75話 あらあら、それぞれの2年ですって
「わたくしルジーゼ・ロタ・ナナ、7歳になりました。ナナがナナ歳に……ウフフ……くだらないわ」
『ナナ、誰に何を言っているワン?』
「読んでくれている皆々様によ」
『? ?』
あらあらハチったら、可愛く傾げた首ですこと。
紅蓮の龍王トッシュが、私の仲間になって2年が過ぎたわ。
変わった事は……沢山あるわね。
まずは、徴兵制度なの。
民が混乱するといけないので、徴兵制はそのままにして有志を募り軍人学園で再教育をする、はずだったのよね。
ところが、蓋を開けてみてびっくり。
徴兵制で強制的に集められた若者は、誰一人欠けることなく軍人学園へと進んだの。
もちろん、実家が農業系だったり、鉱業系だったり、王族・貴族系だったりと、進まない選択をした人もいたわ。
それはそれで、問題無し! としたのよね。
王の器とはこのことね。
まぁ、徴兵制度を廃止しても何ら問題な無しと判断して、募集制度へと移行したの。
次に変わった事は……。
「オラオラ! チンタラ走るなぁ!」
「「「「「「サァ!」」」」」」
「アゴ引け! アシ上げろ!」
「「「「「「サァ!」」」」」」
どこぞの軍隊かぁ! と、言いたくなったわね。
何やってんのよ!
全くねぇ〜。
その声の持ち主がやらせてるのよ。
その人とは……軍人学園で新しい教官として働いている……紅蓮の龍王トッシュなの。
この人、本物の脳筋だったわ。
そればかりか、魔術筋でもあったの。
さらに、さらに、魔術やスキルのセンスが抜群に良いのよ。
直感力にも優れていて、躍進的な魔術だったり、スキルだったりを開発するの。
そんなもんだから、ルバー様が大ハッスル。
そして……ベッタリ。
「ト、ト、トッシュさん! 僕が思うに。魔術を早く発動させるコツは、廻る早さだと考えます」
「廻る早さ?」
「はい! そうです! 魔術なら、魔力を練る早さ。スキルなら、気を練る早さ。練る早さとは、体を廻る気の流れを感じる早さだと、理解できます。ですから、廻る早さをアップすれば、発動が早まる。廻る早さをアップすれば、上質な気を練る事が出来る。そう理論付けができます! いかがですかぁ?」
「なるほど……その通りかも知れん。残るは実証だぁ!」
「「「「「「「サァ!」」」」」」」
はぁ〜、今度はルバー様も生徒と一緒に、掛け声をかけちゃったわ。
お目目キラキラ、やる気ギラギラ。
学生時代にタイムスリップ! ってところかしらね。
で〜も〜ねぇ〜。
浮かれているのは、ルバー様だけではなかったのよ。
この人も大問題だわ。
「トッシュ! 一杯やろう!」
「ガロス。まだ、お天道様が高いぜ。それよりも……そこに娘が居るぞ〜」
「え?」
はぁ!
何でバラすかなぁ!
と、言う顔をしてしまったわ。
だって、突然話をフルんですもの。
驚いてしまったじゃない。
そしたら、お父様がニヤリとイケズな笑顔を私に向けたわ。
「お、お、お父様?」
「ほっほぉ〜、こんな所で何しているんだ? ナナ」
「そ、それは……」
ハチが行こうって言ったんですもの!
とは、口をついて出てこなかった。
そんな事を言おうものなら……。
「そうかぁ。体を動かしたいんだなぁ。よぉ〜〜し! お父さんが相手してやるぞ。かかって来い! ハチ、ロク!」
そうそう、こんな事を言い出すからね、って! 本当に言ってるし!
そしたら……。
『『やってやるワン(ニャ)』』
と、なるよわよねぇ。
はぁ〜。
私は、斜め後ろに手を伸ばしたわ。
「ハンナ〜」
「ハイハイ。ナナ様も、少しは参加したらどうです?」
「私が? 無理よ。足手まといだわ。それに、守られるのも私の仕事よ。それを教えてくれたのは、貴女だったはずよ」
「はぁ〜、それは屁理屈と言います」
「あははは! 確かにそうね。それでも、今日はやめとくわ。だってトッシュと一緒よ。荒れるわ」
「……まぁ……です……よね。今回は私だってイヤです」
「よねぇ」
などと意気投合しているうちに、とんでもない展開を迎えていたの。
いつの間にか、ドラゴンへと姿を変えたトッシュ。
そして、嬉々として対峙している、お父様、ハチ、ロク、なぜか居るネズミ隊。
訓練と言う名のバトルが幕を開けたわ。
『ハチ! ナナを乗せてないんだ。守りにばかり重点を置くなぁ! 前に出ろ! 前へ! ロク、少しは連携を覚えろ! ネズミ隊もだ! お前達は、ハチとロクに気を使いすぎだ。お前らならどんな奴らでも連携はとれる! たとえ言葉が伝わらなくてもとれる! 自信もってやれ。イイなぁ! もう一度だ、来い! ! ! !』
『『『『『『『サァ』』』』』』』
はぁ〜、いつの間に体育会系へと進化したのかしら?
はぁ〜、龍王クライシスはコレに止まらなかったの。
「ねぇ〜、竜くん。ココは……」
「どこですか?あ! ココは少しだけ難しいですね。でも1度、理解してしまうと他に応用が利きます。まずは、この数式を頭の隅に置いていて下さい。次に地形です。その場所ごとで、用いる属性が異なるでしょう。最後は敵です。相手ですね。どれ位の魔力量で対処できるのかです。これらの事をこの数式に当てはめていくと……自ずと答えが見えて来ます。すぐに理解するのは大変ですが、僕と一緒に頑張りましょう」
「「「「「「はい(ハート)」」」」」」
はぅ! ずきゅ〜ん!
ハートを撃ち抜かれるほどの、笑顔が私を捕らえたわ。
ここは、軍人学園に新たに設けられた実務科。
募集に応募したのは男子だけだったはずが、女子も押しかけていたの。
困ったお父様達は、事務や実務を専門的に教える事にしたのよね。
そこの講師の1人が、竜なのよ。
もちろん、5歳児姿では無いわ。
立派な好青年の姿よ。
しかも、イケメン。
他の講師の先生方も含め、みんなメロメロなの。
でも、当の本人は失恋の痛手から今だ立ち直って無いみたい。
「女性は……ちょっと……」
と、男性陣から冷たい視線を浴びていたわ。
本人はキョトン顔だったけれどね。
軍人学園で変わった所はこれくらい。
紅蓮の龍王の登場で兵士の認識も、軍備の進歩も飛躍的に上がったと言えるわ。
恐ろしいくらいにね。
龍王様は、理解しているのかしら?
実は、この2年で変わった人? はまだいたの。
『ブート! 何で俺だけが走るのさぁ〜』
『マーゼ、それはなぁ〜。お前が対戦で負けたからダァー! !』
『クッソォ〜! 次は勝つ! !』
『黙って走りなさい』
『サァ〜』
うふふ、ホワイトベアーの赤ちゃんだった彼ら。
2年も過ぎると立派な大人。
でも、体型だけで中身はまだまだ子供。
そうそう最近、不思議な事が起こっているの?
「ここに居られましたかぁ。アイザック殿」
『如何なされた。ムートス殿』
「スキル“闘気功”の、気の練り方について新発見がありました!」
『何と! まことでありますか? それは、如何なる内容で御座るか?』
「それは……練る早さとは廻る早さ……です。解釈としては……」
『なるほど、流石ルバー様であるなぁ。理解するのに難しいかもしれないが、真理を言い当てている。面白い』
うん、私は貴方達の方が面白いわ。
私の耳にはちゃんとした会話に聞こえていたわよ。
でも、講師のムートスさんにはこんな風に聞こえていたはず。
「ここに居られましたかぁ。アイザック殿」
「ガァオー。ガァガァオー」
「スキル“闘気功”の、気の練り方について新発見がありました!」
「ガァ! グゥーガァガァオー? ガァオ、ガァガァガァーガァオ?」
「それは……練る早さとは廻る早さ……です。解釈としては……」
「グゥーガァ、グゥガァガァーオ。ガァオガァガァガ、グゥーガァオーガァ。ガオ」
と、こんな感じね。
だけど、ムートスさんはしっかり理解していたの。
おそらくだけれど、顔の表情や発音の仕方、ニュアンスで話している内容を推測したんだと思うわ。
この2年の間に、濃密な関係を築いた結果ね。
ムートスさんだけでは無いのよ。
職員や講師、学生にも分かり合える人が数人いるみたいなの。
アイザックは護れなかった命を背負い、今を生きているわ。
そんな想いが、皆んなに伝染したのね。
その筆頭はもちろん彼女よ。
「マーゼ! もう少しだから頑張れ! ほら、ブートもサボっていないで走りなさい!」
『あははは! 怒られてやんの』
『五月蝿え! 残り1周は俺がいただく!』
『バカ言ってんじゃねぇよ。俺だ!』
『『ウリャ〜、俺が勝つ! !』』
「あははは! マナス、相変わらず賑やかね」
「ナナ! も〜、本当に困ったちゃんなんだから」
アイザック親子はマナスの配下魔獣。
私が仲介して、マジックアイテム“恭順の首輪”を使用したの。
絆が無いと失敗するアイテム、それが“恭順の首輪”だわ。
まぁ、その必要もないくらい信頼を勝ち得ていたけれどね。
もちろん、大成功よ。
初めは恐ろしく怖がられていた親子なんだけれど、アイザックの紳士的な態度が、全ての人の心を溶かし、内側に入ることを許してくれたわ。
だからこそ、言葉が通じなくても理解し合える。
うふふ、で・も・ね!
時には間違った内容が伝わる事があるみたいなの。
そんな時は、私の出番ね。
アイザックったら、忠大に連絡を入れて私を呼ぶのよ。
メールが出来れば楽できるのにね、などと思った事は内緒にしたいわ。
だって、本当に出来そうで怖いじゃない。
前の世界でやれた事全てが、再現できるだなんて面白く無いもの。
さて、私は聞きたかった事を口にしたわ。
「マナス。ロキアは大丈夫なの? 具合が悪くなったのよね」
「ある意味、幸せだからいいんじゃない」
「あははは! 貴女は?」
「私? 絶好調!」
メースロア・セラ・ベルネ様の長女ロキア、次女マナス。
彼女達は、完全な身体を持ち合わせてはいなかったの。
ロキアは気管支が弱く、発作を起こしやすい。
少しの埃で咳が止まらず、苦しい思いをしていたわ。
マナスは両目は、極端な弱視でほぼ何も見え無い。
そんな彼女達に光明を差したのが、私のクラスメイト、スアノース・ホゼッヒと私、では無くルバー様だったの。
まずはロキアよね。
彼女には、ストレスフリーな環境と気管支を広げる薬が必要だったわ。
その薬を創り出す事ができる、スキルを保有しているのがホゼなの。
まぁ〜、ロキアは美人薄命を地で行く人。
そんな彼女に、好意を寄せない男は存在しないわ。
ロキア自身も満更でも無いから、マナスが言った「幸せだからいいんじゃない」はある意味、正論ね。
次にそのマナス。
彼女には、風属性の魔力があったわ。
でもボンヤリとしか見る事ができない彼女に、目は不要だったの……そう思い込んでいたのは、母親ベルネ様と父親リンドー様。
ロキアを護るため、配下魔獣を私に依頼してきたわ。
もちろん依頼したから、マジックアイテム“恭順の首輪”を使用した訳ではない。
吟味して、考慮して、熟孝して、橋渡しをしたの。
そして、彼女はクラスメイトになった。
今では、アイザック親子も仲間だわ。
しかし、本当の意味で彼女を救ったのはルバー様だったの。
冗談で開発した、スキル“闘気功”と水属性の合わせ魔術。
そう、本当に面白半分で考査した“コンパクトレンズ”。
コレがまさか、マナスの目を見えるようにしたの。
要はコンタクトレンズで矯正をしたのね。
上手く行くとは思っていなかったから、驚いたわ。
どこに何が、転がっているか分からないわね。
でも、見える様になったマナスの笑顔は、最高に綺麗だったわ。
ただ、長時間使い続けると頭が痛くなるらしく、大切な時にしか使用しないと決めたみたいね。
それでも、見るのを諦めていた頃とは違うわ。
だって、見えないけれど見る事も出来る! この意味は大きいわよ。
さて、変わった人? 達ばかりの話してきたけれど、変わらない人? 達もいるわ。
もちろん……私達よ! !
『ハチ、廻るスピードを上げるんだよ!』
『分かっているワン。少しは黙れよ!』
『はぁ? あたしに口答えするつもりニャ?』
『あぁ! 口答えでも何でもしてやるワン。表に出ろ! 廻るスピードで勝負ワン!』
『いい度胸だねぇ。あたしに敵うとでも?』
『はぁ? もちろんワン! ヘナチョコの猫又のクセして偉そうワン』
『言ったわねぇ! もう、我慢の限界だニャ! 白黒つけてやる!』
『お前はぁ〜、クロじゃ無くてロクだワン。あははは!』
『ゆ・る・さ・ない・ニャ! !』
この子達の口遊びは、昔も今も変わらないわ。
まったく困ったものね。
これだけ言い合いをしても、基本仲良しなのよ。
初めの頃は、同室の青とマノアが止めに入っていたけれど、今となっては笑いながら見ているわ。
コントでも見ているみたいにね。
そうそう、クラスメイトのエディとホゼ、青にマノアも変わらないわ。
そうだわ!
私の身近な人で変わった人がいたの!
なんと……ユント先生!
なんと、なんと、先生に彼氏が出来たのォォォ!
その素晴らしい人とは、服飾技術者のザベユさん。
王族・貴族のドレスを主に製作しているデザイナーね。
外見は……その〜あの〜えっと〜前の世界で言う所の〜……女装家……です。
2人並んで見ると、逆転カップル。
少し笑えるわ。
も、も、も、もちろん!
羨ましくなんか無いわよ!
だって私、ナナはナナ歳ですものね。
「はぁ〜、はぁ〜、はぁ〜。あの山を越えれば、あの人がいるのね」
「いたぞ! ヒデこっちだ!」
「ミッチー、ありがとう。……マリア……どうして僕から逃げるんだい? あんなに愛し合っていたのに?」
「秀幸くん、お願いよ。目を覚まして! あの頃に戻ってよ!」
「マリア、何を言っているんだい? 僕は僕のままだよ。君が逃げるからさぁ。それ」
「キャ!」
「マリア、君を愛しているんだ。こっちにおいで。ここに来る時に仕留めたんだ。手頃な子供が居てね。まだ動いているよ。あははは! 心臓がピクピク動いているよ。あははは! マジウケる」
「……みんな正気に戻ってよ。あの男がいけないんだわ。彼奴さえ居なければ! みんな幸せになっていたのに! あの……刀祢昌利さえ居なければ! 仕方がないわ。一か八かよ。私の能力で逃げ切るしかないわね。それが叶わなければ……死ぬだけね」
そして、私は崖から身を呈した。
落ちて行く視界の中で、友の形貌を目に焼き付けた。
見た目だけは……昔のまま。
私が愛した……彼のまま。
申し訳ありません。
本来なら昨日、更新しなければいけなかったのに! !
75話以降の話を組み立てているのにかまけて、遅くなってしまいました。
来週の21日には更新出来ると自分を信じる! !
すいません。
次回予告
『ヘイヨォ〜、俺たち2人♪キメキメ決めるぜ♪ヘィ、ブラザー!』
『ヘイヨォ〜、アニキと2人♪キメキメ決めるぜ♪予告コクコク、次週のヨコク!』
『……2年が過ぎたナナ達。人属は力と知識を手に入れた。しかし、それらを軽く凌駕する現実が迫りつつあった。ナナ達は、その事に気付く事ができるのかぁ!ひっそりと近づく気配は、誰にも、分からない……』
『ブート! ラップで予告するのかと思ったのに! なに普通にしたんだよ!』
『うるせぇ!マーゼ! そんなん出来るかぁ! !』
ブートとマーゼの双子に予告をお願いしてみました。
まさか……ラップ?
キツイわぁ〜。
今回の話の最後に、敵の姿が見えましたね。
ナナ達とどんな風に絡むかは……乞うご期待!!
それではまた来週会いましょう!
必ず更新します!!




