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ゼロ化世界  作者: ゴスマ
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プロローグ 前半

ゴスマです。前回投稿から3週間、エタるのと後で辻褄が合わなくて何度も再投稿するのが怖くて30話程書いてみて1章分の目途が付きましたので誤字チェックしながら投稿させていただきます。楽しんで頂けると良いのですが。

『ゴオォーォル!』


 カウンター越しに映し出された画面では赤いユニフォームのチームが決勝点を入れたと思うと一呼吸於いてどっと湧くような歓声が聞こえて来た。


”ピュシュッ”


 現実世界の俺は缶チューハイを開け一口喉を鳴らすとカウンター越しにボンヤリとモニターを眺める男を見つめる。


 無精ひげを生やした黒髪でセミロングの男は筋肉質な体だがマッチョと呼べる程でもない。鉄の胸当てと鱗革で出来た洋風の草摺(腰鎧、タセット)という不揃いな出で立ちをしたその男はカウンターに座ると店で一番安いエール酒を1杯チビチビと遣りながらいつ重い腰を上げるともなく座って居る。


 彼の名前は馬刃バキ 馬之助ウマノスケ、年齢は25歳、身長180cm 体重90kg、この世界の平均的男性のサイズである。


 なぜそんな数字を知っているか? お気づきの方も多いかと思うが彼はゲーム中のキャラクターである。なので俺が彼に『オート(自動自立モード)』を指令するか直接操作してやらない限りはこのまま生温いエールを空になるまで小一時間以上チビチビあおり続ける。


 腰に差すのはありふれた鉄剣、しかも所々錆びている。彼(馬之助)は全世界で1,000万人がプレイすると噂される大人気オンラインゲームの中に生きる底辺キャラクターだった。俺が社会の底辺付近で足掻くしがない派遣社員であるのとよく似ている。(但し最底では無いというのが詰まらなくも小さなプライドであると断っておく。)


 でもまあ何と言うか、彼の場合ゲームの世界で大成しないのは結局全てプレイヤーである俺のせいである事は確かであろう。


 最初の頃は仕事帰りに疲れた体を奮起させ僅かな時間を惜しんでゲーム内でのアイテム集めやクエスト・経験値稼ぎからのレベルアップ作業に勤しんだ。


 だが3か月もすると見えて来た。


 俺が作った馬之助はレベル30になっても10万分の1で付与されるという3つのユニークギフトの何れも発動しなかった。

 レベル50になって迷宮(といっても拠点とする人口3000人の街から南に数キロの所にある入門者用だが)に潜れる様になっても硬い外殻を持つ昆虫型モンスター相手に中々思うように戦闘が進められなかった。

 損傷の激しい武器に防具、時には死ぬほどの大けがをして今や病院や商店に限度額一杯まで借金だけが残った。


 もうこれ以上借りれないが有難いことに病院の借金は3か月待てばリセットされる。しかし一昨日退院したばかりの馬之助にはあと2か月と28日間大けがをする事が許されない。

 何故ならば今、病院に払う金を持たずに死亡の状態になるとそのまま収容先の病院で蘇生処置されずに死んで仕舞うからである。そしてこの死に方は最悪でなんと全財産・装備を失うに留まらずアカウントまで召し上げされるいう鬼畜仕様であった。この時点で止めてしまうプレイヤーが多数居るという噂も頷ける。しかし次々と増えるニューカーマーに運営はプレイヤー、特にゲーム下手なプレイヤーを引き止めようとする気はサラサラ無いようだった。


 俺はゲームを始めて直ぐの時にメールアドレスを一つ新調し ”鹿刃カバ カバ”という反対から読むと人を馬鹿にしたような名前のキャラを作った。

 そして馬之助が死んでリセットされても財産やアイテムが没収されない様に引き渡そうとしたのだが、何とこのゲーム内のアイテムには(数万とも数十万とも噂される無数のアイテム数が売りの一つのゲームではあるのだが、)各々に適正価格という金額があり適正価格から±20%を外れた価格で取引しようとすると最大70%の取引税が自動的に掛かる仕組みになっていた。時々忘れてうっかり道端の乞食に10ギール恵んだ時などは『取引税7ギールを天引きしました。』と表示され画面の前でずっこけた記憶がある。


 何故運営はこんな妙な枷をプレイヤーに強いるのだろうか?しかし実は良い面もある。


 一つにゲーム内のスーパーインフレ防止、二つ目に売買取引時の誤取引防止、三つ目が自アカウント・自力以外からの金銭や装備授与による強化の抑制である。


 最初と最後は分かりやすいので、二つ目に関してのみ捕捉するとゲーム内通貨ギールは1ギール銅貨、100ギール銀貨、1万ギールの角金貨、10万ギールの帝国金貨に加え1,000万ギールのゴールドバー、1億ギールのゴールドインゴットと多様な通貨がある。

 売買時に単位を選べるのだが、適正価格から外れた取引時はお互いのウインドウに取引税を容認するかの確認メッセージが出て来て、しかもそれは2回も聞いて来る。だがオートモードの時の売り子は必ず”NO”を選ぶ仕様になっているらしくて其れを知らない初心者露店主が適正価格外の価格設定をしている箏に気づかずに『また今日も物が売れない』と嘆いている時がある。


 さて、無事取引をしたとして此処の硬貨は普通と違って持ち運びが面倒である。どう面倒かと言うと持ち物イベントリの中には一定の体積分しか保有できない、金額では無いのだ。


 1枡に保管できる通貨は1億ギールインゴット1本若しくは1,000万ギールのゴールドバー10本、これがコインになると10万ギール帝国金貨で7,000万ギール分、1万ギールの角金貨で1000万ギール。更に銀貨、銅貨となると100ギール銀貨で6万ギール、1ギール銅貨で800ギールしか持てない。そして呆れた事に取引の結果で端数が持ち切れなかった時自動的に少額の硬貨から地面に放り出され、往々にしてそこ彼処にいる乞食共に奪われてしまう事だ。このゲーム内で落ちた物を拾うのは犯罪では無いとされている、そもそも取引時の両替は如何しているんだと心の中で突っ込みを禁じ得ないと皆口々に言う。


 かく言う馬之助が今飲むエールの元手もログを読み解く限り商店前で拾った物の様だ。


 乞食達の多くはNPCである。しかも前述の様な死に方でロックされたアカウントのキャラクターがそのままNPCとして動いていたりする所がこれまた深淵なのである。

 まあ此れにもさすがに数多くの批判がゲーム運営会社に寄せられた様だが、今持って『仕様です。』の一言で片づけられているらしい。確かに説明書にはそう書いてあるが。


 俺が作ってうっかり死なせてしまった鹿刃カバ カバ君も今は店前で立派に乞食職を頑張っている。こういったNPCの中には金を貯め装備を揃えギルドにも加入し、現在の馬之助より立派な生活をしている者も沢山いる。彼らを見分ける方法?簡単だ、話掛ければいい。


『よう!』と話しかけて字幕ウインドウに『■ こんにちは。』などと記号が表示されればそいつはオートモードかNPCのどちらかだ。つまりはサーバーが答えている状態と分かる。



(つづく)


読んで頂きどうも有難うございます。少しでも目を通して頂ける事が励みです。

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