第19話「進歩心」
「それでは、夢の話を」
「あいよ。猛烈な雨風と荒波の嵐の中を、小さな手漕ぎ軍船、いわゆるガレーで航海していたんだ。ところが、それまでにない大波に呑まれてしまって、船は横転。乗組員は千々バラバラになってしまった。俺は、必死に空き樽にしがみついて、助かろうとした。流れ、流れに、流されて。いつの間にか雨は止んでたな。漂着したのは日照りの砂漠で、駱駝に乗ったキャラバンたちに助けられたようだった。ところが、どこまで行ってもオアシスには辿り着かない。仲間は、一人減り、二人減り、ジリジリと身を焦がされながら、蠍や蛇の毒牙に気を付けつつ、乾いた大地を歩き続けた。喉がカラカラになり、汗も出ないのに火照る身体に鞭打っているうちに、立って居られないほどになった。それでも、這いつくばりながらも進むうちに、水辺に辿り着いた。大喜びで飛び込んだよ。再び水面から顔を出すと、そこは熱帯雨林、いわゆるジャングルだった。ジメジメの鬱蒼とした薄暗い林の中を、有害な動植物に目を光らせながら、道なき道を模索していくと、小さな蔵のような建物が見えた。扉を開けて中に入ると、到るところに蜘蛛の巣が張っている、蛻の殻だった。急に扉が閉まり、目の前が真っ暗になってしまった。どうしたことか、扉は開かない。仕方無しに奥に進むと、一ヶ所だけ窓があったので、明り取りと換気のために開けると、外は猛吹雪だった。その窓からは容赦なく雪が吹き込み、閉めることは適わず、突風の勢いで扉が開き、俺は大雪原に放り出されてしまった。今度こそ、万事休すだと思った。何度も諦めそうになりながらも、亀のような歩みで前進した。俺の気持ちを支えていたのは、かつての仲間の顔が思い浮かんできたからだ。ここでくたばったら、あいつらに会わせる顔がない。そのうち、風は治まり、雪は止み、暖かな日差しが差し込んできた。それで、行く手に、草花が咲き乱れ、穏やかな人々が暮らしていそうな、一種の桃源郷が見えて来たところで目が覚めたんだ」
「そうですか。それでは、よい旅を」
「おぅ。昨日は助かったよ。またな」




