表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美しき悪魔  作者: pegasus
第二章
13/19

音楽コンクール2


 男子受刑囚の四人、ピアニスト、7654番、4567番、クラウディスは、トラウザーズに革靴、シャツ姿で四角く黒ブチの伊達眼鏡を掛け、フェドーラを被り、胸元に赤、ビリジアン、ネイビー、黒のシルクを其々差していたので、顔が分からなかった。二曲目の総衣装だが、基本的な行動も終始これで行動しろと硬く義務付けられた。一は、ストリッパーがいきなり脱ぎ出しても困るからなのと、クラウディスにまた半裸でうろつかれても困る為と、女達が余計な色気を男に振り撒かないためだが、どちらにしとこの格好も男の色気をさらに倍増させていた。それぐらいな方が、クラウディスのどこか女っぽい顔つきが隠れて気が散らない。

舞台に上がれば、基本的には二曲目以外はトラウザーズ、スカーフを差したシャツ、革靴だけなのだが。

正式な場所なので、本来はネクタイやジャケットを締めさせる方がいいのだが、ジャズ調の曲目も八グループ中にはあり、格式ばった衣装でなくても許されていた。


クリスティーヌ担当のラヴィレイが恐ろしい程の美声を轟かせ、メルザがいつか二回目か三回目かに気を違えて好き勝手叫び咆哮を上げ始めはしないか、いきなり7654番がラヴィレイにキスをお見舞いしないかを冷や冷やしながら見ていたが、どうにか真面目にやってくれて無事だった。


4567番が悔しい程甘くパワフルに歌い上げたので、成功していてしかも7654番もあわせたターンや短いステップなどまで渋かった。女達はバックコーラスを歌い上げ時々男二人と絡みでターンし、4567番がサスペンダーでも飛ばして脱ぎやしないか今度はオッドーが殺気をたぎらせ見ていたのだが、まあ、無事に大人の雰囲気で終えてくれたので安心しておいた。


3062番が深くフェドーラを被り独唱で歌い上げた。度肝を抜かされる程本領を発揮して高く澄み切る声で歌い上げるので、メルザはうっとりしていた。

クラウディスは喋ると冷めた声音で決して高くない男声のくせに、歌となると声帯を変えて高く歌い上げてくるから驚きだ。それに、公然の面前で脱ぎ出す行為も無く済んだ。


三曲とも無事に問題無く歌い上げ、客席は歓声と拍手を彼等十名に贈った。

声楽担当者として任せられていた警備員、オッドーとメルザは目許をビキビキと見開き唇をわななかせ、舞台上を見る羽目になった。

三曲無事に終わり、十人は大人しく引いていくに思われた。だが、実際幕へ歩いていったのは八人だった……。

クラウディスが一歩前に進み出て、ラヴィレイがその斜め後ろにつき、コホンとクラウディスが喉を鳴らした。

と思ったら、いきなりアカペラで美声を響かせ始めたのだ。

言語はヨーロッパ諸国の言語ではなく、東洋のものだった。

その為にその信じられない程に澄み切った少年の美声とメロディーに、涙するものまで現れた……。


 「パスタの上に」


「え?」

メルザとオッドーは瞬きし、口をぽかんとあけた。


 「オリーブが無いぞ」


チリリリーン(崇高なるトライアングル)


 「チーズを乗せてくれ」


チリリリーン


 すみパスタ


ティンティンティーン


誰もが声とメロディーの美しさになんて言ってるのか歌詞も知らずに感動して涙している。

「あの馬鹿共が……!」

留めさせようと副所長を見るT彼女までるいるいと涙を流していた。

「あ、あんたまで」


 オリーブがきてフォーク持ち 食べる

 「すみ追加」


ティティティーン


 アルデンテはコシがあって タコスミは美味い

 パスタの(てんこもり)平皿におばちゃんの指が入っている……

 熱くないのかそれ


すかさず斜め後ろに俯き加減で前で手を組み控えているラヴィレイが、おばちゃん役のビブラートを響かせ歌った。


 「630円に卵追加しましたから

 30円プラスしときますね」


チリーン


再びクラウディスが歌う。


 「卵をくれ」

 と奥のお客さん

 聞いてまな板の上から皿に乗せて運ぶ途中で

 お客が格好良かったから

 おばちゃん乱れたテラコッタの肌を

 整えて出しに行く

 店主は目を光らせて

 戻って来た叔母ちゃんに小言いう


 「若い子に色目使っただけで

 そんなに怒んないでよ小さい男ね」


と、またラヴィレイ。


 と 旦那はいわれて凹んだ


ティラリリリーン……


 「卵の追加の分は今日はおまけよ」

 「へえいいんですか優しいですねおばちゃん 

 いや おねえさん」

 「また来てよ」


二人のディオが入り乱れ、会場は歓声が沸き起こった。


 と とびっきりの笑顔

 でもそのパスタも 指突っ込んでいた……

 ラララ

 扉を潜り御出迎えする


 「客さん 三名ね」


 窓際の席に促すと

 「パスタ ジェラートセット」


そして二人まとめて歌った。


 三人前~


「ワー!」

「ワー!」

スタンディングオベーション! 信じられない事だった。

「グラッチェ! グラッチェ!」

クラウディスもラヴィレイも感極まって泣き、握った拳を振り上げていた。

「あ、阿呆が……あいつら、ぜってえ、後から締める……」

オッドーはあれで任されていたアルデのぼやきも分かった気がしてうな垂れた。

他の言語に疎い副所長ならまだしも、所長に知られれば酷い事になりそうだった。


 目深く被ったフェードラと、薔薇色の頬上の黒ぶち伊達眼鏡も可愛い顔で、赤の唇を突き出したクラウディスが、ドイツ人警備員に叱られたのを返した。

「問題無いCDに挿入される歌詞は裏曲の歌詞を載せて曲もそちらのバージョンを録音したものを載せる事に」

「載ると思っているのか。時間は限られているんだからな。その分協会側にコストも掛かる」

「歌詞はこれだ。限りなく元の歌詞に沿って歌われているから誰もが騙されるはず」

「煩い」

「。見せて」

メルザがそれを読み始めていた。


 螺旋の上に鳴る精霊の新たな琴を奏で急がせて

 雷鳴鳴り懺悔して絶える

 未曾有地が極限られた土地であってたも無茶は云うまい

 アーメン メメント・モリ

 穏やかな死別 灰に還る 永久はないのか ほら

 肋骨半分手に竪琴を掻き鳴らした 安住への地へのいざなう神

 赦したまえ 罪を犯しては散ってまた大地へと消え更地へ還る塵は舞う

 恐れる殺傷下劣な技 お座成り乱れた列の先の門 神は正して地獄まで

 暗礁は波巻き上げてとどこおった列の破断を広げ行く

 鷲は飛び爪を立て傷裂いて 防波堤などは無いけど一切お構い無く大砲撃たれて落ちた

 ネジの外れた身体 凶悪の目と 精霊の場所まで眼差しの先還らん

 ホラ 嗚呼 眠らん

 魔笛の夜と 飛びいななく ペガサス舞い降りて 夢の終わりまで

 ラララ

 狙撃を返し大ガマ構え 爆弾 惨敗で的に当て命もらうと螺旋から懺悔した万人絶え


「本当ね……」

「あのふざけ切った歌で何を言ってる阿呆な……真面目腐って本気でやりやがって」

「遊びに真面目!」

「煩い」

「大丈夫だCDは二十四曲全部で計算したら、まだ十八分の余りがあって、容れられる」

「容れられる、じゃねえ。所長に絞られて来い」

彼等は頬をふくらめブー垂れて歩いていった。

「ちなみに三曲目は都合のため」

「さっさと行け。第一一曲目の歌詞はダークすぎて正規の健全なCDに載せられるか」

「ペガサス舞い降りて~ 夢の終わりまで~」

「ラララー」

「さっさと行け!」

フェードラの頭を叩かれキャアキャア騒ぎながらクラウディスと女達は出て行き、オッドーは首を振ってスツールに座った。

エリザベスがくすりと笑い、メルザはどことなく、二人の雰囲気に上目で見てから、目をくるりと回してテーブルに立てていた手を浮かせた。

「まあ、今回はどうなるかは分からないけれど、会場は感動させていたから……」

そう言い、肩をおどけさせてから、と言いドアから出て行った。

オッドーはエリザベスと二人にさせられ、ドア側から顔を戻した。

「音楽は楽しむのが一番だけど、今回は遊びが入ったからどうかしらね」

エリザベスがソファーの背凭れから腰を浮かせると、首を傾けさせた。

「このコンクールが終れば、早く帰って奥さんの身の回りのこと、するんですってね」

「ああ……」

相槌を打ちながら煙を吐き出し、項に手を当てた。

「妊娠後からヒステリーが始まるなんて、よくある事なのか?」

「まあ、人によってはそうなる女性もいるわ。慣れていなくて不安が続いていたからね」

「あいつにも悪い事をした」

「これから回復させていけば良いわ」

オッドーは頷く事も出来ずに、溜息をついてから長い脚を交差させた。

「俺の嫌いな医者なんかのガキだ。俺に懐くかどうか……」

「近いものが第一の親。ね」

彼のこめかみにキスを寄せてあげ、エリザベスは微笑んでから背を伸ばしたが、その瞬間オッドーが背後のソファにそのまま

ガチャ

「おとがめ無しだっつ……」

「………」

「………」

エリザベスもオッドーも即刻姿勢を正した。

「………。ハイジの彼が浮気してる!!」

「違う!」

このドイツ人警備員なら「お前等邪魔をするな出て行け」とでも言いそうだったが、何も言う事無く身を返して奥へ歩いていった。女史はこほんと髪を整えながら上品に小さな咳をしては再びソファ背凭れに座った。

この廊下は突き当たり一つしか棟階の入り口が無い。その前には、以前の黒人警備員達が厳重に警備していた。


両突端に複雑に結ばれた帯が下がる扇子があって、その金細工の縁を開くと、黒艶の漆がなめらかに広がり、東洋貴族の十二単を着た女が書院造りの中に座っていた。

そういう物の一つ一つをピアニストが興味深く眺めていて、日本芸術や素材にはなじみの無いクラウディスだったので、エリザベスが美術品を多く取り扱いルジク一族の彼に声を掛けて「共に見ましょう」と言って来た。

クラウディスは色彩を直視する事に抵抗があったものの、フェードラ陰の四角黒縁伊達眼鏡の中の大きな目で頷いておいた。

美術は美術で、それを創り上げた者がその裏にはいる。鑿を構える腕や、回る轆轤を操作する脚と細やかな手先、繊細な金箔を剥ぎそっと屏風に置くピンセットを持つ太い指、象嵌を施す時にプレスする行程……。それらをする職人達がいて、そして厳しい格言や伝統の中を護り抜き生きている。それを施す、技は繊細にして、それを作り出すが為に日々逞しくなって行く彼等の腕や頑なな誇りある眼差し、由緒有る物を受け継いでいく意思。

繊細な彫刻を施していたランディア、宝石にする為に鉱石を掘り起こすトルゾ、腹を満たすために一定の決められた漁師網をつり上げるアルドル、クラウディスを匿ってくれたカイン。

彼等も自己に誇りを持っていて、逞しくて、笑顔が太陽の様で、クラウディスを愛してくれて、大切にしてくれた。命に関る仕事に向き合っていた。彼等が大好きだった。

青空が味方して、青の海が映え、よく陽に焼けた逞しい腕で肩をグンッと引き寄せてくれた。眩しすぎた笑顔が耐える事無く、そして時に共に歌い、真剣な仕事をする顔を見つめては、共に笑い、食事をし、愛してくれた。幸せだった。

「………」

そして、いつも心の隅では震えていた。ダイマ・ルジクの存在が、太陽と彼等の笑顔で消えてくれるまで、青の海を何処までも共に見つめ続けた。煌く青を……。

………。

クラウディスは俯き、調度品を何本も専用の漆の箱の中に置かれてある御香の横にそっと置いた。

「ハイジ? どうしたの?」

ハイジという名で覚えたテテがクラウディスの背を撫でてやり、顔を覗き込んだ。

「緑のお茶、飲みなさいよ」

「そろそろ結果の出る頃ね」

腕時計を見てエリザベスがそう言った。

「ねえ。女史? あなたって上品で麗しくて、この空間に合うわ」

ネルがそう言い、パートナーのサダが続けた。

「警備員の彼だってそう思ってるかもよ」

「付き合ってはいないわ。誤解を招いているようね」

「関係があれば空気感で分かるわ。その中にあたし達がこうやっているのって、なんだかフェロモンの交差よね? ねえ、ハイジもピアニストもそう思わない?」

「え? ああ、何だい?」

コンコン

メルザが扉を開けた。

「会場に戻ってちょうだい。結果発表よ」

男子受刑囚と女子受刑囚は基本的に長時間同じ空間にいさせる事は許されていないのだが、クラウディスだけは例外にされていたのは、関係の持ちようも無いからだ。ピアニストは逆に、珍しく大人しく美術品を見ているが、どうやら色気が強い女性は恐く感じるようで、女達に言い寄られると尻込みして笑顔を引きつらせていた。育ちの違いからか、この手の女達は周りにはいなかったらしい。

逆に7654番と4567番が女達と誘惑しあい出した瞬間から、引き剥がされていたのだが。

女達の一番最後のネルは肩越しにメルザの後ろの7654番に微笑みちょっかいを出しながら歩いていて、7654番も色目を使っていた。最後尾のオッドーは無線で連絡を細かくとりながら十人を歩いていかせる。

最前列に着く黒人警備員も機械の様に進んで行く。

黒人警備員がいきなり立ち止まり女達がキャッと短く叫び押し寿司になって行き、最後にサンドイッチなりオッドーに潰されたクラウディスがギャッと叫んだ。

メルザが頬を染め真後ろの7654番を見ると7654番が微笑し、腰に手を当ててきた為に、微笑んで肘鉄を食らわす素振りを見てた。7654番は肩を竦めさせ、顔を前に戻した。

クラウディスはピアニストの背から顔を覗かせて前を見ると、扉が他の二人の黒人警備員により開かれた。

その為に進んでいった。

一瞬、背後のドイツ人警備員の離れていく瞬間に絡みそうになった脚に頬を染め、クラウディスは歩いていった。オッドーは背後が黒人警備員で、丁度ライフルの銃口が肩のあたりに当っていて煩わしかった為にそれどころでも無かった。だが、実際に可愛いクラウディスのフェードラから覗く横顔は頬が染まっていて、逆に何故男同士相手にこいつはこんなに頬を染めるんだと疑問に思った。あんなに魅力に溢れる女が多くいるものを、一切傾かない。

進んでいきながら小声で囁く様に4567番が7654番にスパニッシュで言っている。

「おい。景品の電気ストーブが手に入ったら乾肉とか下の階のおやじ共焼きはじめたらやばいな。夜間締め切った状態でやられたら、臭いが二階の俺等まで染みるぜ。髪に匂いつく」

「それ以前にあの爆裂野郎が飴でも何でも焼いて手に入れた景品ぶッ壊さねえように見張り建てる方が先決だ」

「ありゃあ故障の元だからな。灯油ストーブが商品だったらあぶねえ所だったな。あの野郎が打ち上げるに違いねえ」

「ガキ時代に綿飴ストーブの真横でやって爆破した時は驚いたからな。一瞬で溶けきって証拠隠滅しちまった。なのに妹が暴露しやがってこずかい無しだ」

「そりゃあ後々こうグレるわけだよな。妹ってのはどの時代もそうだ。家族味方につけて裏切るんだ」

「世のサガだ。今じゃああいつは弁護士だぜ。軍人と結婚させればいいってものを。電気ストーブ以外に景品何があるんだ?」

「綿飴製造機ならあの爆裂大喜びだな」

「いらねえいらねえ。獄中蜘蛛の巣級に綿菓子塗れにされて終わりだ」

「綿菓子の雲に乗って世界中のお空でも旅する旅行券があったらと思うと胸の此処のあたりが……」

「おいそんなんで電気ストーブが当ると思うのか。第一、確実に一台は女子刑務所に渡されるんだぜ。って事はじじいが多い一階監獄行きになるに決まってるじゃねえか」

「おいルーレット式だったらどうする。どうせ投げるのはあの副所長のババアだ。ひ弱な女が投げて的に命中するかどうか……」

「いやその中でも特に電気ストーブの割合はどれぐらいの幅で何色のマスか調べねえと腕の角度がどうなるか」

「畜生俺に任せりゃあ一発だ。ダーツは得意だ。俺にその役回りが来ないのか」

「今のうちに口説いておけ。電気ストーブが俺等の命運に掛かっている」

4567番が会場近くの通路に出ると副所長を見つけ列で通過する時に彼女の腕を素早く掴んだ為に他警備員達が目白押しに駆けつけた。

「俺に矢を打たせてくれ」

「………」

糞真面目に真に迫る4567番と7654番を見て、副所長は冷静に瞬きを繰り返した。

「………。はい?」

クラウディスはもう耐え切れずに笑い転げそうになりケラケラ壊れたように笑い出していた。

「お前! 脅迫か! 勝手をするな列に戻れ!」

「綿菓子なんかにくるまれてりゃあったまるとでも思ってやがるのか! 俺等が一発決めりゃあ」

「何を言っているんだお前!」

クラウディスがもうキャハハハと腹を抱えて笑っていて真っ赤になっていた。

7654番と4567番が連れて行きかけてオッドーが呆れ返って緑の目玉を回し、アホな二人組みを大人しくさせた。軍の武器をマフィアに横流し闇に密輸させていた様にも、バーの脱税の裏金全て地元ギャングに渡して警察を買収させてもらっていた代わりに店の地下で敵ギャングを暗殺させていたとも思えなかった。

女受刑囚達はくすくす笑ってわたあめ話をしている男達を見て猫の様に顔を見合わせている。

今刑務所内ではゾラが激烈にくしゃみをしまくっているのだが。飴をリンの顔に吹き飛ばしながら……。


 クラウディスは不貞腐れて二等賞賞金の目録を抱えて眠っていた。

しかもオッドーが罰として与えてきたように、両側にネルとラビが眠っていて、彼女達は一人が、作業手当てでホテルで買ったお土産のピンクの可愛い兎キャラクターを抱え、もう一人は白くて甘い顔の熊人形を抱えて眠っていた。他の女達は最新の香水だとか、服だとか、チョコレートだとか、甘い甘い菓子、メリーゴーランドのミニチュアや自分達やみんなを写真で撮ったりしてのお土産を買って大騒ぎだった。

他のチームを鑑賞する事は出来なかったから勝機は何処だったのかは不明だが、三等賞に収まったフランス人達はやはり悔しそうだった。

7654番も4567番も、優勝者に駆け寄って「金で懐が温まるとでも思ってやがるのか! 一等賞の電気ストーブよこせ!」などと金利益関係で掴まったとも思えない疑うような言葉で騒いでいたが、相手はロシア人だったのでスパニッシュもイタリーも通じなく顔を見合わせ首をかしげているだけだったが、相手側が極寒ロシアの刑務所からの出身だという事で、苦々しげに電気ストーブを与えてやっていたが、元から電気ストーブなどの景品など無いことは最後までオッドーは言わずに、勝手に騒がせておいた。

二等賞の賞金で、いずれにせよ刑務所が七割分持って行くと、男子自由監房内電気ストーブ二機、文字の大きな時計男女自由監房一つずつ、女子自由監房バレーネット修理代が賄われる。三割分はピアニストを合わせた十一人で山分けされ、次回の支給金に加えられることになっている。元々、女子自由監房の中には暖房設備が整っていた。

優勝賞金が入れば、冷房暖房の効くエアコンが納入されたかもしれないのだが。

クラウディスは寝られずにいた。

甘い香りが充満し、柔らかい肌がそこにあり、綺麗な衣装を常のように身につけている。あの派手な化粧を落としても天使フェイスの女達が幸せそうに微笑み眠っている。何をして掴まったかは不明だが、久し振りの柔らかく大きなベッドの上で心地良さそうだった。

クラウディスが殺人罪で掴まっている危険人物なので、メルザがずっと監視していたものの、クラウディスはずっと落ち着かずにごろごろしていた。

女ばかりの場所になどは、特にこうやって大きな寝台で川のように眠るのは、自己が幼少時代に他の貴族の子女や坊達と眠った時ぐらいなものだった。

そういえば、酷い奴が昔一人いて、格好いいからずっと着いて回ったり、横で眠ったりする毎に叩いてくる奴がいた。アイルランド貴族の少年だった。クラウディスはそいつから嫌われていて、クラウディスもそいつが嫌いになったのだが。

寝ぼけたラザがベッドに転がり倒れ込んできて女達が猫の様にふにゃふにゃに蠢いて寝息を吐き出し香りが一層増し、クラウディスはラザに縫いぐるみに間違われ抱きつかれて、息苦しくてうねるツYのアッシュブラウン髪と肩から真っ赤な顔を出し息を吸った。

女に塗れながらそんなわけで眠りに着かなければならなかった。

テテの髪の複雑なヘアスタイルと飾りを取ると金髪はふわっとしていて、白い破断スッとした目許下はホクロがある黒ファーランジェリーの女が他のベッドから起き上がり、ピンクの豪華な天蓋の金タッセルを引いては、黒革で下腕と足を任せているのだが、歩いてきてはヘザをぽいっと放り投げ、自分がその縫いぐるみに抱き付いて眠りに着いた。ラザは絨毯の上で丸まるように眠り始めていた。

テテとネルとラビに埋もれながら、ラビにまで抱きつかれ眠れない。テテに頬釣りされるし、マシュマロみたいな三人の体が花のようだし。

「熱い……」

クラウディスが抜け出して女達の体を飛び越え出てくると、ソファーに転がって眠りに着いた。その上に寝ぼけたサダが乗って来て縫いぐるみのような背にしがみつき、紫と藤色と銀の長いコーンロウ髪がクラウディスの腕や胴横に落ちては彩った。

既にクラウディスはすやすやと眠っていた。熱さで染まる頬も紅い唇も可愛く、黒髪から覗く真っ白の瞼と黒の睫も可愛かった。

メイクや全身の水色ラメファンデを取ると、透き通るほど青白い肌のサダは体温が高くないので寝辛くは無かった。

差だが目覚め、メタルコンタクトを外していると鮮やかな水色だ。繊細な顔つきが紫や銀のコーンロウに囲まれ水色の瞳で眠るクラウディスの横顔を見つめ、頬にちゅっとキスを寄せてから肩を抱き眠りに戻った。

不思議と悪夢は見なかった。青空を白い白鳥になって飛んでいる夢を見た。淡いアクアマリン色の空を羽ばたいている。何処までも……そういう夢を見た。ずっと、グリーンスリーブスの澄んだオルゴールがその夢の中を、鳴り響いていた夢。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ