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58話 あらあら、アンコとキナコですって

 ネズミ隊の考査のはずが、いつの間にか魔術“創造クリエイト”の考査&実査にすり替わっていたの。

 でも、分かったことがあるわ。

 魔力の無い私やお父様でも、訓練次第では術を使う事ができる!

 しかも、2つの種類の属性を体に巡らせ、馴染ませ、魔術を発動させる事が出来る!

 数10回は死ななければ無理だけれどね。

 成し遂げたお父様こそ、本当の勇者よ。


 そんなこんなあって、夏が来る〜! きっと夏は来る〜!


「皆さん。忘れ物はありませんか?」

「「「「「はい!」」」」」


 私、エディ、ホゼ、マノア、青、ユント先生、ハンナ、ベルネ様の6人とハチ、ロクの2匹が大きな馬車に乗り込んだわ。

 目指すは、メースロア地方!

 もちろんバカンスのためよ。

 あら? 違ったわね。

 コレは刑罰なのよ。

 違法にマジックアイテムを作った、ベルネ様へのね。

 目の見えない娘の為に“恭順の首輪”もどきを製作した。

 違法にマジックアイテムを製造する事は重罪に値するのにね。

 だって、皆んなが好き勝手に作り始めれば大変な事になるわ。

 それこそ、人を死に至らしめるアイテムから一攫千金に値するアイテムまで、管理しないと無法地帯になりかねないもの。

 1度そこまで落ちた経験のある、現国王様は厳しい罰則を設けたわ。

 死刑すらあるのよ。

 4大貴族と言えども例外は許されない……はずだったんだけれどね。

 モノがモノだったから私に一任されたの。

 丸投げよ! まるっとね!


「ハンナ。どのくらいで着くの?」

「そうですねぇ。5日程と考えております。マーウメリナ地方に村が1つありますが、メースロア地方に入りますと村も町もありません。点在しています洞窟があり、そこで野宿を致します。大丈夫ですよ。私達も居ますし、ベルネ様も居られます」

「村に1泊するのね」

「いいえ。貴族が村に立ち寄る事は禁じられています」

「え? どうして?」

「すり寄って来る輩が多いからよ。彼奴らは自分達のことしか頭に無いからね。お前は可愛いねぇ。このモフモフは、癖になるわ〜」


 ハチの首を抱き抱えスリスリしながら、めんどくさそうに話してくれたのはベルネ様。

 この馬車にはセラ家の紋章が付いているの。

 車輪が6個でマイクロバス程の大きさがあるわ。

 ソレを引いている馬がまた凄いの。

 覇王が乗っていてもおかしく無い、ガタイのお馬さんが2頭。

 鼻息荒く、猛スピードで走っているわ。


「町には寄らないのですか?」

「そうねぇ〜。寄りたいのなら寄ってもいいけれど……この子達ならノンストップ、3日で到着するわよ。私にも仕事があるし、娘達にも会いたいわ。その方向性でよろしくね。ハンナ」

「はい。ですが、子供達もいますので、メースロア地方に入ってすぐの休息地にて1泊致します」

「分かったわ。じゃ、4日ぐらいね」


 仕方がないわね、と納得しつつも不満顔のベルネ様。

 でも、ハチのモフモフに癒されたのか優しい顔に変わったわ。

 少しホッコリした雰囲気を醸し出し始めた時、ロクがとんでも無い事を話し出したの。

 本人にしたら笑い話の雑談だったのかもね。


『そう言えばナナ。あたし面白いモノを見たんだよ。ナナにも教えてあげるニャ』

「何かしら?」

『ウフフニャ。魔力があったから勇者だと思うんだけど、そいつがあたしに猫缶を差し出してきたんだ。お食べ、だって!』

「食べたの?」

『そんなワケ無いよ。あたしはグルメなんだ。猫缶なんて食えるかい。それに……その缶詰を食べた他の黒猫が昏倒したんだよね。あれは、あたしを捕獲するための餌だったという事だろうね。完全にあたしの事をナメてるニャ。だから、ネズミ隊に調べてもらってんだ。そろそろ、ナナの所にも報告があるんじゃないの?』

『姫様。お時間よろしいでしょうか?』

「ジャストタイミングね。いいわよ」


 まるで計ったかのように現れた忠大。

 内容は……推して知るべし、よね。


『姫様。ロク様より報告を受けまして、調べてまいりました。その際、あちらこちらに、高級チーズ入りのネズミ捕りがありましたので壊して、中のチーズは元の持ち主に返しておきました。よろしかったでしょうか?』

「え? ……いいと、思うわよ。アハハハ」

『はっ。では、報告いたします。灰土の勇者ラキアム、陰火の勇者カツクボ、怪火の勇者ケナスの3名が、豪商ノホポロスの命令で動いていおります。ロク様と私達を捕獲してペットとして飼いたいのでしょう。愚陋な行いで御座います。この3勇者が、ヒコモンターニュを抜けた辺りで待ち伏せをしている模様です。おそらく、奇襲を仕掛ける算段なのではないでしょうか。ロク様に出向いてもらい蹴散らして頂くことが、よろしいかと存じます』

「命令した証拠はあるの?」

「はっ。こちらに御座います」


 差し出された4枚の紙。

 中を見て呆れ返ったわ。

 だって、これは……。


「誓約書と計画書よね。よくこんなモノ持って来れたわね。大丈夫なの?」

『はっ。代わりのモノを“創造クリエイト”して置いてまいりました。分かりやすいように、裏側に偽物と明記してありますが、大丈夫でしょう。姫様、どう致しますか? 間もなくヒコモンターニュの中腹あたりですが、ロク様に行ってもらいますか?』

「そうねぇ……。ハンナ、この馬車、止めてくれる?」

「え? 何故ですか?」

「全軍停止! で、問題はコレね」


 私の手から奪って、マジマジと眺めたベルネ様。

 溜息と共に出てきた言葉が、辛辣だったわね。

 さすが氷の女王。

 その名は伊達じゃないわ。


「始末していいわよ。コレがあればブタポロスまで辿り着けるからね。ネズミちゃん達でルバーの所に届けてくれるかしら? さて、問題は3馬鹿勇者よね。アンコとキナコにもしもの事があるといけないから……永遠に眠らせたら?」


 気怠そうにハチをモフモフしながら話したの。

 内容は……まぁ、ねぇ。


「ベルネ様。アンコとキナコって誰ですか?」

「アンコは左のイケメン馬の事で、キナコは右の美人馬の事よ。この子達は、魔力と家系を鑑みて掛け合わせて産まれた子なの。赤ちゃんの頃から、栄養のあるミルクで大事宝に育てて来た名馬なのよ。ウフフ、しかもねぇ。アンコには火属性の魔力があって、キナコには水属性の魔力があるの。もぉ〜、可愛くて、可愛くて仕方ないのよ!」

「はぁ〜。それと……」

「ナナ様。如何なさいますか? このまま進めてもよろしいですか?」


 話に割り込んで来たのはハンナ。

 確かに彼女の言う通りね。

 どうしましょう?


「ハチ、ロク、忠大。どうする?」

『はっ。ベルネ様の仰る通り、この書類があれば何の問題もなくノホポロスを糾弾する事は可能かと存じます』

「だったら、永遠に眠ってもらう?」

『あたしはベルネの意見に1票ニャ』

『僕も!』

『不安な芽は摘んでおくに限るかと存じます』

「みんな過激ね。でも……これからのコトを考えると、眠らせるとくのは勿体無いわ。なんとか矯正できないかしら?」

『姫様。拷問も尋問も矯正も同じかと存じます。如何でしょう。魔術“ヘルシャフト”で改心させてみたら』

「イヤイヤ、同じじゃないし。でも……“ヘルシャフト”で改心ねぇ……良いじゃない。それで行きましょう」

『でも、落とし穴はどうするワン?』

「え? なんで分かるの?」

『ちょっと待つワン』


 ヒラリと舞い降り、外に出たハチ。

 暫しの沈黙の後、自信満々で言い切ったわ。


『ここから15キロ行った出口付近で、馬が落ちるぐらいの落とし穴が今完成したワン』

『ボク達、狙われているの?』

『ワタシ達じゃなくて、ママよ! ママ! ママは有名人だもの』

「ハチ。私を乗せてくれる?」

『はいワン』


 ウフフ、分らないと思って話しているわ。

 ママ……誰のことかしら?


「ママって、ベルネ様の事?」

『ボクの言っていること分かるの? ? ?』

「分るわよ。それが私の能力ですもの。ねぇ、ママって、誰なの?」

『ワタシの言っている事も分かるの?』

「もちろんよ」

『だったらママに伝えて! いつもありがとう。大好き! って』

『ボクも! だ〜いだ〜いだ〜い、好き! がいい』

「ママはベルネ様のこと?」

『そうよ。ママはママよね』

『だね』

「ウフフ、伝えるわ。ベルネ様。キナコちゃんから“いつもありがとう。大好き! ”で、アンコくんからは“だ〜いだ〜いだ〜い、好き! ”と言っていますわ。本当に大好きが溢れていますわね」

「アンコ、キナコ。私も大好きよ」


 馬車から降りてきたベルネ様が、2匹の馬に抱きついたの。

 愛おしそうな顔をしていたわ。

 私とベルネ様が降りた事で、不審に思ったみんなも下車してしまったの。

 その時、私の目に飛び込んできたのが……。


「その手があったわね。ちょっと集まってくれる!」




 洞窟の出口から、3つの影が現れた。


「ラキ兄。コレくらいでいいんでやんすかぁ?」

「あぁ、いいだろう。落とすのは馬だけだし、いいぜ。そんなことより、タイミングは理解してるか? 確認するぞ! 馬が落ちたら、カツとケナで攻撃しろ。出てきたところを俺の灰が襲う。混乱に乗じて拉致るぞ。猫とネズミだ。間違えるなよ」

「「お〜!」」


 出口付近の岩陰に潜んだ。


「ラキ兄! 来ました! 3、2、1、0……兄ィィィ〜? ? ?」

「馬鹿! 項撃しろ! 馬を狙え! 足を止めるんだ! クッソ〜、面倒くさい! 馬車をやれ! は……」

「「兄……」」

「チュウ“チュウ・チュウ”」

「ヒヒヒィン!」


 ガチャ!

 私はハチの背に乗り、馬車を降りたわ。


「ドウドウ、落ち着いて、大丈夫だから落ち着いて。ウフフ、浮いているだけだから平気よ。ハチ、よろしく」

『はいワン。魔術“アースカリメリ”』

「初めまして、私はルジーゼ・ロタ・ナナですわ。えっと……3馬鹿勇者さん」


 何がどうなったのかぁ!

 答えは簡単ですわ。

 そもそも、馬車は走っていませんでしたの。

 エディの魔力で低空飛行をしていたんです。

 飛んでいれば落ちませんものね。

 アンコくんとキナコちゃんの鼻先が出口をさした瞬間、3つの影が立ちはだかったわ。

 でもね!

 出口の逆光を背に受けて、驚いているんですもの。

 忠吉、忠中、忠末がスキル“影法師・影縫い”で、死なない程度に動きを止めさせていただきましたわ。

 さて、地面も元に戻ったことですし、訳も分からぬまま死地へ送られるのも可愛そうですものね。


「貴方達が欲しかったのは、この子達ですわよね」


 固まって身動き取れない3人と私の間に、ロク、忠大、忠吉、忠中、忠末が並んだわ。

 魔獣化の恐怖を植え付ければ反抗などしないわよ、ね!

 そう考えて許可する矢先の事だったわ。

 ロク達の前に現れた人がいたの。

 3馬鹿勇者の目と鼻の先よね。


「やぁ! 灰土の勇者ラキアム、陰火の勇者カツクボ、怪火の勇者ケナス。私が誰だか理解できるなぁ。忠凶からの報告書を読ませてもらったよ。ナナくんの進言通りにする事に、し、た、よ」

「まぁ、ルバー様。悪い顔をしていますわよ」

「ナナくん。今回の事は済まなかったね。こんなに早く動くとは思ってもいなかったから……済まなかった。それにしても、ネズミ隊は素晴らしい。この誓約書とリストがあれば、さすがのノホポロスと言えども言い逃れが出来ないだろう。ありがたく使わせてもらうよ」

「リストって何? ?」

『はっ。ノホポロスが抱えている、勇者の名簿でございます。そこには勇者の家族構成から、借金の有無。好き嫌いや弱点など事細かく書かれておりましたので、ルバー様へとお持ちいたした次第です』

「そんなモノ何処から持って来たの?」

『その……落ちておりましたので……拾って届けただけにございます』

「はぁ〜。で! 届けたのがルバー様だったのね。忠大」

『はっ』

「まぁ、いいわ。ノホポロスでもブタボロスでも何でもいいわ。舐めるように、ロクやネズミ隊を見ていたでしょう。気持ち悪かったもの、ルバー様に丸投げしますわ」

「アハハハ! もちろんいいとも。タップリ遊んで、あ、げ、る、ぞ! アハハハ……覚悟しろよ」


 最後の一言に力が篭っていたわね。

 ルバー様はネズミ隊から3馬鹿勇者を受け取り、迎えが来るまで遊ぶそうですわ。

 魔術“ヘルシャフト”でね。


 さて、私達は馬車に乗り込み出発したわ。

 滞り無く進んだのわね。

 平和だったわ。

 ハンナの宣言通り、マーウメリナ地方最後の村ケセベソートを寄り道せずに素通りしたわ。

 私達が通る前に、先遣隊としてベルネ様の配下の人が食料や貴族様が通る事を先触れしていたみたいなの。

 窓から見た村の様子は……何も無い田舎町ね。

 でも、寂れているわけでは無いと思うのよ。

 だって、この村を抜けたて5キロほど行くと大きな洞窟が見えたもの。

 そして、気温も下がったわ。

 半纏が欲しくなる気候へと突入した事を告げる寒さだったわね。

 その、洞窟何だけれど……馬車が楽々通れるほどの大きさに私達はお口あんぐりしたわ。


「ナナ様。ここが布団で寝れる最後の地です。後は馬車で寝泊まりして頂きます。ゆっくり休んで下さい。お食事はベルネ様の料理番に頼みますから、出来上がり次第、お知らせいたします。さぁ、エディくんもホゼくんもマノアさんも青森せいしんさんも、休んで下さいね。遊んでも騒いでもダメですよ! もう一度言いますよ。遊んではダメですよ! ちゃんと部屋にいて下さい! 確認しに行きますからね!」

「「「「「は〜い」」」」」


 何度も念を押されたの。

 ウフフ、とりあえず部屋に入ったわ。

 エヘヘ、そして直ぐに飛び出し探検したの。

 当たり前よね!

 だって、ここは……洞窟の中なのよ!

 入り口は馬車が通るほどの大きさだったんだけれど、ものの5分ほどで目にしたのは、豪華な洋館だったの。

 金持ちの別荘ぽい建物が1軒あったわ。

 壁には規律正しく真珠が埋め込まれていて、魔術“ホワイトランプ”が煌々と灯っていたの。

 決して暗くはないわね。

 別荘の中は1部屋1部屋は確かに狭いわ。

 でも、寝心地の良いベットにチリひとつない部屋。

 なかなか良いじゃないの。

 探検してると、みんなに出会ったわ。

 考える事はみんな同じね。

 ハンナに呼ばれて晩御飯が始まった。

 豪華な食事に舌鼓。

 お肉料理がメインだったけれど、どれも美味しかったわ。

 肉は肉らしく。

 赤身の肉が塩だけの味付けなのに、口に入れると芳醇な味と香り。

 最高の晩餐だったわね。

 も、も、もちろん野菜も食べたわよ!

 ただ、マヨネーズが恋しかったわね。

 恋バナでも………と思ったのに案外、疲れていたのね。

 みんな直ぐにベットに入ってしまったの。

 と、行っても真っ先に寝てしまったのは私だったんだけれどね。


 さぁ!

 後は馬車で2日、寝泊まりしたらバカンスが私を待っているわ!

 楽しみよね!

 ベルネ様の娘さんにも会いたいわ。

 そうそう、長女のロキア様はホゼと婚約しているのよね。

 でも、1番の目的は白熊のアイザックよ!

 貴方に会いに行くわ!


夏休み突入です。

3馬鹿勇者の行く末が気になりますが……まぁ、ルバー様が真っ直ぐに矯正した方でしょう。

可哀想なので割愛いたします。


次回予告

「お、お姉ちゃん! 来るんだよね! ママの……」

「マナス! それ以上、行ってしまうと予告になるわ! 姉である私、ロキアがいたします!」

「お、お姉ちゃん!」

「次回予告、馬車は順調に進みベルネの屋敷へと到着する。そこに待ち受けていたのは! 体の弱い娘と目の見えない娘がいた。ナナは彼女達と仲良くする事ができるのかぁ? そして、ナナは重要な忘れ物をしていることに気がつくのかぁ? 怒涛の夏休みの幕が上がる! こんな感じでいいのかしら?」

「お姉ちゃん! カッコいい!」

「そ、そうかしら? エヘヘ〜」

「エヘヘ〜」


先行して姉妹に登場して貰いました。

基本仲良し姉妹ですよ。

ただ……何が起こるのかしら?


それではまた来週会いましょう!

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