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4話 あらあら、バレちゃったですって

 3時間かけて両親が住んでいる居城に着いたわ。

 時刻は正午過ぎぐらいかしら。


 夢の国のお城を思い描いたのに、実際は玄孫の圭介君が遊んでいたゲームの世界の城に近いわね。

 規模もそのぐらいではないのかしら。

 門番が左右に睨みを効かせながら辺りを警戒しているの。

 私達は少し大きい街路樹に隠れている、そんな状況ね。


 ロクが囮になり、中には簡単に入れたわ。

 入ると目の前には広い中庭、と言うより練習場があったの。

 こんな所に?とも思ったけれど、見渡せるところに執務室があり外観はともかく実戦向きの砦と言った感じね。

 質実剛健を地で行くような居城。

 うん!良い所。

 私、気に入ったわ。

 ゴテゴテしているような着飾っているお城よりいい。


 次はお父様とお母様のご尊顔を拝聴しましょうかね。

 そう思って練習場を回って執務室の窓から覗こうと細長い石にハチが前足をかけた時、ロクの声で全てが始まった。


『ハチ!ネズミども!ナナを頼んだよ!ナナを守るんだ!!』

「え!ロク!!」


 振り向くとロクがいた場所に、間欠泉の如く水が噴き上がっていた。

 ロクを探すと、意識は無いように目をつむり首と手足を外に投げ出して、身体だけが水の中で浮いている姿があった。

 近寄ろうと動く私をハチが制した。


『ネズミ達はいるかぁ!』

『はっ!ここに』

『ナナを降ろすから……本来の姿に戻りナナを守れ!僕はロクを倒す』

「ダメ!!絶対ダメ!!ハチもネズミ達も私の話を聞いて!!

 私は知っていたよ。ハチは魔獣だよね。だったらロクを牽制してて。ネズミ達はこの呪いが何なのかを調べてきて!すぐによ!早くして。お願いだから私の話を聞いて!」

『ナナ……分かったよ。ナナの言う通りにする。たとえ僕の事を怖がってもロクを牽制するよ』

『分かりました。本来の姿に戻り、全力で姫様の役に立つぞ!

 忠凶は姫様の盾となれ!他の者は探れ!行くぞ』

『『『『はっ』』』』


 状況は一変した。


 私を細長い石の上に降ろしたハチは、大きなシルバーウルフへと姿を変えた。

 ところが大きさがおかしいの。

 図鑑で見たシルバーウルフの倍はある大きさ。

 もっと分かりやすく言いますと、ホワイトスイスシェパードの3倍はあろうかと言う大きさなの。

 余計にわかりにくいじゃない!


 砂を巻き上げ竜巻をいくつも作り周りを牽制しつつ、ロクを取り込んだ水の柱を練習場へと押し始めた。

 そうなの! ハチは魔法を使ったの!

 周りには騒ぎを聞きつけた兵隊やお父様にお母様まで姿を表していた。

 私の側にはネズミの忠凶が来たのだけれど、こちらも姿が大きく変わっている。


「え!イタチ?」

『いいえ、違います。始めはドブネズミの獣でしたが魔力を注がれ生き残ったのがボク達、ケナガネズミ族です』


 事態は私達には悪く動こうとしていた。

 ハチが作り出した竜巻の隙をついて兵士たちが、ハチに迫ろうとしていたからだ。

 私はあらん限りの声を張り上げ、お父様に訴えた。


「お父様!ナナです!貴方の娘のナナです!

 私の話を聞いてください。私は異世界人です。能力は獣の声を聞くことが出来ます。

 今、戦っているのは私の仲間です。どうか私を信じて下さい!貴方の娘を信じてください!

 兵士を下げて、近寄らないで!!」


 私は真っ直ぐにお父様を見た。

 お父様も私を見て……頷いた。

 一歩前に出たかと思うと、竜巻の隙を進む兵士に向けて号令をかけた。


「全軍停止せよ!待避して警護!ナナ……これでよいのだなぁ」

「はい。お父様、ありがとうございます」

『姫様!わかりました。報告します』

「忠大!みんなも!」


 私の周りにケナガネズミ達が、一列に並んで報告してくれた。


『姫様。100年ほど昔、この近くの集落に賊が押し入り金品や女を奪い村を燃やす事件がありました。その際、妊婦だった女も拉致されましたが、邪魔になりお腹の赤子ごと殺されこの場所で捨てられたとのこと。

 兵隊が駆けつけた時にはすでに息がなく死んでいたそうで、哀れに思った兵士達が石碑を建てたとの文献が残っておりました』

『姫様。僕が調べた事によりますと、この地下深くに水竜が眠りに付いているそうです。おそらくですが水竜の魔力を取り込んでいるかと思います』

『姫様。俺が調べたことによりますと、ここいら辺は昔、魔族と通じる洞窟があり度々、人間や獣など多く殺されたようです』

『姫様。オレが調べたことによりますと、その石碑を建てたのは異世界人です』

「みんな!ありがとう!そうね……何とかなるかも!

 疲れているところに悪いのだけれど、藁と塩と酒を持って来て。藁は多い方がいいわ。お願いよ!急いで!!」

『『『『はっ』』』』


 私は自分が乗っていた細長い石の上から飛び降りた。

 苔むし土の中に半分ほど埋まっていた石に、摺りより手で掘り出そうともがいていると、身体が浮いたの。驚いて振り向くとそこには……。


「ハンナ!何で貴女がここにいるの?」

「ナナ様こそ、ここで何をしているのですか。貴女様の言動がおかしく後をつけて参りました。ところが途中、見失い騒ぎを聞きつけて来てみれば……。説明をして下さいナナ様」

「ハンナ……。簡単に説明するけれど、この石を起こして綺麗しないといけないの。その作業しつつでいいかしら?」

「この石を起こせばよろしいのですね。私がいたします。ナナ様はそちらに」


 そう言うとハンナは私を足元に座らせてくれた。

 私の代わりにハンナが細長い石を起こそうと手に掛けた時、お父様も動いた。


「これを起こせばよいのだなぁ」

「ガロス様!」

「話は後だ。今はナナの言う通りにしょう」

「はっ」


 ハンナとお父様が細長い石を起こし、土と苔を綺麗にした。

 私がにじり寄ろうと動いていると、またも身体が浮いたの。

 驚いて振り向くと今度はお母様が私を抱き上げて、石碑の近くまで近づいてくれたわ。

 母の温もり……感傷に浸っている暇は無いわね。


「100年ほど昔、この近くの集落に賊が押し入り金品や女性を奪い火をつける事件があったそうです。その時、妊婦も連れ去られたようですが邪魔になり殺され、ここに捨てたれたみたい。駆け付けた兵士が憐れに想い石碑を建てて供養したようです。

 しかしこの場所があまり良くなかったようで。魔族へと繋がる洞窟があり人も獣も多く殺されたり、地中深くに水竜が眠っていたりと力を吸収したと思われます。そしてなんかの拍子で石碑が倒れて呪いが噴出したようです。

 石碑を調べますに……やはり、異世界人が建立したようです。だったら私が知っているやり方で封じる事が出来ると思います。

 お父様、ハンナ。その石碑を起こしてください。

 ハチ!もう少しだから頑張って!!」


 私は捲し立てるように話した。

 そしてハチを見ると壮絶な戦いをしていた。

 まさに弁慶と牛若丸、五条大橋の戦いを思わせるかのような光景に息を呑んだわ。


 ロクを取り込んだ水の柱は噴き上げるように下から上に水が流れ、水の玉ウォーターボールや、水の槍ウォータースピアなどをハチ目がけて飛ばしていた。

 それをヒラリヒラリと舞う如く避けて行く姿は牛若丸を彷彿とさせたのよね。

 ハチの方が優勢のように見えるけれど……違うみたい。

 ハチの顔色が悪い、心なしか竜巻の威力が落ちたように見える。


 急がなければ!!


 気持ちばかりがはやるけれど、ここは落ち着いて事に当たらなければならない。

 私は自分に気合を入れている、そんなときネズミ達が藁と塩と酒を持って来てくれた。


「お母様。降ろしてください。私は大丈夫です」

「ナナ……わたくしを……」


 何か言いたそうなお母様に頷き、大丈夫ともう一度言って降ろしてもらった。

 ネズミ達が私の周りに集まり藁を差し出した。


『姫様。持って来ました』

「ありがとう」


 私はスカートをめくり足の付け根に藁を敷、撚り合わせたて七五三縄を作ろうと四苦八苦していたわ。

 なんと言っても足先がなく、手も小さい。

 子供なのだから仕方のないことかもしれないけれど、そんな事を言っている暇はなかった。

 何とか作り終える間に、私の手には血が滲んでいた。

 藁が思いのほか硬く手や太腿に刺さったのだ。

 昔を思い出しながら、何とか長さと太さを確保出来る物が出来上がったけれど。

 コレを石碑にと思い顔を上げると、そこには綺麗に苔も土も払われ、掘られたていたモノが分かったそれは、文字ではなかったの。

 おそらくこの世界の人にも理解がしやすいように、とある絵が掘ってあった。

 その掘った物を見れば異世界人で日本人なのだろうと用意に想像が出来たわ。

 だってそこには慈母観音菩薩様が掘ってあったから。

 私は思わず手を合わせてしまったの。

 ハンナが不思議そうにこちらを見ていたのであわてて、指示をだしたわ。

 すると私の隣で作業を見つめていたお母様がブサイクなしめ縄の取り付けをしてくれたの。


「お父様、ハンナ。この縄をその石碑に取り付けてください。通す穴が開いていると思います」

「ガロス様!こちらにありました。ソノア様!」

「思い出しました。わたくしが最初の子を身ごもった時に倒して、ベンチにした記憶があります。

 わたくしが呪いの蓋を開けてしまったのですね。わたくしが……」

「お母様。いずれ誰かが倒していたと思います。今は繰り言を言わないで下さい。

 これからが本番です。この酒と塩を振りかけてっと……私の俄仕込みの封印が上手く行けばいいのですが……」


 今まさに七五三縄と酒と塩で清められた石碑を、20センチほどの穴が開いた場所に置こうとした瞬間お母様の悲鳴で振り向いた。


「キャ~ナナ!!危ない」


 その声で振り向いた時、遠近感が狂ってる?と思いたくなるほどの、大きなウォーターボールが私目がけて飛んできていた。

 あ!終わったわね……。

 確信めいたものが私の中に生まれたわ。

 その時ウォーターボールと私の間に小さな生き物が、目の前に飛び上がった。


「チュウ!」


 けして小さい訳ではない忠凶。

 でも比較したのが大きなウォーターボール、その為に小さく感じただけ。

 その忠凶が私の目の前で掛け声一発!宙返りをしたわ。

 すると黒色で円形の板が私の目の前に現れてウォーターボールを弾いた。

 しかし勢いを相殺する事は出来ずに忠凶が弾き飛ばされてしまう。


「キャ!忠凶!大丈夫なの!!」

『ボクは大丈夫です。それより早く』

「分かったわ。お父様!早く置いて下さい!」

「うむ」


 お父様は1人で抱え勢い良く、穴めがけて打ち付けた。

 2メートルほどある石碑が半分ぐらい埋まってしまったの。

 それくらい強い力で打ち付けた。

 打つと言うより撃つに近いかも?

 それほどの勢いと音で辺りを静かにさせる。

 周りを見ると水の柱は無くなり、ロクが地面に横たえていたわ。

 私は駆け寄るべくバタバタもがいていたが、目の前に立ちはだかる壁が出現した。


「お父様!退いてください。ロクが!ロクが!」

「ナナ……落ち着きなさい。まだ終わってない様だ」


 その言葉でロクが動いた。

 母猫が子猫の襟首をくわえて運ぶ時の姿で、宙に浮いていたの。

 フラフラとしながら石碑の上まで来た時、ロクは青い目を見開いてうめき声を発した。


「怨めしや……憎らしや……あ~…あ~…あ~…あたしの子を返せ!!」


 ロクが人の言葉と声で呪言を放った。

 まさに呪いの言葉、我が子を胸に抱くことが出来なかった母親の言葉。

 私には痛いほど理解ができた。


「あなたの気持ちはよく分かるわ!」

「お前みたいな子供に何が分かる!!」

「私は異世界人。前の世界で……生きていくために……あたしが!生きていくために、子供を下ろしたことがある。時代も時代だった。みんながみんな、生きていくために必死だった。それでも!それでも!あたしの赤ちゃんを殺しては行けなかった……」

「ナナ……あなたは本当に異世界人なのね」

「お母様!」


 お母様が私の隣でロクを見上げながら話し出した。


「おそらくこの中で一番、あなたの気持ちが分かるのはわたくしですわ。

 ナナが産まれるまでに流産が4回、死産が2回。わたくしが招いた事とはいえ……辛かったわね。

 でもわたくし、悲しみばかりを数えることはしませんの。数えてしまうと数が増えそうで、わたくしは嫌いです。常に明日のことを考えて今を生きていますわ」

「お母様」

「ねぇ……貴女、我が子を愛さない親はいないように、親を愛さない子もいませんわ。きっと天国で貴女のことを待っているわよ。貴女の赤ん坊が!早く行ってあげて!だって赤ちゃんはママが大好きだもの」


 そう言うとお母様は私を強く抱きしめた。

 すると空から一条の光がロクを貫いた。

 刺し貫いた光が天に帰って行く時に、ロクの身体から光の玉を連なって消えて行ったの。

 石碑にゆっくりと横たわるロクは、生贄に捧げられた生娘の様に見えた。

 ロクは猫だけどね。


「ロク!ロク!」


 私は我に返って、両腕を伸ばし石碑の上にいるロクを取ろうとアタフタした。

 するとお母様が優しく抱えて私に渡してくれた。


「ロク!ロク!しっかりして!ロク……ロク」

「ナナ様。HPが極限までに下がっていると思われます。MPが無くなっても死にはしませんがHPが無くなると死ぬ恐れがあります。このポーションを飲ませてください」

「ハンナ……ありがとう」


 私はロクの口にそっと流した。


「お願い!ロク、飲んでよ……」


 私の願いが通じたのか、ロクが少し飲んでくれた。

 するとリズムよく胸が上下しだし、顔色も良くなった。

 周りを見ると、ハチとネズミ達が心配そうにロクを覗き込んでいたの。

 その顔は暗く疲れてる。


「みんなも少しずつ飲んで」

『ナナが飲んでほしいワン』

「ハチ!貴方も、そして貴方達も疲れているんだから飲みなさい!」


 私は強く言い付けた。

 仕方なしにハチが私の手酌で飲んだ。

 次にネズミ達も飲んでくれた。

 最後に残ったポーションを私が飲んだ。

 少し甘めの緑茶?

 そんな味がしたの。

 みんなを助けられた安堵感に、ため息をついたそのときハチとネズミ達が倒れた。

 え!!と驚いている間に私も意識を手放した。

私も母が好きだ!!

子供にとって母親は愛情の塊だと思う。

話は変わるけれど……最近、虐待死する子供が多いような気がする。

不謹慎かもしれないけれど……異世界人ならいいのにね。

そうすれば虐待されても、前の世界での記憶で逃げる事が出来るし助けを求める事も仕返しする知恵もあるのにね。


次回はハチとロクとネズミ達の昔話です。

気持ちの良く無い話が少し含まれます。

ですがほんの少しなのでサラリと読んでいただけると幸いです。

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