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68話 あらあら、祭りの後? 後の祭り? ですって

 ロクとネズミ隊の活躍で、ホワイトベアーの主ことアイザックを正気に戻すことに成功したわ。

 私はネズミ隊のスキル“影法師・影縫い”でガッチリ固定してから、お話をしたの。

 だって、危なくて怖いじゃない。

 真相は、悲しい出来事が発端だったわ。

 たらればを言えばキリがないけれど、言いたい。

 地震が起き、アイザックの奥さんヒョウが亡くなったときに、人間を探していれば! ネズミ隊の誰がが側にいたら! 全ての事態は変わっていたと思うの。

 まぁ〜、そんな都合よく事は起きないわね。

 アニメやドラマじゃあるまいし。

 それでも、最悪の結論に行き着いてほしくなかった。

 アイザックは我が子を助けるために、人間の言葉を鵜呑みにしたの。

「魔石を食らい魔力が上がれば、もっといい暮らしが出来る」どこから聞いた話なのよ!

 暮らしを生きると勘違いしたアイザックは、手当たり次第に魔石を食べ初めたの。

 その中に水龍の勾玉が含まれていたみたい。

 そのせいで、これまでの魔石も間違った方向に取り込まれ正気を失っていたの。

 現状を見たアイザックは、話す言葉を忘れたように呆けていたわね。

 それでも、間に合ったのよ。

 母親が身を呈して守った命。

 父親が守りたかった命。

 もちろん、我が子の命よ。

 風前の灯だった命をハチが繋ぎ、ロキアとマナスが生へと導いたの。

 その事を知ったアイザックは宣言したわ。

 声高らかとね。


『我はメースロアの守護獣なり!』


 名実ともに守護獣になってもらおうじゃないの。

 私はマジックアイテム“恭順の首輪”を付ける事にしたわ。

 順当なら当主であるベルネ様なんだけれど、当の本人がマナスに! の姿勢を崩さなかったの。

 まぁ~、私もその方が良いと想っていたけれどね。

 目の見えない彼女には、守護者が要るもの。

 でも、双子の兄ブードと弟のマーズまで、首輪を着ける必要はあったのかしら?

 アイザックは守るために! と、言ったのよね。

 忠吉は出来るかどうか不明との事だったんどれど……サックと嵌まったのよ。

 サックとね。

 ひと安心したのも束の間。

 ある意味、どうすることも出来ない問題が残っていたわ。


「ナナちゃん。ごめんなさい……マナスの……はぁ〜、ギルドカードは無いのよ。生まれた時に登録はしたの。でも、5歳の時に癇癪を起こして、どこかに捨てちゃったのね。今、行方不明なの。まったく困った事よね〜」

『ナナ、これ……』

「はぁ??」

『ナナ、これじゃ……』

「ロク、ちょっと待っててちょうだい。マナス! 本当なの? だったら、どうやって登録したらいいの?」

『……』

「忠吉はいないの? 忠吉、忠吉! !」

『“ファイアボール”……あたしの話を聞け!』


 バン!

 ボコ!

 ガラガラ〜。


「「「「「キャ!」」」」」


 流石、大人達ですこと。

 悲鳴を上げた私達、女子の壁になってくれましたわ。

 男子達のエディとホゼもワンテンポ遅れての反応でしたけれど、まずまず良かったわよ。

 さて、魔術“ファイアボール”を投げた張本人に、訳を聞かないといけないわ。


「ロク! 何をするのよ! 危ないでしょうが! !」

『だ・か・ら! あたしの話を聞け! と、言ったんだよ。ナナが聞いてくれなかったら、あたし達はどうするのさぁ』

「……分かったわよ。でも、魔術を発動させる事ないじゃない」

『ナナが話を聞いてくれなかったからね』

「悪かった。ごめん。で、なんなの?」

『マナスのギルドカードって翡翠?』

「聞きたかった事って、それ? まぁ、いいわ。ベルネ様、マナスのギルドカードは翡翠ですか?」


 みんなが右往左往している中、私が唐突に質問したわ。

 攻撃をしたのがロクだと分かると安心したのか、苦笑い混じりの顔で話してくれたの。

 詳しくね。


「この子が産まれた時に魔力がある事はすぐに分かったわ。嬉しかったんだけれど、お姉ちゃんに魔力が無かったから素直に喜べなかったの。するとロキアが「マナちゃんかわいい! ママまりょくぅがあるの? よかったね! わたしがお姉ちゃんですよ〜」と、言ってくれたのよね。嬉しかったわ。でもねぇ。私の体調が悪くってスアノースへ行くことが出来なかったの。あの時は本当に大変だったわ。ルバーが来てくれて助かったもの。私の治療が目的でマナスの登録はついでだったのよ。綺麗な瓢箪型の翡翠だったわ。私の最も幸せな瞬間よ。

 ……マナスが1歳になろうかとした頃だったと思うわ。音にな反応しても、目で追わないのよ。普通、音がしたら目で確認するわよね。まだ赤ちゃんだからと言い聞かせていたんだけど。歩き出して、すぐ目に異常があると分かったわ。だって、すぐ転ぶんですもの。歩いては転んでの繰り返し。いいかげん気がつくわ。そこからがまた大変だったわね。マナスが4歳の時、自分の置かれている状況を理解したみたい」


 ベルネ様が、アイザックの隣で子グマのマーゼを抱きしめているマナスを見たわ。

 その視線を受け止めた彼女が、続きを話し出した。


「私の1番古い記憶は、お母様とお父様の声だったわ。最初に耳にした言葉は……治らないのか、何で目が見えないんだ、ロキアに魔力があれば……だった。私はいらない子なの? その想いに胸がいっぱいになったの。そして、5歳の誕生日、目の前にあった私のギルドカードを窓の外に投げた……の……ごめんなさい」


 シオシオと項垂れてしまったマナス。

 くぅ〜ん、くぅ〜ん、とマーゼが慰めているわ。

 傷を抉ってしまったわね。


「私の方こそ、ごめんなさい。ロク、話は聞いていた?」

『うん。風の魔力で翡翠なんだね。う〜ん……忠吉! 忠吉はいる?』

『はっ、ここに』

『始めっから、あんた達に診て貰えば早かったね。コレをスキル“走破”で鑑定してくれる』

『はっ』

「ロク? 何を言ってんの? ……はぁ? 貴女、ずっ〜と、それを発動させたままだったの! ?」


 そうなのよ!

 この子ったら、アイザックに使用した魔術“ブラックホール”を今の今まで今も! 維持し続けていたの。

 呆れるわね。

 で、その“ブラックホール”からポロっと出て来たのは、歪に割れた翡翠石だったの。

 それを忠吉が、スキル“走破”で調べたわ。

 その結果は……。


『マナス様のギルドカードで間違いはございません。ですが半分ほどしかございません』

『姫様。私から補足説明をいたします。マナス様が投げた先は、アイザック様への献上品の中だった模様です。その後すぐ我を忘れた、アイザック様が噛み砕き体の中に入ったと考えられます』

「ちょっと待ってちょうだい。意味が分からないわ。何でアイザックの体の中からマナスのギルドカードが出てくるの? さらに、何でそれがロクの魔術“ブラックホール”からリバースされるの? 順序立てて説明して」


 忠吉、忠大、ロクから懇切丁寧な説明を受けたわ。

 開いた口は終始、塞がらなかったけどね。

 呆れるを通り越してあっぱれ! を贈りたいわ。

 私は、ロク達から事の真相を聞いてみんなに向き合った。


「はぁ〜。説明するわ。アイザックの意識を刈り取っていたのは水龍の勾玉だったとしても、力の源になっていたのは魔石だったみたい。ロクはその魔石を体の中から取り除く方法として、黒属性の魔術“ブラックホール”を使う事を思い付いたの。

 話によると……時間をかけてゆっくり、ゆっくり、練っていく。そして、出来上がった“ブラックホール”を金柑サイズのスキル“闘気功・玉”に詰め込む。後は腹ん中に入れて、スキルを解除する。そして魔術“ブラックホール”を細胞レベルまで分裂させて、体の中から魔石だけを吸い込んで行ったんだよ……。

 ところが、2つだけ吸い込めなかった魔石があったみたいなの。1つは水龍の勾玉。魔力がアイザックに吸収されていて、回収不可能だった様なの。

 もう1つは、砕け散ったマナスのギルドカード翡翠石。それがどういう訳か、左目の眼球の中に入り神経を巻き込みつつ結晶化みたい。ロクもよく分からないらしいわ。流石にね。でも、貴女のギルドカードの一部はアイザックの左目の中に有るの。理解できたかしら?」

「「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」


 みんなの沈黙が痛いわ。


「そんな事ってあんのかよ! ! !」


 エディの心からの叫びに、フリーズしていたみんなの思考が戻って来たみたい。

 1番、騒々しいかったのがリンドー様。


「ベルネ! 聞いたかぁ! 体の中に入った魔石は、龍の勾玉があれば取り込まれる? イヤイヤイヤイヤ〜、違う! 勾玉があったから魔石が取り込まれた? おそらく勾玉の作用だろう。

 マナスの翡翠石のカケラが、アイザックさんの左目で神経を巻き込みつつ結晶化! ? そんな話、聞いた事ないぞ! コレが本当なら、マナス! アイザックさんの左目に手を当ててステータスと、唱えてごらん。そんな事より! 左目が見えていないんじゃないのかぁ? 神経は生きているから見えている? それとも……あ! 気になる! 少しでいいんだ! ほんの少しでいい! 見てみ……」

「リンドー! いい加減にしなさい! ! ! ……ドン引きよ。でも、確認は必要だわ。マナス、アイザックの左目に手を当てて、自分のステータスを確認してみなさい」

「は、はい」


 恐る恐る、マナスはアイザックへと近づいたわ。

 力強く抱き上げ左腕に座らせた。


『怖がる事はない。我はそなたを守り通してみせる。と、言っても理解されぬかぁ』

「うふふ、私が通訳をするわよね」

『よいよい。そんな事を言わずとも通じている。のぉ、マナス』

「何言っているか分かんないけれど……うん!」

「あははは! 正解だわ」


 いいコンビになりそうね。

 ニコニコ顔のマナスが、左目を瞑ったアイザックに触れた。


「ス、ステータス。……ウソ! 開いた! 私のステータスが! !」


 私には分からないけれど、ロクの言っていた事は正しかったと証明されたみたいね。


「マナス。そのまま登録して」

「うん!」


 この時の彼女の笑顔が、眩しかった。

 だってキラキラしていたんだもの。

 明るい未来が見えたのね。

 もちろん、登録はサックと終わったわ。

 その時、アイザックに異変が起きたの。


『ふむふむ、登録した途端、我の左目が見えなくなった』

「え? 忠吉、どういう事?」

『おそらくですが、魔獣化をすれば魔力が流れ見える様になるかと』

『ほっほ〜』

「ねぇ、マナス。アイザックの配下魔獣の後になんて書いてあるの?」

「えっと……あ! 白熊って書いてあるわ。名前がアイザックで魔獣化すると白熊になるのね。魔力が上がるから、見える様になる? じゃ、魔獣化を許可します?」

『……』

『魔獣化と仰って下さい』

『ムム、そうなのかぁ。魔獣化! ……おぉ! 見えるし力が漲る!』

『解と言えば、解けます』

『ムム、解だなぁ。解! ……おぉ! 見えなくなった!』


 と、忠吉にレクチャーされなが実践してくれたわ。

 もちろん、私は私で魔獣化の恐ろしさや他の人に与える影響を話して聞かせたの。

 その間に、ロクやいつの間にか私の影から出て来たハチに、スキルの講義もちゃっかり受けていたわね。

 全ての説明をみんなにしたわ。

 包み隠さずね。

 するとロキアが、自分のポケットから黒いレースのスカーフを取り出したの。


「コレは哀悼の意を示すために、持って来たスカーフです。頭から被り祈りを捧げます。アイザック、貴方はとても強いわ。このメースロアを護ってくれる事でしょう。でも忘れないで、貴方の爪と牙で散った命があった事を……忘れないで」


 そう言ったロキアは、アイザックの左目に巻いたわ。

 眼帯代わりにしたのね。


『その気持ちは一生忘れぬ。コレは戒めの証としょう』


 アイザックは素直に、ロキアの気持ちを受け取った。

 心強い仲間が増えたみたいね。


 私達は、アイザックの特殊スキルで吹雪を晴れに変えて帰路へと着いたわ。

 もちろんアイザックは走ってよね。

 あんな大きい人乗れないって!

 影に入れて仕舞えば良かったんだけれど、それをするとスキルが上手く作動しなかったの。

 それで走ってもらった訳。

 でも、惨状を目の当たりにしたアイザックは悔やんでいたわね。

 自分の犯してしまった罪に、潰れてしまわないで! と、言いたくなっちゃった。

 その代わり、ソルの大地に近い洞窟まちエストへ到着するやいなや、ロキアとマナスがギュッと抱き締めていたの。

 想いは通じたみたい。

 アイザックの顔が優しさで満ち溢れていたわ。

 到着すると、大騒ぎ。

 そりゃ〜そうよね。

 だって主が現れマナスに従っているんですもの。

 おとなしくね。

 事情をよく知る、ダッチ村長とワクス村長が説明した途端、さらに騒ぎが大きくなったの。

 あまりの喜び様に、祭りの様な賑わいを呈し出した。

 それでも、夜には収まり各家々へと姿を消したの。

 私は呆然と祭りの後を見ていたわ。

 何だか、疲れてしまったの。

 メースロアに着いた途端、ベルネ様の家族に対する態度に腹を立て。

 日本にあるハワイアンリゾートの様な、健康ランドの様な、保養施設に驚き。

 悪魔の大地ソルに度肝を抜かされ。

 意識を失ったホワイトベアーの主こと、アイザックを正気に戻し。

 マジックアイテム“恭順の首輪”をアイザック親子にする事が出来た。

 はぁ〜、羅列するだけで疲れが増したわ。

 そこに、ベルネ様が現れたの。


「ナナちゃん。ありがとう。貴女がいなかったら、どうなっていたかしらね。言葉に尽くせない恩義があるわ。何とか貴女に返したいんだけど……どうすればいい?」

「うふふ、そうですわね。同じ配下魔獣がいるもの同士、特例で異世界人クラスに編入する訳にはいきませんか? アイザックにしてもその方が良いでしょう。うふふ、ブートとマーゼも連れて行きましょうね。だったら、ロキアも一緒がいいわ! 私に恩義を感じているのなら、手配よろしくお願いしますわね。ベルネ様」

「あははは! 貴女って人は……ありがとう」


 ベルネ様の涙が風に消えた。


 さぁ! 思い残すことがない様に明日から遊ぶわよ! !

 私の心は、問題が解決した事で浮き足立っていたみたい。

 この時、ネズミ隊の話を聞いて入れば!

 ネズミ隊に調査など頼まなければ!

 あんな事は起きなかったのに……私のバカ、バカバカバカ!

 後の祭りよね。



 ……でも……でも……でも……逢いたかったよ……竜坊。




『忠末! それ以上、進むな!』

『しかし! ソルの洞窟で確認していないのは、マグマの火口だけなんだ! 忠中、魔術“ザイル”でオレの体を縛ってくれ。中を見たら、引っ張る。引き上げてくれ』

『分かった。忠末、無理するなよ』

『もちろん! 忠中……姫様には内緒なぁ』

『あはは! もちろん!』



「ばあちゃんの匂いだ! あのネズミから、僕のばあちゃんの気配がする!」

「馬鹿野朗! まだ早い。今のままでは返り討ちに合うだけだ。今度こそ取り込まれるぞ。この気配ならオレが覚えた。あいつらとやり合う前に出向いてやる。もう少しの辛抱だ!」

「分かったよ。トッシュ。……ばあちゃん……ナナばあちゃん……」


やっと、アイザックがマナスの配下になりましたね。

まさか、子供達まで配下になるとは思ってもいなかったですけど。


次回予告


「あの〜、ハンナ。私……一言も……」

「ユント。何も言わないわ。次回予告をしてちょうだい」

「ありがとう、ハンナ。次回予告。

夏休みを満喫したナナ達、一行。楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。新学期が始まり、新しい仲間に加わったマナスとアイザック。ロキアは副担任として赴任する事に。そして、皆が待ちに待った王の生誕を祝う祭り。生誕祭が開かれる。楽しいばかりの祭りに、浮き足立つナナ。美味しい食べ物や勇者による力の大会。そして、エキシビジョンマッチ。ナナ達の新学期は平穏無事に始まるのかぁ!

……ハンナ……ありがとう」

「完璧な予告だったわ」



ハンナとユント先生にしていただきました。

次からは新キャラが登場……予定ですよ?


それではまた来週会いましょう!


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