31話 あらあら、ネズミ達の密談ですって
ロクとハチの活躍? で新しい魔術とスキルが認識され、ルバー様の凄さと壊れっぷりに驚いた。
そんな1日だったわね。
夕食の時刻まで頑張っていましたわ。
明日はいよいよ入園なのよ、ね。
正確には編入生らしいの。
みんなとは1ヶ月遅れでクラスに入ることになるのわ。
転入生の洗礼を受けるのかしら……不安ですわ。
今日は早めに寝る事にしましょう。
「みんなおやすみ」
『おやすみワン』
『おやすみニャ』
『姫様。少しだけ、お勉強机の明かりをお借りしてもよろしいでしょうか?
私達の報告会を開きたいと思います。すぐに終わりますのでいいでしょうか?』
「もちろんいいわよ。報告会なら私も参加した方がいいの?」
『姫様は明日の事もありますので、お休みください。まとめたモノを明日、報告いたします』
「そう。だったら明日、聞くわ。気を使ってくれてありがとうね」
『とんでも御座いません。私達に感謝の言葉など勿体無いことでございます』
「そんな事ないわ。頼りにしているのよ。うふふ……ゆっくり報告会をしてね。おやすみ」
『持ってくるのが早いわ!お、おやすみなさいませ』
うふふ、見ちゃった。
忠大の後ろで、カップから湯気とその横には私が上げたチーズが切り分けられていたわ。
報告会というよりお茶会よね。
うふふ、楽しんでね。
……姫様は……寝られたようだなぁ。
最近の姫様は夜遅くまで、お喋りをされている事が時折ございます。
まだまだお若いですが、夜ふかしが過ぎるのも心配でございます。
さてはて、みんな揃ったようだなぁ。
お茶会ではなく、報告会を始めようかね。
『みんな揃っとるかぁ?』
『『『『おー!ズズ〜……はぁ~』』』』
『お前たち……ズズ〜……はぁ〜。美味いなぁ』
私達はホットミルクを一口飲み、人心地ならぬ鼠心地を味わっていた。
姫様がよく飲んでおられるので、試しに飲んでみたく試飲してみましたが……美味しいですね。
モーギュウの乳は素晴らしい。
ただ単に温かい飲み物と言うだけではなく、食道から胃に流れるまでの過程が心を温かくする。
ホッと一息。
『さて、報告を頼む』
『では僕からいきます。姫様の敵となる者達から報告をします。
勇者クラスの男子。まず注目すべき点は貴族の方です。ガーグスト・ノラ・クラーネル様、8歳。リーダー的存在です。ノラ家の嫡男で、外見は父親似のインテリおぼっちゃま。しかし、中身は母親の貴族主義を投影したような人で、さらに上乗せするかのごとく偏った思想を持つ重要人物です。偏見とは、異世界人は人族の家畜であるべきだと本気で思っている事です。その為か、異世界人を人と見なしていない傾向があります。魔力は父親と同じ風属性です。
次はガーグスト・バザ、8歳。クラーネル様の第1の子分です。ヒョロリと高い身長に細身の体、真相のもやしっ子。眼鏡をかけたインテリだが、母が隠れ異世界人だった為に偏見は無い。魔力は水属性。
最後はマーウメリナ・クケ、8歳。クラーネル様の第2の子分。小学1年生の標準体型。ただ、マーウメリナ地方で育った為か食べる事が大好きなようです。太らねばよろしいです。クケは確かに子分的ポジョンですが……本当のところは一人になりたくない為、一緒にいるだけのようです。魔力は土属性。次は』
忠吉が忠凶を見た。
『ボクからです。勇者クラスの女子。こちらにも貴族がいます。
最初に申し上げますが、女子には表と裏があります。さらに、誰と誰が繋がっているか、恋仲なのか、好きなのか、で色々と立場が変わります。
もう1つのキーワードは幼馴染です。幼馴染と言う単語に秘めた魔力は正常な判断を惑わします。頭の隅にでも入れといてください。では』
『ちょっと待ってほしい。女とはそんな生き物なのか?』
『忠大……女を知らないのね……うふふ』
『はぁ〜、先を頼む』
何だか頭が痛い気がする。
まさか忠凶に諭される日が来るなんて。
でも“女を知らないのね”には釈然としないものを感じますぞ! と思っても顔を出さないのが、大人の基本スキルです。
『では、貴族からです。
マーウメリナ・モア・テデシア様、8歳。勇者クラス、女子側のリーダー格的存在の人物です。モア家の次女で、姉のメリラは普通の人だったようですが、自分には土属性の魔力があった為に後を継ぐのはテデシアだと誰もが思っているようです。その自負からか、誰よりも力を求める傾向があるります。タッパもウエイトも大柄な彼女。姉御肌ではあるものの、クラーネルに引っ張られるところがあるようです。クケとは幼馴染で仲良しです。
次に、ガーグスト・ユユミナ、8歳。テデシアさまの子分ですが、裏ではクラーネル様と繋がっています。クラーネル様とバザとは幼馴染で、密かにクラーネル様へ恋心があるようです。魔力は火属性。
最後に、スアノース・フレヤー、8歳。テデシア様の子分と言うより、意気投合したユユミナの繋がりでテデシア様の側にいるようです。ユユミナとは同じ火属性なのでとても気が合うみたいです。細身の身体に似合わず大飯ぐらい。5才児体型なのをとても気にしているようです。活発で可愛い女の子ですが、男より食い気。
以上、勇者クラスは男子3人、女子3人の6名です。やはり気になるのは貴族の2名だと思います』
『忠吉、忠凶。ありがとう。貴族ですかぁ。確かに要注意です。次は姫様のクラスメイトだなぁ。こちらは……』
『俺が調べて来た。こちらは男子2名、女子2名。俺は男子を調べて来た……が、まずは問題がない方。
ルジーゼ・ホゼッヒ、5歳。前の世界での名前が、ウルリッヒ・マーティンドーガン。愛称ウルはドイツ生まれの中国・日本育ち。彼の生まれた家は代々、薬師を生業にしていたようです。両親は生まれたての我子を連れて、漢方の勉強をしに中国に渡り。12歳の時に日本でも薬学を学ぶべく渡来。両親は6年後、ドイツへ帰国。ウルはまだまだ学びたく大学まで進んだ。日本文化にどっぷり浸かったウルは、何とかして残るべく大学院まで進もうと画策している22歳の冬の日。1人で夜道を漫画喫茶へ向かう道すがら、飲酒運転の車にひき逃げに遭い死んでしまう。
転生して5年、産んでくれた母親が具合が悪くなり、ホゼッヒが薬草から薬を生成したことから異世界人とバレてしまう。ぽっちゃり体型で食べる事が大好きなところは、前の世界と変わりなし。人付き合いも良く誰とでも仲良くなれる性格。元来のお人好しなのが玉に瑕。
特殊スキルは薬剤師、どんな薬も作り出すことが出来る。ただし、材料が無ければ作ることが出来ない。代々の薬師で薬局を営んでいた家に産まれ、本人も薬学部に入り勉強していた為にレシピは記憶として持っていた。
ちなみにメースロア・セラ・ロキア様とは婚約中。メースロア地方を統治するセラ家の一人娘がロキア様。身体が弱い彼女を心配した、母親ベルネ様は薬を創り出すホゼッヒに目を付けた。学園に向かう途中にメースロア地方まで来てもらい薬を創る。煎じて飲むと元気になられた模様。その時、人柄に惚れられてしまう。ロキア様は美人薄命を地で行く人で、ホゼッヒ自身もまんざらでも無い様子。属性は水。
もう1人のクラスメイトが異世界人の渡来者で、本田一は日本生まれの日本育ち。両親から激しい虐待を受け8歳の時に、ポリ袋を頭から被されベランダのゴミ箱の中で意識を失った。目を覚ますとスアノースのスラム街にあるゴミ溜めの中に居たとの事。
特殊スキルは飛行。属性は風。とても珍しいスキルで、どんなに重くても本田は持って飛ぶことができる。持てば重力を感じ無いらしい。……う〜ん……』
『どうした忠吉?』
『忠大。どうもこの本田は怪しい……と思う』
『何がだ』
『日本人の渡来者は大抵、黒髪、黒目が普通なのに本田一は金髪、茶色目。どちらかと言えばこちらの世界の人族に似ていると思う。本当に渡来者なのかぁ?』
『だったらもう少し、調べてみるかなぁ』
『『『『おー!ズズ……』』』』
冷めてしまったホットミルクを飲み干し、最後の報告を聞いた。
『次はオレだね。異世界人クラス、女子2名。転生者と渡来者。
転生者はメースロア・マノア、7歳。前の世界での名前はキャロライン・A・マイア。彼女はフランス産まれの日本育ち。10歳の時に、大使館に勤めていた父親と一緒に日本へ来日。漫画文化に触れて絵に目覚める。漫画調から劇画調、なんでも書くことが出来た。その中でもデッサンが非常に上手で美大へ通う直前、両親はフランスに帰る事となったが彼女は残った。それで一人暮らしをする前に一度フランスへと帰国。美大に通うために1人来日する飛行機が、テロに巻き込まれ18歳の若さで亡くなった。
自分が転生したと気が付くのに7年ほどかかってしまい、学園に入園するのが遅くなった。どこかおっとりしていてマイペース。前の世界で、両親ともに忙しく放置されていてもわりと平気な楽天家。それはこの世界に来ても変わり無し。
特殊スキルは絵師。紙に書いた物をリアルにする事が出来る。ただし小麦は本物が出せてもパンは出せない。ギリギリ生卵が限界。何とも中途半端な、もしくは使い難いスキルに本人も困惑。属性は土。
最後は渡来者の、陸奥青森、8歳。福岡産まれの沖縄育ち。両親は福岡で移動動物園を営んでいたが、経営不振になり母親の実家がある沖縄に落ち着いた。動物を減らして、ほそぼそと営んでいる。
青森は4姉妹の長女。家族を愛し、動物も大好きで自分が後を継ぐつもりで勉強をしていた。家族仲良しで、看板娘としても評判は良かったが、家は貧しく忙しかった。親に甘えることも出来ずに、妹達の世話を焼く典型的なお姉ちゃんタイプ。
顔の彫りが深い沖縄チックの顔立ちをした美少女。しかし身長が高くバナナの木と揶揄されていた。7歳の時に大きなデイゴの木の上で、下りられずに鳴いていた子猫を助ける為に上がり落ちた。そのままこちらの世界へと渡来してきた。
特殊魔術は憑依。動物に姿を変える能力を持つ。姿が変わるだけで中身は本人のまま。10分に魔力1減っていく。
あ! 忘れていた。
担任の先生も転生者で、異世界人ユント様、24歳。彼女はスアノースの城下町に産まれ、魔力があった為にギルドで調べてもらうと特殊魔力と判明。すぐさま学園行き。赤ちゃんだった為に異世界人イトシリア様に育てられる。
ハンナ様とは同学年だが、異世界人の為に格下とされ誰に対しても常に敬語を強要された。それが分かっていたイトシリア様は小さい時から、異世界人の立ち振る舞いを厳しく躾けていた。
前の世界ではフランス人の両親から産まれたフランス人だが、親が帰化していた為に日本人としての戸籍がある。名前は羽鳥羽舞で、父親の牧師に憧れカトリック系の高校へ通う為に猛勉して入学する矢先、歩きスマホにぶつけられ線路に落下。運悪く入って来た電車に跳ねられ即死し、転生する。
ユント様の魔力は白と黒の属性ですが、使用する時に背中に翼が生えるとの事。白属性の魔力を使うときは白い翼。黒属性の魔力を使うときは黒い翼。見た目が良いのですが、とても使い難い魔力と言えます。
オレだけ長かったぞ……はぁ〜、これで終わりだ!』
『終わり! って……そんなにコレが気になるかぁ!
その前にまとめだ。やはり気になるのは貴族の2人。そして出所が怪しい本田一。この3名。注意して姫様には報告するぞ。
最後の議題は……姫様から頂いたブールチーズだ。あまりに多くを食べるモノでは無いとのこと。みんな! ホットミルクは行き渡ったなぁ。……それでは』
『『『『『姫様、いただきます』』』』』
小さく摘み、口の中に入れる。
5匹とも同じ顔をして固まったのです。
『『『『『!』』』』』
『『『旨い!』』』
『『不味い!』』
旨い! と言ったのは私と忠吉と忠中。
不味い! と言ったのは忠末と忠凶。
子供には難しい味なのかも知れません。
私はとても美味しいと思います。
白いところがクリーミーで青いところが塩っぱく癖のある味が、少し甘いホットミルクに合う気がいたします。
子供にはコレだろうねぇ〜。
『コチラはどうだ?プロセスチーズで保存が出来て、日本人には馴染のある味で食べやすいチーズらしい』
『『『『『う〜ん……足らん』』』』』
物足りない。
もう少しチーズ臭さがあっても良いように思います。
『次は、柔らかいモッツァレラチーズだ』
『『『『『面白い』』』』』
そう面白い食感。
チーズの味がするのに、弾力のある噛みごたえ。
私はコレも好きだなぁ。
『最後は前の世界でも、この世界でも数多く作られているチーズの核になるチーズ。チェダーチーズだ。これまで食べたチーズの中でもハードだなぁ』
『『『『『旨い』』』』』
みんなの一致した意見に満足いたしましたよ。
多く作られているのは美味しい証拠。
熟成させればさせるだけチーズらしさが際立ち、若いと爽やかな味わいがする。
面白く、深い。
美味しい。
「いつまで起きているの! いい加減に寝なさい!」
『『『『『はっ』』』』』
姫様に怒られてしましました……すいません。
チーズの美味しさに騒いでいたのが、眠りを妨げてしまった模様。
『私が片付けておくから、先に休みなさい。明日は本田一を調べ直せ。貴族はすぐに動くとは考えにくい。不安要素は先に片付けておくに限る。では明日は頼むぞ』
『『『『おー! 後はよろしく』』』』
明日は……ではなくて……本日は姫様の転入日。
何事も無ければよろしいのですが。
今の所の問題は本田一。
騒動が起こる前に、何者なのかを調べなくては行けない。
さぁ、私達の本番はこれからだ!!
その前に片付けて、一眠りです。
おやすみなさいませ。
新しいキャラクターの説明のお話しでした。
名前と身体的特徴との羅列にならない様にネズミ達のお茶会にしてみました。
ネズミ達は色んなチーズに、楽しそうでしたね。
ちなみに私はオーソドックスのプロセスチーズ又はとろけるチーズが好きですね。
やはり……チーズケーキが1番!
そう言えば、ネズミ達がチーズケーキを食べたらどんな反応をするのでしょうかね?
次回はナナの入園話しです。
定番のいじめはあるのか?
それとも……なにが待ち受けているのか?
お楽しみに!
それではまた来週会いましょう。




