45話 あらあら、王子と皇太子ですって
やっと円卓会議が終わって、ギルドの塔の食堂へ行くとおばちゃんがハッピーな食べ物をくれたわ。
それは、たくあんと梅干し。
日本人なら誰しもが口にした事がある、アノ食べ物よ。
そのままだったわ。
幸せを噛み締めて、記憶して、みんなの所に行ったの。
そこは、ギルドの塔の宿舎。
その最上階より、チョイと下ね。
3部屋、存在していて4人部屋は女子3人が使用して、1人部屋を男子2人が使っているわ。
残りの1部屋はルバー様が今も使用中みたいね。
青ちゃんの話では、奥の塔が宿舎の予定だったが急遽、決まった為に仮住まいとしてあてがわれたみたい。
男子は狭いでしょうにね。
翌朝、みんなで食堂へと下りたわ。
ところが入り口で止められたのよね。
ハンナに? え? ハンナ? ?
「ナナ様!よかったです。皆様も一緒に此方へ来て下さい。朝食はすでに用意してあります」
そう言って連れて来られたのは、食堂の奥の部屋。
一応の応接室みたいね。
中に入るとすでに、ルバー様が朝食を召し上がっていましたわ。
ハンナは私達を席へと促し、お茶を淹れてくれた。
「ルバー様。おはようございます」
「おはよう」
私の声で正気を取り戻したみんな。
慌てながらも、挨拶をしたわ。
人としての基本ですものね。
「「「「お、お、おはようございます」」」」
「ウフフ、吃りまで被せなくてもいいのに」
「ナナ!そうは言うけれど、この国のAクラス人物と対面して居るんだよ。吃りたくもなるさぁ」
「うん。ホゼくんはいいこと言うねぇ。ナナくん、ちゃんと聞いていたかい? この反応こそが、正しい姿なんだよ」
「確かに正しい意見でしょうね。ですが私の中ではすでに、魔術スキルヲタクですわ。今更、覆らないですわね」
「あながち間違ってないから、辛いねぇ〜。さぁ、さぁ、冷めないうちに食べなよ」
この言葉は私にでは無くて、青ちゃん達に言ったことよね。
だって、私はすでに座って食べ始めていたんですもの。
ルバー様の話なんて聞いてられないわ。
美味しい朝ごはんが、私を待っているんですもの。
「コレは……なに?」
「青ちゃんは日本出身だから知らないかなぁ!」
「ガレットでしょう」
「え! ナナは知っているの? !」
「もちろんよ、マノア。フランスを旅行した時に、食べた記憶があるわ。そば粉を使ったお菓子? よね。あの時も思ったのよ、主食じゃないのって。白身の魚に目玉焼きとチーズ、本当に美味しかったわ。ウフフ、その時は赤ワインだったけれど、今はミルクね。これはこれで合うかもね」
みんなが席に着いて食べ始めた。
すると蚊の鳴くような声でエディが何かを口走ったの。
そのおかげで、場が和んだわ。
当の本人は、耳まで赤くしていたけれどね。
「俺も知らねぇ。ぬれ煎餅かと思った」
「プッ、プッ、プフフ……。エディ、ぬれ煎餅は酷いわね」
「ナナ! だ、だ、だって茶色い食べ物と言ったら……それしか……知らねぇ〜し……柔いし……フニャフニャだし……」
「分かるよ。僕は、ぬれ煎餅をガレットかと思った。あの質感と口触りはガレットそのものだよ。ただ……味はまったく違うけどね」
「から? ホゼはぬれ煎餅を知っているの?」
「日本に居たとき、煎餅を食べて歯がかけた事があったんだ。その時、柔らかい煎餅があるよ、と教えてもらったのがその煎餅さぁ」
「あ! それ分かるぅ〜。私の時もそうだったもん。でも、煎餅は固い物でしょう! 邪道だよねぇ! 青ちゃんはどう思う?」
「え! マノア、私! 私は……よく分からないわ。だって慣れ親しんだお菓子と言えば、サーターアンダギーかちんすこうだもの。あ! 最近? では紅芋タルトがあったわね。まぁ〜、どちらにしてもそんなに固くないわ」
「ふぅ〜ん、そうなんだ。日本人だから、餡子、煎餅、羊羹かと思ったよ」
「それ、どこの情報よ。マノア」
「え!青ちゃん。だって、ネットの情報だし、実際に見て和菓子は餡子と羊羹でしょう。青ちゃんが言ったサーターアンダギーなんてお菓子、知らないわ」
「本当に! 知らないの? あんな美味しいものを!」
「まぁ、まぁ。2人ともそれくらいにして、食べましょう。このガレットもなかなか美味しいわ」
「ナ、ナナちゃん。そ、そ、そ、そうね。マノア、後でじっくり話しましょう」
「え! ……マジで! !」
そんなやり取りをしつつ、食事の時間は過ぎたわ。
食後のお茶を飲んでいると、ふとある事を思い出したの。
「そう言えば、ルバー様。質問してもよろしいですか?」
「もちろん、いいとも」
チャラ男が日本茶もどきを飲んでいるわ。
不釣り合い、この上ないわね。
あら、いけないわ。
今は質問が先よね。
「ルバー様、すいませんが……なぜ? エディが皇太子なんですの? 王子では無くて皇太子と呼んでいる訳を教えて下さい。円卓会議のせいで、すっかり聞きそびれてしまいましたわ」
「あははは……はぁ〜」
乾いた笑いからのため息は、辛いわね。
ルバー様はハンナにもう一杯、お茶をお願いしたわ。
ウ〜ンと熱いやつをね。
「フゥ〜、フゥ〜。いくら熱いのを頼んだからと言っても、熱過ぎだろう! 加減をしれ、加減を。まぁ、いいかぁ。フゥ〜、フゥ〜」
熱々のお茶をテーブルに置いて、またため息から話が入ったの。
「はぁ〜。その話かぁ。全く王には困ったものだねぇ。気持ちは分からんでもない。それほどエディ様を想っていたんだ。それでも……軽率すぎだ、と僕は思うね。本来は成人の儀を済ませてから、正式発表の手はずだったんだ」
「それの何が問題ですの? 別にあの場で言っても、後から言っても、同じ事ではなくて?」
「あははは! ナナくんは知らなくて当然だ。ついでに他の者も知らないよね。知っているのは、貴族と王族、そして警護する勇者のみ。実は……派閥争いがあるんだよ」
「え! 派閥争いですの!」
「そうなんだ。王には妹がいる。その妹家族には姉と弟の兄弟がスクスク育っている」
「ちょっと待って下さい。王様の妹……姉と弟……まさかその兄弟って……」
「ご明察。ナナくんの母上、ソノア様の家族だね。王には子がいなかったんだ。それでも国を存続させるには後継がいる。そこで白羽の矢が立ったのが、ソノア様の弟ネイド様だ。ただ、これには問題がある。ネイド様は勇者じゃなかったんだ。
魔力のある勇者から選ぶべきだと言う勇者派と、貴族から勇者を選んで王に推挙すべきと言っている貴族派と、魔力が無くても王族から選ぶべきだと言い張っている王族派とに別れて派閥争いをしているんだよ。決着として、やはり王族からと言うことになり、ネイド様を養子に迎える方向で話が進んでいたんだ。ところが……」
「死んだと思われていたエディが生きていた」
「あははは〜、ナナくんは厳しいね。その通りだよ。そもそも、僕達が間違っていたんだ。全員ね。まぁ〜、一部の家臣は自分達の推薦する勇者を王の座に着けるべく、愚策を弄していたけど。そんな者、僕が捻り潰してやったさぁ。それでも、みんな理解していなかった。王や王妃の哀しみをね」
温くなったお茶を一口飲んだわ。
「フゥ〜。まだ、熱いね。エディ様には辛い話かも知れないが、しっかり聞いて欲しい。君が生きていると信じていた人は……王と王妃とガロスの3人だけ。皆が皆、死んでいると思っていたんだ。そこに、生きていた。家臣一同、大いに喜んだよ。しかし……」
「異世界人だった」
「コレまた非常〜に、厳しぃ!ナナくんの言う通り。王族で魔力も有り、ホッとしたのもつかの間、異世界人だと判明した。反対する人続出さぁ〜。そんな中、公衆の面前でエディ様の事を皇太子と宣言したんだ。この意味、分かるかい?」
ルバー様はみんなを見回したわ。
最後に私を見て、解答を求めた。
「世継ぎだと宣してしまわれたんですね。言ってしまったもん勝ち……と言う事ですか?」
「ナナくんはよく分かっているようだ。でも、それだけで話は終わらなかったんだ。おや? 青森くん、どうしたのかなぁ?」
そうなの!
青ちゃんたら、そっと左手を上げて話し出したわ。
「ル、ル、ルバー様。お話の途中、申し訳ありませんが……その……えっと……あの…………王子と皇太子の違いが分からないのです!」
ズコー!
大阪芸人ばりのズッコケをしてしまったわ。
したのはルバー様、私、マノア、ホゼの4人。
そうだ! そうだ! と言わんばかりに頷いていたのが、問題の人エディ。
まったく貴方が理解していないって、どう言う事?
「「理解していなかったの? !」」
思わずツッコミを入れてしまったのが、私とルバー様ですけれど。
乾いた笑いを張り付かせていたのが、ホゼとマノア。
? ?マークが飛んでいるのが、青ちゃんとエディ。
三者三様ね。
「まぁ、仕方がないよ。だって、青ちゃんにしてもエディにしても、小さい時にこの世界に来ているんだろう。僕とマノアはドイツとフランスだから、よく分かるけれど2人には難しいよ。それに、日本語はもっと難解だと思う。英語にするとよく分かるよ。王子はプリンス。皇太子はクラウンプリンス。同じプリンスでもクラウン=王冠。次に冠を戴く人の事を指すんだよ」
「なるほど! よく分かったよ、ホゼ! え? と言う事は……次に王様になるのが……俺! ! !」
「あははは〜〜、今頃気づいたんですね。あははは……はぁ〜」
「ルバー様。そんなに気落ちしないで下さい。話せば分かる子ですから。多分」
「多分って。まぁ〜、良いとする。ではエディ様。改めてお話をさせてもらいますよ」
「はい!」
エディは自分の置かれている立場を理解した上で、話を聞いていたわ。
ウフフ、たくましくなったものね。
「良い返事です。貴方様に置かれて1番の敵になるのは、貴族派と勇者派です」
「イヴァン様ですか?」
「当たっているようで、ハズレだよ。ナナくん」
「え?」
「問題はイヴァン本人では無くて、取り巻き連中さぁ。妻や息子、側近にお抱え勇者。こいつらが提唱している勇者至上主義がここまで、到達した。彼奴も心の何処かで、思っていた事だと思う。そうじゃ無かったら静観などしないだろう。黙って見過ごしていたんだ。僕は同罪だと考えるね。でも、今回の事で自分達の立ち位置を把握したと思う。と! 言いたいが、忙しさの余りまたもや静観? 達観? はぁ〜、家族の手綱ぐらいしっかり握っていろよ! いかん、いかん、思念が入った。問題になる派閥は、勇者至上主義の貴族派と……こいつらも頭が痛い。魔力がある勇者だ。もちろん、勇者全てでは無いよ。問題はその勇者の背後で糸を引く奴らの事だ」
「「「「奴ら?」」」」
全員で首を傾げたわ。
奴らって、誰?
「この話は、青森くんやマノアくんにホゼくん、そしてナナくんにも忍び寄るかも知れない連中だ。頭の隅にでも入れといてくれ。
その奴らとは……豪商。所謂、金持ちさぁ。金を得る事なら人の命などゴミ屑同然だと思っている奴らだ。私服を肥やす為なら、勇者を金で買い、王に仕立て上げる事など造作もないと考えたんだろうなぁ。そんな事を僕が許す訳ないけどね。その豪商が、金で買った勇者を勇者派と言うんだよ。そいつらが次に狙うとしたら、マノアくんとホゼくんだろうねぇ。もちろん、王の座を諦めきれない豪商もいるかも知れない。そうなると、エディ様も標的になるだろう。分かるかい。彼奴らは、金が全てなんだ。だから、勇者派は侮れないんだよ。何をするかわからないからね。
だ・か・ら! だからこそ! 君たちの安全を守る為に、奥の塔で暮らして貰うんだよ。整備が整うまでは僕がしっかり守ってみせる。安心して良いよ。ユントとハンナも君達の護衛兼教師を受け持って貰う。常に一緒に行動をするから、決して単独行動を慎んでくれよ……ナナくん!」
「え! 私?」
「君が1番の問題児だ」
「はい、は〜い!」
「はいは1回でよろしい」
「はい!」
遅かったりして。エヘヘ……。
〈「忠大。聞こえたかしら? 貴族派と勇者派の全容を調べてきてくれる?」〉
〈『はっ』〉
これで安心ね。
ルバー様、ごめんなさい。
私、不安の芽は摘んでしまうタチですの。
オホホホホ!
さて、朝食を食べ終わった私達は中庭へと足を向けたわ。
若干、みんなの足が遅かったのは仕方のない事だと、中庭に出て理解した。
だって全ての窓という窓に、勇者や職員。
勇者学園の生徒に教師。
果てには、司法の塔からもへばり付いている人、人、人。
その視線は光線の様に、私達に刺さった。
食堂で青ちゃん達が体験した、恐怖が再来したのね。
「ナ、ナ、ナ、ナナちゃん!」
「「「……」」」
辛うじて私の名前を発したのは青ちゃん。
言葉すら無く、震えていたのがエディ、ホゼ、マノアの3人。
あらあら、仕方ないわね。
「ハチ、ロク。昨晩、話した通り宜しくね」
『はいワン』
『はいニャ』
そうして始まったのが、最強の魔獣のお披露目と言う名のい・あ・つ!
ウフフ、私が本当の魔獣をお見せ致しますわ。
下手に近付くと容赦しません事よ。
オホホホホ!
オーホホホホ!
王子と皇太子の違いについてのお話でした。
その前にガレットですね。
ちなみに私もぬれ煎餅かと、本気で思いました。
あれって、お菓子なんですね。
主食かと思いました。
次週予告
「あなた、ココが次週の予告をする場なのですね」
「その様だなぁ。ノジル」
「あなた、自己紹介をしないとダメかしら?」
「大丈夫だろう。この国の王と王妃だぞ」
「でも……」
「ほらほら、下を向くな。美人が台無しだよ」
「やめて下さい!恥ずかしいですわ。さぁ、予告をして下さい」
「あははは!そうだなぁ。それでは……。次週予告。ナナ達に襲い掛かる視線の嵐。異世界人最初の試練が立ちはだかる。無事切り抜ける事ができるのかぁ! そして、ナナは何を画策したのか! 見逃せないストーリーがここにある!」
「あなた! 素敵です!」
「そ、そ、そうかなぁ〜」
ラブラブの王と王妃に予告をしてもらいました。
仲良きことは良いことかなぁ〜、ですね。
それではまた来週会いましょう。




