89話 あらあら、未来予想図ですって パート1
シャルルを吸収したロク。
マリアを失った竜。
2人の想いは全く違うカタチとなったわ。
消失感から飛び去ってしまったのが竜で、願いを叶える事が出来たのがロク。
私に言わせると、マリアも願いを叶えたことになると思うの。
だって、愛する人の腕の中で永遠の愛を誓い。
愛する人の見守る中、この世を去ったんですもの。
しかも、美しい姿のままでよ!
ある意味、最高よね。
女としての幸せの形だわ。
マリアは満足だったと思うの。
でも残された方は、たまったものでは無いわ。
愛が深いだけに、辛いわよね。
それに引き換え、想いを叶えることに成功したのがロクよ。
シャルルの願いは……愛する者の中で眠りに着くこと……ロクはシャルルの魔力を捕食する事で魔獣へと進化したわ。
別れてしまった魔力を1つにすることがロクの悲願。
そしてシャルルは、愛してやまなかった愛猫、ロクの中で眠りに着く事が彼女の願い。
ロクは見事に果たしたのよ。
でもよ! でもね!
Sランクへと進化をしたのは現実なの。
しかも、黒から白へと変貌したわ。
それは、愛らしいお嬢様だったシャルルが、愛する者を殺し捕食し変貌してしまったようにね。
尻尾も2本から3本に、増えちゃったし。
はぁ〜、それにしてもロクのステータスには驚かされたわ。
だって、Sランクよ! Sランク!
でも直面する問題は、そこでは無かったみたいなの。
問題は……。
「ガロス! !今の聞いたかぁ! 目の前にSランクだぞ! でも、謎だらけだ。なぜだ! なぜ、魔術“ブラックホール”で魔力が上がる? ランクが上がる? 何でなんだ? あの魔術は、そんな危険な技では無い。人に向けて放っても、MPが減るだけで体をすり抜ける。VITで吸収されるMPが変わる。VITが低いと半分ほど、搾り取れる。面白い魔術なんだ。魔力が無い者はHPが奪える。HPはSTRに影響を受ける。人体には影響は無い。そりゃ〜、奪い過ぎれば生命の危機にもなるが、死ぬまでは無い。何度も、実査をした。そう、何度もだ。そのはず……何だか……ガロス。お前なら、どう考査する?」
このルバー様の叫びでも分かる通り、魔術“ブラックホール”でロクが進化してしまった事なの。
はぁ〜、忠大に説明をしてもらったわ。
その中に気になる言葉を聞いたのね。
もちろん、その時はそのまま話したわ。
『では、姫様ご説明いたします。おそらくですが、ロク様の魔力の基礎はシャルル様の魔力です。その為、マリア様の魔力と相性が良かったと推測いたします。そして、マリア様の魔力とシャルルの魔力がバランス良く混ざり合っていた事も関係していると思われます。ですが、それだけでは進化の秘薬には成りえません。マリア様とシャルル様の精神も、分かち合い認め合い、唯一無二の存在同士だったからかと。その心が混ざり合った結果、進化の秘薬に成り得たと考査いたします。そうでなければ、マリア様の特殊魔術とスキルを受け継ぐ事は不可能と思われます』
進化の秘薬……惹きつける言葉よね。
現にルバー様とお父様はこんな発言をしたわ。
「魅惑な言葉だなぁ」
「あぁ。僕達にそれが出来ると思うか?」
「やらなければ……死ぬだけだ」
深刻な顔をしたお父様が、危ない事を言ったの。
死ぬだけって……何を考えているの!
もちろん、すぐに王様からお叱りの声を頂いていたわ。
「馬鹿者! ! 民の犠牲を出してまで力を求めるな! !」
当たり前よね。
本末転倒よ。
力を得るために、命をかけるだなんて。
それが、容認されるわけないじゃないの!
王様はルバー様とお父様を信用して、戻られたわ。
今いるのは、4代貴族の面々とルバー様。
私とハチとロクとネズミ隊の13人。
ちょっと多いわね。
などと思っていると……。
「ルバー、報告を私にも頼む。王様、お待ちください。今回の件に関しまして……」
「イヴァン、オレも行く」
「私は、残るわ。王様に偽りの無い報告が行くのか確かめないとイケないものね」
「……」
うふふ、言葉が無いわね。
私は、改めて忠凶に話を聞いたわ。
「ロクがどんな魔術か知らないみたいなの? 貴女なら解る?忠凶?」
『解りかねます。元は北岡真理亜の特殊魔術とスキルだったと思われます。そこから推測されることは、特殊スキル“未来予想図”は未来を予知するスキルかと思われます。特殊魔術“未来予想図”は特殊スキル“未来予想図”関連の魔術かと想像できますが、それがどの様な魔術かは使用してみなければなとも言えません』
ルバー様たちに説明したわ。
ロク、本人も一緒になって頭をひねっていたわね。
しびれを切らしのは意外な人だったわ。
「あぁ〜ん! 解らないなら使って見ればいいんじゃないの? ロクちゃん! 使っちゃって!」
ベルネ様がキレちゃいました。
でも、確かにその通りだわ。
「ロク。まずは魔力が、かからないスキルから使ってみたら? ロク?」
『あいよ!ナナ。……アハハハ! そういう事なんだね! 』
突然、笑いだしたの。
そして、ハチに命令をしたわ。
『あんたはナナをガロスに預けて、左に寄りな。ネズミ隊は、そのままだよ』
『はぁ? なんで』
『いいから、あたしの言うことを聞きなぁ!』
『分かったワン』
私をお父様に預けたハチが、ロクから見て右へと移動してお座りしたわ。
反対側にはネズミ隊が鎮座しているの。
そして、正面にはルバー様。
その後ろに、私を抱えたお父様とベルネ様が居るわ。
「「「「……」」」」
『『……』』
何も起きない。
静寂が、ヘルシャフトの中を支配していたわ。
何なの? ?
『なんで! 何も起きないのよ。忠凶!』
ロクの怒りはごもっとも。
でも、忠凶に当たっても仕方がないのにね。
すると、ルバー様とロクの間に進み出た忠凶。
私はお父様に頼んで、側まで行ってもらったわ。
「貴女ならこの状況を説明できるの?」
『解りかねます。少しだけ触れてもよろしいですか?』
ロクは大仰に頷いたわ。
ちょっと、ちょっと、待ってよ! !
「待ちなさい! まさかスキル“走破”を使うつもり? 意味ないじゃない。ロクの過去は貴女達も知っているでしょう? “走破”を使用する意味を言いなさい。アレはやすやすと発動していいスキルでは無いわ」
「その通りだよ。ナナくんの言う通りだ」
ルバー様は私の話で、内容を理解したみたい。
すぐさま賛同してくれたわ。
ところが、忠凶が反論したの。
しかもその内容に、ルバー様が目の色を変えたわ。
まるで、リトマス試験紙の様に。
私の意見に賛成してくれたから、酸性ね。
青色から赤色だもの。
はぁ〜、何だか疲れるわね。
『姫様。確かに、スキル“走破”はその人や物の過去を視るスキルです。ですが、僕が使うと魔術やスキルに関連したワードだけ、視ることができます。本来なら、マリア様に僕が触れスキル“走破”を使えればよかったのですが……時間なく断念した次第です。姫様? いかがなされましたか?』
「え? 言っている意味が分からないわ? 忠凶がスキル“走破”を使うと、何で魔術とスキルに関連した物だけが診れるのよ? やっぱり分からないわ?」
そんな私の謎に答えてくれたのは、忠大だったの。
『姫様には、私から説明いたします』
「ちょ、ちょっと待ってくれる? 今、ルバー様が来るから」
『はっ』
相変わらず、運動神経が切れているわね。
あ! コケた!
あ! 魔術“スプリングボート”を発動させた!
本当に運動が駄目なのね。
「はぁ〜、はぁ〜、はぁ〜。ナ、ナ、ナナくん! 今、スキル“走破”が何だって? ?」
やっと来たわね。
来るのが大変な所にいないでよ!
などと思ってしまったことは……内緒ね。
「忠大、ごめんなさい。説明をお願いするわ」
『はっ。スキル“走破”は1人で行なうには大変、危険なスキルです。何故かと言いますと、それは膨大な情報を処理するからです。人族の脳容積は私が知る限り、最大です。それほどの大きさを誇る人族でさえ、危険なスキルなのか“走破”なのです。ですが、私達には同じ時に魔獣となり、同じ時に姫様に出会い、同じ時を過ごしてきた仲間がいます。血と名の絆で繋がっているのが、ネズミ隊なのです!
私達が使うスキル“走破”は、それぞれの記憶担当がございます。忠凶が魔獣・スキル担当。忠末が防具とメス担当。忠中が武器とオス担当。忠吉がアイテムと環境担当。そして、私が地理・歴史と統括担当。この様に記憶をバラバラし、分担する事で脳容積が小さい私達でも、問題無く使う事が可能となります。そこから進化をし、担当個人でスキル“走破”を使えば、担当分だけ視ることが可能となったのです。
忠凶がロク様に使用すれば、スキル“未来予想図”がどんな風にロク様から見えていたかを視ることができる訳です』
「……との事みたいです。ルバー様は、理解できましたか? ルバー様? ルバー様!」
「………………」
私はルバー様をのぞき込んだわ。
忠大から聞いた話をそのまま言ったのよ。
そしたら、目を白黒させているし、口もアワアワしているわ。
「ルバー様? 大丈夫ですか?」
今度はブルブルしだしたの。
「ル、ルバー……様?」
「ルバー! しっかりしろ!」
お父様の一喝で目が冷めたみたい。
目の焦点が、ネズミ隊に合ったわ。
そして、忠凶を抱え上げ踊りだしたの。
「凄いぞ! 本当に凄いぞ! 魔獣と言う生き物は、臨機応変に進化し進歩する生き物なんだ! ガロス! 僕達も進化し進歩しなければならない! ……出来るのか」
「やるだけだ。見本が目の前にいるんだぞ。俺達にできない訳があるまい」
「だなぁ」
「ルバー様。忠凶を放してください。スキルが使えませんわ」
今だクルクル回っていたルバー様と忠凶。
「あ! すまない、すまない。ナナくん、詳しく説明を頼むよ」
「わ、分かりましたわ」
蹴落とされそうな勢いで言われました。
その姿勢はお父様も同じ。
はぁ〜、この2人、段々と似て来たような気がするわね。
気を取り直した忠凶が、ロクに触れたわ。
目を閉じ、整理しているみたい。
5分ほどの沈黙が辺りを支配した。
ゆっくり目を開けた忠凶。
そして……。
『凄いです! 姫様、凄いですよ! 異世界人が保有している、特有の魔術やスキルは凄いです! 面白いです!』
「忠凶。凄いです! しか言ってないわよ。何か凄いのよ?」
『これは……すいません。ですが、本当に凄いのです。異世界人が持つ特殊魔術やスキルは、面白い魔術です。謎の一端が解けた思いがいたします。では、ご説明いたします』
そう言って話しだした内容に、雄叫びを上げたのは2人だけ。
あ! 忠凶も入れれば3人ね。
さて、問題の魔術“未来予想図”とスキル“未来予想図”は単体では意味をなさない術みたい。
スキル“未来予想図”は常時発動型で、3分〜5分先の未来のビジョンが、ロクの頭の中に映し出されるみたい。
先程のロクが、ハチとネズミ隊に支持した時、まさにビジョンを見てからの行動だったようね。
ではなぜ失敗したのか!
それは、未来は常に動いている! と言う事らしいの。
忠凶の言葉を借りると『この小石1つを動かすだけで、未来が変わります。未来は流動的に動いているのです!』だって。
自分の身が危ない、未来のビジョンを視るスキルが“未来予想図”と言うスキルなのですって。
じゃ、魔術“未来予想図”は? となるわよね。
よくよく考えたものよ。
簡単に言うと、変わる未来を固定するのが、魔術“未来予想図”みたいなの。
理解不能ね。
私は忠凶が話したまま言ったの。
そしたら……。
「ガロス! 今の話を聞いたか! 未来を視るスキル。未来を固定する魔術。あまりにも荒唐無稽な話に、僕は混乱している」
「俺もだ。しかし、時空理論をもちいれば……」
「駄目だろなぁ。アレは時間と空間の理論であって、先の未来を予見する理論ではない」
「だが、時間の積み重ねが未来へと繋がる。今、この時、1分、1秒の先に未来がある! この結論は変えられない。だったら、魔術・スキル“未来予想図”の基礎理論は時空理論で間違いないと、俺は考査する」
「だ・か・ら! 時空理論は、時間と空間の理論と言ったはずだろ。ガロスが考査したのは時間理論だ。それも、完成されてない。中途半端なものだ」
「なんだとぉ〜」
「よく考えてみろ。1分、1秒の先に未来がある。確かに、その通りだが未来は呼称で実名ではない。この場合は使ってはいけない名詞だ。1分、1秒の先にあるのは1時間だ。あくまでも、時間理論だ!」
「いやいや!」
私を抱えたまま、ルバー様と激しい激論を交わしているわ。
掴みかからんばかりの勢いでね。
お父様たちの激論? がロクとハチと忠凶にまで伝染してしまったの。
『どうだい? あたしの魔術とスキルは凄いだろう』
『確かに凄いワン。でも、ロクの力では無いワン。マリアの力だワン』
『はぁ? 今はあたしの魔術だよ』
『使いこなせていないのに? 偉そうに言うなワン』
『……やるかぁ!』
『いいワンよ!』
『お待ちください。ロク様、ハチ様。喧嘩なさるのなら、実査を兼ねてされて方がよろしいかと、存じます』
『『……仕方ない(ワン)(ニャ)』』
『そもそも、ロク様は知らなさすぎです。スキルとは何か? 魔術とは何か? 理解しておられますか?まずは、スキルからです』
はぁ〜、激論では無くて講義ね。
呆れているのは私とベルネ様の2人だけ。
ちなみに、忠大、忠吉、忠中、忠末は……。
『忠大! 僕はガロス様に1票』
『俺はルバー様に1票』
『オレは……ルバー様に1票。どう考えても時空理論では無い気がする。忠大は?』
『私はどちらにも1票』
『そんな意見は聞いてない!』
『確かに、忠末の言う通りだ』
『『そうだ!』』
『忠吉、忠中、忠末。そんなに、はやし立てるな。私はルバー様とガロス様の意見を足したのが、答えではないかと考査する。新たに未来理論を提唱する!』
『『『おぉ!』』』
こりゃ〜ダメだたわ。
お父様の足元で新しい推論を交わしているわ。
はぁ〜、誰が助けてぇ〜! !
そう叫びたくなったのは、私だけではなかったの。
「いい加減にしてちょうだい! ! 話が前に進まないじゃないの! 解らないなら試してみれば済むことでしょう! だったら、ちゃっちゃとするの!」
神の声が下ったわ。
声を聞いた使徒たちは、起立をして敬礼したの。
笑っているのは私だけね。
ウフフ、アハハハ!
もちろん声には出さないわよ。
私以外は真剣なんですもの。
大声で笑うなんて、出来ないわよね。
でも、ベルネ様の一喝でやっと実査が進むわ。
……進む……わよね?
収まりませんでした。すいません。
来週も続きますよ!
未来予想図パート2……やはり歌いたくなりますね。
次回予告
「お姉ちゃん、ここどこ?」
「マナスちゃん、ココは次回予告らしいわよ」
「私達がしてもいいの?」
「らしいわね。マナスちゃんは……出来る?」
「……無理。お姉ちゃんにパス!」
「えぇ!!……頑張るわよ。
次回予告。スキル“走破”の新たな道に驚きつつも、謎が残る魔術とスキル“未来予想図”。実査は完了し、ロクは自分のモノにできるのかぁ! 乞うご期待!
で、いいかしら?」
「もう少し、煽った方が良かったんじゃん」
「だったら、マナスちゃんがしてよ!」
「え! 無理だよ!無理!そ、そ、それでOKじゃん」
「もうマナスちゃんたら」
「えへへ」
ロキアとマナスの姉妹にしてもらいました。
来週は未来予想図の続きですよ……たぶん?
また来週会いましょう!




