79話 あらあら、心覚えですって
予告と一部内容が異なります。
……すいません。
はぁ〜。
本当に、面倒くさい事になったモノね。
身から出た錆とはいえ、ひどい有様だわ……私がね!
そもそも、私の具合が悪くなったのが原因なの。
そこに、ロキアとホゼがからみ。
さらに、ノジル様の計量しない料理が事態を悪化させた。
コレが真相ね。
何も知らない、忠凶とロクがラム酒たっ〜ぷりのケーキを食べてしまい、酔っぱらった。
それを止めようと忠吉、忠中、忠末が悪戦苦闘した末、リビングは大惨事になってしまったの。
事実を知った私は、みんなに平謝りしたわ。
土下座して、謝って謝り倒したの。
許してくれたから、事無きを得たんだけれど……事はそんなに甘くない。
暴れていた忠凶とロク。
最強の2人が暴れたのよ!
物音で、みんなが起きないように使った魔術に、ルバー様が注目したの。
「ナナくん! その魔術は……“ブラックホール”かい? ?」
「そ、そ、そのようです。よね? 忠吉」
『はっ、忠凶の話では。マナス様の、風の反響を利用して位置を把握していたのをヒントにいたしまして。風にも方向があります。そして、音にも方向がございます。その方向に魔術“ブラックホール”を配置すれば、吸い込まれるはずでは? と、考査したので実行いたしましたが……上手く行って上々でございます』
「呆れたわね。ぶっつけ本番でやったわけ? !」
『『『……』』』
返答が無いのは、回答の証。
忠吉と忠中と忠末は、あまり目立つ子では無いわ。
私の側付き忠大と魔力が多い僕っ子の忠凶に挟まれた3人。
おとなしい子達と思ったのに……そんな事なかったわね。
「ナナくん!」
「あ! はい、はい。忠吉の話では……」
私は聞いた話をそのまま伝えたわ。
ルバー様の顔が、みるみる変わって行くのが面白かったわね。
「ナナくん! す、す、すっばらしい! 風にも音にも、方向がある! かぁ。ガロス、着眼点が違うぞ」
「そうだなぁ」
「どうした? 凄いじゃないかぁ!」
「時と場所を選べ」
はしゃぐルバー様をたしなめたお父様。
当然の結果よね。
でも、お父様より一枚も二枚も上手なのがルバー様なの。
侮り難しよね。
ため息まじりの問いかけに、お父様が訝っていたわ。
「はぁ〜、ガロスよ。思い出さないかぁ?」
「何がだ」
「お前と2人で教台と黒板を破壊したことを、だ」
「そんな事もあったな」
「ウフフ、あの時は慌てた、慌てた」
「で!」
「まだ、気付かないかぁ?」
「はぁ?」
不思議な顔をしたお父様をよそに、話を続けるルバー様。
「10歳ぐらいだったかなぁ? こいつと2人で魔術の考査を、教室でしていたんだ。どうなるか……想像できるだろう? その通りのことが起こった。教室の中はめちゃくちゃになり、教台と黒板を真っ二つに壊した」
この話を黙って聞いていたお父様が、何かを思いついたようなの。
私を強く揺さぶったわ。
「ナナ! 全てのマジックバック改を調べてみなさい!」
「アハハハ、思い出したかぁ」
「あぁ」
「お父様?」
私は言われた通り、調べわ。
すると驚いたことに、忠吉のバックには9脚の椅子とテーブル、食器棚と明記されていたの。
「忠吉! どう言う事が説明して!」
『はっ。姫様達の思い出の品。もとに戻せればと思い、修理しておりました』
思わずルバー様とお父様を交互に見たの。
なんで分かったのかしら? の、思いを乗せて。
そんな私を嘲笑うかのように、笑った2人。
「アハハハ! 思い出したぞ! ルバー」
「アハハハ! 遅いぞ! ガロス」
「「だなぁ」」
「お父様、ルバー様。説明してください!」
「すまん、すまん。壊したあと、俺とルバーは元に戻そうと修理を試みた。もちろん、元になど戻るわけない。亀裂の走った黒板と凸凹の教台。それでも俺達は直そうと努力した。……無意味だったがなぁ。新任の教師と一緒に学んだ教台と黒板。思い出ならナナ程ではないにしても、あった。元に戻らなかった教台を前にして、謝ったよ。クラスのみんなと、シュード先生になぁ」
お父様がチラリとシュードさんを見たわ。
見られた本人は、ニコニコと穏やかな笑みを讃えていたの。
嬉しそに話しだしたわ。
「流石に黒板は新しいのにしたが、教台はガロスとルバーが壊した物を最後まで使ったぞ。ナナくん。ネズミ隊は、思い出を守ろうとしたんだ。その気持ちを汲んで上げなさい」
私の肩を優しく叩いて、諭してくれたわ。
その通りね。
なんで無駄なことをしたの? !などと思ってしまった自分を恥じたいわ。
お父様とルバー様が、真新しいテーブルを片付けた。
私は、忠吉のマジックバック改から、継ぎ接ぎだらけのテーブルを出したの。
真ん中に大きな亀裂が走っていて、別な木で継いであった。
蝶の様な継ぎ手で、別れた上下を繋ぎ止めている。
酷いテーブルね。
4本ある脚は……バラバラ。
別々の物が付いているんですもの。
ウフフ、でもね。
ガタガタしないの。
上手に仕上がっていたわ。
「ナナ、上手いじゃないかぁ! 誰がしたんだ?」
「誰?」
『はっ、僕です』
「そうなんだ。そう言えば忠吉は、お父様担当で道具やマジックアイテム専門だったわね。器用ねぇ」
私の言葉を聞いていたお父様が、すかさず反応したわ。
「そうかぁ! やはり、忠吉だったんだなぁ。至妙なんだか、センスが無い。なんでこの脚を使ったんだ」
「そうですか? ガロス様。僕は奇抜で良いと思いますよ」
「ホゼの意見に1票!」
「私は……少しだけ気になります。ガロス様に1票。あ! これはこれで、素敵です」
「そう? 青が言うほど気にならないよぉ〜。わたしはホゼに1票かなぁ〜」
「私は……ホゼに1票……です」
「お姉ちゃんはホゼだから1票なんでしょう。あたしはマノアに1票かなぁ」
「ムゥ〜。マナスはなんで、マノアさんに1票なの? ホゼじゃないの?」
「そんなの、どっちでもいいじゃん」
「まぁ、まぁ、仲良しケンカはいいから」
「「ホゼ! 仲良しケンカって何よ!」」
「あははは、はぁ〜」
ホゼの乾いた笑いが、みんなの笑顔を誘ったみたい。
笑顔、笑顔、笑顔だったわ。
私ですら、笑っていたもの。
「ナナ、誰も気にしていないよ。……多数決は日本のアイデンティティ何だろう? だったら、みんなの総意だよ。顔を上げて、ハチもロクもネズミ隊も。そんな事より椅子も出してくれるかい?」
「みんな……ありがとう」
優しさが、こんなに私を癒やしてくれるとは思わなかった。
今度は私が護ってみせる!
心に誓ったまさにその時、間抜けな声で割り込んてきた人がいたの。
「すまないが、“ブラックホール”の実証をしたいんだがぁ〜。ガロス、お前の意見を聞きたい。忠凶もだよ」
「あははは! スマン、スマン。確かに、理論としては面白い。風も声も方向があれば吸える。おそらくだが、動のモノが吸えるんじゃないかぁ?」
「動……ねぇ」
『それで、正解かと存じます』
忠凶が、忠末が、忠中が、忠吉が、忠大が、顔を上げて頷いたわ。
みんなは失敗を受け止め、前に進む決意をしたのね。
私も前に進まないとね。
頭を上げて、手のひらに忠凶を乗せてからハチの背に跨った。
「お父様。その解釈で当たりみたいです」
「そうかぁ。方向に気をつけて設置すれば……そうかぁ! そう言うことかぁ! !」
「やっと気が付いたか。その通りだよ。言葉を吸い込む、“リバース”で聞く事が出来るのか? どれだけ離れても誰に対しても、聞く事が出来るのか? “ブラックホール”の大きさは?」
「ちょっと待て! 疑問は多岐にわたるが、まず初めに“リバース”出来るのかの実査が先だ。ナナ達はここに居てくれ。ルバー、行くぞ」
「あぁ」
『僕も行きます』
「あ! もう!」
あっという間に、私の手から飛び降りた忠凶。
尻尾をフリフリ、楽しそうにお父様の跡をついていったわ。
私はとりあえず、椅子を全て出したの。
これまで使っていた椅子なんだけれど……。
「これはまた。凄い直しだなぁ」
「えぇ、そうですわね」
「俺、コレが良い!」
「あたしは……コレ!」
「マナス!はしたないでしょう」
「エディもですよ」
「「は〜い」」
窘められつつも、笑いあっていたエディとマナス。
みんなが、それぞれに選んだ椅子。
選べる程に奇抜なのよ。
座面は新しい物にしてあったけれど、背もたれや脚は継ぎ接ぎのバラバラ。
本当に個性豊かな椅子が10脚。
これで、間違えて座るリスクは減るわね。
ちなみに私の椅子は、前は丸い脚で後ろは猫脚。
背もたれは星型。
なぜか黄色に塗られていたわ。
どこから持ってきたのよ。
思わず微笑んでしまった私。
でも、私だけで無かったのよね。
みんなの顔にも、微笑みが宿っていたわ。
ガチャ。
「ガロス! 反応なしだ! 実査は成功した」
「いいのかぁ? それを聞かせても?」
「反応が出ないと実査にならないだろう。それに事実だし、今回の原因だ。いい加減、自覚してほしいよ」
「「「「「「「「? ?」」」」」」」」
お父様とルバー様以外の人達に、ハテナマークが点滅したわ。
そして紡ぎだされた声に息を呑んだの。
「“リバース”」
冷凍ミカンサイズの魔術“ブラックホール”が、ひっくり返り音が響いてきた。
《「姉さん。料理はレシピ通りに作るべきだ。目分量で料理するなんて論外ですよ。自覚してください。みんなが迷惑します。……ガロス! コレでいいと思うか?」
「俺は良いが、こんな事を言って良いのか? ノジル様に怒られないか?」
「良いんだよ。これだけ言っても治らない人なんだから。もう病気だね」》
「……」
沈黙が痛いわ。
私達ではなく、ノジル様のね。
「ルバー! なんて事を言うのよ! そこに直りなさい! !」
「ガロス! 凄いぞ! 声質からボリューム。ココで話していたかのような声色! “ブラックホール”に、こんな使い方があるとは……素晴らしい! 発見した忠凶に感謝だ!」
「待ちなさい! ルバー!!」
そうなの、ルバー様はノジル様に追いかけられながら話していたの。
リビングで追いかけっこ……なかなか捕まらないものね。
「みなさん。紅茶を煎れました。新しいテーブルと椅子の使い心地を確認しながら、飲みましょう」
「「「「「「あははは、はぁ〜」」」」」」
まるでカオスね。
ルバー様とノジル様は、終わることのない追いかけっこをしているし、肝の座った態度で紅茶を煎れたロキアは美味しそうに飲んでるし、正にカオス。
無秩序なリビングを眺めながら、どこかホッとしている私がいたわ。
この愛すべき人達を護らないといけない。
そんな思いとは裏腹に、私の知らない所で事態が迫ってきていたの。
「ウソ、でしょう! まだ、呪縛から逃れられないのね。そして、記憶がないわ。欲望のままに……食べちゃったのね」
私の目前には、まだ温かい贓物が湯気を上げていた。
山の向こうにいたときは、当たり前のようにしていた事が、今では嫌悪感として私を責め立てる。
涙が止まらないわ。
なんでこんな事になったの?
私は、ヒデ達と一緒に夏を満喫していただけなのに!
なんでよ! !
私は普通の大学生よ……大学生だったのよ。
ミッション系の幼稚園から高校まで、通ったわ。
先生に憧れて、目指していたの。
高校3年間を捧げて勉強したわ。
そのかいあって、東京大学教育学部に入ることが出来たの。
嬉しかったわ。
4年間遊ぶぞ!
彼氏作って、浴衣着て、花火見て、水着で悩殺して、キスなんかしちゃって……と、意気揚々だったのよ。
うふふ、私、入学したてのとき、大学構内でキョロキョロしていたの。
そんな私に声をかけてきた人がいたわ。
「キミ、道に迷ってしまったの?」
「え! は、はい」
「奇遇だね。俺もなんだ」
「プッ、プププ、アハハハ! おかしいわ! 貴方もなのね」
「オゥ。俺は岩城秀幸。キミは?」
「私、北岡真理亜よ。教育学部1年生。貴方は?」
「俺も同じ」
「うふふ」
「あはは」
なんでもない、この出会いが私の人生で、最高で最悪の会遇だったの。
私達はすぐに打ち解け合い、付き合いだした。
幸せだったわ。
私が白地に朝顔模様の浴衣を着て、大輪の華を夜空に輝かせている花火をバックに、告白してくれたの。
“好きです。付き合ってください”
この言葉を聞きたくて大学生になったのよ!
憧れていた台詞を、好きな人から言われる幸せ。
私はただ頷くしかできなかったわ。
涙が溢れて、話すことが出来なかったの。
そんな私を優しく抱き寄せ、キスしてくれた。
優しい唇に、驚きと嬉しさと恥ずかしさで、パニックになったのを昨日のことのように覚えている。
それからね。
2人で過ごす初めてのクリスマス。
素敵なレストランでお食事をして、夜は・・・キャハ! の、予定が大きく崩れたの。
彼の幼馴染と友達に邪魔されたのよ。
お前ばかり幸せにしてたまるかぁ! ですって。
私は、白のニットワンピースにボルドーのタイツを合わせて、思いっ切り背伸びした姿。
彼も彼で、ネイビーのフランネルスーツにライトグレーのマフラーをしていて、清潔感溢れた好青年だった。
うふふ、2人とも似合いもしない大人びた姿に笑いあったわ。
そこに、乱入してきたのが地田幹夫くんで彼の幼馴染。
もう1人は、楽満俊哉くんで大学で知り合ったようだけど、親しみやすいドラえもん体型。
その為、あっといまに幼馴染クラスまで仲良くなったみたいなの。
もちろん私ともね。
レストランはキャンセルして、売れ残りのクリスマスケーキと半額シールを貼られたオードブルを買って、彼のアパートで朝まで騒いだわ。
大人のクリスマスには遠く及ばなかったけれど、楽しかった。
それからよね。
みんなの事を、あだ名で呼び始めたの。
岩城秀幸くんの事はヒデ。
地田幹夫くんの事はミッチー。
楽満俊哉くんの事はマンプク。
私の事をマリアとね。
そして、最悪の出来事が幕を開けたの。
残暑が厳しい8月後半。
ヒデがグランピングに行かないかぁ? と、誘ったの。
2人……では無かったけれど、みんなで楽しく豪華なキャンプが面白かったわ。
何でも、従兄弟の家族が行く予定をしていたのが、病気の子を出したのでキャンセルになり、ピンチヒッターとしてヒデに話が回って来たみたいなの。
BBQ、1つとっても凄かったわ。
伊勢海老に黒毛和牛のステーキ。
焼くだけで、美味しさ倍増の素材ばかり。
本当に美味しくて楽しくて幸せだった。
ここまでは、行きも帰りも運転手はヒデが勤めたわ。
免許取りたての彼が乗ってきた車は、メルセデス・ベンツ Eクラス カブリオレ。
よく分からない横文字を言われてもピンと来なかったのよね。
でも、乗り合わせた車を見たとき驚いたのなんのって!
シルバーのボディーに美しいシルエット。
ベンツのエンブレムがほかを圧倒していたわ。
私達もね。
不釣り合いのヒデの姿に大笑い。
この車は、ディーラーをしているお兄さんにレンタルしてもらったんですって。
彼女の前でいいカッコしてこい! だそうです。
優しいお兄さんに、素敵な御両親。
開業医をしているそうで、彼の妹が京都大学医学部を目指して勉学に励んでいるみたい。
非の打ち所の無い家族、遊んでくれる悪友、そして彼女の私。
彼も私も、幸せの絶頂だったわ。
キャンプ場から帰り道。
見晴らしのいい下り坂。
前後に車無し。
スピードも知らないうちに上がっていたの。
左カーブを曲がりそこねて、中央線を大きく越えた車体。
目の前には護送車が、飛び込んで来た。
違うわね。
私達が飛び込んだの。
正面衝突。
流石、ベンツよね。
フロント部分はペッタンコでも、運転席までは潰れなかったの。
ここで止まればよかったのに!
正面激突でも、厳密に言えば違うの。
ほんの少しだけ、軸がズレていたみたい。
向こうもスピードが出ていた。
こちらも出ていた。
ランデブーするかの如く、護送車の助手席よりのフロントと私達のベンツのフロントが吸い付くようにして一緒に回転し、崖下へと落ちて行ったわ。
私は、酷くゆっくりと過ぎていく時の中で見ていたの。
相手の運転手は、シートベルトを切って逃げ出した。
後ろには、囚人1人と警察の人が2人乗っていた。
警察の人は、囚人を置いて後ろのドアから逃げ出した。
ふ・た・りともね。
残されたのは、囚人1人だけ。
そこで、恐ろしいモノを見たの。
まだ幼さが残る顔をした男の子。
囚人服を着て、手錠をして、ロープで車体に繋がれていた。
彼が囚人?
でも、その顔には残忍な笑みが張り付いていたの。
コレから死ぬのに、どこか楽しそうな軽薄な微笑を讃えていたわ。
その顔に私は恐怖した。
私の楽しい思い出はここまでね。
あの頃に……戻りたい。
あの頃に……帰りたい。
愛する人の側に……行きたい。
リビング破壊事件は無事解決。
新しい? 椅子とテーブルの実物を見てみたいですね。
後半に、これまで末尾に書いてきた人物を書いてみました。
敵の姿が登場ですよ。
彼女達が狂ったきっかけは……お楽しみに!
次回予告
『僕が1人でするワン!
ナナ達の前に姿を現したマリア。狂った彼女を止めることが出来るのか? 竜の愛した女性を助ける事は出来るのか? 悲しみの渦がナナを巻き込む。
僕だけ喋って無いワン』
『あたしもだニャ』
ハチとロクに、お願いしました。
また、予告と違う内容に……ならない様に頑張りますね。
それではまた来週会いましょう!




