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第5話「羞恥心」
「それでは、夢の話を」
「あまり、はっきりとは覚えていないのです。でも、何とか、思い出せる範囲でお話しますね。場所は、僕が生まれ育った村の、僕が住んでいた、茅葺きの小さな小屋です。僕には、村に残してきた婚約者がいるのですが、僕は彼女に、僕がこの旅で出会った人間、この旅で訪れた場所、そこで遭った出来事を話そうとしています。ところが、話がこれから面白くなるぞってところで、いつも、邪魔が入ります。僕の家族だったり、彼女の家族だったり、近所にすむ人だったり。犬やニワトリが舞い込んできたり。その度に、仕切りなおして、一から話をしなければなりません。それでも彼女は、根気強く聞いてくれます。だから、僕も頑張って話を続けます。……えっと、あのぅ」
「それ以上は、語り得ませんか?」
「すみません。ここまでしか、お話できません。これ以上、何かを思い出そうとしても、薄い靄が掛かったようで」
「恥ずかしがることは、ありません。こちらからは、以上です。よい旅を」
「お役に立てなかったようで。失礼します」