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41話 あらあら、勇者の立ち位置ですって

爆炎の魔族ヘヴァンとデヴァンとイヴァンが似ているために変えました。

爆炎の魔族ヘヴァン=爆炎の魔族ジャバル

娘デヴァン=娘シャルル

 どこの世界でも同じ。

 会議と名の付くモノは、全てに置いて長時間になるものね。

 この世界の会議でも同じく、長いわ。

 長いのは女性のお喋りだけで充分です!

 はぁ〜、青ちゃんやマノアちゃん、ホゼにエディと、新しい寮で引っ越しの整理などなどをしているはずだったのに……。

 はぁ〜、帰りたいわ。

 でもそうは問屋が卸さないのよね。

 だって、今回の議題は魔獣ですもの。

 私しか話せないじゃ無い!

 さっき、帰れそうな雰囲気だったのよ。

 お父様も早く退席して欲しそうにしていたし、帰れる! と思ったのもつかの間だったわ。

 マギノ様から、魔獣を倒すには何個中隊あれば良いと訊かれてしまったの。

 もちろん答えたわよ。

 すると今度はイヴァン様から、魔力の無い兵士が10人居ても100人居ても同じで烏合の衆にしかならないと言うですもの。

 お父様を見ると、悲しさの遣る方無い顔をしているんです。

 も〜!

 私が反論するしか無いじゃない!

 言ってやるわよ!

 言い負かしてやる!


「確かに、魔力のない一般兵は勇者に太刀打ちできないでしょう。ですが、烏合の衆は言い過ぎで張りませんか。戦いようは幾らでもあると思います。そうですね……そう! スキルですわ。スキル“闘気功”は防御も出来れば、攻撃にも適しています。使い方は無限です」

『姫様。実はスキル“影法師”にも面白い使い方がございます』

「忠大? スキル“影法師”にね。でも、今はそれどころではないから、後で聞かせてね」


 突前、出てきたかと思ったらそんな事を言い出したわ。

 私は忠大を影の中に帰ってもらおうと思ったら、横やりが入ったの。

 魔術やスキルと聞くと黙っていないお方がね。


「へぇ~! どんなんだい?」

「あとにしろ!」

「イヴァンは僕には冷たくない? そんなことはどうでもいいとして。聞きたくないかい? スキル“影法師”に何かあるんだよ。僕は知りたいね。

 前から言いたい事があるんだ。ナナくんは勘違いをしている。ネズミ隊は皆Gランクだよ。忠凶だけがEランクだけれどね」

「な! それは……本当なのかぁ!」


 私にはなぜ、イヴァン様が驚いたのかよく理解できなかったわ。

 首をかしげていると、ベルネ様がこっそり教えてくれたの。


「うふふ。ナナちゃんにはまだ理解しにくい話かしら? レベルはみんな高いのよ。でも魔力の量となると話は別ね。1番多いのは言わずもがなのルバーよ。次にマギノ、私、王様、イヴァンの順番よ。これを魔獣のランクに当てはめてみると、1番下のイヴァンがEランクね。1番高いのは、どうでもいいわ。次のマギノがCランクぐらいかしら。これはあくまでも魔力量で計算すると、よ」

「忠大! ちょっと聞いたぁ! 貴方達の魔力量はそんなに低く無いわよ」

『はっ。そのようで御座います。ですが、そう考えると……勇者自体が魔族に比べると低い可能性が御座います。如何致しましょう』

「え! えっと……その……どうしましょう」


 流石にオロオロしてしまいましたわ。

 そんな私に話しかけてきた人が居たの。


「ナナ。そのネズミは何と言ったのかなぁ?」

「王様……その……あの……」

「ナナ。忠大は何と言ったのか、包み隠さず話しなさい」

「お父様! ……分かりましたわ。忠大が言うには……自分達の魔力量がそんなに低く無いと言う事は、勇者自体が魔族に比べると低いのでは無いのか、と言っていましたわ」

「「「「「「……………」」」」」」


 あらあら、絶句しちゃいましたわね。

 私は盛大に大息をして、話し出したわ。

 全く、馬鹿げだ大人達です事。

 何故、目の前の大きな数字しか目に入らないのかしら?

 地道に1歩づつ歩けば、千里の道も前に進むのに。


「はぁ〜。お父様まで言葉を無くさないで下さい。魔族に対抗し得るヒントはお父様ですわ」

「俺が?」

「はい、そうですわ。よくよく、考えて下さい。この中で1番強いのは、魔力の無いお父様です。ではなぜ、お強いのか。それは、今も努力し続けているからですわ。勇者も一般兵も同じ人族です。考査と鍛錬で誰でも強くなれます。その証拠にルジーゼ兵の皆様はスキル“闘気功”を使いこなしていて、とても屈強ですわ」


 今度は、ベルネ様から盛大なため息が溢れたの。


「はぁ〜。ガロス! 貴方は、何をこの子に教えているの? 仕方が無いから私が教えてあげるわ。ナナちゃん。基本、各地域は徴兵制を強いているの。15歳から20歳までの5年間、従軍するわけね。ところがガロスのルジーゼ地方だけ、職業軍人制なのよ。それはなぜか! もちろん魔獣が出現するからよ」

「ベルネ様、徴兵制と職業軍人制の違いは何ですか」

「その名前の通りよ。徴兵制とは男女問わず、強制的に集められた市民の事ね。職業軍人制は……」


 あら?

 言い淀んだわ。

 ひょっとしてよく知らないの?

 ベルネ様の言葉尻をお父様が拾い上げたわ。


「職業軍人制も名前の通りだよ。専門的に学んだ市民の事。15歳から20歳までの、意欲がある男女を公募する。5年間はルジーゼにある軍人学園に入ってもらい、軍事訓練やスキルを学んでもらう。もちろん、軍事訓練には兵法から集団行動まで幅広く教えている。卒業すると適正に応じて、歩兵の任務や内勤などに勤めてもらう」

「お給金はどうなっているのですか?」

「徴兵制でも職業軍人制でも、5年間は無償だ。職業軍人制だけ、卒業したらそれ相応の給金が支払われる」

「そうですのね。ですが、背に腹はかえられません。ここは皆さん職業軍人制に切り替えては如何ですか」


 私の投げかけた質問に、誰も答えてくれなかったわ。

 それどころか、困惑した表情を見せてくれたの。

 さらに……。


「もお! 何で私から話さなければいけないのよ! イヴァンでもマギノでも、いいじゃないの! まったく……。分かったわよ。えっと、怒らないで聞いて。

 王族と貴族は、信仰と権威の対象でいなければならないのよ。その為にも、大勢の兵士を集めて威厳たっぷりに振る舞わなければならないの。なかなか大変なんだから。イヴァンではないけれど、烏合の衆で困るのよね。アレを教育するのは不可能だわ。あ! もちろん、ガロスが威厳が無いとは言っていないのよ。ガロスが強いのは周知の事実だから」


 コノヒトタチハ、ナニヲイッテイルノ??


 はっ!

 今のは何?

 完全にトリップしていたわ。

 でも、どうしましょう?

 この人達は、人族の、勇者の、境遇を理解していませんわ。

 どう言えば、理解してくれるのかしら?

 悩んでいる私に助け舟が出されたわ。

 でも……ね。


『ナナ。あたしの事を話したらどうだい』

「ロク、嫌よ。貴女が悲しむもの」

『あたしなら、平気ニャ。それよりも、こいつらに人族の立ち位置を教えた方がいいニャ』

「……分かったわ。王様、ベルネ様、イヴァン様、マギノ様、もちろんお父様もです。私の話を最後まで、聞いて下さい。もう一度、言いますよ。口を挟まず、最後まで私の話を聞いて下さい」


 私の気迫に押された為か、頷くしか無い面々。

 まったく、とんでも無い大人達です事。


「話は5年間に遡りますわ」

「今は昔話など……」

「イヴァン様! 私は口を挟まず、と言いましたわ。今、言った事すら守れないのですか? 厳守でき無いのならこの部屋から退室なさっても結構です! …………。よろしいですわね。再度、言います。私の話を最後まで、聞いて下さい! いいですね!」


 今度こそ話が出来そうね。

 私は改めて話し始めたわ。


「話は5年間に遡りますわ。正確に言うと5年と少し前ですね。元々、ロクは黒属性を備えた黒猫でした。飼い主は爆炎の魔族ジャバルの娘シャルル。彼女も生まれながらにして、トップクラスの火属性を宿していたみたいですわ。ロクの話によると父親より魔力の量も質も良かったみたい。魔族の中でも爆炎の魔族は風変わりな方で、田舎にある屋敷で穏やかに暮らしていたのよ。自身の魔力が強いので、来る者拒まず魔族や魔獣を受け入れていたようね。その中に……はぁ〜、ロク、ごめんなさいね」


 私がそう言うと、首を振り気にし無いでと擦り寄ってくれたわ。

 優しい子よね。


「その中に居た新参者、魔族5人が牙を剥いた。爆炎の魔族の元に集まった魔獣や魔族40人ほどを……自分の魔力へと変えていきましたわ。もちろん、最初に狙われたのが父親のジャバル。次に狙われるのは娘だと感じたジャバルは瀕死の体で、娘の元に駆けつけたわ。当たり前よね、父親ですもの。家族を、子供を、守るのが務めだわ。でも、それが仇となりシャルルが襲われ、右腕を失った。自分達の傲りがこの襲撃を招いたと考えた彼女は、猫のロクに魔力を注ぎ魔獣へと進化させた上で、自分自信を取り込み魔力に変え、屋敷ごと焼き払って欲しいとお願いしましたわ。ロクは渋々承諾して、実行致しました。それが5年と少し前の話ですわ。そしてこの間、マギノ様と炎の勇者シャリラ様、後から登場したイヴァン様の3人で討伐した魔獣ワイヴァーンが気になる事を話していました。確か……止めとけ、シャルル様が腹でも下したらどうする? 止めとけ、止めとけ。さっさと殺して行くぞ……でしたわね。忠凶、ありがとう。さて、話はここで終わりですわ。次は頭を働かせて、想像して下さい」


 私は一人一人、しっかり目を合わせて、さらに言葉を紡ぎましたわ。

 今度は問題定義です。

 勇者が、人族が、どんな立場に居るかを分からせないといけませんものね。


「私は2つの話をしましたわ。共通する語録は、魔獣とシャルル様です。さて、ここで幾つかの仮説が立てられます。

 その1、シャルル様は死んでい無い説。

 その2、実は爆炎の魔族を襲撃したのはシャルル様で、自作自演説。

 その3、全くの別人説。

 その4、襲撃した5人のうちの誰かが名前を語っている説。

 この4つの説の中で、1と2はロクが魔獣に進化をしている事からありえませんわ。次に3の説です。コレが1番ありそうな話ですわね。問題は4つ目の説ですわ。コレが当たりなら……爆炎の魔族を取り込み、龍王を襲い自身の魔力に変えたと言えますわね。

 想像できましたか? この5年間の間に、どれだけの魔族や魔獣を取り込んで力に変えたのでしょう。龍王を襲うほどの魔力を手に入れて、さらに欲している。人族が、勇者が、どんな場所に立たされているかご理解いただけましたか? これまでの様に、見栄や体裁を取り繕っている暇などありませんよ! そもそもの意味、民を守り命を支える者が勇者でしょう。だったらその通りにして下さい! 生き残る為に何をすべきか、自ずと答えは1つでしょうが! 勇者と名乗るのなら、やるべき事をして下さい! 待った無しです!」


 あらあら、困ったわね。

 反応無しだわ。

 ここはひとつ、ショック療法ね。

 私は手を振り上げテーブルを叩こうとしたら、ロクの尻尾が粉砕したわ。

 ニコニコ顔でね。


 バン! メリメリ、ガタン! ……ガシャン!!


 この音で我に返った面々。

 床には、左右に分かれたテーブルの残骸と割れたティーカップ達。

 私はそれらを見て、皮肉ってやったわ。


「ごめんなさい。壊しちゃいましたわね。人族が、こうならない様に祈っていますわ。それでは私、帰りますわね。言いたい事も言いましたし、みんなの所に行きます。お父様、よろしいですわよね」


 確認を取る為に見やると……まだ固まっている面々。

 本当に困った人たちね。

 ため息まじりに、さらなる皮肉を言う為に口を開きかけた時、思いもよらなかった人が立ち上がり、頭を下げたわ。

 そして、大きな声で話し出したの。

 本日2度目の方ですわ。


「ガウラ、ナナ君。これまでの非礼をもう一度、詫びたい。申し訳なかった。申し訳なかったついでに、視察を受け入れてもらいたい。軍人学園と異世界人支援施設を重点的に見回りたいと思っている。どうだろうかぁ」


 イヴァン様からの突然の申し入れに、戸惑ったのはお父様。

 私的には今さら感が否めなかったけれどね。

 でも、1人だけではなかったの。


「ちょっと待ってくれ。俺は異世界人支援施設を重点的に見て回りたい」

「だったら、私は障がい者支援施設と異世界人支援施設がいいわ」


 などと、マギノ様とベルネ様が好き勝手に話し出してしまったの。

 誰がどの順番で見て回るのかを3人で話し合っていますわ。

 そこに割って入ったのが、最高権力者であるお方。


「ルバー。スアノースに軍人学園を開校できる場所はあるか」

「はっ。異世界人校舎がございます」

「だったら、そこに開校せよ。障がい者支援施設と異世界人支援施設を開設する為の準備を頼む」

「はっ。ガロス。すまぬが、視察を受け入れてくれ。すぐに使者を立てる」

「承りました。ですが……」


 流石にお父様も言い淀みましたわね。

 当たり前と言えば当たり前ですわ。

 そんな、鳶に油揚げをさらわれる様なやり方は納得しませんもの。

 でも、お父様が心配していたのは別の事でしたわ。

 これが本当の統治者の姿ね。


「視察を受け切れるのは構いませんし、お教えできる事は全てお話しいたします。ですが突然、様式が変われば、民の者が迷いませんか? 娘の話では、一刻でも早く鍛える方がいいように思います。先に勇者を鍛え、その後で一般兵を募集して鍛錬をする方が良いように思います」


 お父様からの発言に、唸り声を上げながら、悩みに悩んでおりますわ。

 ここは私の出番ですわね。


「だったら、徴兵制はそのままにして、そこから有志を募ったらいかがです。集まった一般兵を軍人学園で教育したらどうですか? そうですねぇ〜。異世界人校舎を軍人学園にするのなら、ルジーゼにある軍人学園の分校という形にしたら如何です。コレならルジーゼ地方で、推奨している職業軍人制をしながら、他の地方でも職業軍人を取り入れる事が出来ますわ。障がい者支援施設と異世界人支援施設はすぐにでも開設出来ますわね。お父様? 王様? 皆様? そんな感じで、いかがですか?」


 誰も何も話さないんですもの。

 私ったら、お門違いな事を言ったのかしら?

 不安になっちゃったわ。

 すると、王様が話をまとめるかの様に話し出した。


「うむ。そうだなぁ、そうしょう。ルバー、しかと記せ。他の者も意見は聞かぬ。良いな」


 見回した王様。

 イヴァン様もマギノ様もベルネ様もお父様も、頷き承諾致しましたわ。

 それを確かめた王様。

 徐ろに話し出した。


「他意は無いな。今居る徴兵制で集めた兵士の中から志願を聞き、軍人学園に編入させろ。旧異世界人校舎をそのまま軍人学園とし、整備を整えよ。そして、忙しくなるが、障がい者支援施設と異世界人支援施設を直ぐにでも開設せよ。偏見や蔑みなど不要。公平で懇篤な施設を頼むぞ」

「はっ。すぐにでも使者をロタ家に送るから、よろしく頼む」

「もちろん、いいとも」


 話も上手くまとまったわ。

 良かった良かったと胸をなで下ろして、みんなの所に行ける! と思っていたのに……。

 はぁ〜、最後の最後になって、とんでも無い爆弾を投下した人がいたの!

 もう!

 なんで日だ!!


「ねぇ……ナナちゃん。1つ聞きたいのだけれど、いいかしら?」

「もちろん、ですわ。ベルネ様」

「あの……その……。目が見えない子はどうやって生きて行けばいいの?」

「はぁ?盲目……ですか?」


 ここで不思議に思ったの。

 なぜベルネ様は、言いにくそうに盲目の方の話をしたのかしら?

 何か……あるわね。

 問い詰めるしか、無いようですわ。

 ニャリと笑った私を見たベルネ様は、椅子に深く座りなおして衝撃に備えたようですわね。

 殊勝なことです事。

 何を隠しているのですか?

 ベ・ル・ネ・様!

ネズミ隊は弱くはなかったぞ! と言いたいが為の話でした。

今回で1番驚いたのはイヴァン様とヘヴァンとデヴァンの名前が似ている事!

慌てて名前を変えました。

順次、変えて行きますね。

すぐじゃ無いのが……申し訳ないですわぁ〜。

リアルが忙しくて、更新がままならない……はぁ〜すいません。


次回予告


「娘シャルルよ。ココが本編かぁ〜」

「パパ、違いますわ。ココは次回予告コーナーですわ」

「うむ〜……予告とは?」

「もう!パパったら!私がいたしますから黙っていて下さい」

「うむ〜……すまん」

「では!次回予告!ベルネの犯罪が暴かれる!家族の為とは言え手をだしてはいけない事に手を染めてしまう!その事を知ったイヴァンは!マギノは!ガロスは!ルバーは!王は!そしてナナは!どんな決断を下すか!そして、スキル“影法師”の新たなる技とは?怒涛の円卓会議も終わりを迎える。その時4貴族は存在しうるのかぁ!乞うご期待!……パパ、こんな感じでいいかしら?」

「素晴らしいよ。シャルル。私達の名前が変わるより完璧な予告だったよ。付け加えるとしたら……どの世界でも、どの人種でも、娘には弱いという事だね」

「どう言う意味ですの?」

「あははは!シャルルは可愛いね」

「もう!パパったら」


予告でしか登場できない方でした。

娘のシャルルはこれから先に登場しますが……シャバルの娘シャルルでは無いですね。


それではまた来週会いましょう。

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