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37話 あらあら、本当の特殊スキルですって

 クラスメイトの青ちゃん、マノアちゃん、ホゼがお泊まりに来たわ。

 砦のようなお城を見ると、異世界人はノスタルジックな心待ちになるみたいね。

 私もだけれど。

 お昼を食べて落ち着いた時、私は異世界人の事について聞いたのよ。

 そしたら、私の特殊スキル話になり、マノアちゃんとホゼが不幸特殊スキル自慢大会に発展してしまったの。

 最初に抜け出したのはマノアちゃん。

 彼女の持つ特殊スキル“絵師”は、紙に描いた絵をリアルにする事が出来るスキル。

 その際の条件として、描いた物の最小単位しか本物が出ない事。

 それ以外は食品サンプルだったり、プラスチックの置物だったり、そんな物しか出ないわね。

 ここで重要なのが、最小単位なの。

 この単位の基準は、マノアちゃん自身。

 彼女の記憶が全てなの。

 そこが情報源だから、当たり前といえば当たり前よね。


 もう1人の不幸特殊スキル保持者は、自分だけ〜、の恨み節が篭った目をしていたわ。


「マノアのスキルは凄い。コレだって世間にバレたら大騒ぎだよ」

「はぁ〜、貴方のスキルもとんでも無い代物だと思うけど」


 ホゼはマノアちゃんからもらった、ポラロイドカメラをヒラヒラさせながら話したわ。

 皮肉が混じった言い草だったけれどね。


「ナナ……僕の能力は材料が目の前に無いと意味がない。中途半端で役に立たないスキルなんだよ」

「マノアちゃんがいれば材料を集める事も容易いんじゃない?」


 フッと鼻で笑いながら、ヤレヤレ仕方ないなぁ〜、と言わんばかりに話し出したわ。

 なかなか、カンに障る言い方ね。


「ナナが自分で言ったんじゃないかぁ。マノアの能力は、自身の記憶が基準だと。言い換えれば、マノアの記憶に無いものはリアル化、出来ない、と言う事だろう。前の世界で、まったく接点がなかった僕とマノア。年齢も死に方もまるで違う。ここまで共通項が無いのに、僕が言ったものを出せる訳無いじゃん」

「確かに接点は無いわね。でも共通の認識は同じ物があるんじゃ無いの? 例えば……白線を引く白い粉ってなぁ〜に?」

「え? あ! あの粉ね。赤いヤツに入っていて、カタカタ鳴りながら校庭に大きなラクガキをしたヤツね」

「ほら! アレって消石灰でしょう。確か……」

「ナナが言っているのは水酸化カルシウムの事だろう。でも、マノアが頭に浮かべたのは炭酸カルシウムの事だね」

「そんなのどちらでもいいわ。共通項が無いと言ってる割には、しっかりあるじゃない。同じ時代、同じ場所、同じ空気を共有しなくても共通点ならある。それは、今よ!この世界で、同じ時代、同じ場所、同じ空気を共有しているわ」

「確かにそうだけど……」

「うふふ、ナナちゃんが言いたい事。何となくわかる気がする」


 ここで、私が言いたかった事を代弁してくれた人が居たの。

 ハンナでもユント先生でもない人。


「青ちゃん」

「私、渡来者でしょう。転生者のみんなは、この世界へ来る時に記憶が途切れるのよね。だから、前の世界と今の世界という風な言い方をするんだわ。でもね、私からすると1つの記憶なの。途切れる事なく陸奥青森の想い出なのよ。ナナちゃんは、今も昔も、今の世界も前の世界も、同じ記憶だから今の世界で見てきた物、触れた物もマノアちゃんの基準になるんじゃない。それはホゼとの共通項だわ。それに私達……前の世界でのと……あまり話さなかったね。ひょっとしたら共通点がいっぱいあるかもよ」


 みんなして青ちゃんを見つめてしまったわ。

 だって、私達の話をただ聞いているだけだったのに、私が伝えたかった事をズバリ言ってくれたんですもの。

 共通項なんて、話してみなければわから無いのにね、と言いたかったのよ。

 彼女の話を聞いたホゼは、目から鱗が落ちた様にパチパチして青ちゃんを見た。


「あははは! 僕は馬鹿だね。青ちゃんとナナの言う通りだ。話せばよかった。もっと詳しく、過去の事や今の事。お互いの能力の事も全て。そうすれば、マノアの能力も僕の能力も生きる事が出来るんだ。こんな簡単な事に気が付かないなんて、本当に間が抜けてる」

「ホゼ。しょうがないわ。私だって、ナナに指摘されて初めて気がついたもの。自分の記憶が基準だなんて……分からないわ。私の能力“絵師”が、ホゼの能力“薬剤師”の力になれるだなんて、誰も思わないわよ。でも、嬉しいわ。私達は会うべくして、ここに集ったのね。最後にナナちゃんが揃って、動き出した。私……嬉しいわ……本当に……嬉しい……」

「マノア。泣かないで、何だか僕も泣けてきちゃう」

「マノアちゃん、青ちゃん」


 思わず4人とも、泣いてしまったわ。

 ホゼもいつの間にか涙が溢れていたし、私もね。

 何とかして、みんなを守る手筈を整えないと。

 そう考えていた私を、見透かしていた人がいたのよ。

 流石よね。

 頭が下がるわ。


「ナナ様。貴女様の考えている事など、手に取るように分かりますよ。私は育ての母なのですからね。ここから先は私にお任せ下さい」


 そう言いながら、みんなのホットミルクを新しい物に変えてくれたわ。

 もちろん、ハンナよ。

 それにユント先生もね。


「でも、どうするの? 見捨てる、選択肢は無いわよ」

「分かっています。まずは、皆様にどれだけご自身が、危険かを理解していますか?」


 私を含め、4人とも不思議な顔をしたわ。

 そう言えば、誰が私達に危害を加えるのかしら?


「メースロア・マノア さんとルジーゼ・ホゼッヒくんと陸奥青森さんは、自分達の特殊スキル・特殊魔術がどんなに危険なものか理解していますか? もちろん、ナナ様もです」

「「「「????」」」」


 私達がはてなマークだらけになっていると、ダメダメですねぇ~、混じりのため息を出してから話し出したわ。

 そこまで大息することないのにね。


「はぁ~。異世界人には多い反応ですが、少しは危機感を持っていただきたいです。

 マノアさんの特殊スキルは、どんな物でも具現化出来るようです。そればかりか、前の世界の物までも出来るようですね。先程のポラロイドカメラ……カメラがどんな機能なのかは分かりませんが……風景や被写体をその板に、そのまま撮しとる物。それだけでも、遊んで暮らせるだけのお金が手に入りますが、拉致され強制的に搾取され金儲けの道具となる未来しか見えません。

 次にホゼッヒくんです。貴方の特殊スキルは材料さえあれば、どんな薬でも瞬時に作り出す事が出来るようですね。さらに前の世界での知識が、薬の性能を上げる物を作り出すようです。不治の病だった者が、飲み薬だけで治る可能性を秘めていることでしょう。貴方もまた、マノアさんと同じ未来しか見えません。

 あ! 自分は関係ない、そんな顔をした方が2人ほど居ましたね。

 陸奥青森さん。貴女の特殊スキルもとんでもない代物です。動物に姿を変える変身スキルですが……蟻に変わればどんな隙間からでも入ることは可能でしょうし、鳥に変わればどんな高さからでも逃げることが出来るでしょう。隠密行動や情報収集を専門に取り扱っている方たちに目を付けられれば……言わずもがなですね。

 最後にナナ様です! 貴女様の特殊スキルが1番、厄介です。魔獣を従えるスキルだなんて……」

「ちょっとストップ! 私のスキルは獣の声を聴くだけよ?」

「はぁ~」


 また盛大なため息を出したわ。

 今度はジェスチャー付き。


「ナナ様。足元で寝ているのは誰ですか? 膝の上で寝ているのは誰ですか? ナナ様の為に走り回っているのは誰ですか? みんな貴女様を守るため側に居る者達です。しかも魔獣ですよ。詳しくはこれから発表があるでしょうが、皆が恐れる魔獣を従える事が出来れば、魔族とて恐るるに足らず……です。

 そこで、皆様にはユントの監視下に入っていただきます。ちなみにナナ様は例外です。安全性にしても、情報収集にしても、ハチやロク、ネズミ達にはかないません。マノアさんとホゼッヒくんと陸奥さんは、ユントの特殊スキル“聖者”の刻印を受けてもらいます。大丈夫です。痛くも何ともありませんから」

「ちょっと待って。ユント先生は特殊魔力ではないの?」

「表向きはそうですが、本当は特殊スキルです。ネズミ達から報告がありませんでしたか?」

「……忠大。いるかしら?」


 私は思わず、声に出して呼んでしまったわ。


 だってそんな報告、受けてないもの!


『はっ。ここに』

「言い訳は聞かないわ。私にも問題があったようだしね。異世界人の調査は、中止にして。ゆっくり、休んで頂戴。近いうちに調べてもらいたい事があるから、今はお休みしてて。反論は許さないから……ね!」

『はっ。しかし……』

「あら? 反論は許さない、と言ったわよね。うふふ、冗談よ。ルバー様にスキル走破の危険性について講釈を受けたの。今やっと理解できたわ。スキルを我が物顔で使いこなしていた貴方達。そんなネズミ達でさえ、見落としがあった。5匹、居るとはいえ、やはり無理がったのよ。無理はやめてちょうだい。次にお願いする時まで、休んでいて」

『姫様。ですが……』

「大丈夫よ。ユント先生の特殊スキルは本人から聞くわ。何度も言うようだけれど、今はゆっくり休みなさい」

『はっ』


 忠大は恭しく頭を下げ、カップの影に消えた。

 変に律儀なのよね。

 私は忠大が消えた影から目を離したわ。

 そしてみんなを見たの。

 そしたらハンナ以外、間の抜けた顔をしていたのよね。


「みんな、どうしたの? 忠大なら大丈夫よ。そんな事よりも、ユント先生。特殊魔力では無くて、特殊スキル“聖者”とはどんなスキルですの? 隠すほどの能力ですものね。大変な力に違いないわ」

「「「ナ、ナ、ナナちゃん!」」」


 今度はアワアワし出したわね。

 なぜ? と思っているとハンナが説明してくれたわ。

 なるほどね、と思ったのは私だけだったみたい。


「ナナ様。皆様は忠大がカップの影から出てきて、消えたのに驚いているのですよ。それに、話を聞く限りでは……ネズミ達に何をさせていたのですか?」

「何って、異世界人の事を調べてもらっていたのよ。ついでに、私の同学年となるクラスメイトや勇者クラスの方々、先生も含めてね」

「調べるとは……」

「スキル走破を使って……こんな風に……ね」


 私はタッチしたわ。

 ヤレヤレ顏のハンナにね。


「ネズミ達に、そんな無理をさせていたのですね。スキル走破はポンポン使用出来るスキルではありません! ほどほどにして下さい」

「分かったわよ。ルバー様にも諭されたし、ユント先生の特殊スキルを特殊魔力と間違えて報告したり、スキル走破なら見抜ける事を見落としたのよ。それだけ無理をさせてしまったのは、私の落ち度だわ。悪いと……」

「ナナちゃん! ハンナ様! 確かに驚きましたが、そこだけではありません! ネズミちゃん達が、魔、魔、魔獣が、スキルを使うのですか!!」


 青ちゃんの勢いある言葉で、アワアワしている理由を言い放ったわ。

 みんな同じところで驚いていたみたいね。

 私が話すと、ボロが出そう……そんな私の心の声が、ハンナに届いたみたい。


「確かにネズミ達、ハチ、ロクは魔獣です。ですが、ここら辺で出会う魔獣とは大きく違います。今は詳しく話せませんが、明日もしくは明後日には言えると思います。大丈夫ですよ。ハチもロクもネズミ達も、ナナ様の事が大好きで側にいます。その気持ちは私となんら変わりません。ユント、ホゼッヒくんとマノアさんと陸奥さんに“聖者の刻印”を施して」

「はい。左腕を出して下さい。腕よりも肩がいいですか?」


 1人で納得しつつ、ホゼの腕を捲り上げた先生。

 何をされるのか分からず固まっているのが、ホゼにマノアちゃんに青ちゃん。

 この時、感じたの。

 私以外の異世界人は、反抗やら口答えやらをしない様に強制? 矯正? されているのかしら。

 そう思ってしまう程、黙って従っているんですもの。

 私なら……噛み付いてるわね。

 ガブっとね。


「先生! 何をするのか説明して下さい! ホゼが固まっています」


 思わず言っちゃったわ。

 青ちゃんが言いたそうにパクパクしていたけれど、声が出てないと聞こえないわよ。


「あら。ごめんなさい。今から説明しますね。

 私の特殊スキル“聖者”は、相手の身体の何処かに刻印をします。その刻印から私に傷が移ります。私が死なない限り、刻印は有効です。傷が移るときに居場所や感情なんかが私に伝わるので、ハンナ様が私の監視下と言ったのですよ。それでは腕に致しましょうね。大丈夫です。痛くありませんよ」


 1人で完結し、硬直しているホゼの左腕を捲り上げたの。

 そして一言。


「聖者の刻印」


 先生は掌をホゼの剥き出しになった左肩に押し付けたわ。

 ほんの5秒ほどだった。

 外した手の下には一対の翼が、ホゼの肩に彫り込まれていたの。

 左側が白抜きで黒の縁取り、右側が黒塗りの翼。

 大きさは15センチぐらいかしらね。

 若気の至りで入れてしまった刺青の様だわ。


「ホゼ! 大丈夫?」

「あぁ〜、何ともないよ」


 この言葉を聞いた先生が、マノアちゃんに次の矛先を向けたわ。

 やはり怖いのか、手を振りながら慌てて話し出したの。

 そりゃ〜、恐ろしいものね。


「先生、ストップ! 絶対、左肩にしないとダメなんですか?」


 質問の内容に、思わずコケちゃったわ。

 するしないでは無くて、場所の問題なのね。


「どこでも構いませんよ。ただ、女の子ですし目立たない所がいいのではないかしら」

「だったら、左足裏にして下さい」

「「はぁ?」」


 先生の声と私の声が重なってしまったわ。

 だって足の裏よ! 裏!


「マノアちゃん! 何で足裏なの?」

「ナナちゃん。だって自分の目で見てみたいじゃん。私が見れて、他人には見れない場所と言えば、足裏しか思いつかなかったんだもん」

「まぁ、まぁ〜、どこでもいいですよ。あははは〜。青森さんも、どこが良いか考えといて下さい」

「……はい」


 半笑いの先生と青ちゃん。

 肩を震わせて、笑いを噛み殺しているのがホゼ。

 私は、驚いていたわ。

 マノアちゃんって、天然少女だったのね。


「では、マノアさん。左足を出して下さい。……本当に……大丈夫ですか?」


 靴下を脱ぎ、右膝に左足を乗せたわ。

 足の裏を先生に見せたの。

 綺麗な足裏ね。

 スカートからチラチラ見え隠れする、絶対領域が眩しいわ。


「先生! サクッとやっちゃって下さい!」


 お顔の方も、ワクワクキラキラで新しい玩具を買ってもらった子供の様ね。

 そう言えば、子供で当たりよね。

 うふふ。


「先生! 可愛い!」

「良かったわ。次は青森さんです。どこにするか決めましたか?」

「はい。翼なので背中にお願いします」

「おっとと、だったら僕はお先に風呂にでも入ろう。ハンナ様どちらに行けばいいですか?」


 ホゼが気を利かせて、部屋を出て行ってくれたわ。

 ジェントルマンよね。

 ハンナも理解しているのか、朗らかに笑いながら連れ出したわ。

 青ちゃんは上着を脱いで背中を見せた。

 タンクトップ一枚の姿は、少し痩せ過ぎが気になるけれど、健康体の肌艶にホッとしたわ。

 しっかりと食べ、休み、安心して暮らしている証拠ね。

 先生は肩甲骨の間に掌を当てて刻印を押したわ。

 青ちゃんの背中に小さな翼がはためいている。

 そんな感じがして、とても可愛かったの。

 年甲斐も無くはしゃいじゃったわ。

 あれ?

 うふふ、子供だからいいのよね。


「先生。はじめくんは、大丈夫ですか?」

「青森さん。大丈夫ですよ。皆さんも、お風呂に入って眠りましょう。明日になれば、詳しい事が分かるでしょう」

「はい! 先生!」

「家のお風呂は自慢なのよ。広くて、綺麗で、気持ち良いお風呂なんだから! みんなで入りましょう」

「「うん!」」


 廊下に私達の笑い声が響いたわ。

 先生の言う通り。

 明日になれば何かが分かる。

 そんな気がするわ。


 その前に……ベッドでガールズトークよね!

 あぁ〜、楽しみ!

ユント先生は特殊魔力では無くてスキルでした。

スキル聖者は良さそうで受ける方は大変なスキルですわぁ。

それでも生徒の為に喜んで傷を受け取るでしょうね。

私には無理な話ですなぁ。


次週は……


「私のスキルの秘密の一端が垣間見えます!……私のスキルってそんなに凄いの?」

「青ちゃん……今頃」

「まぁ〜、まぁ〜、来週は俺・様・登・場!」

「「俺様って誰?」」


予告がコレでいいのか!

そんな苦情は受け付けません。


それではまた来週会いましょう。


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