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33話 あらあら、クラスメイトですって

「ねぇ、青ちゃん。貴族様は……来ないよね」

「マノアさん。おそらく、来ないと……思いたいです」

「ねぇ、ホゼ。あんた、ルジーゼ地方の出でしょう。なんか聞いた事無いの?」

「僕に言われても、知らないよ。貴族様でも異世界人だから秘密にしたんじゃないの」

「「だよね〜」」


 何となく、そんな会話が聞こえた気がしたわ。

 暗黙の階級などと言う馬鹿げた話に、私は血を滾らせたのよね。

 王様がそんなに偉いの?

 貴族が?

 勇者が?

 頭に来るわ!

 でも、そんな迷信めいた階級を信じているのよね。

 私がぶっ壊してあげるわ。

 最強の爆弾を手に入れたのよね。

 うふふ。

 さぁ! これから起こる騒動に王様はどんな決断を下すのかしら。

 楽しみね。


 私は体操着に着替えてグラウンドへと、ハチに連れられて来たわ。

 そこは、団地にある公園ほどの広しかない、荒地を整地しただけの場所。

 そんな所に4人の生徒と1人の成人男性がいたわ。

 あれ? 担任の先生は女性ではなかったのかしら?

 体育の時間だけ別の先生が受け持つのね。

 その体育の先生が、私に向かって走って来たわ。

 何やら、乙女チックな動きね。


「ロタ様? きゃー! 大変だわ!」


 だんだん近づくにつれて腰を低くして、私の眼の前に来る頃には正座をして頭を下げていたわ。

 その技にはアッパレね。

 でも、これではまともに話が出来ないわね。

 私の沸点はそんなに低くは無いはずなのに、キレそうだわ。


「ロタ様。お部屋に不備でもございましたか? すぐに新しい部屋にご案内いたします」

「そんな事はありません。その……」


 私の言葉は遮られた。


「貴族がこんな所に来んなや!」


 ジャックナイフの様な鋭い切り口の言葉と、遥か頭上から弾丸の様なスピードで飛んで来るウインドボール。

 私が反応するより先に、ハチとロクとネズミ達が動いたの。

 反応速度は漫才コンビのツッコミと同じくらいね。

 私には真似出来ないわ。


『闘気功・纏』

『『『『『『ザイル』』』』』』


 ハチは闘気功・纏を発動させたわ。

 その闘気功・纏は薄玉が登録された時、闘気功を体全体に纏わせ防御を固める行為を“纏”と登録し直したの。

 あのスキルにはまだまだ、枝分かれした技があるみたいね。

 もちろん、ウインドボールは明後日の方に飛んで行ったわ。

 そして、ロクとネズミ達は黒属性の拘束技ザイルを発動して、ジャックナイフ発言した人をグルグル巻きにしちゃったのよ。

 死んで無いわよね……大丈夫?

 私が声をかける前に、ハンナやルジーゼ兵が黒い繭に包まった物体へと殺到していたの。

 私は咄嗟に号令を叫んだわ。


「全体止まれ!」


 この場に居た全ての人が動きを止めた。

 矢継ぎ早しに命令を出したわ。


「左端に寄り、その場で待機せよ! ハンナ、貴方もよ。下がりなさい」

「……はっ」


 何が言いたそうな顔をして下がって行ったわ。

 もちろん兵士もね。

 私は改めて、頭を下げている先生に向き直ったわ。


「貴方が担任のユント先生ですね。頭を上げて、立ち上がって下さい。まともに話すら出来ません」

「しかし、貴族様であらせられますので、顔を上げて直接話すなど……」


 やはり、私の沸点は低いみたい。


「いい加減にしてちょうだい! 確かに私は貴族様だわ。でもね、私の根源にあるのは前の世界での私なのよ! ルジーゼ・ロタ・ナナの根源は鐡ナナなの! 地べたに座って頭を下げさせて、喜ぶアホと一緒にしないでちょうだい。激オコだわ……この使い方で正解よね?」

「え?」


 惚けた顔が上がったわ。

 あら、イケメンじゃないの……え?

 イケメン?

 イケてるメンズ? ?


「メンズ? レディース? ハーフ? ? ?」


 呆れ顔のイケメンが立ち上がったわ。


「あはは……、よく言われます。異世界人ユントと申します。コレでも女性です」


 そう話した彼女の容姿は、スラリと長身で眉目秀麗。

 男ならモテモテ人生だったでしょうね。

 でも……声がね……女子高生のキャピキャピ声だったのよ。

 半音高い女の子特有のね。

 気を取り直して、皆んなに聞こえる様に大きな声で話したわ。

 もちろん、皆んなと言うのはクラスの皆んなよ。


「初めましてみな様。今はルジーゼ・ロタ・ナナですが、前の世界での名前は……ついさっき言ったわね。ナナと呼んでください。私は日本人で、昭和と言う時代を生きた者です。だからかしら、差別は嫌いなのよ。するのも、されるのも!」


 私は呆気にとられている、クラスメイトに近づいて話の続きをしたわ。

 まずは、同じルジーゼ地方の彼からね。

 身長110センチほどでぽっちゃり体型のお人好しタイプ。

 確か、転生者ね。


「貴方がルジーゼ・ホゼッヒね。初めましてナナです。前の世界での名前は、ウルリッヒ・マーティンドーガンでドイツ生まれの中国、日本育ち。これまたワールドワイドね。でも日本の水が1番合ったのね。5年前に転生して来て、お母様の薬を生成したのがきっかけでバレたのね」

「……」


 次にメースロア地方から来た彼女。

 身長は少し小柄の100センチ、フワフワ金髪をおさげにした女の子。

 何処と無く赤毛のアンを彷彿させる容姿をしていたわ。


「そして、貴女がメースロア・マノアね。初めましてナナです。前の世界での名前は、キャロライン・A・マイアなのね。マノアとマイア、似ているわね。私もナナとナナ、意味も7番目の子供で同じだったのよ。どこも変わらないわね。貴女は自分が産まれた時に、異世界人と気が付かなかったの?」

「……ギルドカードを作る時に、特殊スキルで気が付いた……」

「へぇ〜、おっとりしているのね」


 次は、渡来者の彼女。

 身長は1番大きくて140センチはあるみたい。

 エキゾチックな彫りの深い沖縄美女。

 髪もベリーショートで活発な女の子だけれど、醸し出す雰囲気はしっかりしたお姉ちゃん。

 面倒見のいい人みたいね。


「渡来者の陸奥青森……“むつあおもり”では無いわね。音読みの“むつせいしん”でいいのかしら? スアノースの海辺で発見されたのね。貴女は貴女で大変だったでしょうね。確かに私は貴族だけれど、そこいら辺にいるアホ貴族と一緒にしないでちょうだい。沖縄ね。今も基地のせいで苦しんでいるわ。終戦から70年以上過ぎた現在でも、日本の負を背負い込んでいる。悲しい事ね。それでも、ナンクルナイサ〜で乗り越えて行くのよね。強いわ」

「!!」


 さて、最後は……。

 それにしても、3人共惚けた顔を崩さ無いわね。

 まぁ、いいんだけれど。


「貴方でクラスメイト全員ね」

「ナナ様! お待ち下さい! 彼は、え〜と、彼の、え〜と……」

「ユント先生……そうね。課外授業をしましょう!」

「「「「!?」」」」


 私は黒い繭に包まれた物体に話しかけだわ。

 先生の言葉をスルーしてね。


「本田一さん、皆んなね。今と過去がしっかりあるし、理解しているし、飲み込んでいるのよ。貴方だけ、過去を憐れむばかりで今を理解しょうとしてないし、飲み込んでもいないわ!

 知ろうとしない姿勢に腹が立つわね。だいたい変だと思わなかったの? 前の世界での行いと、今の世界での行いは両天秤なのよ。もっと解りやすく言うと、前の世界での不幸度合いで今の世界の幸福度が決まるの。だったら、今の貴方はおかしいじゃない!

 貴方は虐待の末、亡くなっているわ。と、言う事は、今の世界では両親に愛されなければ釣り合いが取れないでしょう。理解できる? おかしいと思いなさい!

  私が教えてあげるわ。本田一は渡来者ではなく、転生者よ。今の貴方の名前は……私が言っても信用され無いわね。それならば、当事者の口から聞きましょう。その方が早いわね。忠大、場所、分かるかしら?」

 〈『勿論です。ですが、スラム街で危険が伴います』〉

 〈「平気よ。ハチやロクに貴方たちもいるじゃない。それに、事が事だからハンナと先生を連れて行くわ。すぐ行ける?」〉

 〈『はっ』〉


 スキル意思疎通で話し、これからの行き先を決めたわ。

 そして、黒い繭姿の本田一を立たせて、ネズミ達の魔術ザイルを解いてもらい姿を見たの。

 6歳にしては、小さく細い体つきに驚いたわ。

 目だけがギラギラと熱り立っていて、手負いの柴犬ね。

 暴れ出さ無いだけで、今にも私に噛み付きそうだわ。

 危ないからロクの魔術ザイルはそのままね。

 うふふ、人間糸巻きだわ。

 頭と足だげで胴体には黒色のザイルが巻いてあるわ。

 なかなかユーモラスな姿ね。


「ハンナ! ユント先生! これから課外授業で外に出ます。数人の兵士をクラスの護衛につけて下さい。私にではないですよ。私には必要無いですからね。それとも、ここにハチとロク以上の護衛者はいるのかしら? ……ハンナ! 聞こえてる?」


 皆んなピクリともしないんですもの。

 声が聞こえて無いのかと思ったじゃない。

 1番最初に立ち直ったのはハンナだけれどね。


「ナナ様! どちらに行かれるのですか? 場所によっては……」


 言い募るハンナに私は鼻先3センチまで近寄り、生まれて初めて貴族特権を施行したわ。


「ハンナ! 私はルジーゼ・ロタ・ナナ。貴族ロタ家の1人娘よ。その私の言う事が聞けないの?」

「ナ……ナナ様……承知いたしました」


 ハンナは私に一礼して、兵士の元へと下がって行ったわ。

 ウ、ウ、ウソだわ!

 少しだけ皆んなと近付いたはずの距離が、海抜まで下がっていたじゃないの!

 ま、まずいわ。

 何とかして近付かないと、私のハイスクールライフが暗くなっちゃう!


「ハチ! ロク! どうしょう。皆んな引いちゃったわ」

『ナナがあんな事を言うからニャ』

「だって! 話が進まないもの! 二度手間、三度手間をかけるの嫌じゃない! だから……だったなに……」


 打ちひしがれている私に、助け舟を出してくれた人がいたの。


「ナ、ナ、ナナさ、さ、様。ふぅ〜、確りするのよ! 私! オホン、あぁ〜、あぁ〜。マイクテス、マイクテス。よし! ナナさん。貴方は私達の事をとてもよく、調べていますね。どこで調べたの?」


 惚けていた1人。

 異世界人ユントが先生に戻って、話し始めたわ。

 かなり顔が強張っていたけれど、精一杯の笑顔だったわね。


「先生……。私には脚の代わりになるハチと、魔力の代わりになるロクと、この世界の全てを見る事が出来る目を持っています。もちろんネズミ達です。私の仲間達です」


 私は胸を張り、自慢げに話したわ。

 だって本当に自慢したかったんですもの。

 エッヘン! 凄いでしょう!

 そんな私に話しかけて来たのは、お姉ちゃん気質を発揮した彼女。


「ナナ……ナナちゃん! 私は“あおもり”では無くて“せいしん”です。せいちゃんと呼んで。……ナ、ナナちゃんは、沖縄を知っているの?」


 オドオドした仕草で私に近寄って来た陸奥青森さん、改め、青ちゃん。

 そして、そぉ〜っとハチに触れたの。

 左横から前脚の上辺りを、優しく撫でたわ。

 ハチもまんざらでも無くて、尻尾をフリフリし出したの。

 嬉しそうに揺れているのを確認した青ちゃんは、大胆にも首に抱き付いた。


「私! 大型犬、大好きなの! この子、大人しくて可愛い!」

「ウゥ〜ワン」

「キャ!」


 突然、吠えられて後ずさった彼女に、私はコロコロと笑いながらハチが話した内容を教えて上げたわ。


「ありがとうって言っただけよ。もう少し撫でて上げて」

「ゴロニャーン」


 まぁ! ロクったらハチが撫でられているのを見て、あたしもだって。

 青ちゃんの脚に化け猫スタイルで擦り寄ったのよ。

 え! 貴方、本田一を糸巻き状態にしているのではなくて? と思ってよ〜く見て見ると。

 二又に分かれている尻尾の左が確りと巻き付いていたわ。

 器用ですこと。

 戸惑っていた青ちゃんに通訳して上げたわ。


「あたしも撫でてっと言っているわ」

「え! 言っていることが分かるの? 凄いわ!」


 私の左側に青ちゃんが居て、足下に化け猫スタイルのロクがいたの。

 青ちゃんはロクを抱き上げて、顎の下をゴロゴロと撫で始めたわ。

 ロクの方も満更では無いみたいね。

 気持ちよさそうに眼を細めていたもの。

 そんな彼女の後ろから、白い手がニョロリと出て来たのには驚いたわね。

 その後、ヒョコと顔が出て来てあっけらかんと撫で撫でしていたの。

 そして、青ちゃんの話をぶった切りが喋り出したわ。


「ナナちゃん。初めまして! 私はマノアよ。呼び捨てで構わないから。それにしても凄いわね。動物と話が出来るの? スキルよね? 貴族様の異世界人だから表に出なかったの?」

「マノア、そんなに質問ばかりでは答えようがないよ。初めまして、ナナ。僕のことはホゼでいいよ」

「うふふ……初めまして。マノアにホゼ。これからよろしくね。質問には追々、答えるわ。それより、準備が出来たみたいだからお出掛けしましょう! な〜に、大丈夫よ。ハチとロクが居るしハンナや先生も居るから安心して課外授業に行くわよ。さぁ、貴方もよ。そして自分の生い立ちを受け止め、前に進みなさい」


 ハンナと3人の兵士を連れて、私達の側まで来たわ。


「ナナ様。準備が整いました。……どちらに行かれるのですか?」

「すぐそこよ。そこ。忠大が案内してくれるわ。行きましょう。行きましょう」


 私はあえて行き先を言わなかったのよね。

 だってスラム街ですもの。

 反対される事が分かりきっているわ。

 だからこその“行ったもん勝ち”を決行したの。

 行かないと真相が解んないしね。

 まぁ〜、何とかなるわよ。


 さぁ! 行ってみょう!!


スラム街へGO!……です。

すいません。

調子にノリノリです。


クラスメイトと初対面でしたね。

個人的にはユント先生がイイですよ。

イケメン乙女が面白いです。


次回は……やはり言いたい!!

スラム街へGO!


本田一の正体とは?

スラム街では何が起こるのか?

お楽しみに。


また来週会いましょう。

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