第20話 どっドウテイ?、じゃなくて如何して?
目を通して頂きありがとうございます。
不快な呼び鈴の音にフライパン片手にドアを開けるとサリーが立っていた。
「どっどうして此処が? もしかして君が奴らの親玉なのか? 俺みたいなのに付きまとってどうする積りだ!」
サリーは身をねじ込む様に勝手に玄関の中に入り靴を脱ぐと「スリッパ無い?」
と聞いた。俺はトイレ用の予備スリッパを奥から出してくるとそっと差し出す。
するとサリーは礼も言わずにスリッパをパタパタ言わせながら4畳半しかない寝室 兼 居間 兼 食事部屋にずかずかと踏み入った。
「うわっ きったない。」
ムカッこれから心を入れ替えて掃除しようかと思っていた所である。
サリーは高そうな高級バック(少なくともブランド品など見慣れない俺には某有名ブランドの物に見えた。)から手帳とペンを取り出すとサラサラを何かを書く。そして手帳の1ページを手荒く破ると俺に手渡した。
「掃除機どこ? スーパー行ってこれ買って来て? はやく!」
掃除機を渡すと追い出される様に部屋をでる。
メモ用紙には割と奇麗な字で”もやし、ニラ、玉ねぎ、ニンニク、ショウガ、サラダ油、胡麻油、塩、コショウ、鶏がらスープ、オイスターソース、卵、砂糖、酢、1カップ酒、片栗粉”と書いてあった。
「ふん!馬鹿にしやがって!塩と砂糖くらい俺んちにもあるわ!」
一部カチコチに固まった骨董品であるが。
それにしても如何して居場所が分かったのだ?
これに関しては後日サリーに直接聞いて見た所、初めて会った日(サリー曰く初デートの記念日らしい)に携帯に妙なソフトをインストールされた。そこに彼女の電話番号を登録されて無料で通話できるからと言われ、「バイ〇ーなら入っているのに」と言った記憶が確かにあった。
実はこれ、とんでもないソフトで...スマホの位置情報提供をOFF設定にしていないと登録した電話番号から電話が掛かって来た瞬間に相手に位置情報を教えてしまうと言う...ガクガクブルブル、だれだ!こんな恐ろしいソフトを作ろうと思った奴は!!
オッチョコちょいな俺はスマホを無くした時様に暗証番号と電話番号で位置情報を取得できる無料サービスに加入してたりしたもので、当然位置情報が駄々洩れ。
「ぎゃははは、もう蜘蛛の糸に絡まったカマキリ見たいなもんよ、あんたなんか。」
お前、本当に俺の事好きなのか?と首が折れるくらい捻りたくなる会話と共に「女って怖いな、人間って怖い」そう思った瞬間でもあった。
飯は自分で炊かされたが、その日の遅い昼食は熱々の野菜炒めと餡タップリの天津飯。
旨かった。ちょっと涙ぐむほど料理の暖かさが胃袋に染みた。おれは文字通り胃袋を掴まれた哀れな雄カマキリであった。
「じゃ、仕事あるし帰るわ。ゴキブリが来るからちゃんと洗っといてね。」
そう言って少し小綺麗になった俺の部屋からサリーは去って行った。香水の良い香りだけが夢の時間が存在して居た事を示す名残を示していた。恐らく失意の俺を慰めに来てくれたのであろう、しかしこの貧乏暮らしを見ればもう彼女がくる事も有るまい。俺は現実を直視してしっかりと生きて行かなくてはならなかった。先ずは仕事だ!その前にパソコンに誰かからメールが届いていた事に気づく。
運営からだ、自棄に早いな?こういう時は箸にも棒にも引っかからない回答が多い筈、予想通りメールの内容は追い打ちをかける様な酷い物だった。
「拝啓 ユーザー様に於かれましては、いつも LLONをご利用頂き有難うございます。
さて、今回メール頂いた内容に関しましてご記載頂いた”ブラックカードボックス”
というアイテムは運用版では存在せず、ベータ版で廃止になった機能でして
お客様の環境でも取り扱いが出来ない仕様となっています。
つきましては、今一度お手元のログをご確認いただけますようお願い申し上げます。
敬具 LLON運営チーム カスタマーサービス係」
はあぁああー!俺が嘘ついていると言いたいんかい!
悔しーーーい、警察の時よりなんか悔しい!!
こうなったら自棄だ!俺はインターネット翻訳機を使いながら英語でメールを作成する。送り先は本家本元、〇国のLLON本社だ!
ログにSSに何故か3分だけ録画されていた自撮り画像の持ち物自慢を再生したキャプチャー画像、全部纏めて8MBになったが知った事か!嫌がらせの様なメールを送ってやった。ついでに日本法人には嘘つき扱いされて凄くご立腹だとも書いてやった。
はぁはぁはぁ...この非常事態に何をやっているんだ俺は?
生活の安定が優先度NO.1だろうが?
ふと現実に戻りアルバイト雑誌を見て電話を掛けようとするが、英文に手こずりもう日暮れ時だった。
俺は溶き卵を炒めるとサリーが作り置きしてくれた天津飯の餡と共にご飯に乗せて食った。うまい、うまいなあ。
今日は早く寝て明日からアルバイト面接を頑張ろうとシャワーを浴びていざ寝ようとするが中々寝付けれない。仕方が無いので少しだけログインすると一文無しの馬之助がいて強盗騒ぎが夢で無かったと今更ながら思い知る。
『バトゥ殿、大変であったな?今日は拙者と模擬戦を致そうか?』
あっそういう気分じゃないんで...と他の人になら言っていただろうが、相手は俺の中で良い人No.1のスーパーさんである。有難くレベルを2つ上げさせて頂きました。
『明日から面接を頑張ろうかと...少しゲームから離れるかも知れません。』
『うんうん、ゲームは自分のペースでやるのがいいよ。』
『では、』といってログオフしようとしたところへカオス氏がえらく息を切らして飛び込ん来た。
ログオフしようとしたところへカオス氏がえらく息を切らして飛び込ん来た。
『バトゥ、バトゥ君。君は一体何をしたんだ?とんでも無い人が君を訪ねて...。』
普段入ったことの無い立派なGM専用応接室に通されるとそこには全身を金色の鎧で固めた青い目のハンサムが座って居た。
全世界1,000万人のLLONユーザーの誰も一度目にしたことがあるであろう此の方はCMにも出ている超有名人。この世界の統一王座選手権のタイトルホルダーであり、自身がこのゲーム運営会社のCEOでもあるジャック・ハウエル氏、彼の操る黄金の騎士”パワーオブジャスティス・ワン”は中二病・運営のインチキ・成金趣味と言った一部妬みとも本当とも取れる陰口を受けながらも圧倒的人気でこのゲームを引っ張るNO.1キャラクターである。
『すみません?行き成りで申し訳ありませんがサイン頂けませんか?』
『バトゥ君、カオス氏へと書いたのも1枚貰ってくれんか?』
『あっ?2枚お願いしてもいいですか?そう、バトゥ君へとカオス君へでお願いします。あとすみません、握手して頂いてもいいですか?』
何処かのアイドルの握手会見たいなやり取りは自動翻訳機能の賜物で順調に行われ、その後POJO( パワーオブジャスティス・ワン氏の愛称)氏はおもむろに語り出した。
『ケイオスGM、ここでの話は秘密でお願いする。バトー君、君からのメールを見て驚いた。実は社内でベータ版のアイテムをこっそり使うという不正行為が行われているという未確認情報を我々も調査していたのだ。しかもアイテムを使うだけなら未だいいのだが...。大変な事にわが社はFBIから目を付けられている』
『F.B.I ?! 』
(つづく)
サリーの本名はその内明らかになります。




