第11話 星の...
目を通して頂きありがとうございます。
遅くにINするとゲーム内でサリーからブーイングを受けた。
『すんませんリアで送別会だった物で、主賓が自分だったんです。』
『転勤か?』 破滅さんだ。
『契約期間満了です。』 あーあ、派遣ってバレちゃったな。
『研究員か何か?』 えっ?何だかいい方向に勘違い?
『うーん秘密?』 いい感じでごまかして於きました。
『仕事なくなったらうちで運転手として雇ってやるぞ?』えっ?破滅さんって若しかして人生の勝利者組ですか?
『止めときなってー、うちきついから~』 えっ?サリーちゃんってハメさんのリア友?
若しかして恋人だったり?いやしかしサリー氏が女とは未だ分からんからな、彼氏という線だって捨てがたい。
『まあ、派遣業みたいなもんやな?星の。』
星?性だと単語チェックで引っかかるからワザと当て字を?
『それって所謂デリヘルの運転手募集ってことじゃあ?』
恐る恐る聞くと大正解だったようでついでに、
『この時間にお二人共いるって事はお客さん来ないんですか?』と聞くと
『うちの美貌に問題があるって言いたいんかー?!なんなら今から言う電話番号に掛けて”しのぶ”さん(源氏名)お願いしますって言ってみ?サービスしたるで!』と逆切れされた。
興味は有りますがマジでお金が無いので遠慮します、それにリアルで会って35歳のおっさんかーってガッカリされるのも嫌だしね。ネット繋がりへリアを持ち込まない様にしているんです。
疑ってませんと必死で会話を収束させ日付変更線が代わる前にスーパーさんを探し模擬戦を申し込むが今日は他の人と消化済との事で又今度お願いしますと言われて戻って来た。
『サリーちゃん、アイスタートルを狩りに行きたいんですが?』
『いいけど、なんか右手の手袋光ってるよ?』
良く見ると言われた通り手の甲が光っている。手の甲の光が透ける手袋とかどんな3D処理だ?まるで最初から組み込まれているかのような仕様じゃ無いか?
慌ててトイレに行き手袋をストレージにしまうと手の甲から3Dホログラムが現れ、あの醜悪なキラーの門番が俺に語りかけた。
「同士達よ、今晩の2時に儀式を行う。主の伝言を伝える”生贄を持って集まるが良い。”」
繰り返し再生されるメッセージの最後にYes/Noボタンが表示されるので取り合えずYesボタンを押すと光は消え去った。
サリーちゃんに用事が出来たので又明日にでもお願いしますと詫びると馬之助は街中へと消えた。
◇
「はあー、生贄を持って来いって十中八九人間を連れて来いって事だよなあ?」
俺はパソコンから離れ、冷蔵庫に手を付きながらウーロン茶片手に考える。
犯罪の片棒担ぎは御免である。
しかし、今通報してしまうのは早計な気もしていた。
犯人たちの背後関係をもう少し洗ってから?
死んでも病院の費用は心配しなくても良くなったので最悪死に戻りでもいいかと気軽に考えた。後になってこの浅はかな考えを大いに後悔する事になるのだが。
俺は馬之助をカバカバ氏の所に移動させると氏に一緒に来て欲しいとダメ元で頼んでみた。すると1,000万ギールくれたら良いと言うでは無いか。3,400万ギールを寄付し約2,400万ギールの税金を払うと二人して街の地下道へと続く小屋のドアを潜る。
『なあ、カバカバ氏は何で結社の集金係をしているんだい?』コンピュータに答えようも無い事は分かっていてつい聞いてしまう。
『■空腹で行倒れていた私は我が主に救われた故。』
...本当にコンピューターなんだよね?■記号を誤魔化して誰か人が入力してない?
『仲間は多いのかい?』
『■馬之助、何を探っている?』
いや!絶対人間が喋って居るだろう?多寡がNPCとの会話にこんな高度な事が喋れる訳がない、どうやらシステムを誤魔化してあたかもNPCが喋っている様に偽装する技があるようだ。
『他にも俺みたいなのが居るのかなあと思って。』
辺り触りのない受け答えをすると相手も話題を変えてくれた。
暫くすると二人共無口になり、そのまま臭そうな下水道を縦列になって進む。
薄暗い地下の排水道を手元の灯り頼りにしばらく歩くとまた黒いローブ姿の人物が座っているのを見つけた。
『天使は?』
『...堕落した。』
『おおー良くぞ参られた我らが支援者よ。何!カバ氏も一緒か?マスターがお待ちだ、ついて来なされ。』
黒ローブ男は前と似たようなセリフを吐きならが俺たちを先導する。
こいつの方が余程NPCっぽいのに会話に■が出ないのが不思議である。
普段は何をしているのだろうか?
若しくはマスターとやらのサブアカウントで何かイベントをやる時だけログインさせているキャラクターなのだろうか?
今度時間の有る時に何時でもいるのかこっそり覗きに来てみようと心に誓いながら大人しく後に続く。道々黒ローブ男から汚い黒いローブを渡される。具体的には取引申請が画面にポップアップされて内容を確認したところ”汚れた黒いローブ 10ギール”となっていたので承諾し、取引税7ギールを支払った。
”ぎいぃ”
効果音と共に壁が開く。隠し扉を潜るとそこには他にも黒ローブを被ったキャラクター達が少なくとも20人は立って何かを待っていたて入口に立っていた別の黒ローブ男に山羊の角で出来た杯を渡され中身を飲み干すよう促される。
”カーン・カーン・カーン”
耳に突き刺さる高音で鐘が打ち鳴らされ別の隠し扉から人の皮を被った悪魔が出てきた。
前回名前の表示が出て無かったと思ったが、今回はニックネームで『マスター・カンデンチ』とある。
はてカンデンチ?乾電池の事だろうか?いや外国語を喋っていたから外人なのだと思う。態々日本エリア(日本のサーバー)まで来て潜伏するとはお国元ではそうとう悪い事をしたのだろう。
ネットでカンデンチと検索してもそういう名前の会社情報が出てくるくらいでゲームキャラ情報とは結び付かなかった。
『同士諸君、我々は犯罪者集団であるこのゲーム運営会社を告発する正義の結社である。彼らの運営を妨げる事は正義の行い、今宵も悪のゲームに身を染める愚かな生贄をこの世界から一人消し去るのだ!』
なんだろう?何かと理由を付けてプレイヤーキルを楽しむ会なのだろうか?
『助けて!』
連れて来られたのは若い女性。か細い肩の彼女は恐らくは戦闘職ではなく生産職なのであろう、縛られた細縄を引きちぎる腕力も無い様だ。可哀そうだがここで騒いで連れ出しても彼らは又違う人を攫うだろう、俺は彼女を見殺しにする事にした。決して興味本位でその先を見て見たかったからでは無いと言って於く。
◇
おえぇぇー。気持ち悪くなってトイレで吐いている。
何なんだろう? ああいうスプラッターな事が出来る仕様を作った運営会社が悪である、そう確信したほどえげつない絵面だった。
絵もそうだったが助けを求める女性の声がトラウマになりそうな程何度も響き渡って頭の隅にこびり付いたままである。
しかし犯罪証拠の録画を取ろうとした時に「トランス状態の為、正常に機械操作が出来ません」と出たのには犯罪者達の用意周到さにゾッとした。入口で飲まされた飲み物に何か混ぜられたのだろうが何でこんな事が出来る仕様になっているのか更に運営への不信感が募る。
犯罪者達の名前を確認したかったが、どうやら結社に仲間入りした後で会話をするとニックネーム側の表示が出る様で地下道入口で門番をしている黒ローブには「ヤコブの羊」というニックネームが表示されていた。しかし、名前の表示は出来ない組織に設定されているらしい。また馬之助自身もこれ以上名前等の情報を知られる訳には行かなかった。
最低の気分のまま地下道を後にしギルドホール手まで来た所でログオフする。ゲームから少し離れたかった事もあるし、オートにしておいて更なる犯罪に巻き込まれるのが怖かった事もあった。
(つづく)
読んで頂きどうも有難うございます。
もし良ければブックマークや評価を頂けると執筆スピードが上がります。




