第15話「追求心」
「それでは、夢の話を」
「いやぁ、お恥ずかしい話ですが、こうして報道写真家をしていると、何でも記録しておこうという気持ちが強いんですよ。夢の中でも、それは同じでしてね。フィルムを現像液、停止液、定着液、洗浄液と、水場で鼻歌交じりに現像しているんですね。それで、乾燥して出来上がった写真を見ると、旅先の名所旧跡、変わった特産品、珍しいグルメ、お世話になった人々、そんなものが色々と浮かび上がってくる訳です。あっ、この場合は、実際に画像としてという意味と同時に、心の中の思い出がという意味も含みます。えぇ。感傷に浸っていると、ある人物に気が付くんです。商売柄、細かいところが気になる性格でしてね。よく見ると、共通して写る人物がいるんです。おかしいなと思って、引き伸ばしてみたら、人間じゃないんですね。二足歩行をする毛むくじゃらの怪物だったんです。恐ろしくなりましてね。そうしたら、背後からバリバリバリっという音が聞こえてきたんです。うしろを振り向こうとするんですが、情けないことに、驚いた拍子に腰を抜かしてしまいましてね。やっとの思いで振り返ると、案の定、その怪物がいた訳です。そいつが腕を振りかざしてきたので、両腕で自分の頭をガードしました。ところが、一向に衝撃が来ないので、そっと腕の隙間から見ると、その怪物は私ではなく、側にあった写真を攻撃してるんです。せっかく現像したばかりですが、命は惜しいので、そのまま暴れさせておきました。復元不可能なほど、水場を滅茶苦茶にされたあと、怪物が立ち去ったところで目が覚めました」
「そうですか。こちらを返します」
「あぁ、愛しの我がカメラ。やっぱり、首からこれを提げとかないと、落ち着きません。しつこいようですが、現像できたら必ず送りますから、一枚、撮らせていただけませんか?」
「肖像の撮影は、固くお断りします」
「記念になるのに、残念だなぁ。まっ、嫌なら仕方ないか。至れり尽くせり、どうも。さようなら」
「よい旅を」