第14話「受容心」
「それでは、夢の話を」
「はい。いつの間にか、窓がたくさん並んだ廊下を歩いていました。窓ガラスは透明で、嵌め殺しになっているので、窓の向こうは見えても、そちらに行くことは出来ません。歩きながら、一つ一つ見ていくと、どの窓にも、ある職業の制服を着た自分が、一心不乱に働いているのが見えました。防火服の消防士、迷彩服の軍人、白衣の医師、法服の裁判官、僧衣の神官、作業服の整備士。様々な職業に従事する自分が見えました。懸命に勤しむ姿は、輝かしいものがあるのですが、段々、見るのが嫌になってきました。そうというのも、廊下を歩いている自分が、囚人服を着て、ただただ立派な似姿を見て回ることしかできないからです。ついには、歩くのも億劫になり、その場に蹲ったところで、目が覚めました」
「そうですか。それでは、よい旅を」
「待ってください。質問があります」
「何でしょう?」
「もしも、僕と同じように、永遠の命を手に入れたら、どう思いますか?」
「自分一人にしろ、全員一斉にしろ、どちらにしても良い事ばかりではないでしょう。限りがあるからこそ、楽しいことがあるでしょう。忘れたいことを忘れられ、過去の自分を忘れられることも、時には必要ですから」
「不老不死になんか、なりたくなかった」
「そう、気を落とさずに、物事の良い面に着目することです。無限に時間があるからこそ可能になることが、必ずあります。それが見つかるまで、旅を続けてみなさい」
「無限に時間があるからこそ、可能になること。……わかりました。探してみます。どうも、ありがとうございました」