第8話 ミスリル炎槍斧(紅ハルバート)
目を通して頂き有難うございます。
露店で掘り出し物を探そうと歩いていたら手前で武器屋に捕まってしまった。
彼はNPCで無いにも拘わらず街の一角で堂々と店を掲げている。ミスリル剣+2を売ってくれたこの店の主人は裏表の無い良い人物だと思うので彼が良いと言うのだから見てから行こう。
『じゃーん、此方です。ミスリルのハルバート、どうです大きいでしょう?少し重いですがクリーンヒットした時の攻撃力は剣の倍近くありますよ?』
見せて貰うとハルバート+0の攻撃力は70も有った。急いでシュミレーターを起動するとダメージ計算をする。予想ダメージ35と出た。何だこれ?電卓を叩くと2800回叩けば倒せる事になる。唸りながらも攻撃力アップは急務と思い5,000万ギールを払ってミスリルのハルバートを購入する。
「うーん、しかしこのダメージで人を誘うのは気が引けるなあ。」
冷蔵庫から缶チューハイを持ち出すとマウスを動かし露店をウロウロ見て回る。
露店には10ギールポッキリでHPを10回復させてくれる薬草から高価なチート薬迄様々な物がごちゃ混ぜに所狭しと置かれている。目に留まったのは飲むと1時間腕力が倍になるヘラクレス薬1本1,000万ギール也。之だと予想ダメージは748に上がり、攻撃回数も133回くらいで済みそうだが...。
「うーん、アイスタートルは火に弱いんだよなあ。少しでも火属性の攻撃を付与できれば...」
今呟いているのは武器に属性攻撃を付けるという事で、例えば火属性攻撃を+50付与できたとして、プラスアルファで指輪を買うなり火攻撃強化を+50%装備で稼げば元々アイスタートルは火抵抗が-50%だったので1撃毎に火ダメージ+100が期待できる計算となる。
その代わり属性攻撃付与などの改造にはお金が掛かる。また頻繁に失敗して武器が素材のインゴットに戻ってしまう事があり大事な装備を改造する時はラックの実をひたすら食べ続け運を最大限に迄高めてやるのが普通だった。
しかしラックの実は需要が高く露店でも直ぐに売り切れ状態である。
まあ、悪くしても強化レベル-2や-3が多い事も有り思い切って鍛冶屋の門を叩いた。
出て来たのは如何にもと言った風の髭もじゃ筋肉チビ男、所謂ドワーフと言う種族だろう。
『■何の用だ?』
ん、NPCか。初めてなので成功率や強化の方向性など相談しながらやって見たかったのに。
『邪魔したな。』と断りを入れて店を出るとすぐ隣の鍛冶屋に入る。この先は鍛冶屋通りと言って鍛冶屋が建ち並ぶ通りである。
看板が地味だがいい素材を使って居る店だった。中に入ると又髭もじゃのドワーフが居た。
『いらっしゃい。良いハルバートだねえ? 未強化みたいだから強化を希望かな? 素材支給なら1回500万ギール。素材をこっちで準備する場合は1回の強化で強化レベル×500万ギール必要だ。』
今度はNPCでは無かった。必要な素材は火炎炭・金属強化薬・竜の爪。
『強化もしたいのだが、火属性攻撃を付与できないかと思って。』
『うーん、そいつは需要少ないので俺の鍛冶スキルの方がちょっと怪しいなあ。追加で1,000万ギール払ってくれたら店中のラックの実を消費して...ちょっと待ってね。計算するとそれでも成功率50%、上級の100付近の付与が成功する確立に至っては4%と出たがどうする?』
値段を聞くと素材込みで3,000万ギール。素材無しで1回500万ギールだそうだ。勿論ラックの実の料金は除いてこの価格である。しかしこれミスリル剣が1本買えるよね?
これを安いと思う人がいたら会って見たい。鍛冶屋ってさぞかし儲かるんだろうな?と思ったがそもそも腕の良い鍛冶屋でないとラックの実を腹いっぱい食った状態ですら成功率が一桁台なんて事も有りうると聞く。鍛冶屋は失敗の責任は取ってくれないので客は少しでも腕のいい鍛冶屋を探す。一度でも悪い評判が立つと客足は遠のき閑古鳥が鳴くそうだ。そうだ、そう考えればこの鍛冶屋だって実は成功率予測を実際より高く言ってきている可能性だってある。
まあ色々考えるべき所はあったのだが付与と強化をお願いする事にした。勿論ラックの実を200個食べた後に作業して貰うと言う口約束で3,200万ギールを払い成功確率を底上げした状態から先ずは付与から依頼する。鍛冶屋がひたすらラックの実を食べ切る迄5分程待った。
『火の聖霊よ!その力をこの魔石に宿らせサラマンダーの力をこの武器に宿らせ給え!』
何やら中二病の様な祝詞を叫びながら大きな炉の中に素材の数々と最後に買ったばかりの大事なハルバートが放り込まれる。それは炉の中で真っ赤に光を帯び赤光はその輝度を増して行く。
噂ではこの過程で放り込んだ武器や防具が曲がったり溶けたりし出すと100%失敗らしい。しかも”大”の付く失敗になるパターンが多いらしくもし失敗するにしても其れはだけは勘弁して欲しかった。
ハルバートは光る。赤からオレンジ白色へと光った其れが炉から取り出された。出来栄えは?
『ミスリルのハルバート(火攻撃+45)』
うーん、正直微妙な出来だった。
『良かった!壊れずに成功したぜ。お客さん運がいいな?数字も最悪って程じゃあない。もう少し数字を上げたければ強化品の再強化は1回1,000万ギールと素材が4,000万ギールだ。成功率は元素材の数値が良ければ良い程悪くなるから、今度はラックの実を200個食べた今の状態でも成功率3割って言った所かなあ?』
ふむ。さっきが5割で今度が3割。掛けると15%...無理だ俺には絶対引き当てられない。
でも待てよ?こういうゲームの場合ランダムの変数が時間と連動して確率より上手く行く時間帯と全く確率通りいかない時間帯と出来る事がある。今はフィーバータイムだったら?
いやいや、そんな妄想は止めよう。
俺は自重した。強化も今日は止め店の店主にまた今度お願いしますと礼をすると少し赤色を帯びたハルバートを担いで店を出る。
ふむ、少し振って見るか?
さっそくギルドへ行くとスーパー氏を探す。いたいた、相変わらず厳つい白い鎧に身を固めた上位ランカー装備の氏を見つけるとすり寄る様に近づいて話しかけた。
(つづく)




