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90話 あらあら、未来予想図ツウー? ですって

 はぁ〜、何でこんなことになったのかしら?

 そもそもの間違いは、ロクの魔術とスキルにあると思うの。

 誰も理解してないんですもの!

 保有者である本人でさえよ。

 大問題よね。

 その謎の魔術とスキルを探る為に、忠凶が面白いことを言い出したから、てんやわんやの大騒ぎ。


『姫様。確かに、スキル“走破”はその人や物の過去を視るスキルです。ですが、僕が使うと魔術やスキルに関連したワードだけ、視ることができます。本来なら、マリア様に僕が触れスキル“走破”を使えればよかったのですが……時間なく断念した次第です。姫様? いかがなされましたか?』


 などと言い出したから。

 さぁ! 大変。

 ルバー様が狂喜乱舞して、忠凶と一緒にクルクル回りだす始末。

 はぁ〜、忠大の説明を聞いてルバー様とお父様の驚喜を落ち着かせる事に成功したわ。

 そしたら今度は、ロクに触れた忠凶が大興奮。


『これは……すいません。ですが、本当に凄いのです。異世界人が持つ特殊魔術やスキルは、面白い魔術です。謎の一端が解けた思いがいたします。では、ご説明いたします』


 で、始まった話にルバー様とお父様が、またも乱舞。


「ガロス! 今の話を聞いたか! 未来を視るスキル。未来を固定する魔術。あまりにも荒唐無稽な話に、僕は混乱している」

「俺もだ。しかし、時空理論をもちいれば……」

「駄目だろなぁ。アレは時間と空間の理論であって、先の未来を予見する理論ではない」

「だが、時間の積み重ねが未来へと繋がる。今、この時、1分、1秒の先に未来がある! この結論は変えられない。だったら、魔術・スキル“未来予想図”の基礎理論は時空理論で間違いないと、俺は考査する」

「だ・か・ら! 時空理論は、時間と空間の理論と言ったはずだろ。ガロスが考査したのは時間理論だ。それも、完成されてない。中途半端なものだ」

「なんだとぉ〜」

「よく考えてみろ。1分、1秒の先に未来がある。確かに、その通りだが未来は呼称で実名ではない。この場合は使ってはいけない名詞だ。1分、1秒の先にあるのは1時間だ。あくまでも、時間理論だ!」

「いやいや!」


 などと言って激論を交わしているわ。

 方やネズミ隊は。


『忠大! 僕はガロス様に1票』

『俺はルバー様に1票』

『オレは……ルバー様に1票。どう考えても時空理論では無い気がする。忠大は?』

『私はどちらにも1票』

『そんな意見は聞いてない!』

『確かに、忠末の言う通りだ』

『『そうだ!』』

『忠吉、忠中、忠末。そんなに、はやし立てるな。私はルバー様とガロス様の意見を足したのが、答えではないかと考査する。新たに未来理論を提唱する!』

『『『おぉ!』』』


 新しい理論を言い出すし。

 集積不可能状態。

 はぁ〜、誰か助けて!

 叫びたい私の気持ちを理解してくれたのは、この人だけでしたわ。


「いい加減にしてちょうだい! ! 話が前に進まないじゃないの! 解らないなら試してみれば済むことでしょう! だったら、ちゃっちゃとするの!」


 ベルネ様の一喝で、やっと先に進んだの。

 はぁ〜、先が思いやられるわね。


 さて、問題の特殊魔術“未来予想図”、特殊スキル“未来予想図”はニコイチの技だったの。

 簡単に言うと、お父様が言った事が的を得ていたわ。


 ……未来を固定する魔術と未来を視るスキル……。


 この言葉通りの技だったのね。

 まず、失敗した原因は、固定する前にロクが動かしてしまった事なの。

 忠凶、曰く『この小石1つを動かすだけで、未来が変わります。未来は流動的に動いているのです!』との事。

 なるほどね!

 だから、ハチとネズミ隊を移動した事で、未来が変わり何も起きなかったのね。

 その事が理解できたロクは……。


『魔術“未来予想図”』


 突然の魔術に驚いたのなんの!

 私達はロクの周りに屯っていたのね。

 ガヤガヤしていたところに、ベルネ様の一声で皆がシャキとなって話は進んだはずよ。

 そこに、ロクの声が響いたの。


『ハチ、ネズミ隊。少し離れな。ナナ、あたしの数歩、後ろへお下がり』


 私はとりあえず、ロクに従ったわ。

 お父様に話して、2メートル弱、後ろへ下がったわ。

 で、そのルバー様は……。


「僕はここだよ! “ファイアボール”」


 声の主は、魔術“スプリングボート”の上で、高らかに術を放ったの。

 あらあら、楽しそうですこと。

 まぁ! 右手には次の魔術“ウォーターボール”をスタンバイしているわ。

 用意がいいですわね。

 でも、ロクの方が一枚上手ね。

 すでに尻尾の先には、ルバー様が放った魔術と同じ物が浮いていたの。

 まるで分かっていたみたいにね。

 嘘! ロクの魔術が青いわ! !


「お、お、お父様! ロクの“ファイアボール”が青いです! “ウォーターボール”もです! アレは何ですの?」


 ジュウ!

 ブルン!


「! !」

『やったニャ! アハハハ! これ楽しいニャ! 未来が分かっていれば対応が容易い。なるほどニャ。良く出来てるわ。魔術で固定すればその通りになる。でも、スキルだけなら回避が出来る。相手を仕留めたいなら魔術だね。避けるだけならスキルだよ。良いニャ。使えるニャ!』

「……」


 奇妙な擬音で、ルバー様が放った魔術が、ロクの魔術に消されたし、吸収されたの。

 驚いたのは技を繰り出した張本人。

 楽しそうに、笑い声を上げたのはロク。

 驚愕のあまりに声も出なかったのがお父様。

 それにしても、解らない事だらけだわ。

 こんなときは、あの子よね。


「忠凶。どうなってんの?」


 私の言葉で、お父様が正気に戻り、ルバー様は猛スピードで近寄ったわ。

 もちろん“スプリングボート”でね。


「ナナ! 説明できるのか?」

「私では無いわよ。お父様。ねぇ、忠凶……貴女なら解る?」

『はっ、ご説明いたします』


 はっきり言って、凡人の私やベルネ様には理解不能よ。

 他のみんなは……まぁ〜ねぇ〜。

 まずは説明からね。

 忠凶は、理路整然と摩訶不思議な事を言ったのよ。


『今回の実査で、ボクは理解できた様に思います。

 ロク様の特殊スキル“未来予想図”は、視る力。正にその言葉につきます。ご自身の身に起こるであろう厄災を感知し、映像として視ることが出来る。しかしそのままでは、予見しかならず。小石1つで未来が変わるあやふやなモノでしかないのです。その為の、特殊魔術“未来予想図”です。これがまた、素晴らしい! おそらく5分です。特殊スキル“未来予想図”は、事が起こる5分後の未来を視ることが出来るようです。そして……その未来を固定するのが特殊魔術“未来予想図”。固定と言っても、ロク様にどんな攻撃がどのタイミングでするか、だけのようです。ですが、攻撃を受ける側にとっては最善の戦略を組む事が可能です。素晴らしい! 本当に素晴らしい! 能力です。

 おそらく、時空理論の先にあるモノ。それこそが、未来理論だとボクは提唱します! !

 1秒、1分、1時間。コレは時間理論です。この空間の中の1秒、1分、1時間が時空理論の基礎です。1秒、1分、1時間の先に起こる出来事が未来です。時空理論と同じ考査でよろしいかと思います。広く考査すると理解が難しいかもしれません。だからこその、空間なんです。この空間の中の1秒、1分、1時間の先に事柄を予見する。それほど難しい事では無いと考査します。

 風が吹いている。砂利道である。1人の男が居る。動く筋肉。この様な状況の中で、何が起こるのかを数億パターン考査すると、起こりえる事は限られてきます。それこそが未来です。特殊スキル“未来予想図”は、その行程を瞬時に検算し、常に発動する事で危機を予見する。そうです! スキル“未来予想図”とは、その時々の状況と予見を繰り返し、確定した未来を見せる能力の事です! そして……』

「ストップ! 忠凶! 少しだけ待ってくれる?」

『しかし、姫様。魔術“未来予想図”の考査がまだで御座います。こちらは、まだまだ、謎が残る考査となっております。ぜひ、皆様の意見をお聞きしたいです』

「はぁ〜、長くなるのかしら?」

『それほどではありません。魔術“未来予想図”は流動する未来を固定する技です。そこが、難しいところなのです。解読不能です。特殊な由縁だと考査いたします。完全なる固定では無く、一部分の固定。攻撃の種類とタイミングだけの固定……う〜ん……謎です』

『確かに、謎だなぁ』

『忠大もそう思うか』

『あぁ。だが、未来理論は正しい気がする。スキル“未来予想図”はその理論で証明されるのではないか?』

『しかし、スキル“未来予想図”と魔術“未来予想図”は表裏一体なのではないのか?』

『忠中……確かに』


 はぁ〜、そのまま言ったわよ。

 まんまね。

 私も一生懸命、話していたから気が付かなかったんだけれど。

 いつの間にか、ハチの背に載せられていたわ。

 そしてお父様は、メモ帳を取り出し記帳。

 ルバー様はブツブツ。

 ハチとロクは、目をランランとさせてネズミ隊の考査に参加し始めたの。

 はぁ〜、坩堝。

 はぁ〜、火中の栗を拾いたくないわね。

 でも、拾わないと先に進まないかしら?

 こんな時にも頼りになる人が居るわ!


「もぉ〜、無理! 私には意味不明よ! イ〜ミ〜フゥ〜。ガロス、後から報告して。私は疲れたから帰るわ。あぁ〜あ、頭が痛い! ナナちゃん、頑張ってね。検討を祈るわ」

「べ、べ、ベルネ様! !」


 言いたいだけ言って、帰って行ってしまったの。

 カムバッ〜ク!

 ヘルプミ〜!

 と、叫びたくなったわ。

 いつの間にか、魔術“ヘルシャフト”は解除されていたの。

 そして、軍人学園の1室を使い喧々諤々と激論を交わし始めたわ。

 ここで面白い事を発見したの。

 お父様が、筆記係でルバー様が進行役。

 ネズミ隊とハチとロクは意見を出し合う役。

 さしずめ、副担任がお父様で、担任がルバー様。

 ネズミ隊とハチとロクは生徒。

 ここが教室だから、そう感じてしまったのね。

 そうそう、私の役目は通訳者。

 お父様の隣で、ハチたちが話した内容を言う役ね。

 当人たちは、言っている事が分からないのに通じ合っているのよ。

 コレには驚いたわね。

 細かいニュアンスは流石に無理だから、そこは私の出番。

 そんな感じで、考査が続いたわ。


 で! 出た結論は……解らない。


 スゴー! とコケたくなるけれど仕方がないことね。

 それだけ、難しい議論だったようよ。

 忠大が提唱した未来理論だけれど、穴だらけだったの。

 最大の穴は、確定した未来が解らない。

 いくつも候補ばかりが有り、何が正解かは蓋を開けてみなければ分からないでは駄目よね。

 結局、解読不能だったの。

 ただ、未来理論は面白かったようで、ルバー様がもう少し詰めてみるとの事。

 ネズミ隊が大喜びしていたわ。

 自分たちの推論した理論が議題にのり、師と仰ぐルバー様が引取って考査したいと言ってくれたんですもの。

 何だか、私も誇らしいわ。

 そうだ! この際だから、アノ謎もアジェンダしましょう。


「そう言えば、ロクの魔術が青い膜? 炎? を纏っていたわね。アレは何だったの?」


 私は忠凶に話を振ったのよ。

 そしたら、元気よく答えてくれたのは。


『アレは鬼火だよ。あたし、知ってんだ。シャルルが使っていたからね。氷炎の名は伊達じゃないんだよ』

「だ・か・ら! 何なのよ?」

『さぁ、知らない?』


 全く、何を知ってんのよ!

 私は改めて、忠凶に聞いたの。


「で、何なの?」

『はっ。鬼火ですが。火属性の1種かと存じます。シャルル様は火属性の保有者で、水属性の方を捕食されました過去が御座います。その際、何らかの影響でシャルル様の属性に変異が生じ、鬼火になったのではないかと推論いたします。効果としましては、ロク様の想いが強く影響されます。感情が高ぶればパワーアップされるでしょうし、冷静であれば今回の様な現象になるかと思います』

「今回の現象?」

『はっ。“ファイアボール”に対しては打ち消し。“ウォーターボール”に対しては吸収。保有者の想いをより強く作用してしまうのが鬼火なのです』

「なんですって! ロク、ちゃんと聞いていた?」

『もちろんニャ。あたしが強くなったって、事だニャ』


 はぁ〜、ロクのニヤニヤ顔とハチが舌打ち。

 はぁ〜、この子達の試合はバトルへと進化するわね。

 怪我だけはしないでほしいわ。

 あ! 駄目ね。

 多少の傷ならハチが治してしまうわ。

 なんと言っても、白属性のエキスパートですものね。

 はぁ〜、私も参加した方がいいかしら?

 無謀な事をしないでしょう!

 私って頭良い。

 ウフフ、楽しみね。




 〈「貴方! ナナちゃんを連れて、帰って来てください。家から大量の魔石が紛失してしまったんですよ。何よりも、カムイちゃんにお姉ちゃんを会わせない気ですか? 貴方! 聞いていますか?」〉

 〈「もちろん、聞いているよ。だが、少しだけ待ってほしい。年末には必ず、連れて帰る。それで、許してくれ」〉

 〈「……」〉

 〈「ソノア。必ず連れて帰るから。必ず帰るから」〉

 〈「分かりましたわ。必ず、ですよ!」〉

 〈「あぁ、分かった」〉

 〈「念を押しますが……。必ず、ですよ!」〉

 〈「あぁ、必ず、だ」〉

「はぁ〜、ガロスも大変だなぁ」

「ルバー、そう言うなぁ。口にすれば誠に成るからな」

「アハハハ!違いない」


 そんな会話がなされていたなんて、知る由もないわ。

 でもこの母の不安が、私に最大のピンチを招いてしまうの。

 まさか! あんな事になるなんて!







「マリア……ボクの……マリア……どこに……いるの?」



個人的、好きな魔術ベスト3に入る魔術スキルですね。

5分先の未来が見える。

人生における分岐点が少しでも早く見れるのは良いと思いませんか?

でも、小石1つで変わるなら……意味無いかしら?

ちなみに1番はナナの“獣の声”です。


次回予告

「絶対、俺達の事を忘れているよな」

「エディ。僕もそう思う」

「ホゼと俺だけこの予告多くやってねぇ?」

「エディ、僕もそう思う」

「次回予告

早い冬休みに突入したナナ。家族で過ごすために帰郷する。家族水入らずで過ごす楽しい年末。当たらな年明けに、最大のピンチが訪れる。ナナ達は回避する事が可能なのか!

コレで良いと思うか? ホゼ」

「それしか言いようが無いよ。次は僕かなぁ?」

「「はぁ〜」」


ホゼとエディにしてもらいました。

話の流れ的に出てこないだけですよ!

たぶん?


それではまた来週会いましょう!

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