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序章「あるところに」
深い、黒い、森の中。
昼でも、陽が差さない、常闇に、
一軒の家が、あるという。
家というには、生活感がなく、
館というには、気配が少ない。
そこに暮らすのは、主だけ。
たったひとりの、小さな城。
名も知らぬ旅人が、訪ねるのを、
今か、今かと、待っている。
一宿一飯の、見返りに、
旅人に課される、命令は、
昨夜の夢を、語ること。
どんな夢でも、構わない。
でも、
もしも、夢を忘れたり、
そもそも、夢をみないなら、
夢を語れる、その朝まで、
旅に出ることは、許されない。
もしも、嘘の夢を作ったら、
主に、嘘だと、見抜かれる。
夢を騙る、不届き者は、
城を生きては、出られない。




