28話 あらあら、ブラックホールですって
魔術とは?
マジックアイテムとは?
理論とは?
……???……。
お父様とルバー様に教えていただいたのだけれど……難しすぎるわ。
でも大丈夫!
私にはネズミ達がいるからおまかせ。
魔術にとって理論とは、取扱説明書の様なものなのね。
新しい携帯電話を買っても、取扱説明書なんて読まずに操作は出来るわ。
ところが使えなくなると、途端に読みたくなるもの。
最初から読んでいれば問題なく使えるのにね。
それでもね……歳をとると読んでも理解出来ない事がある。
そんな時は、誰かに聞いて教えを請うか、諦めるかよ。
どんなにハイスペックな携帯電話でも、理解できなければ宝の持ち腐れだわ。
逆を言えば取扱説明書を読んで理解すれば、どんな携帯でも使いこなす事が出来る……のかしら?
そこまでは言いすぎね。
でも取扱説明書=理論を理解すれば、携帯電話=マジックアイテムでアプリ=魔術を使うことが出来る。
私にとってこれ程の嬉しい事はないわ。
お父様も同じ気持ちだったはずよ。
だからこそ開発部に在籍し、数々の功績を上げているのだわ。
お昼をみんなで食べてからルバー様は城へ戻り、ハンナは私の入園準備をしてくれているの。
私は……。
「さて、お父様。ロクと忠凶がお手伝いしてくれるようです。2匹ともやる気満々ですよ」
「ナナ、ロク、忠凶、ありがとう。では早速……ロクと忠凶は時空理論を理解しているかなぁ?」
『『……?』』
魔獣化したロクと忠凶。
その彼女らの頭の上にはハテナマークが並んだわね。
ライオンほどの大きさで、きちんとお座りをして首を傾げている姿に思わず笑ってしまったわ。
もちろんビーバーほどの大きさになった忠凶も、首を傾げていたの。
こっちは可愛いのにね。
困ったのはお父様。
「うむ……うむ……。ではココに四角い空間があるとするだろう……」
「お父様!その説明では理解しにくいですわ。だって、実際にある訳ではないのですもの」
「と、言われてもなぁ~。空箱が何処かにないかな?」
辺りをキョロキョロしだしたお父様。
あ!そうだわ。
こんな時こそ、マジックバッグ改よ!
〈「ネズミ達!誰でもいいから、手頃の空箱を入れてくれない?」〉
〈『はっ。僕が入れます』〉
〈「忠吉、ありがとう」〉
程なくしてマジックバッグ改の忠吉欄に“リンゴ空箱”が表示されたわ。
それを取り出してお父様に見せると……。
「むむ!なるほどのぉ~。これは便利だ。ナナ。差し支えなければ、どこから誰が入れたのか教えてくれないかぁ」
「もちろんいいですわよ。……まぁ!……。お父様、ごめんなさい。忠吉が、食料庫からお借りしたと話していますわ。戻しといた方がいいてすわよね」
「あははは!よいよい。気にしなくてもいいよ」
「まぁ!いいですの。正直、懐かしさを噛み締めてしまいましたわ。前の世界で似たような空箱で勉強をしていた時のことを思い出しました。なかなか丈夫で使いやすいのよね」
「ほぉ~。どこの世界も同じなのだなぁ。俺も子供の頃は使っていた。この高さがいいんだよ」
「えぇ、そうですわ」
目の前には昭和初期、子供机として君臨していたアノ箱と同じような物が鎮座していたわ。
しっかりした木材で作ってあり、学習机のマストアイテムだったのよね。
あの頃は!
「でもこの世界にもミカン箱が存在するのね。何だか不思議だわ。さて、お父様。コレで時空理論をもう一度、おねがいします」
「うむ。では、正式になぁ。まずは空間理論からだ。最大空間量を求める前に、最小空間量を求めなければならない。適当ではバラつきがでるからのぉ。それでは、このリンゴ箱の最小空間量は?」
「え!それは……」
「と急にフラれても解らないので。答えはこのリンゴ箱、10分の1サイズが最小空間量なんだ。小数点以下は切り捨てだ。解るかぁ?」
差し出したのは蛇腹式定規……これは、若い人には知らない人もいるわよね。
子供の頃は、剣にして遊んだものよ。
壊して怒られるのよね。
うふふふ、懐かしいわ。
私はその蛇腹定規を使いリンゴ箱を測ったの。
大きさは縦30センチ、横62センチ、奥行き31センチの直方体。
コレの10分の1サイズだから……。
「お父様。縦3センチ、横6センチ、奥行き3センチの直方体サイズですわ。小さいですのね。最小空間量がこのサイズなら、最大空間量はもの凄い個数になりそうです。幾らでも加護が付けれますね」
「うむ……説明が悪かったようだなぁ」
「え?」
「ハンカチとコップのときは認識しやすいように話したのだよ。理解するにはもう少し踏み込まなければならい」
「ん?認識と理解の違いはなんですの」
「認識とは知る事。理解とは物事の道理や筋道を正しくわかる事。ナナやハチ、ロク、ネズミ達は認識はした。後は理解する事だよ。では、理解しやすいように話をしょう」
「はい」
「ワン」
「ニャ」
「チュウ」
お父様のお話は理解しやすいモノでしたわ。
空間理論とは最小空間量と最大空間量を算出する事。
そして、付ける加護と最小空間量を換算する。
ひらたく言うと、グラムをキログラムに単位を変換するアレよ。
1000グラムが1キログラムって言うアレね。
みんなも理解、出来たところで次よ!次!
「お父様。次は時間理論ですわね」
「その通りだが……時間理論……。時間理論と聞いて認識、出来る事はなんだ?」
「そうですね……。今の時間は13時35分あたりですね」
「だよなぁ。時間と言えば“今の時間”だよなぁ。でもそれじゃ時間の認識であって、時の理解にはなってはいない」
「だったら、お父様。時間理論ではなくて時の理論とするべきではなくて」
「そうだなぁ。よし!本日から時の理論とするかぁ。では時とはなにか?……だよなぁ。時とは1時間の単位だ。1時間とは24等分の1で、1分の60倍、1秒の3600倍の事だ」
「はぁ?それはよく分かりますわ。前の世界と同じ構造ですもの……でもそれは認識ですわよね。理解ではない気がします」
「……その通りだ。難しいんだよ!時の認識は出来ても理解するのが、本当に難しい!」
お父様はそう言ったあと、腕を組みウロウロ仕出した。
10分ぐらいかしら、足を止め胸に手を当て目を見開き大きな声で、満面の笑みをうがべ出したの。
「うん!コレならイケる!時の認識から理解まで、一気にイケるぞ!!ナナ、ロク、忠凶。胸に手を当てて俺の話を聞けよ」
そう言ったかと思うと、砂地に5センチ程の円を描いたのよ。
「コレがナナとする。この世に生きとし生ける物、全てに言えることだが……人は死に向かって進んでいる」
お父様は丸の右側に矢印を付けた。
「この矢印が“進む”だ。では“止まる”とは?」
「死ですわ」
「ナナ……その通りだ」
私はすぐに答えたわ。
だって経験があったもの。
お父様は、矢印の先に縦線を引いたわ。
終わりの意味ね。
「“死”とは即ち生きる事を“止める”こと。それでは、“戻る”とは?」
「え……若返りかしら?」
「うむ。そうだ」
今度は右側に矢印を付けたわ。
「厳密に言えば違うが時の認識としてなら、若返りが“戻る”だ」
顔を上げたお父様が誇らしげに話し始めたの。
ゴールでも決めたのかしら?
日本代表が決めた時のアノポーズよね?
「胸に手を当てているなぁ。ここからが時の理解だぞ。人と言う器の中で何を感じる?」
「え?」
私は目を閉じて感じてみたわ。
トク…トク…トク…トク…。
「お父様、心音ですわ」
「うむ。それが“時の理論”の理解だ。人は死に向かって時を進んでいる。そのトクトクトクが1秒だ。1秒1秒が死へと向かう。1秒が無くなれば止まる。1秒が元気に動けば若返る。戻るだ。死を経験しているナナなら分かるのではないかなぁ」
「はい、お父様。その通りですわ。若い頃は心臓がドキドキする事があっても、心音が乱れる事などありませんでした。ですが歳を取ると、立ち上がるだけで息が切れましたもの。そして呼吸するのも苦しくなり、眠たくなって死を迎えましたわ」
「ナナ……すまない。辛い記憶を聞いてしまったようだ」
「そんな事ありません。私は幸せな死に際だったと思います。それにしても、時の理論が理解出来ましたわ。確かに時間ではありませんね。とても理解しやすいです。お父様」
『解ったニャ!』
『ボクもです』
『僕も解ったけれど……問題もあるワン』
「なに?」
『空間理論と時の理論を合わせ持つのが時空理論ワン。この理論を考えるとき、どうしてもリンゴ箱のような器が必要ワン。でも魔術として使うとき、このリンゴ箱は邪魔……だワン』
「確かにそうよね。空間理論を考査するときは必要でも、時の理論を考査するときはいらないものね。でも魔術として考査するときは……邪魔なの?お父様?」
「なるほど。確かに邪魔だ……ね。どうしたもんかなぁ」
私達は押し黙ってしまったわ。
だってハチの言う通りですもの。
うむ……とお父様の真似をしてもいい案は浮かばないわね。
お父様……ハチ……お父様……ハチ……そうだわ!!
「ねぇ、ハチ!闘気功と魔力って相性がいいのよね?」
『そうワン。でも練り合わせるのに時間がかかる割には、魔術の方が威力があるワン』
「でも相性がいいって事は……闘気功で器なりシャボン玉のような薄い膜を作る事ができないかしら?」
「なるほど!!その手があったか。ハチ、ロク、忠凶!よくよく話を聞けよ。闘気功を体に纏うやり方で薄い膜を作ってみろ。形はどんなモノでもいいから、やってみろ。こうだ!」
お父様はいとも容易くシャボン玉?
どちらかと言うと、透明なゴムボールのような感じね。
それを作って見せてくれたわ。
流石よね。
すぐに作り出してしまうのですもの。
『ナナ!僕もやってみたいワン』
「でもあなたは黒属性を持っていないでしょう?」
『それでもやってみたいワン』
「わかった。お父様、ハチやってみたいそうで……いいですか?」
私はお父様に両手を伸ばしたわ。
ニッコリ笑って私を抱えてくれたの。
一気に視界が上がったわね。
流石にお父様のようには行かないハチ達。
30分たっぷりかけて、初めに忠凶が完成させたわ。
金柑サイズだったけれどね。
次にハチが晩白柚サイズのモノ。
最後にロクが夏みかんサイズのモノを作れたわ。
そうそう、お父様がルバー様に掛けあってむむ玉を無闘玉と変えてしまったの。
強引に決めた感があったわね。
でも、なぜルバー様にそんな事を言う必要があったのかしら?
そんな私の疑問をアッチに推しやって話を勧めてしまったわ。
後でハンナにでも聞く事にするわね。
覚えてればの話よ。
「みんな出来たわね。そうね……薄いから薄玉はどうかしら?」
『いいとも!ワン』
『いいとも!ニャ』
『はっ』
『そこはいいとも!チュウと言うのが流れワン』
『はぁ……すいません』
「そんな事を言わないでいいのよ。もう!貴方達は少しふざけすぎよ!」
『は~いワン』
『は~いニャ』
「薄玉かぁ。ナナはネーミングセンスが良いなぁ。うん、いい名だ。ではロクと忠凶は時空理論を用いて、この薄玉をリンゴ箱にして考査してみるんだぞ……」
すでに考え始めているお父様。
ハチは薄玉を消して、一緒になって考えているわ。
もちろん私もよ。
この薄玉に時空理論ねぇ……どんな風に考査すればいいのかしら。
考査……いろいろ考えて調べる事……。
『分かったニャ!でも……最小空間量が分かんないニャ……』
「ロク、どう言う事?」
『心音と同じタイミングでこの薄玉に黒属性の魔力を注ぐニャ!慌ててはダメで、あくまでも心音と同じタイミング、でも……注ぐ量が分かんないニャ。おそらく最小空間量だとは思うけれど。薄玉の空間量なのか?あたし自身の空間量なのか?……どっちだと思う??』
『おそらくですが、ロク様の最小空間量だと思います。注ぐタイミングがロク様のタイミングなので、それに薄玉もロク様の気を練っております。MPの10分の1……だとボクは思います』
『分かったよ。先ずはあたしがやってみるニャ。忠凶は見逃す事なく観察しな。ハチ!もしもの時は頼むよ』
『了解ワン』
『はっ』
私は慌ててお父様に説明したわ。
これからロクが、やろうとしている事の詳細を話したのよ。
するとお父様が嬉しそうに、私を高い高いしながら楽しそうに話し出したわ。
「ナナ!ロクにハチ、忠凶……いやネズミ達は凄い!俺は嬉しいぞ!こんなに早く理解し、考査し、検討し、実行する力を持っている。
魔獣とはこれほどまでに実力を持っておるのかぁ!俺は……俺達は認識を改めなければならない」
最後の方は嬉しさよりも、恐れを感じているような響きが篭っていたの。
ロクの叫びで私の思いは切り替わったわ。
『出来たニャ!面白いニャ!!』
「え!本当なの!お父様、出来たって……何アレ?」
そう、ロクはお座りをしていたの。
両手を胸に押し当てて、まるでお祈りをするかのような格好。
そして二股に別れた尻尾の間に薄玉をかかげていたわ。
その薄玉に黒い雲がモクモクと流れ込み、渦を巻き隙間なく入り込んでいた。
程なくして、薄玉ではなくなり代わりに現れたのは……。
「ブラックホール……なの?」
目の前には小型版のブラックホールがロクの尻尾の間に浮かんでいたわ。
『ナナ、ブラックホールってなにニャ?』
「え!ブラックホールは……説明がとてもムズカシイわ。
簡単に言うと、星が爆発して重力が崩壊する事により重力源になるのよ。そうなった場合、近くを通る光線やその他の進路を捻じ曲げてしまうの。レンズのようにね。とくに時空の特異点ではその捻れが極限まで増幅されるらしいの。その空間領域がブラックホールと言うのよ。周囲の物質を吸い込む穴よね。光すらも通さない暗黒の領域になるの。そんなブラックホールでもある程度吸い込むと定常状態になる。そうなると自転して重力を弱めるの。吸い込む力を弱くするのね。その時に貯めこんだモノを、エネルギーを放出する……と言われているのよ」
『ナナ!まさしくそれニャ!!名前も格好いいニャ。ナナ、吸い込んだモノをだす事を、ブラックホールみたいに格好いい言い方は無いの?』
「え……リバース。ブラックホールが英語表記だから、リバースだわね」
『うん、それでいいニャ。説明するより見る方が早いニャ。ハチ、あ・た・しに向かってウインドボールを使って!くれぐれも、あたしにだよ!あ・た・し!』
『何度も言わなくても分かったワン』
「キャー!ハチ何をするの!!」
ハチがなんの躊躇もせずにウインドボールをロクに放ったの!
なんて事をしたのよ!
ロク!に〜げ〜て〜!!
ハチとロクと忠凶の活躍で新しい魔術が発動しました。
どんな魔術かは来週ですね。
まぁ〜ブラックホールなのでどんなんか、わかる気がしますわ〜。
次週はブラックホールの真の姿を見た……よりもルバー様の真の姿が暴かれる???
また来週会いましょう。




