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51話 あらあら、創造(クリエイト)ですって

 私は物凄く怒っているわ。

 くだらないクラーネルの悪戯でとんでもない目にあったもの。

 ハチの頑張りが、私を助けてくれたわ。

 ヒコモンターニュ運動公園へ歓迎遠足の途中、ダンジョンルートを歩いていた私達。

 前を行くのは勇者クラス1年生チンピラ、もといクラーネルが道標をあさっての方向に向けた事で、私は蟻地獄にハマり砂の中へと入ってしまったの。

 そこから出るためにハチは、竜の祠から土属性の魔力を取り込み大神おおかみへと進化を遂げたわ。

 役に立たなかったのは……私。

 みんなと合流して、クラーネルだけではなく腹いせに勇者全てを振るいにかけてやったわ。

 進化したハチの魔術が炸裂して、勇者の半分弱が尻餅をついていたの。

 腰抜けどもめ!

 さて、クラーネルの高々と反り上がっている鼻っ柱をへし折ってやるわ!


「さぁ! 語らいましょう。クラーネル」

「や、や、や、やってやる。バザ! クケ! やるぞ!」

「はっ」

「え! は、はい……」


 ウフフ、可笑しいわね。

 バザは、標準体型秘書なだけあってクラーネルの言いなりだわ。

 でも動けるデブのクケは、違うみたいね。

 嫌々が顔に出ているもの。

 まぁ、平等にへし折ってやるわ!

 私の怒りを受け止めなさい!

 勇者クラスの先生とルバー様が腰砕けの女子、テデシアとユユミナとフレヤーを抱きかかえ避難させたわ。

 改めて対峙する、私とハチと3人の勇者達。

 辺りは静寂に包まれたわ。

 運動公園の名は伊達じゃないの。

 東京都が丸っと入るほどの広さをほこり、魔術の訓練からスポーツまでなんでも出来る草原なのよ。

 その一角、ドームの広さの真ん中に私達は陣取ったわ。

 フン!

 私からは頭しか見えないんだけれどね。


「ハチ。全て貴方に任せるわ。殺さない程度に、宜しくね」

『はいワン』


 何が嬉しいのか、激しく尻尾を揺らしていたわ。

 砂埃が舞うぐらいにね。


「始め!」


 ルバー様の一言で試合が始まった。

 さすが勇者……と言いたいけれど、てんでんバラバラなんですもの。

 連携のれの字も無いわ!

 ハチは面倒くさそうに魔術を発動させた。


『サンドウォール』


 砂の壁ですわね。

 万里の長城かよ! と言いたくなる程の大きさと長さに驚いたわ。

 このウォールシリーズと呼ばれている魔術だけれど、各属性にある防御術みたい。

 その中でもサンドウォールは最弱の防御と呼ばれているの。

 砂だから仕方がないわね。

 それに、土属性は防御に特化した属性で、サンドウォールでは無くアイアンウォールを使う人が多いんだって。

 さらに言うなれば、ドームシリーズもあってTPOに合わせて活用するみたいよ。

 そうなの!

 この子ったら、わざわざ弱いサンドウォールを防御術として発動するなんて……。


「ハチ、大丈夫なの? この技で平気?」

『フン、平気ワン。弱いヤツらに合わせてやったワン。そうだ! そんな事より、面白い事を思い付いたワン! ……エンリャ! コウリャ! ソウリャ! ……出来た』


 突然、変な掛け声と共に出来上がった物とは?


「はぁ~。貴方、何を作ってんの?」

『う~ん……気に入らないワン。サンドウォール』

「ちょっとハチ! ハチったら! 貴方何をしているの? 答えてよ」

『少しだけ待っててワン。ソウリャ! よし! 完璧ワン!』

「はぁ~」


 そうなのよ。

 ハチったらサンドウォールの内側に、風の魔術で私の砂像を彫っちゃったの。

 さらに、気に入らなくてやり直す始末。

 それにしても、上手い具合に彫り上げたわね。

 砂の壁から私が飛び出している姿。

 風を鞭のように操りながら打ち付けるようにして、あっという間に創り上げたサンドアート。

 でもねぇ~。


「ハチ! なに遊んでいるの! 真面目に戦いなさい!」

「だって……暇だワン。相手にならない……ワン。おぉ! 来た来た」


 待ち人が来た! みたいな言い方をしないの。

 まぁ~、本当に左からクケが右からバザが走り寄って来ているんだけれど……う~ん……サンドウォールが長くって迫力に欠けるわね。


「やってやる! ストーンランセ!」

「ウォータースピア!」

『サンドウォール』

「ハチ? ! 大丈夫なの?」

『平気ワン』

「キャ!」


 その言葉通り、どちらの魔術に対してもサンドウォールで対応できていたわ。

 で・も・ね!

 ハチが思い描いていた状態になったのか! と言われれば、全く違っていたの。

 現状で言えばハチの負けね。

 クラーネルの目的は、私を攻撃する事ではなく目の前のサンドウォールを破壊することだったみたい。

 その証拠に、目の前のサンドアートを施した壁が脆くも崩れ落ちたわ。

 こうなると無惨ね。

 なぜ、こんな事になったのか?

 クケの前に出した壁はストーンランセ、石つぶてで相殺になったわ。

 そして、バザの前に出した壁は、そのままの姿で存在している。

 じゃ、彼が放ったウォータースピアはどこに刺さったのか?

 それは、私の砂像の後ろで薄くなった部分に直撃したわ。

 表からはクラーネルがウインドスピアで常に攻撃していたようね。

 上手い事、連携が取れていたじゃないの。

 やれば出来る子だったんだ。

 でも、ハチの方が上手よね。

 だって、この子ったらウォールシリーズで最弱と言われているサンドウォールしか使っていないんですもの。

 完全にチンピラ勇者達の事を侮っている証拠よね。

 はぁ〜。


「ハチ、真面目に戦いなさい!」

『は〜いワン! ちょっとだけ本気になるワン! アースカリメリ』


 足をふみ鳴らしたわ。

 すると、なんとまぁ〜。

 クケとバザは私の目線まで上がり、クラーネルは電話ボックスがスッポリ入る程の深さに下がったわ。


『先ずはお前達からだ。ストーン……』

「クラーネル、バザ、クケ。魔力低下により試合終了! 勝者、ナナ、ハチ!」


 ルバー様が乱入したわ。

 手を交差してクラーネルの穴を覗き込んでいたの。


「ハチ。元に戻してあげて」

『はいワン。解』


 全ての術を解除して、真っ平らな大地へと戻したわ。

 そこには、屍のような3人が横たわっていたの。

 だらしないわね。


「ハチ。魔獣化を解いて、伏せをしてちょうだい。クラーネルと話がしたいわ」

『はいワン。解』


 ウフフ、同じ言葉なのに起こった現象がまるで違うのね。

 ハチが認識しての発動だからだとは思うのだけれど、面白いわ。

 元の姿に戻ったハチが、クラーネルに近づいた。


「クラーネル! 目を覚ましなさい」

「ゔぅ……」


 ヘタレ込んでいた彼が、重たい頭を持ち上げて私を見たわ。

 焦点の合わない目で、必死に私を睨んでいたわね。

 肩で息している癖に、粋がってんじゃないわよ!


「フン、随分苦しそうね。どうかしら、貴方の実力が分かった?」

「…………」

「喋る事が出来ないのは、肉体的疲労? それとも、精神的苦痛? ……どちらでもいいわそんな事!

 どう、技倆の差が理解できたかしら? 歴然よね。そんな中でも、見事な連携だったわ。クケが囮で、バザと貴方の魔力で、ハチの魔術を壊した。それは、素晴らしかったわ。特にバザの洞察力には参ったわね。私の砂像に驚いたはずなの、それなのに弱い所を瞬時に判断して攻撃の的にしたわ。賞賛に値するわね。だけど、その後がいけないわ。結局、ボロボロじゃない。何も出来ずに……死ぬだけよ。

 あら? そんな事など起こりえないと言いたそうな顔ね。本当に馬鹿! 貴方達は本当に馬鹿だわ! 勇者至上主義なんて掲げているから、こんなくだらない馬鹿者が産まれてくるのよ! 目を覚ましなさい! ! 傍観している貴方達もよ、と言ったところで聞こえないわね」

『良い方法があるワン。ソォ〜リャ〜』


 ハチの変な掛け声で、私から優しい風が吹き渡ったの。


「え! キャ! ハチ、大きすぎるわ」

『ごめんワン。今、小さくするワン。……よし! これでいいワン』

「マイクテス、テス、テス……大丈夫ね。

 それでは、ここに居る全ての勇者達よ。私の話を聞いてちょうだい。

 貴方達は、弱いわ。もちろん、クラーネルより強いと自負している人もいるでしょう。でも、よく思い返して貰いたいわね。クラーネルとバザは貫通力のあるスピアシリーズで攻撃してきた。囮のクケは見た目の威圧感と派手な攻撃で、私とハチの気を引くことに成功した。素晴らしい連携ね。でもこの中には、自分達の方がもう少し上手い連携が取れると考えているわよね。………甘いわ! とことん甘いわ!

 ハチはね。ウォールシリーズ最弱のサンドウォールでの防御魔術しか使っていなかったのよ。サンドでは無くストーンだったら、どんなに足掻こうとも破壊する事は叶わなかった事でしょう。だったら何故、使用しなかったのか? 簡単な答えよ。貴方達が弱いから、サンドで十分と判断したの。こんな事が出来るのは、ハチとロクだけでは無いわ。

 あの山の向こうには、夥しい数の魔獣や魔族が居るのよ。目を覚ましなさい! 異世界人やら勇者やらと区別や差別をしている暇があったら、自分達の魔術の考査や魔力の鍛錬でもしてなさい! そうしなければ、貴方の大切な人達が……死ぬわよ。

 この世界に人族は誰も居なくなるわね。だったら、今何をすべきか考えなさい。最後に、もう一度言うわ。死にたくなければ、大切な人を守りたければ、今何をすべきか考えなさい! ……ハチ、行きましょう。言いたい事は言ったわ」

『はいワン』


 私は踵を返してみんなの元へと歩み寄ったわ。

 後の事はルバー様に丸投げしましょうね。

 出来る人がやれる事をする。

 明瞭簡潔よね。

 私へと1番に寄ってきたのはもちろん……。


『ナナ! あたしがナナの魔力なのに! こんな奴と並んじゃったニャ〜。あたしも進化する!』

『な、な、なんだとぉ〜』

「ロクもハチも、落ち着きなさい。ハチの土属性は防御に適している魔術が多いと聞くわ。攻撃だけで言ったらロクの方が上よ』

『ナナに言われると凹むワン』

「ハチもロクも……」

「はぁ〜。ナナくんの言う通り、土属性は防御に適しているがそれだけでは無い。使いやすいのが防御魔術と言うだけで、熟練度が上がれば一撃必殺の技を放つ事ができるよ。はぁ〜。ナナくん。詳しく話を聞くよ。

 ハンナ! ユント! 勇者クラスは衝撃から立ち直れないから、先に異世界人クラスから帰りなさい。すぐ僕も後を追う。はぁ〜。くれぐれも寄り道をするなよ。ナナくん!」

「なんで私だけ名指しなの?」

「ナナくん!」

「はい、はい、分かりましたよ」


 私達は有無を言わさず、ハンナとユント先生に連行される格好で学園へと戻って来たわ。

 行きはアレだけ時間がかかったのに、帰りはあっという間ね。

 それもそのはずなのよ。

 ダンジョンルートには近道があったみたの。

 さらに、抜けた先には馬車が用意してあったて、もちろん乗って楽チンで帰って来たわ。

 でも、その後が怖いわね。

 私達は、遅めのお昼を教室で食べて解散したわ。

 私はそのまま、ルバー様の元に直行ね。

 そこには、お父様も居たわ。

 ここはギルドの塔の最上階、ルバー様の個室。


「ナナ。説明しなさい」

「お父様」


 ハンナに促されて部屋に入ったわ。

 そしてハチから椅子に移ったの。

 はぁ〜、まるで犯罪者ね。


「すべて話しますから、そんな怖い顔をしないでください。お父様」

「……すまない。まさかここに来て、ハチが進化するなど思っても居なかったので戸惑っている」

「確かに、そうですわね。私も驚いたし、怖かったわ。これだけは分かって欲しいの。進化をする為に、竜の祠から魔力を取り込んだのでは無いわ。落ちた抜け穴から出る為には、仕方がなかったの」

『姫様。少し違います』

「え! 忠大。どう言う事?」

『はっ。アノ竜の祠は、土属性の竜を祀ってあったと考えます。そのため、あの場所一帯が土属性の濃ゆい魔力により、スキルの発動を阻害していたと思われます。おそらくですが、同じ土属性の者が居ればハチ様が進化せずともすんだと考査いたします』

「……そんな大切な事を今言わないでよ!」

「忠大はなんと言ったんだい?」

「ルバー様。そんなニコニコ顔で話さないで下さい。今話しますから、はぁ〜。私とハチが落ちた場所は土属性の竜を祀ってある祠だった様です。そこは濃ゆい魔力で、スキルすら使う事が阻害された場所だったみたいです。で、ハチが祠の竜の魔力を取り込まなければ脱出する事が出来ない……と思っての行動だったんですけれど。忠大ったら今頃、同じ土属性の人が居たらハチが進化しなくてもよかったんでは無いか、と言ったんですわ」

「アハハハ! 確かに、その通りかも知れないね」

「それは違うと思います」

「ハンナ?」

「ルバー様もガロス様も見ていないから楽観視しているのです。あの蟻地獄に、石が吸い込まれる姿は思い出しても恐怖しかありません。どうやって下まで落ちたのですか?」


 ハンナが、お茶とお菓子を用意しながら助け舟を出してくれたわ。


「アレは、ハチがスキル“闘気功・纏”を分厚くして、風の魔力で砂地の中にある空気を中に取り入れたみたいですわ」

「凄いですね。ガロス様にも出来ますか?」

「出来るが、俺の場合、風の魔力石が必要になる。それよりもナナ、ハチよ。怪我は無いなぁ」

「はい、お父様。何処もありませんわ。でも……ハチの白い毛が、赤く染まっていく姿は2度と見たくありません。あんな想いをするくらいなら、進化などさせませんわ」


 私は横でお座りをしているハチを抱きしめた。

 耳元でゴメンと謝ってくれたわ。

 さらに、ギューと力を込めたの。

 あなた達のうち1人でも欠けたら、私は生きていけないわ。

 その想いを込めて、さらに、さらに、ギューギューしたの。

 苦しかったかしら? と思ったら嬉しそうにニコニコしているんですもの!

 少しだけ腹が立ったわ。

 ハチと戯れていると、ロクもすり寄って来たの。

 だから、同じ様にギューギューギュー! としてあげたわ。

 ロクもハチ同様に、楽しそうにゴロゴロ喉を鳴らしているんですもの。

 私の力ではコレが限界ね。

 などと思っているとルバー様が笑顔全開で、何かをテーブルに置いたわ。


「ナナくん。ハチくんを借りるよ。コレにアノ魔術を使って見てくれ!」

「はぁ? ? ?」

「ホラ! ハチくんがサンドウォールにナナくんの砂像を掘った魔術だよ! あんなの見た事ない! 早く、早く、早く!」

「ルバー様。落ち着いて下さい。それよりコレは何ですか?」

「コレかい? コレは土属性の魔術を考査する時に使う砂箱だよ」


 そうなの。

 目の前のテーブルには、家族6人が食卓を囲める程の大きさの白い箱が置かれていたわ。

 高さも、ハードカバーの本5冊分ぐらいの深さで中には、半分強の砂が入っていたの。

 う〜ん、例え話がヘタね。

 大きくて少し深い箱の中に砂が入っているモノがテーブルに置かれていた、が分かりやすいかしら?


「ハチ。私のサンドアート、出来る?」

『出来るワン。でも……アノ魔術は名前もないワン。それに何処か変なんだよね』

「どんな風に?」

『う〜ん……まぁ! 見てみるのが早いよね』


 そう言ったハチは、テーブルの箱に前足をかけて砂地に触れながらサンドウォールを使ったわ。

 何だか、テーブルの上のおやつを盗み食いする犬の様でおかしかった。


『サンドウォール。ソウリャ! よし、完璧だワン』


 見事な私の砂像が、砂の壁からニョキっと立像していたわ。


「ねぇ、ハチ。コレは風属性よね」

『違うワン。僕は別に風の魔力を使ってないよ』

「え? どう言う事なの?」

『う〜ん。頭の中で思い描くワン。する時、術が発動する感覚があって出来上がるワン』

「へぇ〜」

「ナナくん……説明をしてくれるかい?」

「あ! はいはい。ハチの話だと、風の魔力を使ってはいない様です。サンドウォールの前で、頭の中で考えた図案を思い描くだけで、魔力が発動したそうです。そうねぇ……創造クリエイトってどうかしら? 想像して創造する。クリエイトする力って凄いもの! ハチの砂像も本当に見事だったわ」

『ナナ! ありがとうワン!』

『あたしもする!』


 箱の中に入った、ロクをルバー様が抱き上げたわ。

 その目にはこれまで見たことの無いような、煌きが宿っていたの。


「ガロス。コレはとんでもない魔術かも知れない。ハチくん、申し訳ないがこの砂像を壊してくれるかい」

『はいワン。解』


 ハチは砂像とサンドウォールを元に戻したわ。

 ルバー様は砂の上にロクを置いて、御自身でサンドウォールを発動させたの。


「よしよし、コレで次は、頭の中で出来上がりを想像して創造する訳かぁ。う〜ん、よし! 創造クリエイト。おぉ! ……ナニ! !」

『『ナナ! 新しい……属性?』』

「ハンナ! ステータスの魔術欄に創造クリエイトは記載されているかぁ?」

「はぁ? えっと、それらしき魔術は載ってないです」

『姫様。私のステータス画面にもありません』


 ルバー様とハチとロクはビックリ顔で、私とお父様とハンナとネズミ隊はハテナ顔をしているわ。

 説明プリーズ!

 ルバー様を見ると突然、笑い出した。


「アハハハ! コレは凄い! アハハハ!」

「ルバー! 笑ってないで説明しろ!」

「すまない、すまない。この世に無属性の魔術が誕生した瞬間だったんだ。コレを笑わずにいられない」

「無属性だと? !」

「そうだ。恐らくだが、ハンナには記載がなく僕にはあった。ハチくんとロクくんの喜び様と、ネズミ隊の落胆の様で何となく想像出来る。導き出される答えは、属性が2種類以上の保有者にしか使えない魔術と言うことだ」

「ですがルバー様。ハチは創造クリエイトを使った時、風が吹いていましたわ」

『ナナ。ステータスの魔術欄にはカッコして無と書いてあるんだワン』

「あら? そうなの。だったら尚更、訳わからないわ」

「まぁ、そうだろうねぇ。見て見るのが早いよ。ストーンランセ。アイアンランセ」


 ルバー様は突然、魔術を発動させ。

 晩白柚サイズの丸石と同じサイズの鉄球を出し、ハチとロクの前に置いたわ。


「さぁ、ハチくんとロクくん。創造クリエイトを使ってくれたまえ」

『了解ワン』

『はいニャ』

「ルバー様何を」

「まぁ、まぁ、見ていれば分かるよ」

『『創造クリエイト』』


 その言葉通りになったのよね。

 同じ魔術を発動したはずなのに、現象が違ったの。

 ハチは、風の魔力で丸石から私を乗せた自分の姿を石像したわ。

 ただ本人は3割り増しに、いい男に彫られていたけれどね。

 その一方、ロクは火の魔力で鉄球を溶かしながら、ハチを組み敷いている自分の姿を彫刻したの。

 こちらも本人は3割り増し、美人に形作られていたわ。

 私にはサッパリ理解不能ね。

 でもお父様は目を見張り、ハチとロクの像を見つめつつ興奮し出したの。

 そして何故かこの子達まで大興奮。


「ルバー! 同じ魔術で現象が違う……2種類以上の属性……対象物によって違う……凄ぞ!」

『姫様! コレは本当ですか? 頭で思い描いていた事を形にできる! 私達が目にした物を形にして姫様以外に伝える術があるぞ!』

『『『『そうかぁ!』』』』

「さぁ、次だよ。次!」

「ル、ルバー様? 次ってなに?」

「ほら、途中でナナくんの声が大きくなったよね。アレは何故なんだい?」

「アレは、私の声をハチの風の魔力で運んだだけですわ。声は振動ですもの。風の波動で何処までも届きますわね」

「なるほど! ハチくん、チョット僕にかけてくれるかい?」

『いいワンよ。でも……なんか良い名前ないかなぁ? 』

「え? 名前?」

『そうワン。やっぱり叫びたいワン』

「はぁ〜。少し違うとは思うんだけど。そうねぇ……声を大きくするし届けるから……スピーカーかしら?」

『いい名前ワン。じゃ、ルバー行くよ』

「え! チョット待って! ルバー様、今から術を掛けるそうです。名前は」

「スピーカーだね。いつでもどうぞ」

『ルバーにスピーカー』


 ルバー様から穏やかな、優しい風が吹き始めたわ。


「おぉ〜! コレは面白い! なるほど、なるほど」


 ルバー様の声が大きくなったの。

 流石に煩いほどではないけれど、カラオケボックスで聞くボリュームよね。


「よし! ハチくんとロクくんにスピーカー」


 今度はハチとロクから風が吹き始めたわ。


『あたしの声が大きいニャ』

『僕の声もワン。ハチ! 行きま〜す!』

「もう、ハチやめなさい。昔のロボットアニメの様な掛け声かけないの!」

『だったらあたしもニャ。ぼくなんて、ぼくなんて……無理だよ』

「ロクもダメよ。ネガティヴ主人公のマネはやめなさい!」

「だったら僕は……六神◯体!」

「ル、ルバー様。ごめんなさい。そこまで古くなると……」

「ガーン! ショック! !」

「ルバー! 無属性なら俺にも使えるかぁ!」

『姫様! 私達にもどうにかして使えませんかぁ!』


 まさにカオス。

 この場に置いて、冷静なのは私とハンナだけ。

 ルバー様にしても、お父様にしても、ハチやロクにしても、ネズミ隊にしても、みんながみんな自分の思いと考査に酔いしれているわ。

 坩堝と化しているわね。

 私も現実逃避するしかないもの。


「ねぇ、ハンナ。今日の晩御飯は何かしら?」

「そうですね。皆さん疲れている様ですので、活力になるお肉料理などがいいと思いますよ」

「そうねぇ。それがいいわ。アハハハ……はぁ〜」

「アハハハ……はぁ〜」


 2人のため息が、喧騒とし出したルバー様の部屋に掻き消された。

チンピラ勇者を懲らしめる話だったのに、ナゼか新しい魔術紹介の話になっちゃいました。

そして今回、初登場の無属性魔術でしが、創造しかありません。

そのうち考査されて、出てくるかもしれませんね。


次回予告

「父さん……母さん……来週の予告だそうです」

「ウフフ、エディ。そんなに畏まらなくてもいいのよ。ねぇ、あなた」

「おぅ! そうだぞ。たかが予告だ」

「まぁ!たかがとは言いすぎですわ」

「そ、そ、そうかぁ」

「もぅ、僕がするよ。次回予告。シャード王とノジル夫人の出会いの話。2人はどうやって知り合い、愛し合う様になったのか? 最大な障壁を乗り越え結婚まで至ったのか? 優しさと愛に包まれた話を見逃すな。父さん、こんな感じで良いかなぁ?」

「良いと思うぞ。でも最大の障壁は来週までに書き上げることができるのか! だと俺は思うなぁ。そもそも今回の話だって、首の皮一枚だったらしいぞ」

「まぁ!……そうなの? 大丈夫かしら? 心から応援しましょう! 頑張れ!」

「「頑張れ!!」」


次回予告をエディ家族にしてもらいました。

来週は閑話をお送りしたいと考えていますが……。

シュードめぇ!

余計な事を言ってくれましたね。

確かに今回は風邪を引いてしまい書くのに手間取りましたが、間に合ったから良いじゃないの!

もちろん風邪も完治したので大丈夫ですぞ!

しかし、リアルバイトが忙しい……かも?

クリスマスなんて嫌いだ! !

バイトだし、彼氏いないし、友達もいないし、1人だし……でも大丈夫!

私には、読んでくれる皆様がいますから平気ですよ。

必ず更新しますね。


それではまた来週会いましょう。

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