6話 あらあら、ロクは猫ハチは犬?ですって
コンコン……コンコン……。
「ナナ様、起きて下さい。朝は健やかに眠られておりましたので、起こしませんでした。さぞかし、お腹も空いているのではありませんか?お昼には少し早いのですが、お食事をお持ちいたします。大丈夫ですか?」
扉の向こうでハンナが話しかけてきた。
少しだけ緊張が言葉の中に混じっている。
私が異世界人だから?
それとも魔獣がいるから?
「大丈夫です。ハンナ、私が怖い?それとも魔獣が怖い?」
「私が!ナナ様を怖がるなど、あるはずがありません。魔獣は確かに怖いですがロクやハチは怖くありませんよ。2匹ともナナ様の事が大好きなのを知っていますから怖くありません」
「だったらなぜ?その扉は開かないの?」
「それは……私は怖くなくても、このお屋敷では怖いと思っている人がいるという事です。ナナ様、ガロス様がお話をしたいとのことです。今から行けますか?」
「もちろんよ」
「では、開けますね。……早く開けなさい」
強い口調のハンナ。
隣にいるであろう人に話していた。
すると程なくして扉が開いたわ。
入って来たハンナの左手には、トレイに卵のサンドウィッチとミルクが入ったグラスが乗っていたの。
右手にはボールが2個にパンくずや野菜クズ、さらにミルクボトルなどが入ったバスケットを持っていたわ。
「ハンナ、それはなに?」
「え!ナナ様のサンドウィッチとミルクです」
「いやそうじゃなくて。右手に持っているバスケットはなに?」
「ロクとハチのご飯です」
「え!!ロクもハチも魔獣よ……ご飯、食べる?」
思わず聞くと、2匹とも首を横に振ったわ。
『でも食べるワン』
『そうね。あたしも食べるニャ』
「うふふ……。ハンナ、食べるって」
「ほら!持って行った方がいいって言ったでしょう。今すぐ用意しますから少し待っていてくださいね」
「ハンナ……ありがとう」
「私はナナ様の事をずっと見て来ましたから。それにロクもハチも、私は側で見てきました。
ナナ様の事を慕っている事は、見ていればすぐにわかります。はい、どうぞ。ゆっくり食べてください。ネズミ達はチーズでいいかしら?よさそうね。早食いは消化によくありませんからね」
「はい!いただきます」
「ワン」
「ニャ」
「「「「「チュウ」」」」」
ロクもハチもネズミ達も、魔獣だからお腹はへらない。
それでも食べたのは嬉しかったからだ。
もちろん私も嬉しかった。
ハンナは私達の味方。
今も昔も変わらない私の味方。
「美味しかったわね」
『美味しかったけれど、あたしは肉が欲しかったニャ』
『なんでそんな事を言うワン。僕達に用意してくれた優しさを噛み締めるワン』
『ちぇ!いい子になるニャ。いつもは、肉・肉・お肉!とか言ってるくせに』
『やるかワン』
『やってやろうかニャ』
といつものじゃれ合いが始まってしまった。
それを見ていたハンナは嬉しそうに後片付けをし始めた。
「も!じゃれ合いはしないでよ。それはそうと、ちょつと思ったんだけれど。
ロクは元が猫だから言葉の端々にニャとつくのは理解できるの。ハチはなぜワンと言うの?ウルフもイヌ科だからかしら?」
『え!犬ってワンと言わないとイケないんだよね。だってロクはニャって言ってるし、僕は犬だからワンと言わないと……違うの!?』
『あははは!ハチはどこか抜けてるよね。あたしがニャと言ってしまうのは、ナナの言う通り元が猫だからね。ついつい出ちゃうのさぁ』
『姫様、ロク様。おそらく、ハチ様はご自分が犬に変化している事を忘れないために、ワンと言っているのです。姫様も時々、私は若いを言っているではありませんか。それと同じです』
『そう!そう……ワンよ』
『あははは!そういう事にしといてやるニャ』
「うふふ、そうしましょうね」
と他愛無い話をしているとハンナが申し訳無さそうに話しだした。
「ナナ様。……ガロス様がお話をしたいとおしゃっています。今からすぐに行けますか?」
「もちろんよ」
「では行きましょうね」
私を抱え上げたわ。
ちなみに私の服装は昨日と同じ。
そしてそのまま扉を出ようとしたので暴れて叫んだの。
だって……。
「ハンナ!ちょっと待ってよ!私1人だけ?そんなの嫌よ!下ろしてよ。
私はハチやロクやネズミ達と一緒にいるの!下ろしてよ!!」
「ナナ様!暴れないで下さい!分かりましたから!下ろしますから!」
思いっきり暴れてやったわ。
然うは問屋が卸さないんだから!
私がこの子達を絶対に守るの。
私が側に居れば討伐される心配が減るものね。
今度こそ間違えないんだから!
子供だからとか足がないからとか、そんな理由で私からこの子達の命を奪う事は出来ないんだからね!
固く心に誓う私とは裏腹にハンナは外に向かって大声で怒鳴ったの。
「ほら!私の言った通りでしょうが!こうなったナナ様は梃でも動きませんからね。だから始めっから説明をしてみんなでガロス様の元に行くほうが早いと言ったのに!!
私が1番、ナナ様の事を知っているんですから。こんな2度手間……もう!」
今もブツブツ言っているハンナ。
私を近くのソファーに下ろして説明してくれた。
「ナナ様。申し訳ございません。私は進言したのですが……はぁ〜。これからなんの変哲も無い檻をお持ちします。そこにハチやロクやネズミ達を入れてください。その上にナナ様をお乗せします。これならガロス様の元に行ってくれますね」
「檻!」
私が驚いていると、扉が大きく開き台車に乗った檻が入って来た。
持ってきたのは男性兵士、台車を置いてそそくさと部屋を出て行ったわ。
檻の大きさは100センチ四方の鉄製の檻。
そんな風に私には見えたわね。
するとベッドから忠吉と忠凶が飛び降りて檻を凝視し、私の元に来たの。
『姫様。僕が見るからにマジックアイテムでも無いですし、特別製の檻でもありません』
『姫様。ボクが見るからに魔術類もスキル類も、何もかかっておりません』
そう報告したわ。
この光景を見ていたハンナは、ニコニコと微笑みながら檻の中に毛布を敷いて温かくしてくれた。
ハンナは今でもロクとハチをペットとしか思っていないのよね。
「では入って下さい。この檻なら、有事の際に貴方達もナナ様をお守りできるでしょう。ナナ様はいつもの椅子を用意しましたのでそちらに座ってください」
檻の上には私がいつも使っている、脚の短い子供用の椅子と大きめのクッションを置いてくれた。
ハンナは危なくないように子供用の椅子の脚を切り、テーブルを低くして、私に合わせてくれるの。
本人はただ笑って、ナナ様が可愛いから役得ですと言うばかり。
まったく、ハンナはメイドとしては至らないところもあるけれど、仲間を思う冒険者として見るならばこんなに心強い味方はいないわね。
「ナナ様。ゆっくり進みますから……うふふ、視界が高いので楽しいですね!」
確かに、正面こら見る世界は違って見えた。
台車の高さが約20センチ、檻の高さが100センチ、椅子に座った私の座高が65センチ、合計で185センチという事は……。
「ナナ様!今、計算したらガロス様の身長と同じ高さですよ!」
「え!そうなの!」
お父様の見ている景色。
天井が近く、遠くまで見通せる視界。
でもコレでは足元が見えないわね。
「ハンナ」
「はい」
「ハンナは勇者よね」
「は…い、そうですが」
「だったら、お父様の足元には気を付けてね!」
「え!?」
「だってこんなに高くて遠くまで見通せる身長なのでしょう。でもコレでは足元がよく分からないわ。私なら転んじゃうわね。お父様が転んじゃったら可哀想でしょう」
「あははは!はい!足元には重々気をつけますね。うふふふ……」
「も!そんなに笑わないでよ!私、変な事を言ったのかしら?」
『言ったニャ』
『だね!僕もそう思うワン』
「も!ロクもハチも同意しないでよ!」
と下を見ようと前屈みになってしまった。
するとどうなるか!
答えは簡単、前に転げてしまう。
120センチの上から落ちようとした瞬間、ハンナの腕が私の胴を抱えた。
さすが勇者!
鍛え方が違うみたい。
もちろん私は、怒られた。
「ナナ様!突然、動かれたら危ないでしょう!おしゃべりはいいとしても動いてはいけません」
「はい、すいません」
「お怪我はありませんか?」
「はい!無いです。助けてくれてありがとう」
「大したことはございません。ご無事で何よりです」
大したことないと言ったがハンナ本人は、自分の反射神経に満足したようだ。
ドヤ顔がそれを証明していたもの。
「そう言えばロク」
「動いてはダメですよ」
「分かっています。ねぇ〜ロク!」
『なんですかぁニャ』
「ロク……化け猫スタイルではないの?」
『ニャんですと!化け猫スタイルって……ネズミ達に聞いて練習したニャ。ナナが寝ている間にね。あたしだってやれば出来る子なのニャ!』
とロクが絶叫したところでお父様の執務室に到着したわ。
お父様は何を話したいのかしら……私とハチとロクとネズミ達の事よね。
気を引き締めないと、負けないんだからね!!
ナナの闘いは続きますね。
話は変わりますが……。
あの“猫派”と“犬派”は何でしょうかね。
その派閥分けは必要ですか?
猫には猫の、犬には犬の、可愛さと良さと面倒くさいところがあっていいと思いません?
猫のツンデレなところも可愛いし、犬のつぶらな瞳も可愛いし……それで良いような気がします。
ちなみに私はアレルギーがあるので猫を愛でつつ鑑賞する事は出来ても抱っこする事が出来ないので非常に残念です。
犬は……3年前?19年生きた犬を天国に送っていらいタイミングが合わずにいます。
猫も犬も可愛いですね。
それではまた来週、頑張って更新いたします!