第19話 そりゃあ痺れる!
目を通して頂きありがとうございます。
突然自分の体がエビぞりに反り返る。あばばばばっ!
これって若しかして?気を失いながら棒タイプのスタンガンなんて映画以外で初めて見たなあと考えていた気がした。バタンキュー。
◇
『おいバトゥどこへ行くんだ?もう直ぐ待ちに待ったオークションだぞ?ランドミサイルを手に入れるんじゃ無かったのか?』
『その前に片付けなくては行けない事が』
『オークションより大事な事って? えっ若しかして女か? もしかしてお前までサリーに惚れたとかふざけた事言うなよな?』
『うむ、その通りだから邪魔をするな』
短く言葉を切って馬之助はギルドから出て行く。
すると入れ替わりにギルドバーからサリーが出て来た。
『おいっ!お前馬之助の事をからかっているんなら止めとけよ? ああいう真面目そうな奴は恨まれると後が怖いぞ?』
『チー、じゃなくてハメさん、何言ってるの?』
『だってバトゥの奴が楽しみにしていたオークションも放ってお前の事探してたみたいだから...。』
『あれ?おっぱい攻撃成功?』
『サリー~手前~!!またギルメンに手を出したのか?あれほど言ったのに!ギルド内でリアラブ禁止ー!』
『大丈夫、本気じゃ無いから』
『なお悪いわー!』
ギルド内でram魔法の打ち合いを始めた仲の良いギルド幹部達を集まったギルドメンバー達は生暖かい目で見守っていた。
◇
「時間がない。」
七三の男が時計を見ながら短く言葉を吐く。
「あそこだ!」
目標を見つけた馬之助はダッシュする。
「ちっ用心深い野郎だ。売買に一々パスワードなんてかけるか?」
刑事を名乗っていた角刈りの男が焦りながらキーを乱打する。
馬之助は露店を拡げる少女の前で立ち止まるとすぐにログオフして消えた。
「撤収する!」
男達は気絶した俺を放って逃げ出した。
◇
『無い!無い!全財産ごっそりやられた!!』
全財産とは例のゲーム内の富くじで当たった支払い限度(残り)400億ギールのブラックカードボックスの事である。ログによると街の露店でたった1ギールで”浜の高校生”
なる見知らぬ人物へ売り払っている。そしてログに取引税に関する記録が無い!
無いったら無い!嘘だろう?何百億って入ったブラックカードボックスの適正販売価格が1ギールぽっちだなんて、ゲーム内通貨受け渡し放題・チートやり放題なアイテムじゃ無いか!
2重のショックで黄昏る俺と馬之助。
フラフラとギルドに戻るとオークションを終えたGMカオス氏と幹部達と会った。
『バトゥ、どうした?ランドミサイルを買いに来なかったな?』
『カオスさん...俺...俺...もうゲーム続けれ無いっす。』
およよと泣き崩れる馬之助にメンバーが駆け寄って慰めてくれた。
全て本当の事を打ち明ければ良かったのだが、余りにも突拍子も無い事なので脚色して半分真実を隠して喋ってしまった。
『それで引っ越しの敷金・礼金の入った50万円を強盗に取られたっていうのか?』
本当はRMTでリアルマネー200万円相当のアイテムを電子警棒持参の二人組に乗り込まれた挙句1ギールで見知らぬキャラに売り飛ばされただけです。
『その上、買ったばかりの50億の盾を落として誰かに拾われてしまっただー?』
『バトゥ、悪い事言わんから神社言ってお祓いして貰った方がいい。』
『それより警察行ったんか?』
…行きたく無いが今から行って来ます。しかし奴らどうやってチェーンロック開けやがったんだ?巨大ニッパーで切断でもしてくれていればそれも器物破損で説明しやすかったのに。
『落とした物はダメもとで運営に連絡してみるのが良いよ。運河良ければ何かアイテムを補填してくれるかも?』
…期待して居ませんが、やっときます。
翌日の朝、まず警察に行った。
受付で家に泥棒に入られたと言うと被害届を書いて下さいと言われ色々書き込んだ。
「被害内容:昨日7月27日夕方16:00頃 自宅(〇×町3丁目-32 プリンスハイツ203号室に二人組の男達が押し入り、電子警棒で自分を気絶させた後オンラインゲームで200万円相当の品を勝手に売却され強盗される。(20:00頃に気が付いてログを見て発覚)」
「あのー?これ意味が良く分からないんですけど?この二人組の男達って貴方の御友人ですか?」
「違います。」
「では何故貴方が、そのゲーム内で価値のある物を持っていると知って居たのでしょうか?誰かに自慢しました?」
「いいえ。」
「では、動機がありませんね?本当に強盗に入られたのですか?壊されたドアとか証拠が残っています?」
「いいえ」
「貴方が招き入れたんですか?」
「チェーンロックをして開けたんですけど、痺れて気が付いたら解除されていました。」
「その人たちは見知らぬ貴方の所へ来て、ゲーム中の貴重品を奪うために押し入り証拠も残さず去って行った。そういう事でしょうか?」
・・・「まあ、そうなりますかね?」
「ちょっとお医者の先生を呼びますから見て貰って行きます?」
年配の婦警さんは言葉使いは丁寧だが、目が完全に「ちょっと忙しいのに揶揄いで来てるんじゃないわよ」と言っていた。
「結構です。信用して頂けないなら捜査して頂かなくても良いですけど、被害は本当なので被害届は出させてください。」
「そういう訳にもねえ。被害届出ちゃうと内容によっては一応調べに行く事に成っちゃうし。あなた未だ若いんだから騒ぎになっても困るんじゃないの?」
後から調べると被害届だけでは警察は動かない事も多いらしい。頼りに成らないんだか、それだけしょうもない被害届が多いのだかは俺には分からない。
「すみません、婦警さんのお名前と所属を教えて頂いて宜しいですか?後で真実が証明できたときにこういう対応だったと新聞に喋っても良いですよね?」
俺より一回り位年上の化粧が濃い婦警さんはヤレヤレと言った感じで
「これ、嘘掻くと後で処罰の対象ですからね?ちゃんと説明しましたからね?」
と念を押しながらそれでも届け出受理番号というのを教えてくれた後去って行った。それほど悪い人でも無いのかも知れない、俺の供述も突拍子も無いし仕方が無い。
とぼとぼと肩を落としてアパートへの道を歩く。
昨日俺は全てを失った。いや辛うじて50万円残ったからそれをラッキーと思うのか、何で全部現金にして於かなかったんだこのアンラッキー野郎!となるのかは最早考えるのも億劫だった。
俺なんて生きていたって良い事なんて一つも無いんだ。ゲームの宝くじが当たった時は人生バラ色で素晴らしい未来が待って居るように感じれたけどそれは神様の罰だったんだ。
部屋に戻ってもうなだれたまま、それでも薄っぺらいアルバイト雑誌を今度は真面目に睨みながらゲーム運営会社の日本法人代理店にメールを打つ。内容は実際に起きた事全てである。幸いログは全て取ってある。宝くじが当たったのもブラックカードボックスを売ったのも残っている。100KBにも及ぶログを圧縮せずにメールに添付して送ってからしまったと思った。
「RMTまでバレてアカウント停止食らうんじゃね?」
自分の頭の悪さに布団の上をゴロゴロ転がり周り、匂いと空気が悪い事に気が付き窓を開けて布団を干す。
「もういいや。やり直そう」
そう呟いた時に
「ピンポーン」
普段鳴らない呼び鈴が鳴ってもう少しで布団に捕まったまま窓から転げ落ちる所であった。
また奴らか!とフライパン片手にチェーンもせずに荒々しくドアを開けるとそこには赤いヒールを履いたサリーが立っていた。
(つづく)
前書きにあったサリーの来訪シーンにやっとたどり着けました。




