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64話 あらあら、極寒の大地ですって

 人に歴史あり! とはよく言ったものね。

 メースロア地方にも悲しい歴史があったわ。

 初代勇者の勘違いから、2人の小人族が犠牲になった。

 その間違いを過ちと認め、謝罪し、許しを乞う。

 そうする事で、前に進む事が出来るの。

 初代勇者サラも、認め謝罪したわ。

 そして、今があるの。


 そう、今よ! 今!


「ねぇ。支配人さん。その頬の勲章はどうしたの?」

「え! この傷ですか?」


 そうなの。

 湯の里の村長であり支配人の、ダッチさん。

 右頬に3本の傷があったの。

 お化粧で見え難いようにしてあるけれど、隠す事のできないほどのふかい爪痕があるわ。

 よくよく見ると、さらに2本の傷跡を発見。

 合計で5本の古傷。

 ぜひ話を聞きたいわね。

 するとダッチさんは、ロキアに何かを確認したの。


「ロキア様には報告があったかも知れませんが、よろしいのですか?」

「いいわよ」


 何かしら? と思ったけれど、まずは話を聞かないと始まらないわね。

 確認をとったダッチさんが、改めて話し出したわ。


「事の起こりは、数ヶ月前に遡ります。……ナナ様方々には、ここの立地からお話しせねばなりませんでしたね。では、改めまして……。メースロア城を内包している山から、最東端に存在している極寒の大地の入り口まで連なっている連山をベルクドグラスと言います。そこを縦横無尽に貫いているとされているのが、この洞窟アビッソグロットです」

「あら、フランス語? ドイツ語?」

「さぁ、分かりません、マノア様。元々は名前など無かったのです。ですが、湯の里を建築された方がベルクドグラスとアビッソグロットと命名して、何処かへと行かれました」

「うふふ、なかなか面白そうな人達なのね」

「うふふ、私もそう思った」

「確かに確かに、愉快な方達でしたよ」


 クスクスと笑っていたのは私とマノア。

 笑いを噛み殺して頷いていたのが、顔を知っているダッチさん。

 どんな顔か見てみたいわね。

 さて、ダッチさんの話なんだけれど……まさかまさかの内容だったわ。


「事の起こりは数ヶ月前に遡りますと、先ほども申しましたね。正確には、4月の中頃でした。その頃、僅かな揺れを感じ、何かが崩れる気配が致しました。その為、洞窟の奥へ奥へと、時間を掛けて調査をしたのですが……途中、壁が崩れていて進む事が出来ずに断念致しました。すぐ近くの出口から一旦、外に出て瓦礫を迂回し探索を続けました。問題はそこから先にございました」


 ここでダッチさんは話を区切りもう一度、確認をしたわ。


「ロキア様、本当に宜しいのですか?」

「何か問題でも?」

「いいえ、御座いませんが。あまり楽しくない話ですし……ベルネ様より、例のホワイトベアーには手を出すな! と、厳命を受けております。その、話してをしても良いものか、ベルネ様に確認をしてからでも遅くはないかと存じます」

「大丈夫よ。ナナちゃんには、そのホワイトベアーに用があるんだからね。話してちょうだい」

「はい、畏まりました」


 そうなの!

 ダッチさんの頬の傷は、例のホワイトベアーがつけた傷だった。

 さらに詳しく話を聞くと……謎ばかりね。

 行くしかないわ!


 私達は、湯の里で1泊して目的地へと移動したの。

 常に雹が降り晴れいる時でさえ、吹雪くのが日常の最悪の大地。

 最も東に存在している、草木も生えない不毛な大地。

 小人族の間では、ソルと呼ばれる極寒の大地。

 そんな所に、私1人で行こうかとも思ったんだけれど、みんなに反対されたわ。

 特にマナスからは猛反対されてしまったの。

 そこで、2台の馬車で行く事になったわ。

 まったく、大掛かりになったものね。

 はぁ〜。

 その馬車には、私、ロキア、マナス、ホゼ、ハンナが乗り込み。

 もう1台には、エディ、青ちゃん、マノア、ダッチさん、ユント先生が乗っているわ。

 私は馬車に揺られながら、ダッチさんが話してくれた内容を反芻していた。


「ロキア様ならお分かりかと存じますが、お聞きください。

 ソルから1番近い洞窟まちは、馬車で1日ほどかかる距離にありますエストです。そのエストから半日離れた所に、獣用の食料庫を設け入れて置きます。彼等は実に賢い獣です。このメースロア地方は、洞窟でしか生きて行く事のできない環境であります。その為、ここで産まれた者はとある想いを心に刻んで、日々生活を送っております。それは……洞窟の中では、決して生きているモノを殺すな……です。身を寄せ合い生きて行くしかないこの地では、破ってはいけない決まりです。その事を踏まえたホワイトベアーは、洞窟の外にいる獣や小人族を襲って日々の糧としておりましたが、ベルネ様の計らいにより小屋を設けそこに食料を置く事で、小人族を襲う事は無くなってホッとしております。ところが……」


 伏し目がちに下を向いたダッチさん。

 そっと手を握ったのはロキア。

 その目には、大丈夫? の優しさが込められていたわ。


「大丈夫です。すいません。……ところが、調査の為に洞窟へ入っていた我々に、牙を剥いたのです」


 自分の頬に手を当てて傷跡に触れながら思い出しつつ、続きを話し始めたわ。


「そもそも、ソルまでアビッソグロットは貫通しておりません。ですが、先刻の揺れるよる瓦礫の崩落で繋がっていた模様。実は我々が赴く前に、エストの者が物見遊山で入ったとの報告を受けておりました。その者が戻らず探して欲しいと、言われておりますたので注意深く辺りを探しながら進んでおりますと……喰い散らかした骸を発見。そこに、血塗られたホワイトベアーの姿も御座いました。我々は闘いましたとも! 死力を尽くして挑みました! ですが、相手はメースロア地方の王者ホワイトベアーの主。敵う道理が御座いません。1人倒れ、2人倒れとして行き……とうとう私1人となってしまいました。命からがら逃げ帰るのが精一杯で御座いました。うっ……主は……ホワイトベアーの主は! こんな事をする獣では無かったはず! 心優しい、仲間思いのカリスマ性を備えた、獣を統べる王者だった……はず……」


 泣き崩れてしまったダッチさん。

 優しく背中をさすっていたのはマナス。

 一緒に泣いていたわ。

 続きを話すことが出来なくなったダッチさんに代わり、ロキアが話し始めた。


「村長の言う通りなの。昔は辺り構わず襲っていたけれど、今は定期的に食料を提供しているからそんな事はしなくなったと、お母様が言っていたわ。さらに、洞窟の中で小人族を……。私も1度、遠くから見た事があるの。とても大きくって、怖くって、泣いた記憶があるわ。でも、無闇矢鱈と暴れる様には見えなかったわね。なぜ、主が豹変してしまったのか? どうして、暗黙の掟を破ってまで小人族を襲ったのか? ……誰にも分からないわ。ナナ、この謎は貴女しか解けないと、私は思っているの。マナスの事は置いといて、ホワイトベアーの謎を解き明かして!」


 ロキアの真摯な想いに頷くしか無かったわ。

 はぁ〜、そのホワイトベアーの主に話が出来ればいいんだけれど、ねぇ。


 馬車の外は土壁ばかり。

 車窓もヘチマも無いわね。

 と、思っていると外に出てビックリしたわ。

 だって、激しい吹雪が視界を完全に奪っていたから。

 俗に言われるホワイトアウト状態。


「ロ、ロキア! この馬車、大丈夫なの?」

「うふふ、これくらい平気よ。このメースロア地方はね。外では、本当に生きていけないの。外を歩く事すら出来ないのよ。なんで、こんな所に住んでいるのかしら? と、思った事は何度もあるわ。でもね。みんな優しいの。山で採掘された資源はみんなのモノ。外で得た食料はみんなのモノ。洞窟で出会ったモノはみな仲間。コレがここで生きて行くための暗黙のルールなのよ。ホゼにもだいぶん言われたわ。私の病気には、この環境は過酷なんですって。でも、他に行くつもりはないの。私はこのメースロアでしか生きて行けないわ。みんなが居るから私が居るの。さぁ、最も東の洞窟まちエストに到着よ。ここで1泊しましょう」


 突然、そう言われて窓の外を見ると、いつの間にか洞窟に入っていて簡易的な門をくぐっていたわ。

 そこには、先触れでもしていたかの様に村長が待ち構えていたの。


「ロキア様、マナス様。お待ちしておりました。早速で申し訳ございませんが、主についての情報がございます。今、宜しいでしょうか?」

「ワクス村長、少し待ってちょうだい。後ろから、ダッチ村長が来るから。みんなが揃ったところで話を聞くわ。皆様をお部屋に案内して」

「はい。では、こちらへ。あ! マナス様! お手を」

「ワクス、大丈夫よ。1人で歩けるわ」

「しかし……。わたくしの杞憂でしたなぁ。さすがベルネ様の御息女ですなぁ。感服いたしましたぞ」

「もぅ〜、やめてよ〜」

「ナ、ナナ様ですね。お手を……」

「ありがとう。でも、私も必要無いのよ」


 私の影からハチが出てきたわ。

 その背中に私が乗り、馬車を降りたの。


「大して寒く無いのね」

「そうねぇ。ワクス村長、どうしてなの?」

「はい、ロキア様。その事についても報告がございます」


 私達は、小さな田舎の農村の様な集落へと入って行ったの。

 その中でも立派な? 民家へと案内されたわ。

 3分ほど待っていると、エディ達も到着して部屋へと入ってきたの。

 もちろん、ダッチさんも一緒ね。


「ワクス、いろいろ済まなかったなぁ。ポロスとダイドの2人には、心から哀悼の意を表する」

「仕方ないさぁ。新しい洞窟と聞けば、行きたくなるのは若者の特権さぁ。まさか……主が豹変するとは思わないだろう」

「ボーの日に行ってくれたんだろう。で、どうだった?」

「そう急かすなぁ」


 後から本人に確かめてみたら、幼馴染みなんですって。

 いいわねぇ。

 そんな事より、馴染みのない単語が出てきたわね。


「ねぇ。ダッチさん。ボーって何かしら?」

「これは失礼いたしましたね。ボーとは、1年に1度だけ極寒の大地であるソルに訪れる晴れの日の事を言います。この日に、1つだけある洞窟の調査へ向かいます。ですが、行くだけで1日を費やしてしまうので、存在の確認だけですね。それだけでも、重要な情報です。その為、エストより近くにあった洞窟の発見は驚くべき出来事だったのです。それが……まさか……」


 ここまで話を聞いてきて、感じた事は……話をまとめることね。

 話が散らかっていて良く分からないわ。

 部屋には、私、エディ、青ちゃん、マノア、ホゼ、ロキア、マナス、ハンナ、ユント先生、ダッチさん、ワクスさんの11人。

 以外と多いわね。

 みんなの認識を1つにしないと、これから向かう場所は危険だわ。

 6畳ほどの広さの部屋に、足首まで埋まる程のフカフカの絨毯が敷かれているの。

 みんなは雑多に座っているわ。

 その真ん中に、円形のローテーブルが置いてあったの。

 その上には、ホットレモン水の湯気が和みを与えたいたわ。

 みんなで一口飲んで、私が音頭を取ったの。


「みんな、聞いてくれるかしら? ロキアとマナスも、私の話を聞いてね。ダッチさんとワクスさんは、間違いがあったら訂正して下さい」


 頷いてくれたので、話を進める事にしたわ。


「エディ達にも共通の認識でいた方が安全だと、私は思うの。そこで、これまでの話を纏めるわね。

 4月の中頃に、僅かな揺れが起こり、何かが崩れる気配を感じ、ダッチさん達が洞窟の奥へと調査に向かった。その途中にエストへ寄って、新しい洞窟へと向かったまま行方が分からない2人の小人族を探して欲しいと頼まれる。問題の洞窟で、ホワイトベアーの主が暴れていて、戻らなかった2人の遺体を見つけた。そして、自分達にも被害を出しながら逃げ帰った。ここまではいいわね。そして、今聞いた話。たった1日の晴れの日を利用して、洞窟まで様子を見に行った。そこには、一緒に居たはずの獣達は1匹も居らずホワイトベアーの姿も見えなかった、との事だったわね。そこで聴いた遠吠えに恐れをなして、引き帰った。ちなみに、新しい洞窟の新発見では無くて、アビッソグロットから繋がる洞窟だったのよね。異変はこれだけでは無いわ。寒いはずのエストの村が暖かい事。地下水では無くて温水に変わった事。何より、これまで主として獣達を纏めていたホワイトベアーが豹変した事。これが最大の謎よね」

「ナナ! 問題定義は良いとして。実質的な問題もあるぞ」

「エディ、何それ?」

「たった1日しか無いボーの日を使ってしまったんだろう。だったら、どうやってソルの洞窟まで行くんだよ。今は霰や雹が降って、誰も行けないぜ」

「…………! どうしましょう? ?」

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


 みんなが押し黙ったわ。

 エディって、考えていない様でしっかりと人の話を聞いているのよね。

 本当に、どうしましょう?

 沈黙が続いたわ。

 このサイレンスな空間を切り裂いたのは、私の影に入っていた子達なの。


『そんなの簡単ワン。1人でダメならみんなの魔力ちからを借りれば良いワン』

『姫様。ここからなら半日もあれば、先ほどの疑問を解決する情報を集める事が可能で御座います。如何いたしますか? 今からなら明朝には報告出来ます』

「はぁ〜。あなた達の事を失念していたわね。そうねぇ。危なく無い程度に調べてきてくれるかしら?」

『はっ、すぐにでも行って参ります』

「ちょっと待って! 1人で行かないでちょうだい。主が暴れているのよ! 十二分に気を付けて!」

『はっ。では、私と忠凶で行って参ります』

「気を付けてよ。さて、エディ達にはお馴染みでも、ロキア達には驚きかもね。忠大と忠凶に調べてもらう事にしたわ。明日の朝にはみんなにも報告できると思うの。後は、ソルの洞窟までの行き方よね。それも、ハチに言わせると……1人がダメならみんなの魔力ちからを借りれば良い……そう話していたわ。簡単みたいよ」

「「「「「「あははは……」」」」」」

「「「「! ! ! !」」」」


 乾いた笑いはもちろんエディ達で、驚きの表情はロキア達ね。

 何に驚いているのかしら?

 ハチのことばよね。

 意味わからない。

 みんなの魔力を集めても、ダメなものはダメな様な気がするわ。

 でも、ハチとロクの事だもの何か手があるんのよね。

 きっと、ね!

 だったら、明日までこのフカフカの中で待つばかりよね。


「話はここまでね。後は……果報は寝て待て! よね」


 と、ウインクして話を終えたわ。


「ナ、ナ、ナナちゃん! もう少し詳しく説明して!」

「新しい魔術なの? ハチは降ってくる雹や霰を避ける魔術があるの? 教えて! !」

「マナスは黙ってて! 今は、新しい魔術はどうでも良いの! 情報よ! ネズミちゃん達がどこに行ったかを教えてもらうのが先よ!」

「何よ! お姉ちゃん! 確かに大切かも知れないけれど、洞窟まで行くのも大問題よ!」

「ロキア様、マナス様。もう少し落ち着いて下さい」

「「ダッチは黙ってて! !」」


 あらあら、とばっちりを受けてしまったダッチさん。

 肩を落として、ワクスさんと出て行ったわ。

 ロキアは私に詰め寄りたかったけれど、ホゼに阻まれ諦めたわ。

 マナスは青ちゃんとマノアのに説得されて? 溜飲を下げたみたい。

 ホゼにしても、青ちゃんとマノアにしても言った言葉は1つ。


「「「明日、ハッキリするよ」」」


 正解!

北海道と言うより南極を想像して頂けると分かりやすいかも? です。

私自身は九州に住んでいるので、寒さには極めて弱いです。

本当は……寒いのも暑いのも嫌いです!


次回予告

『あたしに話させろ! ! なんで、ハチの野郎が喋るんだよ! あたしだって! あたしだって! ……凄いニャ!

次回予告。忠大の調べが終わり、驚愕の事実を知る。そして、変貌してしまったホワイトベアーの主との闘い。ナナ達は、主を救う事が出来るのかぁ!悲しみの現実に向き合う事が可能なかぁ! 刮目して見ろ! ホワイトベアーの背中を……。

カッコよく決めてやったニャ。まったく、あたしを除け者にするから次回予告を乗っ取ってやったニャ。思い知ったかぁ!』


あははは〜。

ロクよ。

ごめんね。

まさか、喋ってないだなんて気がつかなかったよ。

次の話では大活躍の予定だから、許してね。


では、また来週会いましょう!


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