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美しき悪魔  作者: pegasus
第一章
5/19

白い怪物



 薄暗く、切り出された石に囲まれた重々しい牢獄内。黒の鉄格子が光を一切受ける事もなく、並ぶ。

タカロスが顔を上げると、ニッカが顔を上げた。

朝五時から、夕方六時に夕食を配り独房での監視を終えると、タカロスは普段部屋に戻る。

水曜日は貫徹して一日中自由房の監視だ。

だが呼ばれれば、タカロスは六時以降、どの部分にも入る。塔の上も、特別房も、精神科房も、それに、死刑執行人も……。

特別房に入らされる人間は、二手に分かれている。五十年以上の服役の受刑囚と、死刑の決められた受刑囚の二手に。

シチリアンマフィア、クローダの幹部だったイデカロも、死刑執行を待つ囚人だった。

後ろで下腕を拘束され、鎖で繋がれるイデカロは視線を上げ真っ直ぐに、現れた若造、タカロスの目を見た。

健康状態を確認する為に手を出し、鋭く噛まれそうになった為に目を細め手を引き、静かに見据えた。

ニッカは凶暴だから拘束器具をつけたと言うものの、必要なのは拘束じゃ無い。

この手の人間は、恐ろしい程頭が働き続けている。どんな時でも。

一晩、ニッカと共に顔を付き合わされる番が自分に回って来たわけだ。

「脈拍と体温、血圧を測る」

そう言い、噛み付いて来る事を留まらせた。他人に触られることが嫌なのだろう。体にも内面にも。

イデカロは忠誠を誓った者以外には動かない。

本人は舌が半分無い為に、体温計を加えさせても多少奥に突っ込ませなければならなかった。

タカロスは脈拍を測り終えた後、拘束を解くために一度、白い岩のようなスキンヘッドの中の、鋭く剣呑と真っ直ぐを見る目を見た。冷静なまま、首筋に喰らい付いて来るだろう。十分に。

冷酷な小さな瞳は、感情など無い。

イデカロは若い男の包帯の首筋から薫る、生物的な香りを嗅覚が示していた。この香りを知っているぞ。

雪の香りそのものの透明な香りであり、そして微かに甘い純白の花と錯覚するような芯が薫る。そういうまだ若々しい極めて質の良質な物を生まれて持ち合わせた人間自体の肉の匂いを持つ奴を一人、知っている。

透明な闇に浮く白薔薇のような人間。

アルだ。

先代の倅、エルデリアッゾの可愛い狂犬。

清潔感で出来上がり、男前な顔立ちの若造の警備員の冷静沈着な白水色の瞳を横目で見ては、にたり、と、目元まで鋭く悦笑した。

タカロスはぞっとし、口をつぐんだまま拘束を解き、血圧を測る。

人を殺そうと感じた瞬時の目だろうか。何かを嗅ぎ分けた獣の様に、腹を満たそうとした瞬時の目。

はじき出された数は、この巨体に関らず低い。六十三の年齢のせいもあり、体温調節も行かずに低いのだろう。それも、死刑前に長期の拘束で心臓発作を起されても困る。

実際、力を温存し、そして一気に飛び掛れば相手側も即死は免れないことは分かっている。

元々イデカロは、エジディガー・クローダが暗殺団体から闇市で競り落とした、冷血な殺人兵器だ。

拘束器具を取り離れ、鎖を横の鉄格子に据え付けられた鉄台に置いては、横目でイデカロを見た。

拘束を解かれても、腕をそのままに立ち、特殊受刑囚一様に同じである灰色の長衣から覗く白の足首で支えられている。

通常、十人で一つの細長い牢屋に入り、それが右横にスツール一つ置かれた黒い鉄のドア左右に二つずつ、この監房にはある。それらの中央の空間に、一人用の牢屋が五つ並んでいた。

右側奥の鉄ドアは、拷問室である。普段、入り口鉄ドア横のスツールに腰掛け監視し、拷問の際にそれを行なうのがニッカだ。

今、イデカロがいる場所は単独で入らされる場合の中央の牢屋の中だった。

タカロスはしばらくイデカロを見てから、拘束器具では無く、通常の鉄枷の鎖を頭上から下げ、イデカロの手首に枷を嵌め、黒く太い鎖が、重く天井から下がった。

再び綺麗な香りが鼻腔に広がり、悦としてその首筋を見た。

あの純白の獅子に噛み付かれでもしたか、首を締められたか、≪死の接吻≫でもされたのだろう……。

あの狂犬は若頭の男だというものを、それと知って心を奪ったかは知らないが、一年足らずで既に他の者を貪るとは。

この若造があの小僧に惚れられた事で、あの恐ろしい悪魔、ダイマ・ルジクの凶眼にやられる事になる事か。

冷静な白水色の瞳からは、一切何も読み取れはし無いポーカーフェイスだ。

だが、その眼の奥にあるのは、芯の先の哀れみだ。

イデカロには分かっていた。多くの死を下す目だという事をだ。

タカロスがこの刑務所の、死刑執行人に定められた役人だ。

イデカロは目の奥で微笑し、その炎が闇を一気に取り巻かせ豪炎を渦巻かせた。轟音を伴い……。

タカロスは一瞬の幻惑に炎に飲まれ眩暈を覚え、目頭を抑えては、一瞬後に身を引き頭突きを免れた。

上目で静かに睨み、男は目を細め口端を上げては、実に美味しそうな肉をしていそうな警備員の綺麗な身体を見回した。イデカロの好物は人肉だ。若い頃からその嗜好を持つ、ダイマ・ルジクと同様に。

あの小僧も、その心がある筈だ。

自己では気づく事は無いだろう。もし拒否反応を示すとしても、感じている筈だ。

人間の首筋から立ち昇る、微かな色気として香る人間としての香り。汗や、弱り潤った目、それらが好きなはずだ。

そういう感覚を持つ人間は、嗅ぎ分ける。芳しいまでの美味しい人間、それを。

小僧が拒否をしても、抑えられない感情は今に、虐げる事への断ち難い業へと変えられて行く筈だ。いずれは……。

シイタゲル、という、そこはかとない甘美なる響きへと……。

人の心にはある物だ。同じ人間の肉を食したい、という変え得ない猟奇的な願望が、強烈な情へと変換されるだけ。

タカロスは口を噤み男の目を見据えてから、視線を外し遠くのニッカに頷いた。

鍵を手に収め、台の上の拘束器具を箱に収めては、身を返し、牢屋を出た。

「ア……ル……」

「………」

颯爽と歩いて行こうとしたタカロスの視線が固まり、ゆっくりと、横目で掠れ切った微かな風音を発した男を、見た。

鉄格子の中の男を見ては、目元を落ち着かせ、そして歩いて行った。

肩越しに一度鋭く睨み、顔を戻しニッカに首をしゃくり頷いてから、横に来て耳元に小さく言った。

「下旬に執行されます。それまでの管理を」

ニッカは横目で見て相槌を打ち、タカロスは死刑囚の確認を終えてから、鉄のドアから颯爽と出て行った。

レンガに左右を囲まれる通路を歩いて行き、角に来てようやく、首筋を抑え壁に額を静かにつけ、目を閉じた……。

息をつき、静かに壁を見つめる。

地雷撤去も、死刑執行も、独房監視も、神経を切り詰めさせてくる。

死刑執行人が所長とニッカ、女精神科医以外の他警備員に知られる事は無い事だが、独房のアヌビスなどという勝手につけられた言葉の皮肉も、笑い事でも無かった。

あのイデカロの目は、絶対に分かっていた。何でも知っている嗅覚を持ち合わせた目は、想像以上に凶悦を持っている。

同じくマフィアクローダにいたクラウディスの存在を、嗅ぎ取ったのだ。自分から……。

本気になりかけている事も。それを、必死に自己が無視しようとしても、体が動いてしまう。あの、甘い香りを人間にしたかの様なクラウディスという存在に、魅了し引き付けられるかの如く。それは、あの男から嗅ぎ取ったカニバリズム的な超自然的な引力としての、罠……。

美しき悪魔の。

全てのあのあまやかな美しさと存在で惹き付けて、そして喰らう……。

タカロスはこめかみに伝った汗の目元を開き、静かな目元で視線を正し通路を歩いて行った。

それでも、彼を抱きたい……。

彼の純粋さがあまりにも揺ぎ無い光を発しているから、触れていたくなる。

人の命を左右させつづけるこの手が、純粋な白い光に浄化されるかのように感じる。

この手で妻や娘を抱きしめる事がどんなに時に、罪を感じるか。

それらの事を無くしたくて地雷撤去に向かい、元凶を断ち、少しでも浄化させ……。

だが、クラウディスは生きた地雷のようなものだ。ここの人間達全てでさえも。

それでも、あの不思議なクラウディスという存在に触れると、どこまでも粉雪のように溶かされる。ほっとする……。


 週に二日、作業が無い。

だからといえ、実はこの刑務所内にはある礼拝堂に礼拝に向かう囚人などそうはいなかった。まばらだった。

警備員達は土曜、日曜に分かれて懺悔と祈りをする義務がある。

タカロスは祈りを終え、ロザリオを手に身を返した。

「………」

……クラウディス。

憮然としたクラウディスが、女精神科医に連れられ教会に現れ、その横にはよく連れ立っている受刑囚の青年もいた。

その受刑囚の青年は五年前からいる元手品師だ。ようやくリストカット癖を治して、敬う余りに恨みで殺した被害者への愛情も思い出し受け入れ始めていた。

クラウディスはずっと他所を睨んでいたが、切れ長の目元で今日は髪を風の様に降ろしている女精神科医がタカロスを見ると微笑み、元手品師の受刑囚が独房のアヌビスを見て、またビクッとした。その為に、クラウディスは顔をこちらに向けた。

「………」

クラウディスは頬を染め、うつむいた……。

なんて可愛いんだ。

タカロスは一度、祭壇を横目で振り返ってから、クラウディス達を再び見た。

帽子を被らなくアッシュゴールドの髪が流れるように清潔で露になる彼の目元顔立ちは、明るい場所では淡色で芯の通った品のある顔立ちであり、とても異名を持つようには思えない、確固としたしなやかさがある。

首筋の包帯はあざも引き、もう取れた。

彼等は進み、タカロスは彼等に目礼しそのまま帰ろうと思ったものの、クラウディスがいる横から正直、足が動かずに彼等を見下ろした。

セレは上目になって口をつぐんでいて、そのセレの目の中にはこの五年間で、ようやく死という投げやりを通り越した諦めと抜け殻と悲しみの色が薄くなっていた。

同じ様に連れ立つ同じ性質に思える怪盗青年がいるが、その受刑囚の場合は軽快さがあり、アグレッシブだ。精神衰弱する部分など一切持ち合わせてはいない。肉弾魔の受刑囚は元がパッパラピーだし、誘拐犯の受刑囚は我が強い。

元手品師は曲芸師の中でも繊細だった。クラウディスとも何かと気が合う部分があったのだろう。芸術面でも感性が合ってか、二年前に捕まり入った怪盗犯の青年と共にいたが、クラウディスが来た一年前から其々バラバラだった五人がつるむようになった。今に、クラウディスがまた一人で向かっている爆破犯の青年も加わる事だろう。

「しばらく、付き合わない?」

タカロスは女精神科医の言葉に彼女を見てから、顔を上げないクラウディスと、睨むように静かに見て来る元手品師の受刑囚を見て、断るために首を横に振る準備をした。

「あなた」

ロシア語。

「………」

高い声に、彼等は教会入り口を振り返った。

有り得ない程の美人が、動き歩いてきている……。

「パパ!」

ターニャが飛んで来てタカロスの腹にしがみつき、彼は八歳の娘を引き寄せ微笑んでターニャの愛らしい満面の笑顔を見た。

「久し振りだな」

クラウディスはタカロスの満面の微笑みに頬を真赤にし、セレはその驚くほどえらい男前な顔立ちから、気付いてクラウディスを見ては、可笑しそうに噴出した。

「本気でお前、ぞっこんなんだな」

そう小さく言い、クラウディスは耳まで真赤になって目を口を丸くセレの脇腹を肘鉄した。

「うが!」

「きゃはははは!」

セレが攻撃されて叫んだのでチワワのように可愛い少女が笑い、背の高く美しい母親が横に来ては娘の髪を優しく撫でた。

「遠いところを無事について良かった」

男らしい微笑みで、妻の両頬にそっとキスを寄せてからロシア語で続けた。

「この白黒の青年が、先日の撤去活動に向かった者だ」

「まあ、噂の」

輝く柔らかさの美女がクラウディスに微笑んで来たために、クラウディスは咳払いし、手を差し伸べた。彼女はその手を取り、微笑んだ。

彼女は女精神科医も見て微笑んだ。

「夫がお世話になっております」

「こちらこそ」

ロシア語の分かる女精神科医に挨拶し、その横の、同年代ぐらいだろう神経質な顔つきが思慮深く痩身な青年にも微笑んだ。その二十七歳のセレは、美人に頬を熱くして微笑み、独房のアヌビスの妻の手を取った。

さばさばした女精神科医は微笑んで、二人の青年を見たが、各々が頬を染めているので首を傾げて瞬きし、可笑しそうに小さく笑った。どうやら、其々ほの字のようだ。

少女は飛び跳ねて背の高い父親の肩に抱きついていて持ち上げられニコニコしていて、クラウディスを見ると微笑んで手を振ってから、タカロスは背を降り下に足を付かせてやった。

「もう八歳なのに甘えてるって思ったでしょパパ。でも、成長したの。好きな子出来たのよ。でもパパが一番!」

そう嬉しそうに笑ってタカロスの大きな手を取り、ぶんぶん振りながら懺悔室から出てきたエルダを見て喜んだ。

「こんにちは! お久し振り!」

少しはロシア語の分かるエルダが来て、彼等に挨拶をした。

セレは、姉の面会時にこの警備員を見ていた。

「相変わらず可愛いな。ターニャ。おっかねえ黒人のおっさんがお前のことをチワワつってたぞ」

そうイタリア語で言っていて、「可愛い」の部分はロシア語で言っていた。

その黒人の恐いおっさんが、ベッドの下で発見されたと警備員達の間の噂で流れるニッカだという事を分かっていたので、タカロスは伏せ気味の視線でエルダを見てから、エルダがわざとおどけた。

「パパ。みんなでお祈りしよう」

ターニャがそう言い、母親の手も引き歩いて行き、少女は肩越しにニコニコとクラウディス達を見て来た。

女精神科医は微笑んで、彼等の背を促させた。基本的に警備員と受刑囚間の私語は厳禁の為に、エルダは話さずに受刑囚と一般人との争うが無い様に二人の様子を見ながらも一歩下がり、進んで行った。

彼等は並ぶと左右に分かれてベンチ前に並び、祭壇側を見上げた。

クラウディスは少年時代、母と父に連れられ日曜礼拝には来ていたのだが、その時代はまさか父が無宗教者だとは知らなかった。父のロザリオを見たことなど、一度も無かった。黒でも何の色でも。

クラウディスは合掌さえしようとしないので、女精神科医は小さく言った。

「祈りが分からないのね。ほら、ステンドグラス横のタペストリーの枠が、教典になっているわ」

「祈りは……分かる」

「良かった」

セレは既に進めていた。クラウディスは持たされているロザリオを見てから動かずにいて、女精神科医の手が伸びて来たために顔を上げ彼女を見た。彼女は、自分の銀製のロザリオを彼に持たせた。ずっしりと重く、石も天然石のものだ。

「でも……」

彼女は瞼の目元で囁いた。

「祈りは、自己の心だけじゃ無く全ての人の心の為でもある」

クラウディスは彼女の瞼をみつめ、ロザリオの上の十字中央に嵌められた、優しげなローズクオーツを見た。

地雷撤去の村の少女にもらったピンク色の小さな玉のようで、クラウディスはあちらのベンチに座る少女の無垢な横顔を見つめた。父親の横で母親と共に横に座り、十字架を小さな手にして、その横顔がお祈りを捧げている。ロシア語だが、祈りは同じ……。

ターニャはいつでも父親の安全を祈っているのだ。

クラウディスは女精神科医が大事そうに貸してくれた古めかしいロザリオを見ては、目を閉じ五年ぶりに祈りの言葉を呟いた。

あの村の少女や、爆破で怪我をし運ばれた男、患者、医師団、最後は気が良かった班員や班長達、村の人たち、あの鹿、彼等の顔が浮かんだ。そして、あの夜、命を絶った患者の事も。

確かにエルダに偽善者といわれ様が、それでも彼等の存在に触れた事も、彼等の存在が在る事も、変る事が無い真実だ。

罪を越えた何かを教えてくれたのだ。彼等は人としての根本的な愛情を。そこに彼等は生きている。根本的な中を、ただただ苦しむ事などしたく無く。

自分の過去がどんなに救われる日が延びていってしまおうと、彼等の直ぐ底にある未来を願う事は、本当に出来るというのだろうか。

愚かなように思えてしまって、そんな事等出来ない。祈りが何になるのかと。

それでも、無事を願う気持ちがある。日常から離れてこうやってここに来たら、その心がゆるゆると頭をもたげる。ただ、この場に来て自分が祈りを捧げる事で、彼等に対する確固とした自分がやるべき事や、出来る限りの事が、自分には出来る範囲の実質的なものとして行動に移せる、そういう心が確固とした物になる事に気付いた。

子供の時代はただただ母と共にキリストを通す神に、教えられた祈りを捧げただけだった。苦しみも無く、世間を知らず、そして母と父、そして偉大なダイマ・ルジクの加護の元、生きて来たからだ。

それが、逃げ難い苦痛に苛まれ、祈りなど、神などの存在は全てから消え去り、自己が何かをしなければ何もならないのだと気付いても、自分には何も出来ずに、悪魔に突き落とされるほか無かった。

自分の愚かさを、落とされたように。

それでも、そんな事など左右されたくなかったのだ。愛した恋人達を失った事が、自分の性が原因だなんて、あんまりだ。

温かさにクラウディスは目を開いた。

「いけないわターニャ」

ロシア語が続き、クラウディスは自分の手に添えられた小さな手を見つめ、少女に顔を上げた。

「まだ彼はお祈り中なの」

クラウディスはそのロシア人の母親を見上げ、あちらのベンチからこちらを見るタカロスを見た。

違う。

もう、祈りなど頭から消えていたのだ。悲しみが既に占領し、目を閉じる闇の中で自分は苦しんでいた。

少女は微笑んでいたのを、心配そうにクラウディスを見つめると、クラウディスは危うく泣いてしまわないように口を引き締めた。

「ありがとう」

イタリア語でそう言い、ターニャもそれはわかるので、微笑んで頷いた。

薔薇水晶の珠がはまる十字架部分を持ち、少女の目にあの子の目が重なるようだった。

「わ!」

ターニャは驚き、いきなり抱きつかれたから瞬きした。一番向こうのエルダが立ち上がった瞬間、一番こちら側の女精神科医が視線で止め、エルダは元々教会には拳銃を持ち込めなかったのでその空の腰元から手を離し、姿勢を正した。タカロスは一度肩越しにエルダに声を掛け頷かせたが、一番気が気じゃなかったのはタカロスだ。娘はクラウディスが何者か知らない。ふいに何かされたら……。エルダはタカロスの腕を撫でてやった。

まるで縫いぐるみに抱きつかれたかの様で、ターニャはイタリア人のお兄さんの背を撫でてあげた。お兄さんは泣いていて、横のお兄さんは「あー、あー、」と子鴉の様に泣くクラウディスを見てその背を苦笑し撫でてやっていた。

少女の背にロザリオの銀と色とりどりの天然石が煌き、キラキラ光った。少女達に小さな光の栄光が降りるように。

ようやく落ち着いてきた青年にタカロスの妻はハンカチを持たせてやり、クラウディスはそれで透明な涙をぬぐった。

タカロスがターニャを引き寄せ、彼女自身が必死に泣かないようにしている頬にキスを寄せて髪を撫でてあげた。ターニャは健気に微笑んた。きっと、後からタカロスにしがみついて泣くだろう。

「ターニャ。スパスィーバ」

そう言い頭を撫で、ターニャはうんうん頷いた。

女精神科医は二人を立たせてから、彼等に挨拶をした。

「きっと、この場に来れてよかったと思うわ。徐々に必要な事は取り入れさせたいから」

タカロスも頷き、彼女はターニャの前にしゃがんで微笑んだ。

「見上げたものね。強いわお嬢ちゃん」

ターニャはにっこり微笑んだ。徐々に何にも心が強くなって行くのだ。様々な物にじかに触れ、そして元気を与えて自己も強くなる。

それが、父親のタカロスにもわかり、妻も彼の背を優しく撫でた。その瞬間、情け無いぐらいに力が抜けそうになり革靴の方向を変えて保ち、しっかり力を入れた。

「そろそろ行こう」

そう家族とエルダに言い、女精神科医も二人の青年に言った。

クラウディスは少女に手を振られ、彼も手を振った。タカロスと母親に連れられて歩いて行く。エルダが続き、四人は歩いて行った。

扉のところでタカロスが肩越しに彼等を見て、微笑んだ。

そして歩いて行き、見えなくなった。

彼等三人はしばらく、実は正直立ち尽くしてしまったのだが、初めに女精神科医が微笑んでから動き、二人の青年を見てから肩を叩いてやった。

「独房のアヌビスも微笑むんだな」

セレがそう言い、クラウディスを見てから、ポケットの中のゾラから奪ったキャンディーを袋からだし、目の前にちらつかせた。

指ごと食べ、クラウディスは薔薇色の頬で扉側を見つめていたのを、ロザリオを持つ手を上げた。

キラキラと静かに光っている。

それを見つめながら女精神科医に身体を向けて言った。

「ありがとう。貸してくれて……」

彼女は微笑み、その手に手を重ねた。

「どういたしまして」

そう柔和な声でいい、クラウディスは彼女を見た。彼女は一度肩を抱き髪を撫でてやってから、「さあ、行きましょう」と言い促した。

クラウディスも口端を上げてから頷き、セレの腰を叩いてから歩いて行った。

他人に向け心の中でだろうが≪云う≫という事が、嫌になるほど自己の心に分からせ続けて来た≪事実≫という物を、局面からも自己に分からせ理解させる、そういうものなのだろうか。自己の中にあるだけでは、次へ進むための糸口である他人、第三者の存在も入る隙も無い。だから、その一本の線だろうが自分から掴んで、心に第三者を取り入れることで進める為にあるのでは無いだろうか。誰もそれを教えることも無く、自己で心に気付かせたときこそ、糸口を掴み始めた時。

それを繋ぐのは、第三者への≪云う≫言葉。心の中でだろうと。

それでも心の中でだろうと、他に向けてなど云えない。まだ辛くて……。自己に問い掛ける事すら出来ないのに。

「続ける?」

「今日は祈りだけでいい。それに、無宗教者だし」

「キリストは元々、万人を受け入れるわ」

そう言い、クラウディスの腕を撫でた。

「さあ。行きましょう」

教会から出て、通路を歩いて行く。

長身のライフルを持つ警備員が突き当たりの両側に立っていて、女精神科医はそちらに行くまでには立ち止まった。

「どう? 最近は」

「しっかり眠れてる」

「そう」

彼女は微笑み頷いた。

「あなたはどう?」

セレは頷いてから言った。

「落ち着いてる」

「良かったわ」

彼女は彼等の背を撫でてから、歩いて行かせた。

警備員の前に来て、警備員は二人の顔を確認すると錠を開けた。

中に入り、その中の警備員が手錠を嵌める。白い格子先のクラウディスが、白い通路の中の女精神科医を見た。

彼女は微笑み、頷いた。

クラウディスも目礼し、彼等は連れて行かれた。

自由監房までにいくつも通路とゲートを通り、ようやくグラウンドに出る。

そこで手錠を外され解放されると、息をついた。

「お前、面会予定はあるのか?」

セレに言うと、彼は首を横に振った。

「今月は無い。お前は誰も来ないのか? 弁護士以外に」

「一度母親が」

「そうか」

セレはクラウディスの肩を叩いてから歩いて行った。

基本的に、面会が許されていない。弁護士が毎月来て、今日受け取る支給額を仕分けて貯金してもらう。その時に話をする。その詳しい内容内訳は、まだ素人の自分よりも基金団体に任せたほうが良いだろう。いずれ、生活に必要な基本的な物や様々な彼等の望みに少しでも沿えることが出来れば。

今はまず、食料、衣服、医療、水だろう。それに、撤去が済むまでに地雷の場所に近づかないためのしっかりした柵。

「………」

クラウディスは顔を上げ、また引き返して行った。グランドを走り、セレは横のドイツ人警備員が動いたためにその長身を見上げた。

だがクラウディスは自分でずっこけ、バスケをしていた男達とか、一瞬ライフルを向けた警備員、他、セレ達を呆然とさせ、クラウディスは恥ずかしくて顔が上げられなくなっていた。

男達は爆笑し、クラウディスは真赤になって起き上がるとセレが走って来た。

「おい。何でいきなり走り出したんだよお前。あのグランドの門番、一瞬やばかったぜ」

「いや。別に何かしようとしたわけじゃ無い」

現地の子供達に、女の子なら指輪とかネックレス、男の子なら剣玉とかそういうのを送ってやりたいと思ったのだ。綺麗なピンクの玉をくれた少女は、やはり女の子としてのお洒落だったり、大事な物を大事にしたい事があるはずだ。衣食療と共に、それらも加えること。

ただ、それを自分が与えてもいいのかは分からなかった。その子が大事にしたいと思うものは、個人によって違う。

それでも今は子供達の心を躍らせてやるためにおもちゃを送りたいと思った。彼等の元気のため。

今に、バラックの住居を違う物に建て替えさせたいと思ったし、水を安全に浄水する物も考えたいし、安全な広場を確保して高い柵を作りボールなどで遊ばせてやりたかったし、医療部の人間を増やせて少しでも負担を減らせるようにしたいし、学校も……。

今は焦らず、出来る事だけを。

母の言葉にクラウディスは心を落ち着かせた。

地雷発見ラジコンが反対されるとしても、話すだけ話してみようとも思った。

というか、走り出したのは何の意味も無い心境的なものだったのだが。思いつきと共に飛び跳ねているなんて、自分でも何かに関する強迫観念かに思えて恥かしかった。まるで、あの何も考えてないんだか考えてるんだか分からない花火男ゾラのように。

だが、思い当たって飛び跳ねて、音楽掛かれば体が動き、騒ぎ捲くっている常の騒いでいる心というのも、きっとさっきのような心の跳ねが連続して続いている奴なのかもしれない。それがふと、我に返ると周りを見てその事が気になる。ゾラが真面目になった顔は、はっきり言えば別人だ。

元々実は考え捲くっているのを体だけがはしゃいでしまうのか、はしゃがせているだけなのか、それともいきなちふと我にかえって他の奴等に気を回してやるかと思うのかは分からないのだが、母の実家屋敷に仕える女使用人マケラッシュのいつでもウキウキしている風もかすめた。

「あー俺ってゾラみたいに今にノー天気になっちまうのかなあ」

「その方が幸せかもな」

当のゾラは今色とりどりのキャンディーをバシバシと見回り警備員に飛ばしていて、二階部を追い掛け回されていた……。

それが巨大な間口から見えたり見えなくなったりしていて、彼等二人は口を引きつらせ、向き直った。

「あいつ、何歳なんだろうな。一生ああだよな。割ともう三十行ってるかもしれねえぞ」

「三十前半って割と自堕落な奴は性格出て来るしな……」

「ああはなるとちょっとな……」

当の花火男、ゾラはやはり二十五のおちゃらけたい年齢だった。

階段を駆け降りグランドに来ては、クラウディスとセレの肩を抱きぐるぐる回ってグランドの緑の芝生に転がし笑った。

「おい宇宙と交信取ろうぜ!」

こいつこそが海月にのって現れた宇宙人だと、あのミーハー男に言ってやりたかった。クラウディスはそのまま交信も神への罵倒もへったくれも無く爆睡し始めたゾラに顔を向け見てから、空を見上げた。

白い雲が小さく布キレのように消えかかり、青い中をコウノトリが、飛んでいた……。

「次、オペラが来るんだってよ……」

セラがおぼろげに言った。眩しい中、目を細めてゾラの横顔越しにセレを見た。

「次回の外界からの奉仕人か?」

セレは頷き、額に手を当て目を閉じた。

オペラか。随分と見てない。ただ、シチリアのクローダ屋敷に来たオペラッタを、彼等と共に宴で見た。鮮やかさを思い出す……。

グラウンドと監房は丁度、同じぐらいの広さだ。監房の方がどれ程か広いのだが。

監房もまるでボックス席に思えた。シャンデリアとなる様な代物は無いが、柱の石像代わりのライフルを持った看守達も、やはり石像かのようだ。

「呼ぶんだな……ここに」

ドバシュウウンッ

塀横警備員の横にバスケボールが叩きつけられた。

「ああ。あっちにだけどな」

この芝の上を演じるのだ。その時は、巨大な間口は鉄格子が降ろされる。訪問者が来る時はいつでもそうだ。

「久々に俺も楽しみにしておくかな……」

「一ヵ月後だけどな」

クラウディスは頷き、芝に腕を広げて目を閉じた。芝の香りは、気を落ち着かせる……。

いきなりの事でクラウディスとセレは体を起し、一瞬で開口部の見張り警備員が飛ぶように駆けつけた中を胸が騒いだ。

「何だ一体」

クラウディスは走り、開口部の間際の光の中、そこから見えた真っ直ぐ上の、そこから見える二階牢屋を見た。

セレが横に並び、口をつぐんだ。

シーツがかしいで揺れ、それは駆けつけた警備員達で見えなくなった。

見回り警備員も四人の見張り警備員も鋭い目をし、ドイツ人が無線で連絡し、見回り警備員は受刑囚たちを離れさせて行った。

二階部の見張り警備員が二人、絞首自殺した青年の体を下ろし、受刑囚の一人が言った。

「通り掛かって目向けた瞬間、いきなり椅子蹴りやがったんだ」

無線機を戻したドイツ人警備員は見下ろし、横に膝を付きグンッと心臓部を抑え鋭く息を送った。

クラウディスが走り駆けつけた時には、その青年は蒸せて激しく息をして真赤になり、狭まった喉に息を取り入れようと身体はしていた。

身体は脳と関係無しに、生きたがっているのだ。主人をこの感情の男においても、産まれた身体は生きたがって細胞を動かしたがっている。今までだって内臓を動かしてきていたのに……彼のために。

それを見て、セレはもう二度と自分で死のうとは思わないようにした。クラウディスも改めて。

ドイツ人が立ち上がり、未遂に終った青年を見下ろした。

「自害は許さない」

ナイフの様にきつい声音でそう言い、首をしゃくって連れて行かせた。

吹き抜けを挟んだ丁度真向かいの爆破犯がここまで来て、クラウディスの横に立って言った。

「何だよ。驚いたな。また自殺者出たと思ったじゃねえか」

セレはその痩身のひょろっとした金髪男を見上げ、頷いてから運ばれて行った男の背を見た。

「おう海月。お前、昼飯まだだろ? 食べに行こうぜもう十時だし」

「………。くーらーげー?」

クラウディスはミーハー男を締め、「お前は菓子でも食ってろ!」とかんかんに怒ってこの場所から三つ隣の自己の牢屋へ歩いて行った。

というか、あの男も吹き抜けを挟んだ先のあの輝く芝とその上のド派手な菓子に囲まれた奴の牢屋を見つづける心境も無い程、心が荒涼としていたのだろう……。男の牢屋の中は、灰色以外の色味が無かった。ただただ無欲で、息だけをして。

「あんだよあんだよ! ええ?! 自殺者出なかったのかよ!」

またノー天気な事をゾラが言いながら来ては、確かに他の受刑囚達にとっては無関係の事でもあるし中には楽しむ顔の奴もいるのだが、呆れてクラウディスはゾラを向き直った。

ゾラは美人のクラウディスのところに来て頬にちゅっとキスをし、曲に乗りながら菓子を食べ歩いて行かせた。

「お前っていつもこうだよな」

セレはそう肩をすくめて自分の角の牢屋へ入って行き、既に爆破犯は一人で菓子以外の食物を求めて食堂側へ口笛を吹き歩いていっていた。

このゾラと菓子好きのミーハー男は合う様にも思うのだが、話している所を見た事は無かった。


 面会の為に通路を歩いて行き、女精神科医の白衣の背を見つけた。

「女医」

彼女は振り返り、クラウディスに微笑んだ。警備員は一歩引いた。

「ご家族と面会?」

「いいや。弁護士だ」

一度扉を見てから、クラウディスは言った。

「あなたは何故ここに?」

「今日、患者が家族の方との面会をするの。その為に今は環境を整えに」

「へえ……」

相槌を打ってから、彼女に言った。

「俺、罪と意識に苛まれてるんだ。活動に出てから」

彼女はクラウディスの横顔を見てから、しばらくして言った。

「自分の行いが偽善だと?」

「………」

クラウディスは頷き、視線を落とした。

「現地の人から見れば、それはどうかしら。もしも、偽善からの一時だけの感情だろうと、彼等からしたらそんな事は関係の無い事だわ。その時だろうと、救われた。その時何をしてもらえたのかよ。その事が彼等にとってどんなに心強く救われた事か。その一回というものでも大事なのよ。その一回でも受けた恩の心は、本当にとても大きなもので、力になって心に残りつづける。輝きとしてね。あなたが何を犯してきた事によって、ふとした事が偽善になり変るのか、それはあなたの心の中だけの問題。もし、偽善の心で大きな迷惑を被らせたのなら問題だけど、しっかりとやり遂げたんでしょう? やり遂げたのなら偽善だなんて言葉は無いわ。その後、あなたを責めた人はいる?」

クラウディスは首を横に振り、それでもエルダの気持ちをじかに今聴いた訳でも無いから分からなかった。

「だが、分からない……」

「あなたは自分が罪を犯した人間であるという事で、弱者に心を掛けた事を気にしてるようだけれど、そこで何かを言われても、それは確かに仕方が無い事だわ。それが事実だから。でも、そこから自分がどう思って、何を考え、何をするのかはあなた次第。ずっと言われつづけるからって、塞ぎこんでても進めないわよ。彼等に何が必要だと率直に思ったのか、それを、人として行なうことを、恥ずべき事と思う事は無い。やってあげて。あなたの出来ることを。彼等は必要としているの」

クラウディスは顔を上げ、彼女のしっかりとした顔つきを見た。

「ホラ。ちょっとはあなたの心も帰って来た顔してる」

そうクラウディスの頬をつねって微笑み、顔をくしゃくしゃにして笑って歩いて行った。

クラウディスは頬を抑えながらその背を見て、向き直った。悪い人間じゃ無い。どこか自然体な彼女の前だと、別に心構えることも無い気がした。

警備員に押されて歩いて行き、開けられた扉を通った。

弁護士の老人が微笑んでクラウディスを見た。

「元気そうですねお坊ちゃん」

「なんとか。寝て食べて遊んでるし」

「それは良かった。奥様からお伺いしましたが、地雷撤去という活動におでになられたようで、無事に帰られた事を心より安心致しております」

「ありがとう。えっと手紙……」

クラウディスは昼前に書いた手紙と、それに支給された中から計算した金額の封筒を出した。

「封筒を共に母に渡してもらいたい」

「畏まりました、確かに、お受け取りいたします」

鞄の中から樹脂製のA4封筒を出し、それをしっかりと閉まってから、他の紙封筒を出しクラウディスに見せた。

「ホチキスなどで止められていて、中への持込は許されてはいないのでこちらでですが、ご覧下さい。奥様のご友人より活動内容のしおりを」

「拝見しても?」

「はい。もちろんです。どうぞ」

封筒を開き、中の冊子を開いた。

シンポジウムなどの顔写真でも見たことのある女性が、代表者として写真に写っていた。

地雷撤去以外にも、難民や被災地の者達への救援を行なっている。募金を募り、物資をそろえ、直にメンバーで向かい、そして救援を行なって、一つ学校も作っていた。これから世界の植樹による緑地計画へも取り組む手を伸ばしたい旨も記されていた。

メンバーは四十人。写真を見ると、人種はヨーロッパ人各国からのようで、二十代から三十代が多い。リーダーの女性は四十代だろう。それに、同じ姓の五十代男性が横に写っている。医師免許も持つ肩書きの旦那のようだ。リーダーの女性自身は環境研究者の肩書きを持っていた。

夫婦二人ではじめは活動を開始し、徐々にこの数年で人員が増え始めたのだと。

活動内容の細かい事が書かれた頁を見て行く。

「あ……」

目を止め、口を開けてその写真を見た。

見覚えがある。あの村……。

その写真の中に、小さく片隅に写っていた。笑顔で、あの患者……。

男と肩を組み合い、太陽の様に笑っている。

クラウディスは震える口をつぐんで、弁護士は心配そうに彼の肩に手を当てた。

「お坊ちゃん」

「大丈夫だ」

泣かないように顔を上げ、噛んだ唇から歯を離し息を吸い込んだ。

「出来る事があれば……。手紙と封筒、よろしくお願いします」

「もちろんです。お坊ちゃん。大切にお受けいたしました」

「こちらも大切な資料を見せてもらって、ありがとう」

警備員が横に来て、面接時間終了を告げた。

クラウディスは頷いて立ち上がり、弁護士も立ち上がって一度クラウディスの手を取った。

優しく微笑み、深く頷いた。

クラウディスも微笑んでから、警備員が手を引き連れて行った。

肩越しの横顔が鉄の扉に閉ざされ見えなくなり、その鍵が閉まった音が響いた。

ローザ様は毎日心配しておられる。この前ようやく面会が許されて、どんなに安堵しておられたことか。

寝て食べて遊んでいる。その言葉がきっと、一番ローザ様の待っている言葉だろう。目を見れば、彼の中から何も光が失われていない事など分かる。小さな頃からの変らない光があると。


 ロイドは視線を落とし、受刑囚3062番を見た。

その3062番がライフルに当てた両手に手を重ね、そこで初めて通路側から顔を上げ、彼を見上げた。

「あの首括った奴、どうなった」

彼は視線を戻し、口をつぐんだままだった。

3062番は溜息を尽き、斜め背後の受刑囚2411番が出て来て腕を引いた。

「何やってんだよ。殺されたいのか?」

そう言って自己の牢屋の中にからよく連れ立っている受刑囚3001番の牢屋へと歩いて行った。一番煩い囚人の牢屋だ。

3062番は肩越しにロイドを見てから、顔を戻し歩いて行った。

対角線向こうの見張り警備員が、ロイドに一度信号を送った。

受刑囚2888番の様態を尋ねてきた。と送った。

相手側は納得し、ロイドから視線を戻した。

彼等見張り警備員は目で会話をする。恐ろしい程目の良い彼等は、影の中の目の動きで多くの情報を形式化した目の動きで状況を伝える。その目の動き辞典も彼等の間で存在した。

受刑囚達は一切気付いていないのだが。

見張り警備員達には、長身、超越した身体能力、動体視力、肺活量、射撃、目の会話、読唇術、超越視力と聴覚、口外厳禁、吹奏楽演奏、清潔感と規律、など様々な物に加え、瞳の色の鮮やかさも必要だった。タカロスが綺麗な白水色なら、ロイドも鮮やかな青であり、ドイツ人オッドーも目も覚める様な緑色だ。

グランドのアルデと、ロイドと対角線上に立つ警備員のいずれの場合などに関しては、直線で結んで一キロ弱はある二点間での目の会話も出来る程の視力を持ち合わせた人間が立つ。グランド端のその場はアルデが任され、同じく視力も卓越したタカロスもロイドと対角線上のその場に立てる。タカロスの場合も他の二階部警備員に関しても、一気に二階部から一階部へ飛び着地し一気にその場へ駆けつける身体能力もあるのだが。

グラウンドの見張り警備員は夕方のファンファーレでコルネットを吹き鳴らすが、彼等は全員が其々の楽器を吹ける。アルデは普段はトランペット、ロイドはトロンボーン、タカロスはテナーサックス、歌うと実はスモーキーで相当渋いオッドーは盛大な 、ジョニスマンはホルン、ニッカは銅鑼などとパートがあり、アルデはよくトランペットを室内で拭いていた。

 ■吹奏楽の楽器■

●金管楽器

トランペット

トロンボーン(テナー、テナーバス);弧を描く管を伸縮して音階を変える楽器

ホルン

ユーフォニアム(別物でバリトンあり);あまり役目なし

チューバ(テナー。バス、コントラバス)胴と首が短いトランペットみたいなの

●木管楽器

サクソフォン(ソプラノ;細い管、アルト、テナー、バリトン;バズーカみたいなの)アドルフ・サックス製作

フルート(アルト、バス)

ピッコロ;黒くて小さい

打楽器パーカッション

ティンパニ;四つぐらいでセット

ドラム(スネア、バス)

シンバル

トライアングル

ウィンド・チャイム;鉄の棒が連なっている

タムタム(銅鑼どら)

●他

ソリの鈴;鈴が連なっている


コルネット・ア・ピシトン、ショートコルネット(角笛;伊)もしくはホルンも意cornetto

トランペット

トロンボーン

アルトサックス

テナーサックス

パーカッション(?)

バス(?)

バリトンサックス


聴覚が相当優れているので、実は自己の立つ左右其々突き当りまでのどの声を潜ませた会話も筒抜けになっている。逆角形側面の会話も普通の声なら耳に届いていた。全員好き勝手な事を話していて、それでも相当の量の暗号会話を奴等は独自に生み出していた。それに隠した手元での会話も多い。

その為に、クラウディス達が麻薬関係に傾向する種の会話も暗号化された中に入っていた。それかその中核は会話に出さない。

耳がいいので一階部の会話も聞こえるが、一階部の奴等とくれば殆どが暗号会話で、しかも声を意図して低くしている。聞き取られる事を危惧してのことだが、それでも彼等見張り警備員にはその羽虫や甲殻虫の羽根音のような声さえもまるでバックサウンドのように響いていた。まるで、監獄は巨大スピーカーのようだ。

高い声や若い声が二階部から響き、渦を巻くような一階部の低音がさわさわと響き続ける。

囚人達の狂想曲だ。

「なあ。あのお前の牢屋の前にいる警備員。すっげーそそる」

「確かにな。でも相手はお前のこと、相当気に食わないようじゃねえか。この前、殺気感じたぜ」

「分かってる」

「お前が狙ってんのはあの独房のアヌビスだろ。やったとかって、未だに信じられねえよ」

「本気で惚れる……」

「また猫様が始まりやがった」

その手の会話も筒抜けなので、ロイドは心中白い目をしてあの普段もポーカーフェイスのロシア人、タカロスの言動や行動を思い出していたが、やはりそんな素振りは見せもしなかった。今でもそうだ。

タカロスの月に一度の休日である今日は、今頃家族と過ごしている。

とはいえ、ジョニスマンは現場を発見してしまっているのだが。

聞く気が無くても耳に入ってしまう為に聞き流すが、時に聞き捨てなら無い事も多く、正直イライラする。気にも止めないほうなのだが。というか、全ての会話を聞き逃すわけにも行かない役柄だ。

また口笛を吹きながら箒ではき、掃除夫がモップを掛け、鉄格子を吹き、手摺を拭く。

耳の抜群にいい彼等に気を遣って、彼等の周りでは出来るだけ吹かないようにしてやるのだが、やはり響き渡っていた。

一切微動打にもしない彼等の集中力が途切れることは無い。

受刑囚3062が単独で歩いて行き、掃除夫ににこっと笑ってから歩いて行った。欄干の手摺横を吹き抜けを見下ろしながら歩いて行き、階段から降り、一階を歩いて行く。

グランドに消えて行った。

今から昼食時だ。それを前に、今、裸足なので干しているブーツの様子をいつも見に行く事をアルデから聞いていた。

また裸足で帰って来るのだが。


 「あいつ、まさかあの昼前の野郎みたいに自殺なんかしねえよな?」

ゾラがそう手の中のおもちゃを弄びながらサリに言った。

「なんで。気になるのか? 問題ねえだろ。アルの奴、意思が固いんだからな。生への執着心はある」

「ならいいけどよお」

「おいゾラ。お前、何か考えてるよな」

ゾラは星のタトゥアッジョが幾つも並んで入った目元を上げた。右頬にその星で放射を描き、全て黒い星だが、目じりの星だけが金色だった。

表情が無い時のゾラは、いつでも目元が何を考えているのかが分からない。よく宇宙と交信を取っている時は、壁の宇宙のタペストリーに向かってあぐらを掻き両手を広げて念仏をブツブツ唱えている。横の甘い菓子を食べながらだが。

何を考えているのか不明な目の中の色は、明らかに猟奇的に狙っている。アルの事をだ。

まるで宇宙の渦に巻かれたかのような目の奥をしていて、洗脳でもされそうな程渦巻いている。

「何だ? 勝手に死なれたくも無いって?」

ゾラはゴム製で奇妙奇天烈な宇宙人の人形の首を伸ばしながら見ていて、黒斑で墨の入れられた魅力的な目元が上目でサリの胸部に広がる宇宙を狙い見た。

「俺を殺す計画か? お前等」

彼等は顔を上げ、アルが格子入り口に手と肩を掛け口端を上げ微笑している美人な顔を見上げた。

「ああそうさ? 俺はいずれ、お前を綺麗に空に打ち上げてえのさ」

「いいな、それ。お前に俺をそのまま天国に行かせる程の力量があるなら、お前にこの身を預けてやろうじゃねえか」

「………」

ゾラはアルの足を引き寄せ自分の下にさせ、強く輝く目を見つめた。だが、どこまでも闇色が広がる。深く、深淵まで。こいつは天国の誰かに会う事を望んでいるのだろう。この地の底から。この場よりも、実際はきっと、カオスの奥底からなのかもしれないのだが……。

「その分、お前に俺が綺麗な花火たくさん見せて、いっぱい盛り上げてやる」

「………」

ゾラがそう言い、ニッと微笑んでアルを解放した。

いつでもゾラはそういう事を言って来る。心の芯を突いて来る。

「そういえばお前、あの花火闇で買うのか?」

「ああ。羨ましいだろう」

「花火みてえな野郎は花火が好きなのさ」

「ああそうさ。金も入ったし、また買う。お前もTV買うのか?」

「ああ。ちょっとはあの看守の存在を俺的に和らげてえのさ」

「お前よくもつよなあ。俺、真横にあんなおっかねえのがいられたら一生頭宇宙にぶっとんでるぜ。まあ、アルの場合なら誘惑に掛かりまくってるよなあエロい視線だとかで苛めまくって」

「あんだよ悪いかよ」

「もしもお前が俺みてえな看守付きの牢屋なら、一週間して夜に襲われたりしてな」

「それ、きっとあの警備員が聞いたらまた恐いぜ」

元々サリは恐ろしい程独占欲が強いので、それを出さないようにはしているが、基本的には楽観的だ。

その楽観的と束縛の間で、女好きだし、派手な色好きだし、色男だし、派手な生活も、女を甘やかせる事も好きなサリは、誘拐監禁していた金持ちの美女を派手な地下の巨大な部屋の中で大事にしていた。ただ、刃向かえば拘束し鞭打ったのだが……。それも、普段は軽快で気の良く派手でお洒落好きのサリとは、五年間を恋人の様に過ごしていた。

サリは昼になると派手にランボルギーニで出かけて女、倶楽部、イベントにパーティーで盛り上がり、上の階に連れ込んでは遊び、それでも絶対に誘拐している美女の事は悟らせずに相当神経質な面を覗かせる事もあったし、時に何か屋内を勝手に出歩かれると激怒することもあった。

それも、結局は知られてしまったのだが。

ゾラは宇宙人の首を伸ばし縮させつづけていて、伸ばし捻ったりしては、遂にはバチンと、肉体と分離されてしまった。使い物にならなくなってしまった。

「………」

ゾラは恐い顔で無表情になりその生首となった、目玉も舌も腹までも飛び出ている玩具の頭を、指から離れさせ、それは軽快な重力と共に跳ねては地との幅を縮め遂には、転がっていった……。

アルがそのとぼけた顔の宇宙人の首を見て、曲げこんだ膝に目元をつけ、顔が見えなくなってしまった……。

「……アル」

サリは自己の胸部に引き寄せ、アルの黒髪をそっと撫で続けた。

可愛がっていた自分の物を奪われたサリは獣のように暴れた。女が連れて行かれ、金持ちの男女がサリを侮蔑する目で見ては、娘の頭を抱き寄せた。

サリは獣の様に暴れ、野次馬の中を警察車両で連れて行かれた……。

女は警察車両を追いかけ、泣き叫んでそれを嫌がった。ずっと女の泣き喚く姿が警察や両親に引き止められ、その細長い綺麗な足が空を蹴っていた。

「昼食食いに行こうぜ。お前、何か面会とかある?」

「もう午前中に終った」

「俺午後」

「じゃあ行こうぜ」

三人は歩いて行き、札をもらって食堂へ進んで行った。

あのミーハー男はまだ食べていた。

男が自殺未遂を図り、面会時間になってクラウディスが向かい帰って来て、こうやって今三人で食堂に来た二時間を、ずっと食ってるのだ……。

痩身の見かけの何処に入るというのか。

デラとセレも既にいて、サリとゾラも歩いて行った。

「俺あっちで食う」

「ああ。じゃあまた後でな」

二人はクラウディスに手を軽く上げ、歩いて行った。

クラウディスはミーハー男の所に来ると、呆れて椅子に座った。

「よー」

ヘッドホンの曲を聴いている耳でクラウディスを見て手を上げ、食べている。

「また大豆かよ。あれ。珍しく色付きの物があるじゃねえか」

珍しく、人参やほうれん草やカボチャ物が揃っている。だが、実はどうしてもトマトは食べれない。

「肉食え」

「………」

クラウディスは人参と豆とカボチャが和えられた白味大豆のフライの自分の料理の上に、肉がボンと置かれたために、それを目を丸めて口を噤み見下ろし、気絶しそうになった。

顔をフイッと反らし、他のものだけ食べた。

ミーハー男は片眉を上げ背をつけると、自分が引き寄せて全て食べてしまった。

「あ!」

二度見してクラウディスは驚き、一回に支給される量は一食分なので、うな垂れた。

「菓子食え。俺の所にある」

「……馬鹿」

机に頬を乗せ、うつろにあちらを見た。

ミーハー男は向かいのクラウディスのところに身を乗り出し腕を置くと、言った。

「面談はいつだ?」

面談、というのは、クラウディスがクローダから麻薬を受け取る闇市へ行く日取りの事だ。その中に、クローダや外界の状況を示す暗号の手紙が含まれている。

あのイデカロの事もきっと、記されていることだろう……。

「まだ……」

腹をさすってクラウディスは憂鬱になり、その前に出された白身大豆の盆を見て、視線を上げた。

「………」

見張り警備員だ。

あのドイツ人……。

その彼が横に立ち、鍔下のいつもの冷たい目でクラウディスを見下ろし、大豆の盆を置いた。

クラウディスは視線を正し、警戒して警備員を見た。ライフルを奪ってからというもの、視線が痛い。

「あの熊みたいな男、どうなった。生きてたのか?」

そう聞いても警備員は何も言わずに、歩いて行った。

「………」

クラウディスは大豆を見下ろし、先ほどの面談の話を聞かれた筈だと思った。面談と言っただけだが、見張られている。そう思った。自分は最近、問題を起している。それに、クローダの幹部が一人捕まった。尚の事、怪しまれる。

「何で見張り警備員が見回ってんだ?」

奴等は機械なのか、それともいわゆる神官なのか、ヒトじゃ無いのか、とにかくヒトらしい部分を見ない。食事をいつ摂るのかも、睡眠をいつ摂るのかも、手洗いはいつ立つのかも、一切不明だ。

「なあリン」

「あ?」

爆破犯は顔を上げ、クラウディスを見た。

「お前、先日見たっていう男のこと、何か他に情報聞くか?」

「さあ……。一切きかねえから、やっぱ特別監房行きになったんだろ。その監房は自由がきかねえからな。作業さえゆるされねえって話だし」

「そうか……」

「気になるのか? やっぱ、思い当たる奴がいたのかよ。お前、どの地位だったんだ?」

「え? さあ。若者ってのはどいつもどこかの所に身をおいてたもんなんだって」

「へえ」

適当に言っておいて、クラウディスは大豆を食べた。

だが、男は見ていた。あのグランドの番人からライフルを奪い取り、カルドレを瞬時に捉え撃ち落とした、鮮やか過ぎた一連の動作と、あのドイツ人に向けた透明感さえある鋭い殺気を。

まるで、黒クリスタルで出来た豹というハンターかのようだった。一瞬の事だったから、あまりにも呆気にとられた。

一瞬光った殺意の光る黒い瞳が、白い無表情の中一際魅了してきたように思えた。

元はこいつの入った当初は、誰もが見惚れる程女なのかと思った。

表情も無く仏頂面をし、一切口さえ開かずに決められた事を行い、無機質な牢屋に入りずっと牢屋に背を向け白のシーツだけを見ている奴だった。犯罪を起こしたばかりで牢屋に突っ込まれたことへの殺気立った風よりも、全てに無関心で心を無にでもしたいかの様だった。

瞳も感情無く誰かが話し掛けても伏せ気味の横目で見ては無視して歩いて行くだけで、ただただ乱雑に澄んだ光を跳ね返す瞳だけが際立った。女がここに入れるわけも無いから男だったろうものの、あまりに魅力的な青年は神秘性さえある鋭さで出来上がった麗しい青年だった。

一週間はずっと声さえ発さず、口さえ開かず、顔も静止したままだったが、作業時の前のセリが何度も作業がとちって苛立ち始めると、呆れた様に初めて口を開いた。現場監督に声を掛け、何やら専門的な事を伝えて現場監督が怪訝そうに3062番を見ると頷き、セリの指導に当ると物の見事に解決され、その時からセリが何やら天才な少年に話し掛け始めて、返答毎にきつい事をずばりとドライに返して来たが、可愛がり始めた。

二週間してようやく機嫌でも治したのか、元の性格がそれだったのか、殻を破った様に徐々に自分の興味の持ち始めた人間に話し掛けるようになっていた。時々笑う顔が余りに可愛くて心なしか見惚れる場面もあったのだが。

そうと思えば三週間目には元のギスギスした雰囲気もどこへやら、少年の様にはしゃぎ出してグランドでバスケット、二階回廊から吹き抜けにジャンプ、見回り警備員に追い掛け回されては騒いでまるで閉じ込められた猫が暴れ回る勢いで自由監房風景にそうして溶け込んでいった。

騒ぎ捲くってようやく落ち着くとスッキリしたのだろう、自然的に完全に溶け込んでいた。よく笑いよく話しよく冗談を言うようになっていた。そして誘惑し、交わる事さえも。それ毎に瞳に光を宿し、意地悪な微笑を艶めかせ、何をして掴まったのかを一切の不明にさせていった。

クローダの入墨があるからにはそこの人間なのだろうが、全くそうなどとは思えなかった。この青少年の性格が演技とも思えなかった。

冷酷な事をしでかすようになど思えなかった為に、カルドレ脱走時の手腕や、警備員を絞殺し様とした場面、発狂した事が元の性格からは似つかわしくない。

まさか、とんでもない奴なんじゃないだろうか……。

目の前のアルは幸せそうに大豆料理を食べていて、五歳の少年かの様だった。偏食はあるが食べる事事態は好きそうなので、見ていて飽きない。

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