第4話「老婆心」
「それでは、よい旅を」
「その前に一つ、聞きたいことがあるの」
「何でしょう?」
「あたしは、長いこと旅回りのピエロをやってきたわ。それこそ、物心が付いた時から、黄色と紺の縦縞の道化服を着てね。まだ、ピエロになりたての頃、一度、ここへ来たことがあるの。鮮やかな花が咲いてたものだから、摘んでいこうと思って、一団から離れたら、迷子になってしまってね。その時も、温かい食事と、ふかふかのベッドを用意してもらったわ。もちろん、最後に夢の話をしたわ。どんな話をしたかは、残念ながら忘れてしまったけど」
「覚えています。王子様に見初められたのだけれど、旅回りの人たちと別れるのは嫌だから、王子様とさよならして、ピエロを続けることにするという、涙を禁じえない話でした」
「そんな話だったかしら? あたしが言いたいのは、その時から、もう六十年は経って、あたしは、すっかり、お婆さんになったというのに、あんたが、初めて会ったときと変わらず、若いままだってことよ。一体、何者なのよ?」
「答えは、到って単純です。人間ではなく、自動人形だからです」
「オート、マタ?」
「適切な修繕を怠らなければ、寿命は半永久です。そして、自分では、夢が見られません」