第3話「猜疑心」
「今日は、夢を話せますか?」
「一週間も足止めされちゃ、商売上がったりだと思ってたけどね。今日は、大丈夫。ちゃんと覚えてるよ」
「それでは、夢の話を」
「はいよ。気付くと、夢の中で走ってるんだ。何かに追われてるんだね。すぐ後ろに誰かがいる気配がするんで、そう思ったんだがね。それで、街の中を逃げ回ってると、路地に入ってね。こいつがまた、運の悪いことに行き止まりの袋小路でね。これは参ったと思っていたら、頭の上のほうから、声が聞こえてきてね。オイラの名前を呼んでるんだ。そうしてるうちに、不思議と身体が軽く感じられるようになってね。肩の後ろ骨を、背中の骨に近付けたり遠ざけたりしながら、腕で水を掻くようにすると、面白いことに、身体が空に浮かぶんだ。それで、そのまま追っ手から逃げたんだ。そのまま雲の上まで行くと、もう、捕まらないと分かってね。ほっとしたところで目が覚めたってところさ」
「そのお話、確かに見たのですね?」
「あぁ、そうさ」
「そうですか。残念です」
「残念って、どういう意味、どわっ」
「嘘をつくと、どんなに隠したつもりでも、必ず言葉や仕草に現れるものです。失礼とは存知ながら、この一週間、食事の席で、行動パターンを分析し、チックを見抜かせいただきました。その結果、嘘をつくと鼻を擦る癖があると判明致しました」
「痛たたた。やい。何の真似だ?」
「不誠実な人に、饗応は致しかねます。そちらの地下迷路、出口に繋がる正解が、一つだけあります。熟考の上、お帰りください。荷物は、出口に運んでおきます。それでは」
「待て。閉めるな。おい……」




