7話 あらあら、冒険者ですって
「ガロス様。ナナ様達をお連れしました」
そう言うと扉を大きく開けた。
ハチとロク、そしてネズミ達は120センチ四方の檻の中にいるのわ。
私はその上にいるわけね。
身長だけで言うなら目の前のお父様と視線が合う大きさなの。
中に入ると壁際に兵士がズラリ。
正面にお父様、右隣に大きな剣を帯刀した立派な兵士と左隣には黒のローブを来た兵士?ひょっとしたら勇者なのかもしれないわね。
私と言うより檻の中のハチとロクを凝視しているみたい。
周りの兵士明らかに怯えていたわ。
槍を持つ手が震えていたもの。
そんなに怖いかしら?
「ナナ……怪我はしていない……なぁ」
「はい、お父様。こう見えても私は丈夫ですのよ。何ともありませんわ」
「そうかぁ。ナナ、そなたは本当に異世界人なのか?だったら元の世界での名前と出身地を言えるなぁ?」
「もちろんです。私の名前は、鐡ナナ、日本生まれの日本育ち。純日本人です。
ついでに言うなら、私は100歳の天寿を全うしましたわ。100歳までは元気でしたのよ。やはり怪我をしてしまったのがいけませんでしたね。起き上がることができずに天に召されましたわ……お父様?」
私が調子に乗って話していると、お父様は目を見開きローブの人とひそひそ話をしていたのよ。
「お、お父様?」
「ナナ、100歳の天寿を全うしたのは本当なのだなぁ」
「はい。私が亡くなる時は、娘に孫に玄孫まで来てくれて嬉しい最後でしたわ」
「そうかぁ。それは大変珍しい。だいたい異世界人の平均渡来年齢は10歳から25歳くらいで、これまでの最高は35歳だったかなぁ?100歳とは聞いたことないぞ。……ナナ……本当に異世界人なのだなぁ」
「はい」
「だったら王国にある学園に行ってもらわねばならぬ」
「ガロス様!」
「黙りなさい!ハンナ。発言を許した覚えはないぞ」
「はっ。申し訳ありません」
すごすごと引き下がったハンナ。
それでも顔には不満の色が濃かったわね。
改めて私に向き直ったお父様。
優しい声になり話を続けた。
色男のお父様、その顔には悲しみが張り付いていたの。
きっと私に嫌な事を言うつもりみたい。
覚悟を決めていた方がいいかしら?
おそらくハチやロクやネズミ達を討伐するつもりね!
そうは行かないんだから、私が盾になって逃がすのよ。
前の世界で、私は自分の生活に負けて捨ててはいけない命を捨ててしまった。
今度こそ、今度こそ、絶対に守り通してみせる。
私が覚悟を決めていると、お父様は思いもしない話を始めたの。
「学園については……知っているかなぁ?」
「え!はい、と言っても勇者や異世界人を集めて教育している場所ぐらいしか知りません」
「まぁ~当たりと言えば当たりだが、説明がちぃと足らんなぁ。長い話になるから茶ぐらいは用意させよう」
そう言うと貫禄タップリのメイドがお茶の用意して下がって行ったわ。
兵士は皆、震えているのにこのメイドさん、私を見て微笑んでからミルクを置いたのよ。
肝が座っていたわね。
この人はメイド頭に違いないわ。
私が感心しているとお父様が続きを話し始めた。
「まずは、このルジーゼ地方についてだが……山脈を越えた先に魔族がいる。そればかりか魔族側に通じる洞窟がいつも存在していた。そもそも山脈の中でも一番低い山の為に、空を飛ぶ魔族や魔獣がたまに飛来しておった。そんな場所にも人は住んでいたのだよ。
憂いた王が勇者を派遣した。しかもとびっきりな勇者をなぁ。山脈を作ったと言われている勇者の1人で最強の魔力と装備を備えた勇者をこの地に派遣してくれたんだ。さらに王はこの地に留まり統治せよと、特命も出してくれた。
王の特命を受け統治したのが勇者ロタ。ロタ家の始まりだ。俺から見て4代前の先祖になるのかぁ?歴代の当主は勇者が務めていたんだ。まぁ~家族が多いのは……その為であろうなぁ。
ところがある時、問題が起きた。そう、学園制度の登場だ。俺の父親の時に先代の王が、勇者や異世界人は国王の所有であると表明し学園制度が始まったんだ。色んな家庭で産まれる勇者や転生者、それに突然現れる渡来者。その全てを国王に集めて管理、育てる事を目的としている。さらにそこで得られる利益は王国の資金として蓄え、国民に還元される……と言うのが建前で本音は各地方を統治している貴族より国王が財力で劣っては示しがつかないからだろう。異世界人がもたらす叡智は金を生むからなぁ。
おっと!話が逸れたなぁ。え~っと、どこからだっけ?」
「学園制度からです」
「あははは!すまんすまん。そう学園制度が始まって一番、焦ったのは俺達ルジーゼ地方を統治していたロタ家だ。洞窟は全て潰しても魔獣は頻繁に出現していた。どこから湧いてくるのやら。だからこそ魔力を有する勇者が統治していたのに、それが出来なくなると誰も住まなくなり魔族の領地と成り果てる……その可能性を秘めているんだよ。
父さんと爺さんは焦ったと思うぜ。そんな中、産まれたのが俺だ。幸か不幸か魔力無しの俺が産まれた。魔力が無くて魔獣が跋扈するルジーゼ地方を統治する事が出来るのか!そこでマジックアイテム作りが好きだった爺さんと収集癖がある父さんがタックを組んだ。そして出来上がったのがこのアイテム。コレが何なのか……分かるかなぁ?」
そう言ってお父様の目の前に出したモノは……白い輪?
私が首を傾げているとドブネズミが1匹、檻を抜け出しお父様の足元まで走っていた。
お父様も気を利かせてくれて、しゃがみこんで見えやすいようにしてくれたの。
驚いたのは周りにいる兵士達。
しかし兵士が動く前に、お父様にお辞儀をして忠吉が私の前に戻って来たの。
「チュウ。チュチュウチュウ、チュウチュチュウチュウチュチュウ」
「え!そうなの。分かった。ありがとね」
話を終えて檻に戻った忠吉。
周りは唖然とする中、私は忠吉から聞いた話をした。
「そのマジックアイテムは、従魔の首輪ですが改造が施され、今は違うマジックアイテムになっております。との事です」
「ほぉ〜、それはさっきのネズミが出した答えかぁ。凄い!俺にはそこいらにいる普通のネズミにしか見えん。ハンナ、お前なら魔力を感じることができるであろう。どうだ!」
「はぁ。………やはり無理です。今もっていたしましても、ナナ様を含めて魔力は感じられません」
「そうかぁ……。まぁ~、その事はさて置き。
コレは、そこのネズミが言った通り従魔の首輪だ。よく考えてほしい。魔力の無い人が、魔力のある人と同等な力を手に入れるにはどうすればよいのか。それは……魔族と同じ事をすればいいのでは?と考えたのが爺さん達だ。要は魔族が魔獣を配下にしているように、自分達も魔獣を配下にすれば魔力と同等かそれ以上の力を手に入れる事が出来ると結論を出したわけだ。
そこで闇商人から20個の従魔の首輪を買って改造にとりかかったのだが……そんなに上手くはいかないわなぁ。そもそも従魔の首輪とはどんな物なのか?は、ネズミさんに聞く方が正確なのかなぁ?」
忠吉に、と言うよりネズミ達に視線が集まったの。
当の忠吉は我感せず、自分の使命を全うするを地で行くように私の側まで来て説明してくれた。
「チュウ。チュチュウ、チュウチュウチュウチュウチュウ。チュチュウチュウチュウ。チュウ、チュチュウチュウチュウチュウ。チュチュウ、チュウチュウ、チュウチュウ。チュウチュウ、チュウチュウチュウ。チュウチュウチュウチュウ、チュチュウチュウチュウ。チュウチュウチュウチュウチュウチュウ。チュウチュウチュウチュウ、チュウチュウチュウチュウ、チュウチュウ。チュウチュウチュ、チュウチュウチュ、チュウチュウチュウチュウ、チュウチュウ」
「え!そんな痛みを伴う物なの!ダメよ、絶対ダメよ!」
私が狼狽しているとお父様が声をかけてくれて、我に返る事が出来たわ。
「ナナ、すまないが通訳をしてもらってもいいかなぁ?俺たちにはチュウチュウと鳴き声にしか聞こえないのだ……で、何と言ったのだ?」
「はい。忠実に話すためにもう一度、忠吉に話してもらいながら通訳します」
そう言うと、忠吉が私の肩に乗ってもらいもう一度、話しをしてもらった。
その内容をそのまま口に出したわ。
「姫様。従魔の首輪は、魔族が魔獣を配下にするときに使うマジックアイテムです。
この首輪の役目は2つあります。1つは、この魔獣は自分のモノであるとの印です。2つ目は、首輪を通して直接、魔力を送ることです。そうすることで魔獣は強くなり、また進化する場合もあります。ですが無理やり魔力を送る訳です、身体が引き裂かれるような痛みがあります。さらに首輪を嵌める際にも痛みを伴うようです。所有の印と魔力の登録をするため、魔族の血を従魔の首輪に垂らし、獣に装着します。魔力を送る際にしても、登録する際にしても、他人の血を身体に入れるので大変、苦しむようです。と話しています。忠吉、ありがとうね」
「まず、確認したい事があるのだが……。何故に姫と呼ばれている?」
「え!あ!!言っちゃった!!も~ついつい忠吉が言うからつられて言っちゃったじゃない。実はネズミ達は役に立つのが嬉しっくて、騎士の気持ちになっているみたいなの。元々、ネズミ達は魔力が弱くてハチやロクの下らしいの。ハチやロクの事を様付で呼んで、私の事を姫と呼ぶようになったの。私は断固反対したのよ。でもハチもロクも面白がって……う~。誰も私の事を姫なんて呼ばないで下さい」
「なるほど!納得したぞ。ネズミ達が妙に礼儀正しいので、変に思っていたんだ。騎士なんだなぁ。うん、ナナそれは仕方ないぞ。騎士なら姫といいたくなるからなぁ。ナナは可愛いので良いのではないかぁ?」
「お父様まで!私は100歳のお婆ちゃんですよ!」
『ナナ!私は若い、私は若い、ワン』
ハチの言葉で自分が何を口走ったのか理解した。
「ごめんさい。私はまだ5歳でした。興奮すると前の感覚に引っ張られちゃって……ごめんなさい」
「いやいや、気にする事はない。転生者には多いと聞く。ナナは本当に異世界人なのだね」
「はい」
「話を戻そうね」
「はい、お願いします」
「従魔の首輪の解析はほぼ合ってはいたが、まさか苦痛を伴うとは初めて知った事だ。
マジックアイテムの改造は難しいのだよ。それでも爺さんと父さんは諦めずに努力し続けた。その結果、生み出されたのがこの……恭順の首輪だ。
従魔の首輪は魔力で登録し配下にする。それを別のモノで登録する事が出来ないのか!がキーだったようだよ。いろいろ試して、20個あった首輪は10個にまで減っていた。ちょうど10個目の首輪で完成した。喜び勇んで残り9個もその方法で作り、マジックアイテムが出来上がった。
はぁ……爺さんはどこか抜けている所がある人だったからなぁ。HPや力や敏捷性や生命力など、ステータスにあるモノから試してダメで、後は手当たりしだい試して最後に挑戦したのが信頼性。
なんと!この信頼性で従魔の首輪の登録が出来ると発見出来た。早速、改造を施し名前も恭順の首輪とした。さぁ~登録だ!となって間違いに気が付いた。魔獣と信頼性を築く……意志の疎通どころか話すらまともに出来ない相手に、絆が築ける訳はあるまい。絆が築けないと信頼など夢のまた夢であろう。
まぁ~俺は俺で、自分のスキル闘気功を極め、勇者になど負けぬ力を手に入れていた。だからこの恭順の首輪はお蔵入りになった。そんなマジックアイテムなのだ。
ここまで話したのなら俺が言いたいことは理解できるなぁ?そう!すでに深い絆で繋がれている、ナナとそこの魔獣ならこの首輪を有効に使えるのではないかなぁ?」
「ですがお父様。苦痛を伴うのなら私は嫌です」
『ナナ、僕なら平気だワン』
『あたしだって平気だニャんよ』
『姫様!私達も平気です』
「でも……やっぱりダメよ!痛いのよ!苦しいのよ!」
『かも!だニャ』
『それに僕達はナナの側にいたいワン。その為なら痛いのも、苦しいのも平気だワン』
『私達もどう意見です』
「……分かったわよ。でも、でも無理だけは止めてね」
『分かったワン』
『OKだニャ』
『『『『『はっ』』』』』
私はお父様を正面から見て頷いた。
すると満足したように宣言した。
「よし!早速、登録してみるぞ!!」
「はぁ~……ガロス様。はじめましてナナ様。私は豪黒の勇者リルラです。皆様にお見せするほどの容姿をしていないのでフードを着用したままでお許しください。
ガロス様。この恭順の首輪はマジックアイテムです。マジックアイテムを使用する為には冒険者ギルドに登録し、冒険者にならなければ使う事は出来ません」
「むむむむ!そうであったなぁ!あははは!!」
「私が……冒険者……ですって……」
と思わず呟いた私の声より、あちらこちらで起きた乾いた笑いの方が大きかったのはご愛嬌。
そんなとき、扉が勢いよく開き台風が巻き起こった。
「ナナ!ナナはまだいる?私のナナはまだいるのかしら?ナナ!ナナ!」
「お母様!!」
まさに台風。
私を見つけたお母様に、強く抱きしめられていたわ。
温かい母の匂い……お母様。
ナナが!魔力が無いナナが冒険者になりま~す!!
そして最後に登場したお母様……何しに来たのでしょうかね?
作中でもあるように年寄りが怪我をすると寝込む。でも若い人でも弱っていると寝込む。
今月は辛い!咳喘息が治まらずに2度ほど夜の病院へ行ってしまいました。点滴祭りで疲れました。でも看護婦さんと先生の「大丈夫ですよ。いつでも来ていいですからね」の言葉には涙が出るほど嬉しかった。
ここで重要なのは、今流行りの“かかりつけ医”ですよ!
健康でも必要ですね。ありがたいですよね!
話は全くそれましたが……また来週会いましょうね。