第6話「悪戯心」
「それでは、夢の話を」
「我ながら、変や夢でしたよ。市場で、店のおばさんと、品物の値段交渉をしていたんですがね。突然、ケラケラと笑う、鮮やかな青い髪をした悪戯っ子が現れて、水を掛けられたんです。笑われる謂れも無ければ、水を引っ掛けられる覚えもありませんからね。我ながら、血の気の多いことですが、とさかに来ましてね。それで、人混みの中を、掻き分け、掻き分け、追い駆けたんですがね。何しろ、相手は子供でしょう? 何度も見失いそうになる訳ですよ。そうしている合間合間にも、軒庇の上とか、土壺の向こうとかから、容赦なく水をぶっ掛けてくるんでね。参ったなぁと思っていると、子供が路地裏に入って行くのが、視界の端にチラリと見えましてね。そのまま、袋小路に追い詰めたんですわ。もう、どこにも逃げられないぞと思って、じりじりと距離を詰めたんです。ところが、驚いたことに、その子供は、井戸の中に飛び込んじまったんですわ。これは、無茶なことをしでかすもんだ。いけない。すぐに引き上げないと、と思って、水面を覗いたら、また驚いたね。真っ青な龍の、水面に悠然とした姿が映っているだけで、子供の姿は、どこにもなし。ただの子供じゃなかったんだって気付いたところで、目が覚めたって次第ですわ」
「そうですか。それでは、よい旅を」
「おぅ。ありがとな」