第20話「博愛心」
「それでは、夢の話を」
「はい。理不尽な言い掛かりを付けられたことで始まった戦争は、次第に政治と無関係な人間をも巻き込んでいきました。外に光が漏れないようにした灯りの下で、お針仕事をしていると、サイレンが鳴り響きました。敵が襲ってきたのです。こうなっては、逃げるしかありませんから、すぐに表に出て、自治会指定の避難所に急ぎました。その途中で、瓦礫の下敷きになってしまった犬がいました。誰もが、見て見ぬ振りをして通り過ぎていきます。自分のことで精一杯で、周りに手を差し伸べている場合ではないからです。でも、わたしは、何故だか見捨てることができませんでした。ふと、近くで物干し台が倒れているのが目に入りました。そこで、わたしは物干し竿を梃子にして、犬が逃げ出せるようにしました。さすがに、飼い犬でもないのに、寄り合い場に連れて行く訳にはいきません。どこかで上手く生き延びていれば良いと思いつつ、眠れない夜を過ごしました。すると、真夜中のこと。避難所になっている寄り合い場で、青年に声を掛けられました。そして、ここは危ないからと言われ、別の場所に移ることになりました。真っ暗で、どこを歩いているか分かりませんが、青年の声に導かれるまま、ついていきました。どれだけ歩いたかも分かりませんが、ここなら、安全だというところに辿り着きました。だんだん、水の流れる音が聞こえてきて、磯の匂いがしたので、海に近いことは分かりました。すると、水平線の向こうが明るくなってきました。青年の声がしたので振り向くと、驚きました。昨日、助けた犬が、そこに居たからです。火山の噴火による降灰で、避難先一帯は一夜にして墓場になったという知らせを聞かされ、一緒にゼロから再スタートを切る決心をしたところで、目が覚めました」
「そうですか。それでは、よい旅を」
「昨日は、夜分に遅くに起こしてしまったようで、申し訳ありませんでした。また、お会いしましょう」




