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42話 あらあら、白熊? ですって

 日本の会議より長いんじゃん!

 などと言いたくなるぐらい長いわ!!


 魔獣とは何か?

 だったはずなのに、いつの間にか全く違う話をしてしまったの。

 だって頭にきたんだもん。

 全然分かってないのよ。

 勇者の立ち位置をね。

 弱い癖によく吠えるんですもの。

 鼻っ柱へし折ってやったわ。

 ヤレヤレ、これで本当に帰れるわ、と、思ったのに〜!

 最後の最後にとんでもない爆弾を投下した、氷の女王がいたの。

 も〜、アイスまんじゅうでは無くて肉まんじゅうね。

 外はホクホクで、中は具沢山で合挽き肉が旨味を加えているわ。

 でも一口食べると、溢れ出る肉汁が口の中で凶器に変わるの。

 美味いのに熱い。

 要は、優しい物言いでも中身は、自分たちの事しか考えていないし、違法な事もやってしまう。

 とんでもないお姫様だった。

 そんな、内容だったのよね。


「ねぇ……ナナちゃん。1つ聞きたいのだけれど、いいかしら?」

「もちろんですわ。ベルネ様」

「あの……その……。目が見えない子はどうやって生きて行けばいいの?」

「はぁ? 盲目ですか? うん? ? ?」


 何を言っているの?

 まるで盲目の障がい者が誰もいない様な言い方よね。

 まさか……。


「この世界には目の見えない人族はいないのですか?」


 沈黙が答えになっていたわね。

 お父様でさえ、目を合わせてくれなかったわ。

 私の中で貴族の見方が決まった。


「……外面ばかりの木偶の坊……」


 思わず口ずさんだじゃ無いの。

 あらあら、コレにも沈黙だわ。

 呆れる以外、言葉が見つからないわね。

 そんな諦めにも似た感情を抱いていると、氷の女王が話し始めた。

 弁明でもするつもり?


「……怒られるのなら、後でも今でも同じね。コレを見てくれるかしら」


 自虐的と言うより開き直りよね。

 そんなニュアンスが言葉の中から滲み出ていたのよね。

 そして、自分のマジックバックから取り出したのは、なんの変哲も無い首輪だったわ。

 それにしても、どこかで見た事あるわね。

 私が手に取ろうとした影から、忠吉が飛び出し調べ始めたわ。


『姫様。一見“恭順の首輪”に見えますが、それに非ずです。どちらかと言えば“魔獣の首輪”に近い代物かと思います』


 そうなのね、と話をする前にくだんの首輪を、お父様に取られてしまったの。

 お父様は評定するかの様に観察をしていたわ。

 時間にして5分ぐらいしてから、徐ろにルバー様へと渡したの。

 そのルバー様もお父様と同じ様に見ていましたわ。

 こちらも5分ぐらいしてから、静かにベルネ様の前に置いたの。


「ベルネ。……釈明は?」

「ルバー。あるわ! ガロスがよくって、なんで私がダメなの? 同じ障がい者を持つ親同士じゃない! ガロスだって、ルバーだって、皆んなも知っているわよね? ……ガロスが……よくって……なんで……ダメなのよ……」


 泣き崩れてしまったベルネ様。

 黙って見つめているお父様達。

 はぁ〜。

 それにしても、気になるキーワードがあったわね。

 “同じ障がい者を持つ親同士”

 この言葉で導き出される事は、1つ。

 前の質問を考慮すると、答えは……。


「ベルネ様。泣き落としで許してもらえるのは、殿方だけですわ。私には全く効かないですわね」

「あらら、効かないのね」

「ベルネ!」

「ルバー様! お黙りなさい! 今、私とベルネ様がお話ししていますわ。泣き落としで黙り込んだ殿方は静かにしてて下さい」

「「「「「…………」」」」」


 本当に黙りましたわね。

 まぁ〜、女の涙に弱いのは男の専売特許ですが、こうも嵌るとつまらないですわぁ。


「ベルネ様。話を伺っていると、ご家族に盲目の方がいるのですか?」

「えぇ、居るわ。私の2番目の娘がね。……産まれた時から両目とも見えていないのよ。そんな時、思い出したのがマジックアイテム“恭順の首輪”よ。目の変わりになる、従順な駒が居れば問題は解決すると考えたの。元になったのが“魔獣の首輪”だと言う事は知って致し、簡単に作れると思ったのよ。はぁ〜、ガロス、どうやって作ったの? 100個以上費やして出来たのは、コレ1個。その1個も、秘密裏に鑑定してもらったら、紛い物の“恭順の首輪”だと言われてしまったわ。その時、理解したわね。“恭順の首輪”は偽りの情報でそんな物は存在しないと。だって、ガロスは使っていないし。ルバーに至っては、そんな物は最初から存在しませんよ〜、みたいな顔をしていたし。結局、失敗に終わった、そう結論付けたのよ。ところがここに来て、聞いた話に驚いたの何の! ガロスに娘がいて、その娘は、足が無いし魔力も無い。無い無い尽くしの無し子ちゃん。そんな子にマジックアイテム“恭順の首輪”を使わせて、魔獣を足代わりに使役している。そんな話を聞けば、私もと思うのは当たり前の事でしょう! 私は、悪くないわ! “恭順の首輪”を独り占めしているガロスとルバーが悪いのよ!」


 開いた口が塞がらないわね。

 この世界の大人達はみんな、こんなヤツなのかしら?

 馬鹿ばっかり。

 はぁ〜、やんちゃ盛りの子供にイライラしても仕方ないわね。


 パンパン!


「はい! はい! しずかしにて、ちゅうもくしてくださぁ〜い! 今から〜赤ちゃんにでも〜分かる様に〜説明いたしますぅ〜。……ベルネ様……不満顔はやめて下さい。子供扱いされたのが気に障りましたか? でも、やっている事は子供以下でしょう。魔力のない者や異世界人などを迫害する人も居れば、子供の為と言い訳をして自分の事しか考えていない馬鹿親も居る。子供扱いされても仕方がないと思いませんか?」

「「……」」

「はぁ! また沈黙ですか! 確かに、沈黙は金とも言いますわ。ですが、黙ればいいと言うものではないでしょう。私の言った事が肯定されたと捉えますわよ」


 何かを決意したかの様な、顔をしたベルネ様が気温を更に下げながら言い切ったわ。


「だったら言わせて貰いますわよ。私がした事は違法なやり方だったと認めるわ。マジックアイテムの製作は、国が管理しなければいけない事項よね。その統括者であるガロスが、自分の娘の為に使った。さらに独占までしたのよ! これも立派な背任行為だわ! 私物化している証拠でしょう!」


 さし指をしてお父様を断罪、致しましたわ。

 困惑しているのはお父様よね。

 目が泳いでいますもの。

 情けないですわね。


「オホホホホ! 責任転換も甚だしいですわ、ベルネ様。……そして、イヴァン様も、私が“恭順の首輪”を使う事を承服していませんものね。そうそう、ルバー様もそうでしたわね」

「僕は理解しているよ」

「あらあら、しをらしいです事」


 ルバー様は肩を竦めながら、壊れたテーブルをご自身のマジックバックに仕舞い、新しいテーブルと紅茶セットを用意していたわ。

 用意がいいです事。

 あ!

 マジックバックMPバージョンなら無限に入りますわね。

 私と逆パターンの方でしたわ。


「ルバー様。私、ミルクティーがいいですわ」

「もちろん、わかっているよ」

「ありがとうございます。さて、ベルネ様。ご自身の事を棚に上げて、お父様の事を断罪、致したわね。貴女こそ、公私混同、私利私欲に走っていませんか? そもそも、マジックアイテム“恭順の首輪”が何たるかを理解していますか?」


 ベルネ様も紅茶を一口飲んでから話し始めたわ。

 あら?

 他の面々は口を付けないわね。

 喉を潤さないと激論を交わせませんわよ。

 オホホホホ!


「もちろん、知っていますわ。貴女が先ほど教えてくれたじゃないの。“魔獣の首輪”は魔獣に魔力を注ぎ込む道具で、“恭順の首輪”は絆で魔獣を使役する道具よね」

「その通りです。だったらなぜ、わからないのですか?」

「はぁ?」

「もぅ! 魔獣や獣との間にどれ程の絆が築けますか! 言葉も通じないのに! 意思の疎通さえもままならないのにどうやって絆を深めるのですか!」

「それは、“恭順の首輪”から意思が通じて理解し合えるのでは……ないの?」

「はぁ〜。やっぱり、理解して無いじゃないの! ルバー様は首輪の欄に何を書いたのですか?」

「個人情報は書けないよ」

「それは……そうでしょうけれど、時と場合を鑑みて下さい! 私から話します!

 ベルネ様、イヴァン様。私は異世界人です。魔力はありませんが、特殊スキルを持っています。それが“獣の声”です。ハチやロクだけでは無くて、この世の動物達とお話をする事が出来ます。もちろん魔獣ともです。この意味、分かりますか? 絆を深めてからでないと“恭順の首輪”は怖くて使えませんよ。もし無理矢理、使うならオーバーヒートを起こすか、首輪に吸収されるかのどちらかだと思います。恐らくオーバーヒートの方が可能性として高いと思いますわ。今回、上手くいったのは、私とハチ達との絆が深かったからです。それも、これから先どうなるか分かりません。絆が壊れた時はどうなるか? 首輪としての性能は? 耐久性は? などなど、わからない事だらけなんですのよ。それも仕方がない事だと理解しています。だって実査をしたくても、使える者が居なかったのですからね。それでお蔵入りにしていたのです。

 理解できましたか? お父様は、ルジーゼ・ロタ・ガロスは、私利私欲の為に動く男ではありません! 国の為、王の為に動く男です! 見損なわないで下さい。魔力がない事を引け目に感じていますが、とても強く男らしい人です」


 あら? お父様が悶絶していますわ?

 こんな面白いお父様いきもの見た事ないわね。

 うふふ。

 などとニタニタしていると、黙り込んでいたベルネ様がため息と共に話し出したの。


「……はぁ〜。ナナちゃんの言う通り。冷静に考えれば……違うわね。とても冷静にはなれなかっわ。私の娘が障がい者でガロスの娘も障がい者。なのに、ガロスの娘だけマジックアイテムを使って自由に生きてる。そんな姿を見て冷静に物事の判断なんて無理よ。よくよく考えれば、あのガロスが王を裏切る何てこと、絶対しないわ。ガロス、ナナちゃん……ごめんなさい。貴方達のことを蔑むような言い方をして、本当にごめんなさい」


 席を立ち頭を下げてくれたわ。

 今度は心の底からの詫び、だったわね。

 3分少々、下げた頭を上げて席に着いたわ。

 残っていた紅茶を飲み干して、ルバー様を見据えたの。


「さぁ、私はどうなるの?」


 新たに紅茶をカップに注ぎながら話し出したわ。


「そうだねぇ〜。マジックアイテムの違法な製造、改造は極刑に値する罪状だよねぇ〜。普通なら死罪。まぁ〜、娘の為にした事を考慮しても、貴族としての地位は剥奪……だろうねぇ〜。ただ、今回のアイテムは“恭順の首輪”なんだよねぇ〜」

「ルバー! その言い方を止めろ! 癇に障る」

「イヴァン……お前だって人の事を言えんだろうが! 一歩間違えば、ベルネと同じ様に“恭順の首輪”を作ろうと画策していた事は掴んでいるんだよ。偉そうに言うな!」

「イヴァン様もルバー様も黙って下さい。ルバー様もです。癇に障る言い方をやめて下さい」


 私が諌めました。

 啀み合いをしていたルバー様が、肩を竦めながらベルネ様と向き合ったわ。


「やれやれ。冗談が通じない人達だね。まぁ〜、いいかぁ。

 ベルネ。アイテムは“恭順の首輪”だよね。アレは発案者であるガウラ様と製作者であるガロスが、ルジーゼ・ロタ・ナナに全てを譲渡する事に決まっている。その為、ベルネの処罰はナナくんに一任するよ。死罪にするも良し。貴族の地位を剥奪するも良し。無罪放免にするも良し。君の好きにすると良いよ」


 名前を突然、言われて驚いたわ。

 それって……。


「丸投げじゃないの!」

「あははは! その通りだよねぇ〜。あははは!」


 ため息しか出ないわ。

 でも、私の好きにして良いのなら……うふふ……。


「はぁ〜。そうですね。……では……と、その前にお父様」

「な、なんだ」

「この、なんちゃって“恭順の首輪”をちゃんとした“恭順の首輪”に作り変える事は可能ですか?」

「う〜ん……半々だなぁ。“魔獣の首輪”はリサイクルが出来るほど丈夫なのだが、改造となると話は別だ。せいぜい持っても2回が限度だ。それ以上弄ると塵となる。コレは……何とか……なるかなぁ?」

「それでは、夏休み前には改造しておいて下さいね」

「分かった。何とかしておこう」


 私は冷めてしまったミルクティーを飲み干して、ベルネ様に裁決を下すべく見つめたわ。

 改めて見ると、本当に綺麗な人ね。

 白銀の髪の毛が腰近くで揺れているわ。

 切れ長の目が冷たい印象を与えているのね。

 口も鼻もバランスが良く、こじんまりとしていて美人だわ。

 きっと娘さん達も、麗らかで可憐な乙女よね。


「ベルネ様に質問です」


 静かに頷いたわ。

 少し怯えた目をして居たわね。


「何かしら?」

「紛い物の“恭順の首輪”を違法製造までしたんです。其れ相応の目算があっての、行動だったのでしょう?」

「勿論よ。私が統治しているメースロアには、雪と山しか無いの。その中でも、東の果てに広がる大地は常に雹や霰が降り。獣はおろか草木1本も生えてない、極寒の地域があるの。その奥に、ポッカリと開いた洞窟があり、そこに何故か1匹のホワイトベアーが住み着いているのね。1年に1度だけ、山里に降りてきて手当たり次第に、腹に収めて山へ帰るの。もちろん、獣も家畜も人族も襲われていたわ。だから、襲われる前にありったけの食料を置いておくと、それを食べて帰るのよ。私もその時に初めて見たわ。体格はガロスに匹敵するくらいで、黒眼の三白眼が恐怖を煽るほど、厳つい顔をしていたわね。魔力もギリ獣で、あと少しで魔獣ランクに入るほどを有していたわ。属性は風。このホワイトベアーなら、娘にピッタリ……と思ったのよ」

「野生の熊ですかぁ〜。しかも白熊。話す事はできても聞く耳を持ってくれるかしら?」

「え?」


 私の発言に驚いた顔をしたベルネ様。

 驚嘆した顔は、さほど美人では無いわね。

 構わず話を続けたわ。


「マジックアイテムの違法な製造、改造は死罪に値する重犯罪です。ですが、娘を思う気持ちから……お父様も同じですわね。娘を思う気持ちが、重た過ぎます。確かに、私は1人では何も出来ないですわ。そんな時は、ハチやロク、ネズミ隊の力を借ります。それでもダメな時はハンナの手も借ります。でも、ハンナの手を借りる事などほとんどありませんわ。以外と何でも出来ますのよ。ベルネ様の娘さんもきっと同じだと思いますわ。母が思うほど悩んでも無いし、落ち込んでもいないと思います。

 話を元に戻しますね。死罪に値する犯罪です。でも、娘を思う気持ちから起こった事だと鑑みて……判決は…………夏休みに私を含めた、異世界人クラスの生徒とユント先生にハンナ、7人をメースロアのお屋敷にて接待をして下さい。要はバカンスですわ。行き帰りの交通費から宿泊費。食費にお土産代まで、全て面倒を見てもらいます。なかなかの出費になるでしょうね。

 オホホホホ! ついでに白熊見物よ!オホホホホ! さしずめ名前はアイザックかしら? オホホホホ!」


 盛大に笑って話を閉めたわ。

 突前の申し出に驚愕の表情を見せたベルネ様。

 大笑いをし出したのが王様。

 他の皆様はビックリまなこでしたわね。

 みんなの間抜け面には大ウケだったわ。


「あははは! ナナ。それで良いのか」

「もちろんですわ、王様。母の愛は海よりも深いのです。私のお母様だって、切れるはずの無い、初代勇者の遺産をチョンと切ってしまわれたんですもの。母の愛のなせる技でしょう。ベルネ様とて、母の愛が暴走した結果だと思います。しかし、やってしまった事は犯罪です。然るべき裁量で処罰されるべき案件でしょうが、ルバー様が私に丸投げしましたんですもの。好きにやらせてもらいましたわ。不服は……ありませんよね」


 皆を見回したわ。

 もちろん異論を唱える者などいなかった。

 少しだけホッとしたわ。

 さて、本当に終わりね。

 やっと帰れるわ。


「お父様。私は退室いたしますわ。夕食もとっくに過ぎていますし、部屋の片付けもありますから」

「うむ。遅くまで済まなかったね」

「うふふ、大丈夫です。“恭順の首輪”の件。よろしくお願いします」

「分かった。行きなさい」


 お父様が送り出してくれたわ。

 やれやれ……と思っとに!!


「チョット待った! ナナくん! スキル“影法師”の新しい技は何?」

「ルバー、よく言ってくれた! 俺も気になっていた! 新しい技とは??」


 ルバー様は百歩譲って良しとするわ。

 なんで、王様がノリノリなのよ!

 私はみんなの所に行きたいの!!

 それにしても、なんで王様がスキル“影法師”の新技に興味があるのかしら?


白熊の名前は……ウフフ。

ちなみに片目ではありません……おそらく?


次回予告

「お姉様!ココは何処ですか?」

「ココは次回の予告をするスペースよ。マナス」

「……予告ってなんですの?」

「来週の金曜にアップさらる内容を煽って、盛って、言う場所ですわ」

「お姉様……私達の紹介をしなくても良かったのですか?」

「そうねぇ〜。私はメースロア・セラ・ロキアです。こちらは妹のマナス。私達はセラ家の娘ですわ。それでは、次回予告です。……ネズミ隊から齎されたスキル技“影縫い”とはどんな技なのか? 実査をするベルネの身に何かが起こる? ! 無事に円卓会議は終わりを迎える事ができるのかぁ! ! 乞うご期待!」

「お姉様! 大丈夫ですか! 」

「ふぅ〜、やり終えたわ」

「お姉様! 流石ですわ!」


次回予告をベルネ様の娘達にして頂きました。

実際の登場はもう少し先ですけれどね。


それではまた来週会いましょう。

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