第17話 マイターン
目を通して頂きありがとうございます。
前回レッドクイーン団というサリーを信奉するヤバい集団に捕まりほうほうの呈で逃出した馬之助。
逃げ込んだ先の道具屋で秘密アイテムをタップリ鞄に仕込むと反撃の狼煙を上げる。
隠密酒 を飲んだ馬之助が千鳥足でよちよちと自警団事務所に近づく。
捜索の為出払っているのか事務所内は人影がまばらである。
とはいえ正面から入ればいくら隠密状態とは言えあっさり見つかってまた捕まってしまうだろう。
馬之助は入口から中を覗くと机に座る一人の男に着目し、トリックアンドトリートの実を投げつけた。
実が男の体に当たるとゲーム内では摂取したと見なされたのか男の周りに大量のキャンディーが煙の様に湧いた。失敗である、人知れず大量のキャンディー代2万ギールを引かれたが気にせずもう一発投げる。
『うごっ!』 今度は男の口から噴水の様にポップコーンが湧き出して来て止まらない。
ポップコーンはあっと言う間に部屋を埋め尽くし道路や隣の部屋へ洪水の様に流れ込む。
ポップコーンは1秒当たり1万ギールが消えて無くなって行くが馬之助はポップコーンの海の中を記憶を頼りにゆっくりとかき分けながら進み赤服を纏った魔法少女が鎮座する部屋への侵入に成功する。
『■ ramファイヤーランス!』
侵入するなり火炎魔法でポップコーン共々真っ黒に焼かれてしまった。
不思議な事に馬之助のHPは半分程に減ってしまっているにも関わらずサリーの頭上には賞罰が点灯しない。トレーニング場でも無い場所でここまでやればトーチャーの一つや二つ付いても良いはずなのに?
『■ ramオリジナル!』
聞いたことの無い呪文だったが次の瞬間室内に稲妻が蜘蛛の巣を張る如く瞬來した。
『ぐえぇぇぇえーー!』 痺れる馬之助のHPはぐんぐん減って1になるが其処で止まった。
『■ ramオリジナル!』
『ぐえぇぇぇえーー!』
『■ ramオリジナル!』
『ぐえぇぇぇえーー!』
おかしい、何だこの魔法は?保護モード闘技場でも無いのにHP1でダメージがカットされている。
『あれ?またこんな所に遊びに来てる。バトゥまで何でいるの?』
『おいサリー。ramで始まる呪文、あれは一体なんだ?』
『...』
一瞬サリーが固まった。次の瞬間。
『ちょっとやだ!何言いだすのよー!』”バチーン” 音は派手だが唯の平手打ちである。しかし残りHP1だった馬之助は突如頬を赤らめたサリーによる不意打ちのビンタに負けてHP0への階段を転がり落ちてしまったのだった。
◇
『納得いかねえ!何でサリーに賞罰が増えていないんだ?』
解説しましょう。女性を辱かしい思いにさせた時、女性側には張り手という攻撃力1の反撃が許されておりそれは賞罰の対象から除外されているのです。
『ごめん、ごめん。ワザとじゃないから許して?代替アンタが変な事言うから...』
何が変な事だ。教えてくれないので自分でヘルプ機能を使ってキーワード検索した。
「ram…接頭語にこの語句を付けた魔法はトーチャー扱いされない。またいくら攻撃してもHP1未満には成らない。好感度がお互い80%以上の相手に使用可能。」
へえー、高感度なんて弄った事無かったけど、サリーへの好感度って高かったんだ?
それに、サリーから見て馬之助も好感度高いんだー。
じゃ無くて!!
この好感度って設定意味が分からないから使った事が無かったがこういう使い方が?
でも無くて!
『おい!どーしてくれるんだ! 折角上げたレベルが~!!』
Lv106→Lv95になってしまった馬之助君は病院からサービステレポート(2万ギールを払って元居た場所へ送ってくれる)を使ってにて戻っては来た物の、しょんぼり膝を抱えて項垂れながら座って居る。
『男なら終わった事をグジグジ言わないのっ!』
なにィー!そんなこと言ったら大企業の管理職の二人に一人は男失格になってしまうがそれでもいいのか!!
じゃなかった、そう言う時だけ性別を持ち出すのって卑怯だと思う~。
お互い無言の時間に気まずーい雰囲気が漂った。
『しかた無いなあ、ちょっとだけよ?』
なに?ボス狩りでレベル上げ手伝ってくれるのか?
『ほら。』
画面の中で赤い魔導師がチラッと裾を捲った。
俺は意味が分からず引き続き画面の前で硬直する。
『もう、欲張りねえ。触りたいの?少しならいいよ?』
カタカタカタ・・・カタカタカタカタカ・・・タカタカタカタカタ…ターン!
物凄く早くタイピングが出来た。自分でも信じられないくらいだ。
『あほかー!!ゲームで触って何が楽しいんじゃーーーぼけぇええっ!!』
いや、端からそういう目的でエロいゲームをするなら楽しいかも知れないが此処に居るのはそういう趣旨で無いので。
『じゃあ、本物で触って見る?』
◇
東京までは快速に乗れば50分弱、途中乗り換えれば秋葉原まで容易にアクセス可能である。ただ経済的な理由で遠出を避けていただけで、当然余所行きの服など無くちょっと色のついたTシャツにジーンズ、スニーカーという学生さんのような恰好でコーヒーを飲んでいる。そう、秋葉原の喫茶店でだ。
『秋葉原迄これる?』 … 『1時間はかかる』 … 『じゃあ1時間後に西側の〇△っていう喫茶店で。サリーは赤いスカートで行くからすぐ分かると思う。』… この女一体何を言っているんだ?1mmも理解できなかった。
『おいっ!』 … 『■ 私サリーちゃん、宜しくね!』
ぐわっ!何なんだ一体! 何の権利があって俺に往復の電車賃+喫茶店代で1か月の食料予算の30%以上を消費せよと言うのか!?その見返りは何だ?俺はオッサンで相手が若ければオッサンだとガッカリされ、逆にサリーが俺よりババアだったらこのオッサンが凹むだけじゃないか、誰得だっ!!?
”カラン”
ドアの上部に取り付けられた銅で出来た2つのベルが軽やかな音を立てる。
視線を上げると入口には赤いスカートを履いた一人の女性が立っていた。
目が合ったと思うとその女性は確かに”バトウ”という形に口を動かした。
◇
「バトゥ、オッサンじゃん。昼間からゲームやってるから学生かと思った、もしかして仕事無いって本当だったんだ?マジでうちの運転手やる気ある?」
無理すれば30前と言えなくもない赤いスカートの女性はすこしポッチャリしかかっているが、小顔で色気が有り何方かというとお水系の世界に住んでそうなイメージでハメさんとの会話が本当だとするとだが、風俗勤めも強ち嘘ではない感じがした。但し胸は其れほど大きくない、寄せてあげてBくらい?ついでに予想しなくても良かったのだが実年齢は31~34と予想した。
「その目つきはねー...、おっぱいがおっきく無いとか、アラサー?とか、実はオカマだったり?とか、貢がされるのでは?とか色々良くない事考えている目でしょ?」
「うむ。少なくともオカマで無い事だけは先に聞いておきたい。」
「バカ、死ね。」 笑いながらサラッと罵倒するサリー。
コーヒーを頼むと両頬に手を付きながら俺を下から覗き込む様に見る。
「サリーはね、大人気なんだよ?だから中々会ったり出来ないんだから会えて嬉しいと思いなさい?」
どの口でそんな事をシャアシャアと言うのか、熱々のコーヒーで火傷すればいいのに。
無口な俺が喋らない事を良い事にサリーは一方的に話し続ける。よく喋る女だ、いや女性は大概良く喋るか?
「じゃっ次いこっか?」
勿論支払いは俺持ちである。それが当然の様に先に出て待たれては払う他あるまい。
コーヒー飲んだから帰ろう、そう思った矢先。
”ぷにょん”
と小ぶりな胸と彼女の張りのある二の腕との間に俺の右腕が挟み込まれる。
「ほら、実物を触れたでしょ?これが御褒美、じゃ無くてお詫び。」
いかん、生理現象で座りたくなって来た。しかしここで座り込んでしまったらそれをネタにゲーム内で良いように使われる気がしてならない。
円周率、九九、募金箱、ガソリンスタンド?思いつく限りの妨害思考で耐える。
「ちょっと、リアクションが無いと私が恥ずかしいでしょ?おりゃおりゃ」
やめてー、押し付けないでー、いやもっとして良いけど下だけは見ないでー。
誰だっけ?ケ〇ドー△バヤシさんだったかがTVで言ってた。
「男は好きな女のおっぱいが好きなんじゃ無くて、触らせてくれる女のオッパイが好きなだけだ!!」
…真に申し訳ありません、俺は今確かに男を自覚しました。
結局ゲームセンターのクレーンゲームとカーレースで2,000円奢らされて我国の国家予算は大変な事になった。RMTが無ければ来月餓死して居たかもしれない。
「そろそろ仕事だからいくね、見送りはいいから。また今度。」
「今度は無い。言ったと思うが今仕事が無いので余裕がない。じゃ!」
そう言って別れたが、右手に感じた柔らかくも弾力のある熱い感触に脳の右半分を占拠され痺れた思考を振り切る様に電車に飛び乗った。
◇
(つづく)
俺君、やっとサリーちゃんと会えました。




