78話 あらあら、滲み出る毒気ですって
まいちゃうわァ〜。
張り切りすぎて、具合が悪くなっただけなのにィ〜。
色恋沙汰に巻き込まれるわァ〜。
リビング破壊事件が発生するわァ〜。
本当にどうなってるのォ〜。
ホゼとロキアの婚約発表が行われた事が、色恋沙汰のきっかけだったのよね。
ホゼは私の看病をしたり、マノアと一緒に薬の製作をしたりと、その日1日、忙しく過ごしていた。
これが建前ね。
本音の部分は……民主からの反応が凄くて2人で逢うのを禁止されていたの。
そのためロキアがヒステリックになり、私とマノアへの嫉妬心が煽られ、不機嫌になっていた矢先……リビング破壊事件が発生。
朝起きてリビングに来ると、テーブルや椅子、食器に食器棚。
ありとあらゆる物が、破壊されていたの。
事態を重く見た国王が、犯人探しに乗り出した。
派遣されたのはお父様とルバー様。
事情聴取が始まったわ。
ルジーゼ・ロタ・ナナの場合。
前日から具合が悪く、朝から晩まで、深夜まで!
ひたすら寝ていました。
ルジーゼ・ホゼッヒの場合。
「僕は、ナナの様子を見てから薬を造りをしていました。その時、マノアも一緒でした。夕食後、夜にもう一度ナナの様子を確認してから、早々に寝ました。薬造りをすると、眠たくなるので朝まで起きませんでした」と、の事。
スアノース・シド・エディートの場合。
「昨日は……朝飯……宿題……お昼……昼寝……予習……晩飯……明日の準備……夜食……寝る。だったと思います!」そして気になることを話したわ。
「おにぎりを台所から2個、見つけて食べならがリビングへと行った時……俺らの寮の入り口に……ロキアを見た。扉を少し開けて、廊下を覗いていたんだ。俺がいることに気が付いて、慌てて反対側の扉から出て行った」だったわね。
メースロア・セラ・ロキアの場合。
……ここで問題が表面化したわ。
ロキアが爆発したの。
「そんな事、言われなくても知っているわ! ナナが具合が悪い事も、彼が看病していた事も、薬を造っていた事も、全部知ってる。私は……私は……自分が許せないだけよ。全部理解していたはずなのに、疑ってしまったの。ホゼとナナがって。ホゼとマノアがって。そう思ってしまったら、止まらなくて……醜くなって行く自分が、悲しくて……グス」と、まぁ〜、泣き出してのよね。
結局、ホゼは婚姻が出来る12歳までスアノース・シド・ホゼッヒと名乗るみたい。
シュード様とノジル様の養子として迎い入れてから、貴族のロキアと結婚させるようね。
江戸時代にはよく養子縁組をして身分を格上げするやり方よ。
改めてロキアに聞いたら面白い事を思い出してくれたの。
「見てないわ。そう言えば、気になることが1つあるの。冷蔵庫で冷やしていた、ケーキが無くなっているわ。青と私とノジルさんでケーキを作ったの。2ホール。1つはラム酒たっぷりのケーキで、もう1つはチーズケーキ。それが無くなっていたの」
話を整理して見たわ。
ここで分かった事は、1番遅くまで起きていたであろうロキアは何も見ていない事。
2ホールのケーキが無くなっていた事。
この2つよね。
さて、次は……。
コンコン。
「はい、どうぞ」
「失礼します。って、ナナちゃん!」
「青、座って」
「う、うん。……なぜ、ナナちゃんが居るのですか?」
「話しやすいと思ったからね。それに、人手不足もあるから手伝ってもらっているんだ」
「そ、そうだったんですね。分かりました」
ルバー様に訳を聞いたのは、陸奥青森。
理解したのか、納得して私に向き合ったわ。
「青はノジルさんとロキアの3人でケーキを作ったのよね。何時頃で、どんなケーキを作ったの?」
「そうねぇ……確か……マノアとリビングで宿題をしてから、お昼を食べて……。そうそう! お昼からはマノアとホゼが、ナナちゃんの薬作りでリビングを陣取って、その光景をロキアが暗い表情で見ていたのよね。それを見たノジルさんが、ケーキ作りをしましょう! って、わたしも誘って台所に行ったの。終わったのが……夕食前だから……17時頃だったと思うわ」
「なんのケーキを作ったの?」
「ごめんなさい。わたしケーキの事はよく分からなくって。ブルーベリーが入ったケーキとお芋さんが入ったケーキを作ったわ。サーターアンダギーなら良く知ってるんだけれどね」
「そんな事ないわ。ありがとう。昨日の事を誰かに話した?」
「誰にも言ってないわ」
「ありがとう。昨日の事も今日の事も、少しの間でいいから黙っていてね」
「分かったわ。ナナちゃん……大丈夫?」
「え?」
「だって、治ったばかりよ。あまり無理しないでね」
「分かった。ありがとうね」
「わたし行くね。何かあったら呼んで」
「うん、そうする」
次に私が呼んだのは、ノジル様。
ここで聞く事は1つよね。
「ノジルさん」
「何かしら? うふふ、何だかワクワクするわね。カツ丼でも出てくるのかしら?」
「テレビの見過ぎです。それにここは異世界ですよ。そんな物ある訳ないでしょう」
「あら? カツ丼なら用意できるわよ」
「そんな事を言っているのではありません真面目にして下さい! ルバー様も、笑ってないで何か言って下さいよ!」
「ナナくん、無理だよ。明らかに遊んでいる姉さんは、誰にも止められない。そんな事より、姉さん。ケーキ、なに作ったの?」
「あらあら、ツレないわね」
今回の聞き役はルバー様。
何と言っても姉弟の関係ですし、私より適任ですわ。
「作ったケーキは2種類。大人用にラム酒をたっぷり入れたブルーベリーケーキ。ケーキとは名ばかりの焼き菓子ね。でも、クリームチーズとヨーグルトを入れた本格派よ。我ながら上手に焼けたもの。ただ……ラム酒の分量を間違えて多めに入れてしまったけれどね。もう1つは、子供用にさつま芋が入ったチーズケーキを作ったの。ブルーベリーケーキで残ったクリームチーズと皮を剥いたさつま芋を混ぜて作ったチーズケーキよ。どちらも、美味しそうに焼けたのに……無くなっていたわね」
「姉さん。何か気が付いた事ある?」
「無い事もないけれど、確証が無いわね。行動の意味が分からないもの」
「ない事も無い、とは?」
「う〜ん。でも、確証は何も無いのよ? 動機もサッパリだし」
「それでもです」
「……コレよ」
見せてくれたのは、ランチョンマットにジャムでスタンプされた小さな手形。
「コレは……ひょっとして……ネズミ隊?」
「確かに、そのように見えるわね。でも、ネズミ隊のみんなが暴れる理由が分からないわ。何か知ってる? ナナ」
「……それが……朝、忠大に会ったきりなんです。みんながこんな事する訳ないです何かの間違いです!」
「ナナ、分かっているわ。彼等は無闇に暴れる子達では無いもの。ここに居るみんなが知っている事よ。ルバーもでしょう?」
「そうですよ。ただ、気にはなりますね。あと、その事を話した相手は?」
「シュードだけね」
「そうかぁ。ありがとう。行っていいよ」
「あら、本当にツレないわねェ〜。ナナ、辛いなら辞めてもいいのよ。貴女が探偵の真似事なんてする必要ないんだから」
「……はい」
絶対違うわ!
あの子達があんな事をする訳ないもの!
何かあったに違いないわ。
その調査の為に、私の前へと現れないのよ!
「ナナくん。大丈夫かい?」
「平気です!」
言葉をかぶせる程の勢いで、言ってやりましたわ。
私の子達が悪さをする訳ないもの!
「ルバー様。全ての人の話を聞きましたわね」
「そうだね」
「ルバー様……」
何かを考え込んでいるルバー様。
私はノジル様が言った言葉が気になり、尋ねようとした矢先。
勢いよく扉が開いたの。
バタン!
「ちょっと待った! 何で私だけ仲間外れにするの?」
「マノア!」
「ナナ、何で私だけ呼ばれないのよ!」
「だって、聞く必要ないもの」
「え?」
「午前中は青と一緒に宿題でしょう。昼からは、ホゼと私の薬作り。夕食を食べて、一緒の部屋で寝ていたじゃない。何と無く、記憶あるわ。まぁ〜、裏どりは必要かしら?」
「ナナ……酷い。確かにその通りよ。でも、そこは聞こうよォ〜」
「うふふ、ごめんなさい。で、昨日は何したの?」
マノアはやっと聞いてくれましたか! のドヤ顔で椅子に座ったわ。
開けっ放しの扉はそのままにしてね。
「午前中は青と宿題をして、お昼を食べからはホゼとナナの為の薬作り。夕食を食べてから、早々に寝たわ。……なによ! なんか文句ある?」
「無いで〜す」
「少しの間でいいから誰にも言わないでね」
「いいわねェ〜。ポイじゃん! それポイよォ〜!」
「マノアらしいわね」
「あ! そうそう、関係ないかも? だけど、思い出した事があるの」
「なに?」
「晩御飯を食べた後、どうしてもチーズケーキが食べたくて……一口食べちゃったの。スプーンで少し掬っただけよ! そのあと……記憶がないのよね」
「マノア、大丈夫?」
「大丈夫よ。朝、頭が痛かったけれど、今は落ち着いているわ」
「そうかぁ! それかぁ! ナナくん、犯人が分かったよ。みんなをリビングに集めてくれ」
慌てたのはマノア。
「ルバー様! シュードさんは?」
「シュード様は、ガロスと軍人学園に視察に行った。夕食、少し前に帰宅したはずだよ」
「……知っていたんですか?」
「あははは! 王のスケジュールはちゃんと管理しているよ」
「「流石です」」
思わず頭を下げてしまったわ。
2人してね。
ルバー様の“犯人が分かったよ”の一声で集められた人達。
シュード様とノジル様。
エディ、ホゼ、私、ロキア、マナス、青、マノアの9人。
後は、ルバー様とお父様の2人。
合わせて11人が揃ったわ。
お父様とルバー様は探偵役ね。
私達は関係者役と言ったところかしら。
ここで名台詞が飛び出すのは、定番よね。
「犯人はこの中に……いない! ナナ、ネズミ隊はどうしたんだい? 彼等にも話を聞きたかったんだが?」
「それが、スキル“意思疎通”に応じないんです」
「困ったなぁ。彼等に話を聞かなければ、事件は解決しないぞ」
「分かりましたわ」
私は意を決して大声を張り上げたわ。
〈「いい加減に来なさい! 私の前に姿を現しなさい! 忠大! 忠吉! 忠中! 忠末! 忠凶! 聞いていますか! 私の前に姿を現しなさい! !」〉
実際には発声していないんですけれどね。
〈『『『『『……はっ』』』』』〉
一拍間があって返ってきた返事。
そして、現れた姿にびっくりしたわ。
だって、忠大と忠凶以外の身体には、青痣があちらこちらについていたから。
「一体なにがあったの? 説明してちょうだい」
私が話を聞く前に、したり顔のルバー様が話出したの。
犯人はこの中にいる! の続きかしら?
「やはりそうかぁ。犯人は君だ!」
指差したのは忠大と忠凶。
キョトン顔なのは私。
「ルバー様、そんな訳あるはず無いです。この子達がどんな理由で、あんな事をするのですか?」
「おそらくだけれど、忠大と忠凶が冷蔵庫に入れてあった、ブルーベリーケーキを食べたんじゃ無いかぁ? 姉さんがラム酒の分量を間違えた、と言っていたし。とんでも無い量のお酒が入ったケーキを、あのサイズのネズミが食べたんだ。酔ってしまい、リビングで暴れてしまったんじゃないか? それを止めようと、忠吉、忠中、忠末が奮闘してあの怪我をした、と考えたんだがどうだろう?」
「……忠大。答えなさい」
私は詰め寄ったわ。
この一連の犯人が忠大と忠凶……なの? ?
ここで、意外な人物から真実が語られた。
『待ちな。ケーキを食べて、暴れたのはあたしと忠凶だよ。あたしがブルーベリーケーキを食べて、忠凶がチーズケーキを食べた。フワフワした気持ちになって、楽しくなって、何でも出来る様な気分になって……あの結果ニャ。あたしと忠凶はそのまま寝てしまい、後片付けを忠吉、忠中、忠末がしたんだ。忠大はナナの側にいたから、なにも知らないよ』
「忠凶……本当なの?」
騎士の礼の姿勢のまま微動だにしない忠凶。
ロクの話を肯定しているわ。
少しだけ震えているわね。
「忠吉。詳しく、順序だてて説明して」
『はっ。1日の終わりは会議をする決まりでした。あの日は、姫様の具合が悪く忠大が状況を説明するために、側におり欠席。それに……その……あの……冷蔵庫にはいつものチーズが無く、代わりにケーキがありました。姫様が用意してくれた物と思い、みんなで食べることにしたのですが……』
『ボクが味見と称して、一口食べたら……止まらず……ホールこど全て食べてしまいました』
『ネズミ隊に冷蔵庫を開ける力は無いから、あたしが加勢した。いつもはチーズを一欠片もらうんだ。今回は、チーズケーキの横にもう1つケーキがあったから、あしたが食った。暴れたのは、あたしと忠凶。他のみんなは、あたし達を止めようと力を尽くした。ナナ達を起こさない為に、魔術“ブラックホール”で音を吸収しつつ、あたし達を介抱していたんだ。罰を受けるなら、あたしと忠凶だけにしてほしい』
言葉が無いわね。
犯人はロクと忠凶だけでは無いわ。
真の犯人は私。
チーズを用意してあげていれば、私の具合が悪く無かったら、そう考えただけで涙が出るわ。
それに家臣の罪は、主人の罪。
私の責任だわ。
「最後に確認させて。なぜ報告がこんなに遅くなったの」
『それは私から話します』
「忠大……」
『壊れた物を何とか修繕するべく、最善を尽くしておりました。しかし……』
「覆水盆に返らず、ね」
『はい、ここまでが限度でした』
忠大のマジックバック改から、一脚の椅子を出したわ。
それは、継ぎ接ぎだらけの椅子で、背もたれの一部が欠けていた。
マノアの椅子だわ。
私は慌てて、忠大のマジックバック改を見た。
10脚の椅子とダイニングテーブルと食器棚が収納されていた。
きっと、彼等は必死になって直そうとしたんだわ。
自然と涙が溢れた。
「ハチ! 私を床に下ろして」
『分かったワン』
土下座をした。
床に頭を擦り付けて。
「ごめんなさい」
ひたすら謝り続けた。
私の後ろには忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶、ロク、ハチが並び、同じ様に頭を下げていたわ。
そんな私達にそっと近付き、肩を優しく叩いたのはノジル様。
「ナナさん、訳を話して下さい。何がどうなって、貴女が土下座したんです? さぁ、顔を上げて話を聞かせてください」
「はい」
私は、全てをありのまま話したわ。
この子達を守るのが、私の役目。
罰を受けるは、私。
「私が全ての犯人です。この子達は悪くありません! どうか、許して下さい! ど……」
「う〜ん、真犯人は私ね」
「だね。犯人は姉さんですね」
「え! いや……」
「ナナくん。この人は目分量で料理を作るんだ。特にお菓子作りは、甘い方がいいと言う偏見を持っていて、大量の砂糖を入れる。今回のブルーベリーケーキは、ラム酒が入っている。おそらく姉さんは、ラム酒をたっぷり入れれば美味しくなる! と思って大量に入れたんだと思う。それにしても、何でチーズケーキにもラム酒を入れたんです?」
「違うのよ。チーズケーキに使うクリームチーズは、普通のクリームチーズだったんだけれどね。間違えて、ラム酒入りのクリームチーズを使ってしまったみたい。エヘヘ〜」
「ノジル!」
「姉さん!」
最後は、ルバー様とシュード様の声が重なったわ。
「ナナ、何故こんな事が起こったのか分かるかぁ」
「私の不徳の致すところかと思います。お父様」
「その通りだ。たかがあれくらいの訓練で、体を壊すからこんな事になる。それと……」
「はい、分かっています。私の鍛錬不足ですね。報告すら受けられないくらい、弱ってしまうなんて……今度から毎朝、この子達と訓練に参加します」
「あははは! 分かっているなら、それで良し!」
みんなが、優しく許してくれたの。
ありがたいわ。
これで終わるはずだったのに、たった1人だけ全く違う事で興奮している人がいたの。
「ガロス! 魔術“ブラックホール”に新事実があっただろうが! 何故それに狂熱しない! !」
「え?」
「え? じゃない! ! 魔術“ブラックホール”は音も吸い取る。コレは実査しないとダメだろう!」
「まぁ〜」
「はぁ〜、ダメだ。ナナくん、すまないが詳しく話を聞いてくれないか」
「え? あ、はぁ〜」
ダメだわ。
この目は、すぐに帰してくれる目をしていない。
最後まで付き合わないと、末代まで祟られる勢いね。
リビング破壊事件の事もあるし、素直に従うしかないわ。
はぁ〜、ある意味、天罰ね。
あははは〜。
「お母さん! お姉ちゃんが目を開けたよ!」
「あらあら、大丈夫ですか? 貴女はルジーゼ山とガーグスト山を流れる川岸で、倒れていたんですよ。……大丈夫ですか? お父さんを呼んでくるから、ルカは少し見てて」
「分かった! ルカ、かんぴょうする」
「うふふ、かんびょうよ。かんびょう。少し待ってて下さいね」
「……」
「……お姉ちゃん? キャー! ! おかあ……」
「ルカ! ! え? キャー! !」
絶叫と共に目を閉じた。
「うぅ、う〜ん。……嘘! ……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」
腐敗した鉄の匂いと、散らかった贓物。
私が何をしたのか一目瞭然ね。
私が気を失ったばかりに、この親子は還らぬ人となった。
違うわね。
きっと、私の身体から滲み出ている瘴気が、私自身を狂わせているんだわ。
早く!
一刻も早く!
あの人に会って……会って……会えるかしら?
犯人はロクと忠凶でした。
元凶はラム酒。
お酒もほどほどに!
ちなみに私は一滴も呑めません。
次回予告
「この世には、全てを知ってはいけない呪いの歌がある。山の日に、執り行われた祭典に呪いの歌が木霊する。そして、私だけが全てを知ってしまった! 呪われてしまった私の運命はどうなってしまうのかぁ!
さて、問題です! 私は誰でしょう! うふふふふ」
謎の人物に予告をしてもらいました。
正解は来週、最初に自己紹介をした人ですよ。
それではまた来週会いましょう!




