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63話 あらあら、開拓の勇者ですって

 はぁ〜。

 まさか、私が水着を着るだなんて。

 はぁ〜。


 マナスの魔術の考査をしてお昼を食べるまでは、良かったのよね。

 問題はその後だったの。

 だいたい、誰の提案だったのかしら?

 湯の里に行こう!

 だなんて、余計な事を言ったものね。


「ナナ! 楽しいでしょう。私、このウォータースライダーが大好きなの! ……今までは、誰もいない時に滑っていたけれど、魔術“ウインドリアクション”のおかげで皆んなと楽しく滑れるわ! 本当に楽しい! !」

「あははは〜、はぁ〜。確かに、楽しいわね。……あははは〜、はぁ〜」


 確かに!

 確かに、楽しいわ。

 でもねぇ〜。

 何なのこの施設は!

 外観も中身も、アノ日本のハワイそのままなんだもの。

 フラダンスショーは……流石にないわね。

 でも、ウォータースライダーには驚かされたわ。

 何でこんなものがあるなよ! と呆れ返ったのは言うまでも無いわね。

 もちろん、波が起こるプールに流れるプール。

 子供用のプールに、大人用のプール。

 幼児が水浸しになりながら遊ぶコーナーまである、徹底ぶり。

 本当に1日いても、飽きない工夫がしてあったわ。

 さらに、さらに、温泉施設としての機能もしっかりしていて。

 本当に、スパリゾートの名前に相応しいんだけれど……ねぇ。

 プールコーナーで遊ぶときには、水着とビーサン着用。

 温泉施設では、浴衣又は作務衣い着用が義務づけられているの。

 問題は水着よ!

 何でこの歳になって、ビキニを着る羽目になるなよ!

 え?

 あらあら、私って6歳児だったわね。


「ロキア、アレは何?」


 私が指差した先には、水着を着た人達が並んでいるわ。

 ワキワキ、キャッキャッと、何だか楽しそうね。


「アレは、湯の里タイムトラベルと言うアトラクションなの。まぁ〜、流れるプールに乗って、湯の里が出来るまでを劇で学べる。湯の里きっての名物なのよ。……行く?」

「もちろん!」


 ちゃんと言っとかないと、いけないわね。

 しっかりと並びましたわよ。

 10分ほどで、私達の順番が回って来たわ。

 参加したのは、私、エディ、青ちゃん、マノア、マナスの5人。


「え? マナス……も?」

「エヘヘ。実は私、入った事ないの。だって、見えないんだもん。楽しくない! と、思っていて……。でも、今は常に魔術“ウインドリアクション”を使っているから、きっと大丈夫だわ! 絶対、楽しいと思うの」

「ウフフ、確かに、楽しそうだものね。ホゼはいいの?」

「あははは〜、1度入れば十分だよ」

「あら、そうなのね」

「お姉ちゃん! 出口で待っていてよ!」

「はい、はい、待っているわ。行ってらっしゃい」

「「「「「行ってきます」」」」」


 私達は筏に乗りながら、辺りをキョロキョロしたわ。

 真っ先に見えてきたのが、薄暗い洞窟。

 原始時代の原始的な生活風景。

 まさにそんな感じの中、本当に小さな男の子が枝を持ち、岩に向かってエイャ! と、可愛い声を発しながら剣の稽古をしていたわ。

 その子がトコトコと、岩のセットの先へと歩いて行ったの。

 次の場面へと変わったわ。

 後ろを見ると、小さな女の子が1人でおままごとをしているわ。

 1筏に1人の演技者な訳ね。

 男の子バージョンと女の子バージョンがあるみたい。

 内容はきっと、変わらないわね。

 さて、男の子だけれど、少しだけ成長し青年になっていたわ。

 もちろん、さっきの男の子とは違う子よ。

 そして、勇者と出会いを果たし。

 後は、開拓して行く様子を演じているわね。

 青年と勇者が共に手を取り、扉を開けると……湯の里オープン!


 ……確かに1度で十分だわ。


「うふふ、どうだった?」

「あははは〜、面白かったわ」

「あははは〜、まぁ、ねぇ」

「私は、楽しかったけれど」

「俺も!」

「うん!」


 笑って誤魔化したのは、私とマノア。

 面白かったと満面の笑みなのが、青ちゃんとエディとマナス。


「マナスは内容を知っていた……はずよね」

「確かに、知っていたわ。マノア。でも、みんなで一緒に感じる(見る)風景は、全く違っていたわ。本当に楽しい!」

「そうね。楽しいわね。みんな、お茶にしましょう」

「「「「「「賛成」」」」」」


 私達はプールサイドから直接、個室へと入ったわ。

 テラスには、プールサイドでよく見かけるビーチチェアが4脚、丸いテーブルを挟んで3脚、合計で7脚の椅子が用意してあったの。

 用意がいいわね。

 ロキアがテーブルの上にあるベルを鳴らすと、冷たいレモネードを持ったウェイトレスが入って来て、コップに注ぎ退室した。

 4脚の左からロキア、ホゼ、青ちゃん、私が座り。

 反対側の右からマノア、マナス、エディが座ったわ。

 喉を潤し、改めて感想を述べたの。


「なかなか、簡潔なストーリーだったわね。史実はあんな感じなの?」

「そうねぇ。確かに“あんな”では、無いわ。でも、事実は残酷なものよ。ナナ達が知る必要は無いわ」

「ロキアは、知っているのよね」

「もちろんよ。私とマナスは、メースロアを統治する当主になるのよ。知っていて当然だわ」

「俺も知りたい。俺は知っとかないといけない……気がする」


 そう言って手を上げたのはエディ。

 私も含めてみんなが、何でまた的な顔をして見たわ。

 エディは意を決したような表情を見せて、話し出した。


「俺は……皇太子なんだ。この国の……次期国王なんだ。知っとかないと……いけない……気がする……」


 あらら、下を向いてしまったわ。

 そんなエディにロキアが、優しく諭すような声色で話した。


「王としては、素晴らしい心がけだと思う。でも、気持ちのいい話では無いわよ」

「それでも……俺は、知りたい!」

「分かったわ」


 納得したロキアが、テーブルのベルを鳴らした。


 チリリン! チリリン!


 すぐさま先程のウェイトレスが現れたわ。


「ダッチ村長を呼んでちょうだい」

「はい、畏まりました」


 暫くして、恰幅のいいウェイターが恭しく頭を下げて挨拶をしたわ。

 見た目は、好好爺なおじ様で糸目が優しさを醸し出していた。

 ただ……頬の傷が全てを台無しにしていたけれどね。


「これはこれは、ロキア様。私の事は支配人とお呼びください」

「そうだったわね。ごめんなさい。この方たちに、シェルターから湯の里に至った経緯を話してちょうだい」

「しかし……宜しいのですか?」

「大丈夫ぶよ。こちらの方は、スアノース・シド・エディート様で、こちらが、ルジーゼ・ロタ・ナナ様。皇太子様と次期当主様よ。知っていて、もらいたい話だから……ね」

「そうですか。では、私からお話いたしましょう」


 支配人さんの話は、ロキアの言う通り気持ちのいい話では無かったわね。

 過酷な自然と、生きる為の取捨選択。

 突然現れた、勇者と言う名の侵略者。

 先住民の小人族にしてみれば、怖かったと思うわ。

 そうそう、この湯の里で働いている人は全員、小人族なの。

 もちろん、村長をしつつ、今は支配人のダッチさんも小人族よ。

 先に話し出したのは、ロキアだった。



 初代勇者の1人。

 サラは、水属性の魔力を持つ勇者だったわ。

 彼らは10人編成で、極寒の地へと赴いていたの。

 先の尖った針葉樹が疎らにある森を抜け、いくつかの洞窟で夜を過ごし、探索を強行したわ。

 その結果、人は疎か、生きとし生けるものすべてが生息してはいなかったようね。

 もちろん、洞窟の中には小動物ぐらいはいたみたい。

 探索を進めること7日目。

 大きな洞窟の入り口に入ったとき、コレまでとの違いに驚いたみたい。

 そこには、人の暮らしがあったから。

 でも、最初の出会いに間違いがあったの。

 そこから、悲劇が始まったわ。


「うぁぁぁ! ホワイトベアーだ! 僕らを喰いに来た! に、に、逃げろ!」

「バカ野郎! 反撃しろ! 奥に入られるとマズイぞ!」


 そんな声など、聞こえるはずもない程の混乱ぶり。

 その混乱は、サラ達にも伝染したの。


「あっちに行け! !」


 そこに居たのは、年端もいかない5人少年達だったわ。

 そのうちの1人が、魔術“ストーンランセ”を放ったの。

 サラは、剣で全ての石つぶてを跳ね返したわ。

 その1つが運悪く当たってしまい、倒れた拍子に打ち所が悪く、動かなくなってしまったの。

 それが、全ての誤解を生んだわ。


 ここではロキアが口を閉ざしたの。

 ここまでは勇者側から見た話よね。

 そして、バトンを渡すようにロキアはダッチさんを見たの。

 頷き続きを話し出したわ。


「私の曽祖父は、その時の村長を担っておりました。慌てて駆け込んで来た料理当番が……」


 ダッチさんの話は、物語の様な濃さがあった。

 この大きな洞窟で、産まれ育ったダッチさんの先祖さん達。

 もちろん、魔力持ちの人もいたし、いろんな属性持ちもいた。

 この洞窟はシェルターと呼ばれていて、傷付いた者や外で生きて行けない者達が集まった出来た集落。

 17人の老若男女が……正確に言うと……生き残って生活していた村だった。

 洞窟の奥で火を焚けば、酸欠で死んでしまう。

 洞窟の入り口で火を焚けば、その火に呼ばれたて集る獣によって殺されてしまう。

 その為、料理は魔力持ちの男の仕事となった。

 女は居住空間の整備と子育て、そして魔力を宿した石の発掘。

 もちろん、あまり奥に行くと酸素が薄く生きて戻る事は出来なくなる。

 それ程の過酷な環境でも、この洞窟で暮らす利点はあった。

 それは、命の水が湧き出ていたからだ。

 その水に身体を浸せば、治りが早まる。

 その水を飲めば、病も治る。

 その水が有るからこそ、この場所で生きていく事が出来るんだ……と。

 赤子も産まれ、やっと安定し始めた時に魔獣が入り込んで来た。

 全てが終わったと思った。

 でも奴らは、腹を満たせば自分のねぐらへと帰るだろう。

 だったら、女と子供だけでも奥へと隠し、自分の身を犠牲にすれば何とかなる……そう思った。


「村長! 俺、悔しい。ホワイトベアーさえ入って来なければ、コンガーは死なずにすんだんだ! 一矢報いたい。この火の魔力が宿っている石を投げつけてやる。俺がこの石を投げれば、炎が出て爆ぜる……やってやる! やってやるぞ! !」

「来たぞ!」


 迫真の演技で、あたかもその場で起こっているかの様なセリフに身構えてしまったわ。

 ダッチさんがロキアを見たの。

 頷き、今度は勇者側ね。


「彼は先住民の小人族だったの。知らなかったのよ。大きな人族がいたことにね。知っていれば! もしくは、話が出来るチャンスがあれば! あんな事には、ならなかったのに……」


 絞り出す様に、話し出したロキア。

 それもそのはずなの。

 勇者達は誤解していたわ。


 魔力を宿した人……魔族……とね。


「こんな所まで魔族がいるのかぁ! 殲滅するぞ」

「「「「「オォ!」」」」」


 初代勇者は直接、魔族と対峙した数少ない人族だったの。

 それでも、マジマジと見た訳ではないわ。

 魔力を宿した人の姿をした者=魔族と誤解したのよ。

 そしてそのまま突き進み激突したわ。

 方や魔獣ホワイトベアーと思い。

 もう一方は、魔族と思っていたのよ。

 出会えば、闘いになる。

 でも、本当は闘いなんて生易しいことでは無かったの。

 だって、魔力の量と質ではサラに及ぶ者などいないわ。

 火の魔力が宿っている石を投げるより早く、その人を魔術“ウォーターランス”が刺し貫いたの。

 そして、次の魔族を斬り付けようと剣を振りかざした時、事態は大きな変化を遂げたわ。


「食べるなら私を食べて! !」


 その一言が、サラを現実に引き戻したの。


 魔族じゃない!


 連れて来た兵士は5人。

 その者達は、全員魔力を宿した勇者だったわ。

 さらに、彼らは訓練を受けた兵士なの。

 無闇に魔術は使わないわ。

 剣で斬り付け、弱ったところでとどめを刺す。

 そんなトレーニングを積んだ人達だもの。

 斬り付けられた者は、致命傷を負っていて死期が迫っていたわ。

 サラは白属性の兵士に命令を出したの。


「魔族では無い! すぐに救命措置をとれ!」

「はっ」


 命令を受けた兵士は、魔術“女神の涙”を怪我した者達に掛けたわ。

 でも、その兵士は魔術“女神の微笑み”や“女神のキス”は使えなかったの。

 止血ができる程度しか治療は出来なかったわ。

 その時、事の成り行きを見守っていた村長が姿を現したの。

 サラは剣を収め、自己紹介をした。

 そして……謝罪をしたわ。

 自分達が犯してしまった誤ちにね。


「ロキア様。世界の動きを知らなかった私達にも非があります。知らないのもまた、罪だと思います」

「確かにそうね。でも知らないのと、知ることが出来ないとでは違うと思うわ」

「正論だわね。私もそう思うわ。先住民に、何処も悪いところなど見当たらないわね。ロキア、そのあとどうしたの?」

「あら、ごめんなさい」


 そもそもの間違いは、この極寒の地に人などいないと思い込んでいた事と、魔術を使った人を見てしまった事にあるみたいね。

 そして起こってしまった悲劇。

 17人居た先住民のうち2人が死に、5人が重傷。

 無傷な者達は、4人が女性で5人が子供、1人の老人。

 コレが全ての人だったの。

 勇者が護るべき者を殺してしまった事実に、サラは打ちひしがれてしまったわ。


 ……勇者なのに……。

 ……民を守り心を支える存在なのに……。


 サラの想いは固まったわ。

 この地に根を下ろし、このシェルターを国随一の街に発展させるやる! とね。

 そして、散らしてしまった2人の命の償いをしなければいけないと。

 そこからの行動は、早かったみたいね。

 あ! と、言う間にカッパドキア風の城を作り。

 あ! と、言う間に洞窟を走破し、馬車が通れるように整備し。

 あ! と、言う間にシェルター改め湯の里を作り上げたの。

 その際、おかしな浪速言葉を話す2人を連れて来て建築を頼んだみたい。

 間違いなく異世界人ね。

 多分、関西人なんだわ。

 そこまで作ったサラは、命の水が湧き出る近くに、2人の犠牲者の墓標を建てたの。

 忘れる事など出来るはずもなかったわ。

 この2人の存在が無ければ、自分達の間違いに気づいていなかったんですもの。

 サラは毎日、手を合わせ報告を怠らなかったみたいね。

 そして、その墓標の横に眠っているわ。

 今は村長であり、支配人のダッチさんが報告をしているみたい。

 そうそう、5人の重傷者達は命の水に浸かり快方へと向かったようね。

 この話をしてくれたロキアは、最後まで不満顔だったわ。


「ロキアは何が不服なの? 素晴らしい話じゃ無いの」

「俺もそう思う。自分達の間違いを認める事は、すごい事だと思うぞ」

「ナナちゃんにエディくん。ありがとう。でも、私は間違っていると思うの。元々ここは小人族が暮らしていた場所だわ。そこにズカズカと入って来たのは勇者サラよ。さらに、魔族と間違えて殺めてしまった。コレは覆す事のできない事実だわ」

「ロキア様。それは違います。私達は17人居たのでは無くて、生き残りが17人だったのです。外には腹を空かせた獣達。そして、奥にな真っ暗で酸素すら無い洞窟。死ぬしか無い環境の中で、現実を見て居なかったのは私達の方だったのです。サラ様に助けて頂かなければ、とうの昔に小人族は滅んでいたと思います。感謝こそすれ、恨む者など誰も居りますまい」

「ダッチ、ありがとう。その言葉を胸に刻むわ」


 微笑みに戻ったロキア。

 私は、もう1つの物語を聞く事にしたわ。

 それは……。


「ねぇ。支配人さん。その頬の勲章はどうしたの?」

「え! この傷ですか?」

「そうよ」

「大した話ではありませんが、よろしいですか?」

「あら? 武勇伝が聴けるかと、ワクワクしていますのに?」

「ナナ様はお上手でございますね。それでは、お話しいたします。ロキア様には報告があったかも知れませんが、よろしいですか?」

「もちろん、いいわよ」


 ダッチさんから齎された情報は、私達が目指すモノの話だったわ。


 そのモノとは………。


メースロア地方の成り立ちのお話でした。

各地にこの手の話は……あるのかしら?

そのうち聴けたら、いいですね。


次回予告

「兄貴! ココが予告をする場所みたいですわ」

「オゥ、そうやなぁ。予告したれやぁ」

「兄貴! 予告って何ですの?」

「そりゃ〜、予さんに告るちゅう〜事やろう」

「兄貴! 流石っす! 流石、兄貴っす!」

「オゥ! で、予告は……どないするんやねん」

「兄貴! 次回予告をするっす。

次回予告。支配人ダッチの頬の傷はホワイトベアーの仕業だった! そして、ナナ達の本来の目的であるホワイトベアーの素性が明かされる! 彼はなぜそこに居るのかぁ! ダッチの頬の傷はどうして出来たのかぁ! 見逃せない真実がそこにある!

兄貴!どうですやろう?」

「オゥ、いいんとちゃいますかぁ」

「兄貴! 流石っす!流石、兄貴っす!」

「オゥ」


本作には、登場するか分からない2人組みに紹介してもらいました。

そう! 彼らこそ関西人に憧れる異世界人、オバル&ガイド。

そのうち出てくるから……多分?


それではまた来週会いましょう!

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