に玄関にはバットを隠してある。
そーとドアを開けると静かに静かにバットを持ち出し物音のする部屋へ上がる。
「あっ 馬ちゃんお帰りー。ほらご飯だよ? もうっちゃんと食べないと、ゲームにばかりお金をつぎ込むなんてダメだぞ?」
ぶぉっ!サリーだった! しかも俺をゲームに金を突っ込んで貧乏な奴と勘違いしている、違うんだ契約が無くなって仕事が無いから貧乏なんだ!って恥ずかしくて言えなかった。
「まあ、課金は程ほどにしている。それより何それ?カレーうどん?美味しそうだね、食べて良い?」
サリーが作ってくれたカレーうどんに舌鼓を打ちながら、「凄くおいしいよー」とほめつつ、奢って貰えるなら何回来てもらってもいいな、などと強かな自分を発見しつつもハッと気が付いた。
「じゃ無くて!何で家の中に入れたんだ?鍵かけてたはずなのに!」
「じゃーん、ほら合鍵。此間内緒で作ったの、驚いたでしょう?」
うん、内緒で合鍵を作った事を堂々と白状した事に驚いたぞ。こいつやっぱやべぇよ。
「サリーさん、それは最早犯罪では無いのかね?」 さりげなく遺憾の意を表明する。
「犯罪者が材料費持ちで料理作ってタダで食べさせてくれているとでも言いたい訳? じゃあ食べなくていいよ?」
むむむっ 既に1/3は腹の中、荒ぶる食欲は今更止まらない。
無言でうどんを啜っていると、
「よかった、気に入って貰ったみたいで。」 と頬杖を突きながらニコニコしている。くそっちょっとサリーにぐっと来た。。
「じゃあ、また仕事だから行くね?」
例のように昼食が会わると帰っていくサリー。
「未だ日が明るい。夜からじゃないのか?」 と聞くと、今日は別のパートが有るそうだ。
サリーが帰った後は何もする気が起こらず1時間程ネットサーフィンをしていたのだが気を取り直してHP作成の入門を勉強を始める。就職の役には立たないが何もしないよりはマシなのである、もちろん教材元は無料HP。
しかしすこし躓くと其処から先に進めない、なぜこんなにややこしいのだろう?いや俺の頭が飛び切り悪いだけで分かる人にはスッキリ分かるんだろう。
少しだけ休憩と思って仰向けに寝転がるといつの間にかうたた寝をしていたらしい。
気が付くと窓からの日の光はオレンジ色を帯び、いつの間にか窓枠から影が長く延びていた。
サリーの睡眠時間はどれ位なんだろう? 昼間もパートだなんて生活が苦しいのだろうか?その日はなんとなく彼女の事を考えながらゲームにログインした。
◇
『おう、バトゥ!GMから伝言だ。”POJO氏からのミッションその1!オセアニア大陸奥地のエアーズロックに住む原住民を訪ねよ!そこでレディーJの連絡を待て”だそうだ、随分遠出だな。』
会うなり破滅さんはそう言った。いつもより少しばかりハイテンションである。
しかしその後行き成り声のトーンを落とすと秘話モードで話しかけて来た。
『あのな、バトゥ。カオス氏やPOJO氏に一目置かれるお前を男と見込んで頼みがある。』
...男と見込んで頼みがある!これほど男心をくすぐる頼み方があるだろうか?!
『破滅さんにはお世話になって居ますから、俺に出来る事ならなんでも。』
何でも...俺も馬鹿だな。本当に馬鹿だ、もっと人生慎重にならないとね。
「すまん、恩に着る。実はサリーの事なんだが...奴は今までで3人のギルメンと問題を起している。次は俺やカオス氏も擁護出来ないだろう。」
「気を付けろという事ですか?」
「それもあるが出来れば奴が傷付かない様に適当にあしらってやって貰えると嬉しい。迷惑だとは思っているがこの通り頼む。」
「それ程迷惑では無いですよ?ご飯作ってくれたり。」
しかし、その後の彼の言葉に俺は文字通り言葉を失った。
「そうなんだよ。そしてその後暫くするとアイツ必ず婚姻届けを持ち出して大騒ぎになるんだ。まて!待て聞いてくれ。これにはちゃんとした理由があるんだ!」
◇
俺たちは町の居酒屋に来た。
破滅氏がエールを3口煽った後、秘話モードのままマシンガンの様に喋り出す。
「バトゥ、サリーの奴は面倒くさいが悪い奴じゃ無い。これだけは信じて欲しい。」
そう言われると面と向かって否定するのも憚れる。
「分かりました。それで?」
「ここだけの話にして欲しいんだが、実は奴は過去に結婚直前で男に逃げられている。それがトラウマで問題を起こす様になったんだ。」
「???」 俺には分からない。男に逃げられて傷ついたのなら次からは男に近づか無ければいい。
そう言うと破滅氏は苦笑しながら言った。
「アイツは病んでるんだ。だから無意識に同じ事を繰りかえして以前の失敗を取り戻そうとする。例えば博打で大負けしたやつがリベンジに大博打する様な病み方だ。」
確かに行動が突拍子もなかったが正直そこまで病んでるとは気が付かなかった。
「それでな、アイツが突然婚姻届けを持ってきたら拒絶しないでやって欲しいんだ。もちろん受け入れる必要も無い。」
曖昧にして否定をするなという事だろうか?病んでる奴がそんなので納得するのか?
「いいですけど、なぜそこまでサリーの事を理解している破滅さんが傍に付き添ってあげないんですか?」
と思わずストレートに聞いてから後悔した。
「俺、バツイチだけど再婚で実子に嫁と連れ子がいるだよね。親身になってやりたいけど限界があるんだよ。」
「そうなると逆になんで其処まで親身になってあげれるんですか?」
「うーん、恥ずかしい話だがアイツをあんな風にしたのは俺の兄貴なんだ。背が高くてイケメンだけど碌でもない兄貴でさ、今は何処で何しているのかも分からない。アイツとは幼馴染で昔から兄貴と付き合っていた。まさか結婚式の直前に兄貴が逃げちまうなんて俺も耳を疑ったよ。」
ああ、聞かなければ良かった...俺の馬鹿。
しかし聞いてしまった以上、破滅さんの頼みを聞くことにした。まあ、何か持ち出しても只の紙っきれだと思って気楽に対応するさ。
『じゃあ、俺オセアニアサーバーへの転送門に出かけます。』
馬之助の財布の中は殆ど空っ欠のままだが、昨日別れ前にカオスGMが100日間の大盤振る舞いでランドミサイルを貸してくれたから道々モンスターでも狩って足しにすればいい。
『おう!頑張ってこい。後これ、ギルド幹部専用の通信機だ。お前も特務幹部って待遇に変わっているから使える筈だ。何か有ったら連絡しろ。』
その日、破滅さんに見送られて馬之助は住み慣れた夜昼の街を後にした。
(つづく)
馬之助君はとうとう他エリアへ旅立ちました。




