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5話 あらあら、魔族・魔獣ですって

『忠凶………開かないかぁ~』

『ボクが見ても開かないよ。たぶんロックの魔術がかかってる。これは、かけた本人しか解錠出来ないよ。でもそれ以外は何もかかって無いみたい』

『そうかぁ~。忠凶が見ても変わらんかぁ~。姫様はまだお目覚めにならんのかぁ~』

『も!かぁ~かぁ~かぁ~うるさいニャ』

「うふふ……目なら覚めたわよ。たった今ね」


 目が覚めるとフカフカの大きなベッドの上だったわ。

 あのポーションには何か入っていたわね。

 まぁ~みんなが無事ならそれでいいんだけれど、でも本当に良かった。

 思わず私はみんなを一度に抱きしめた。

 もちろんキチキチのギュウギュウだけどね。


『ハチ!お前は大きいんだからあっちへ行けニャ』

『嫌だワン!ネズミ達こそ数が多いから減らすワン』

『『『『『ロク様もハチ様もここは譲れません!』』』』』

「うふふ……良かった。本当に良かったわ」


 もう一度ギュ~と抱きしめて解放したの。

 改めてみんなを見て回ったわ。

 ハチもネズミ達も変わりなく可愛かった。

 でもロクだけは大きく変わっていたの。


「ねぇ!みんなは魔獣だったよのね」

『そうワンね』

「私にはロク以外、今も分かんないわ。大型犬だし、ドブネズミだし……ロクは……。

 ねぇ……それで大丈夫なの?」

『それを言わないでニャ』


 騒動の前のロクは普通の黒猫だったのに……。

 大きさは普通の黒猫なのに左目が濃い赤のクリムゾン色で右目が水色をしていて、尻尾が2本になっていました。

 化け猫……だよね。


「まぁ~可愛いから問題無し!」

『そうニャん!あたし可愛い?』

「もちろんよ!化け猫チックだけど」

『なんかトゲがあるニャ』

「……そ、そ、そんな事ないよ!そんな事ね!

 そうそう魔獣なのに何でここにいるの?本では簡単な思考しかないのが魔獣と書いてあったのよね。でもみんなはそんな事ないよね。私以上に知性も魔力もあるし……何で私の側に居てくれるの?」


 ふとした疑問を口にしただけだったのに、みんなは押し黙り、見つめ合い、頷き合ってハチが話しだした。


『ナナ……僕達は本当に魔獣なんだ。

 魔獣は魔族に付き従う獣。産まれた時から魔獣じゃないんだ。初めは普通の獣なんだよ。魔族に認められて魔力を注がれて魔獣へと進化するんだ。認めるって言っても、ようは闘わせて生き残った獣と言う意味。……僕から話すよ』


 ロクやネズミ達を見て、もう一度頷き合ってハチが続きを話した。


『僕はね。シルバーウルフ族として100匹ぐらいはいたんだ。

 それを50匹で分けて、戦わせて生き残ったシルバーウルフが魔獣になれる。そんな風に説明を受けたんだ。

 僕には同じ時に産まれた兄弟がいたて、別々に分かれて戦った。兄ちゃんと一緒に進化できると思ったんだ。

 僕は我を忘れて戦ったよ。それこそ白い毛が赤く染まるほど頑張ったよ。最後の1匹になれたよ……僕が僕ではなくなったけれどね。兄ちゃんと魔獣になれる!魔獣に…魔獣に……。

 僕の心は何時しか兄ちゃんの名前が消えて、魔獣になる事だけしか頭になかったんだ。やっとなれると思ったのに……魔族は僕を……千尋の谷に突き落とした。

 魔族は僕らを魔獣にさせるつもりはなかったと思うよ。それぐらいの谷だったからね。

 下の川に落ちた時、我に戻った。何とか崖を登って行くと、途中で休憩出来そうな横穴を見つけて入ったんだ。

 そこに兄ちゃんが居たんだよ!

 僕は凄く嬉しくて喜んで擦り寄ったら……兄ちゃんが兄ちゃんでなくなっていたんだ。僕のことが分からずに襲われたよ。でも兄ちゃんは、ここに来るまでに致命傷になるほどの傷を受けていたから、程なくして死んだ。でもね……でもね……最後の最後に僕の事を思い出してくれて、嬉しそうな目をして尻尾を振ってくれたんだ。嬉しかったよ……そして悲しかったよ。

 その時に思った。魔獣になんかにならない!魔族の配下になんかならない!だから僕は逃げる事にした。

 何とかなると思ったんだ。だってその横穴から風が吹いていたから別の場所に繋がっていると考えた。

 しばらく歩くと出口ではなく、小さな祠があるだけだった。それでも僕は出口を探したんだ。石を噛み砕き、砂を掘り返し、祠を壊して、探した。

 僕は無我夢中で祠を壊したから気が付かなかったんだ。何かを飲み込んだ事にね。気がついた時にはすでに遅くって、僕は痙攣を起こし、暴れまわった。どのくらいの時間が経ったのかさえ分からないほどの時を過ごして目が覚めた。その時に僕はウインドウフルに進化していたんだ。なりたくない魔獣へと進化してしまったんだ。でも進化した事で風の魔力がやどり空を走れるようになって山を越えた。

 そこには足が無い赤ちゃんがいた。僕を見て笑ったんだ。とても、とても、とても、可愛くて、側にいて僕が足の代わりになる!って決めたんだ。……これが僕の全てだよ』


 ハチは一息に、これまでの事を話した。

 暫しの沈黙が流れたのよ。

 私にしても驚いたし、ロクやネズミ達にしても他の魔獣の話は聞いたことが無かったのかも知れない。

 みんな一様にビックリしていたわ。

 流石に魔獣なだけあって私よりも立ちの直りは早いみたい。


『ハチ……あんたも苦労をしたんだね。次はあたしだの番だね。ナナ!魔族ってなんか知ってるかい?』

「え!魔族って……魔力を……宿している……人?」

『少し違うんだよね。魔力を宿しているなら、人族の勇者や異世界人だって魔族にならないかい』

「そう言えば……そうね!じゃ~魔族ってなに?」

『魔族はね……膨大な魔力を宿していて奪い、従える人の事を言うんだよ。まぁ~さらに付け加えるとしたら自己顕示欲が強くて、強力な魔力を求めて同族殺しさえも厭わないヤツらのことさぁ。ナナ、魔族にもいろんな魔族がいるんだよ。力を求める者、強い魔獣を従える者、より強い魔力を奪う者。

 あたしはね、普通の黒猫でペットだったのさぁ。ご主人様は爆炎の魔族の通名で知られるほど強かったんだよ。その爆炎の魔族ジャバルには家族がいた。魔族にしては珍しく家族を持ち、ひっそりと暮らすことを望んだ、変わり種の魔族だったんだ。ジャバルの一人娘シャルルが、あたしのご主人様だった。

 爆炎の魔族の中でもトップの魔力を宿していたし、美しく優しさと強さを兼ね備えた女性がシャルルで、あたしを愛してくれたご主人様。あたしも側にいて誇らしかったよ。

 ナナ、魔族が魔力をどうやって奪うか知ってるかい?と言っても知らなくて当然だね。

 魔族が魔力を奪う方法は……』


 ロクが押し黙った。

 なかなか話しだそうとしないロクに私は優しく背中を撫でた。

 大丈夫よ、大丈夫よと言いながら話しだすまで優しく撫でた。

 意を決して話しだしたロク。

 その内容は想像しただけて“胸糞が悪くなる”と、汚い言葉で表現したくなるほどの内容だったの。


『魔族がね魔力を奪う方法は……自分より強い魔族の血を浴びるか、飲むか、肉を食らうかする事だよ。

 爆炎の魔族ジャバルを慕い、周りには強い魔力を持った魔族も沢山いたからね。狙い目だったんだろうよ。30人から40人ほどの魔力を持った魔族がたった5人の魔族に……。

 ある時、5人の魔族が食料と酒を持って配下になりたいと来ていた。強い魔力を有していたジャバルは5人を受け入れた。自分が強いから慢心したんだろうね。なんの調べもしないで受け入れたのさぁ。

 その夜、持参した食料と酒で宴が開かれたよ。酒や飯を食べた者が眠気に襲われ次々に倒れて行った。そこまで来てようやく5人の魔族の企みに気がついたけれど、時すでに遅いよね。本性を表したヤツらは手当たりしだいに殺し始め、血を浴び時には飲み……肉を食らいだした。

 慌てたのはジャバルさぁ。娘だけは助けようとふらつく足でシャルルの元に来たの。それが間違いだったんだ!!

 ジャバルさえ来なければシャルルは、ご主人様は、逃げる事が出来たんだ。

 出来たんだよ……最初の一撃で右腕を失ったご主人様は、あたしのところに来て……残った自分の魔力をあたしに注いだんだよ。それだけじゃなくて血も肉もあたしに食べろと命令しのさぁ。

 あたしは抵抗したよ!でも、でも、ご主人様は悔しいと言ったんだ。強い魔力に慢心して、安心して、胡座をかいていた。その為に父や仲間たちの命をドブに捨ててしまったとね。だからあたしに全ての魔力を与えて燃やしてくれと頼んできたんだ。

 あたしは従うしかなかったよ。その魔力であたしは魔獣サーバルキャットへと進化したのさぁ。

 ご主人様の最後の願いを叶えてあたしは逃げたよ。もちろん5人の魔族達を目に焼き付けて、全力で逃げたよ。どこを通って逃げたのかすら分からないくらいに、逃げ切った時には山を越えていたね。

 力尽きた頃、白い犬に跨ったナナを見つけたのよ。可愛かったわ。

 ご主人様は黒髪で濃いクリムゾン色の目をした凍り付きそうな雰囲気を持った美女だったけれど、出会ったナナはフワフワ金色の髪で、月に照らされた夜空を思わせるようなロイヤルブルーの瞳。可憐なのだけれど、芯がしっかり通った強さを持った美女になるような、赤ちゃんがいたんだよ。

 疲れ切ったあたしを優しく迎え入れてくれた。その時、決めたのよ。この子を絶対に守ってみせる!ご主人様のように殺されやしない。あたしの手で守ってやる!そう誓ったんだ』


 私は思わずロクをギュッと抱きしめた。

 当のロクは少し苦しそうに、もがいたけれど尻尾をピンと直立にして嬉しさをアピールしていたわ。

 私も嬉しい。

 ロクを解放してあげると、次は自分達の番だとネズミ達がベッドの上で整列した。


『次は私達ですが……姫様にお話する事はございません』

「そんな事ないわ。何で魔獣になったの?私、貴方達の事なら何でも知りたいわ」

『そうワンよ。魔獣になったからには何かあったはずだよ』

『そうニャんよ。だいたい、あたしもハチも話が重たいニャんよ。軽くでいいニャ』

『お気遣いありがとうございます。ですがたいした話ではありません。

 私達もロク様と同様に普通のドブネズミでした。魔族の気まぐれか、はたまた戯言なのかは知りませんが1000匹のドブネズミが集められ魔力を注がれ、生き残ったのが私達5匹です。魔力を注がれた為に魔獣ケナガネズミへと進化しただけでございます』

『サラリと言ったワン。……ナナけしてサラリと流していい話ではないよ。

 僕の時は魔獣になりたくて100匹、集められた。僕が成りたくて!だよ。でもネズミたちは違う。訳も分からぬまま集められて魔力を注がれ、周りの仲間は死んでいく。僕なら辛さを理解できるワン』

『あら!あたしだって理解できるニャ。仲間の死体を見るのは……辛くて悲しい事だよ』

『ハチ様、ロク様ありがとうございます。

 私達が何より辛かったことは仲間の死ではありません。戯言とはいえ、進化をするまで魔力を注いで頂いた魔族に、役立たずと言われた事です。確かに魔力は殆どありませんが、それでも私達にしか出来ぬことがあります。それが情報収集力です。

 姫様、今から私達の能力についてご説明いたします。基本的に黒魔術を使います。私達に共通している能力は、人族がスキルと言っております能力に酷似したものがございましたので、理解しやすいように名称を使いたいと思います。

 影法師と完全擬装と走破です。影法師と言いますのは、影と影を移動する事ができます。次に完全擬装ですがこれは、ハチ様もクロ様もお使いしております能力です。姿形を同族の姿に変えることが出来ます。ですが私達はネズミ科なら全てのネズミに姿を変えることが可能です。最後に走破ですが、手に触れた物を読み解く能力です。読み解いた内容を得意分野で分類し記憶します。読み解いたら自動的に分類されます。

 まず私、忠大は歴史や地理、地図』

『僕、忠吉が道具やマジックアイテム』

『俺、忠中が武器』

『オレ、忠末が防具』

『最後にボク、忠凶が魔術』

『私達5匹で1つの能力!姫様の役に立って見せます!』


 そう言うと膝を立て左手を胸に当てて頭を下げたわ。

 騎士の礼をしたのね。

 小さい体に最大限の奉仕。

 私も思わず手を合わせ頭を下げたわ。

 私はどこまで行っても日本人なのよ。

 嬉しい時やありがたい時は手を合わせ拝んでしまうのよ、ナンマイダ~ナンマイダ~と言いながらね。

 流石にナンマイダは言わなかったけれど、口から出そうになったわ。

 それくらい嬉しかった。


「最後に私ね。私は異世界人で鐡ナナと言うのよ。ナナの由来は、今のナナと同じよ。元の世界でも私は7番目の子供だったの。私の場合、上が6人、下が3人の10人兄弟なのよ。多いでしょう。でも私が産まれた時はこのくらいの子供の人数はザラね。100歳で死んだのだけれど、楽しかったわ。辛くて悲しいことも沢山あったけれど、お母様の言う通り、私も悲しみの数は数えないの!増えるのは嫌だしね!

 私の能力なんて元の世界で100歳まで生きた事と貴方達の声が聞こえるくらいね。これからもよろしく!」

『はいワン』

『よろしくニャ』

『『『『『はっ』』』』』


 まだ誰も来ないようなので雑談でもするべく私が口を開きかけた時ハチが深刻な顔をして話し出した。


『ナナ……聞いて欲しいワン。僕らは魔獣。人族から見たら討伐対象なんだ』

『ナナ……あたしの話も聞いて欲しいの。なぜ魔族が討伐対象なのかわかるかニャ』

「え!人を襲うからでしょう?」

『当たっているけどハズレてるニャ。魔族はより強い配下が欲しい。だから獣を魔獣に進化させる。でも、そうそう上手く行くことではないの。失敗する事のほうが多い。ネズミ達も失敗して放置されたクチよね。力の弱い魔獣は放置でいいけれど。力も魔力もある、でも理性が無くて暴れだす魔獣の事をオーバードライブ状態と言うニャ。魔族でも手に負えないのよ。そんな時は人族の領地に放置するの。だから人族に現れる魔獣は理性の無い暴れるだけの獣なんだニャ』

『ナナ……もし僕達が魔獣だとバレて攻撃を受けたとしても手を出さないでほしい。僕らは何とか生き延びてナナを陰ながらたすけるワン』

『そうね。それがいいニャ』

『だったら私達が姫様とのつなぎ役をいたします』

『そうしてほしいワン』

『そうしてほしいニャ』


 私の側で話をしていたはずなのに……私を話の中心から外れた会話へと移行してしまったわ。

 まぁ~私が守って見せるけどね!

 100年も生き抜いた実績があるのよ!

 甘く見ると痛い目見るわよ!

 そう心の中だけで決意した所でノックの音が響いた。


ネズミ達にはもう少し逸話がありますが……先のお楽しみ。


5話を更新する事が出来て良かったです。

2月1日からウイルスにいたずらをされてしまい咳が出始めて、3日にウイルスが私の気力という名の魔力を奪い咳喘息へと進化して、私の身体で暴れまわっております。

久しぶりの喘息に息も絶え絶え、死ぬ思いをいたした次第です。

神様に「お前は喘息患者なんだ!自覚を持て!!」と言われた気分です。


皆様も健康には気をつけてくださいね。

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