3話 あらあら、お父様とお母様ですって
翌朝、覚醒間近の微睡みのなか、ヒソヒソ声が聞こえてきたの。
『では私が起こしましょう』
『いやいや、ここは僕が……』
『ちょっと待ってよ!俺だって』
『オレも……喋りたい』
『姫、姫様……起きてくださいチュ。ボク達ですよ。おはようございます』
抜け駆けして忠凶が私の側まで来てヒソヒソと話をした。
慌てたのは他の子達。
『忠凶!お前、抜け駆けすんなよ!しっかり喋れてねぇくせに!オレも姫様と喋りたい』
『お前たち止めないか!!姫が起きてしまうだろう!静かにしないかぁ』
『そう言う、忠大もうるさいです』
『うるさい!忠吉も忠末も忠凶も!』
「うふふふ……起きたから大丈夫よ。それにしても早いわね」
『すいません。起こしてしまって、すいません。いろいろと分かりましたので、報告をするために参上いたしました。よろしいですか?』
「いいんだけれど……まずは……おはよう。忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶、みんな、おはよう。報告は後から聞くわ。今からご飯だし、少し待っていて」
『『『『『おはようございます。お待ちしています』』』』』
お行儀よく一列に並んだネズミが、膝立して頭を下げた。
小さいくせによくやるわね。
一端の騎士なんだけれど、どこか可愛いわ。
朝食も終わり、ハチとロクも一緒にネズミ達の報告を聞いた。
場所は暮らしている家の側に大きな栗の木があって、その下で話を聞いたのだけれど……。
『私から報告いたします。
姫様のお父様とお母様がおられる居城はこのお屋敷から、私達の足で4時間ほどかかる所にございます。ハチ様の足ですと2時間弱で行かれると思います。
ルジーゼ地方を統治しております、ロタ家の城はこのお屋敷の3倍ほどの大きさで建っております。そちらに当主のルジーゼ・ロタ・ガロス様40歳が住んでおり、身長185センチほどで短く揃えられた金髪、濃い青色の目をしたお方です。優しそうな顔つきに、今もなお筋骨逞しい体格をしていらっしゃいます。ただ指は細く、細やかな作業も器用にこなします。
闘気功の使い手で、気功をより戦闘に特化したものです。闘気を纏ったり放ったりいたします。魔法では無いため、誰にでも鍛えれば使うことが出来ますが、身体を巡る気を練る事すら出来る者はそんなにおられません。
その闘気功の使い手がガロス様です。若かりし頃、国王を守る騎士頭を務めていたとの事です。質実剛健で優しく愛妻家だそうです。
続きましては、ルジーゼ・ロタ・ソノア様30歳。17歳の頃、ロタ家に嫁いで来られます。ソノア様はスアノース王国の国王スアノース・シド・シュード様の妹の子供。ご家族はご両親と4歳違いの弟ネイド様の4人家族です。父親と一緒に王国の騎士をしておられます。
国王シュード様は姪のソノア様を溺愛し嫁入りされる時はえらい騒動になった事は公然の秘密となっております。
ソノア様は大変美しく。白磁色の透き通るような肌に腰まである金髪のふわゆるヘアー。綺麗な水色の瞳に整った顔立ち。間違い無しの美女です。姫様にとても良く似たお方ですね。それだけではなく良妻賢母の女性であるとの噂です。あくまでも噂です。私はこの噂だけは信じておりません。
ただソノア様には足らないものがあるそうです。それは、150センチしかない身長だそうです。背が低いことを気にして、あまり外にはお出にならず、レース編みを嗜んだり刺繍をしたりしておられるそうです。子供好きで旦那様ラブラブとの話です。
以上、ご不明な点が御座いましたら仰って下さい。ちなみに、お城へ行かれるのなら私達がご案内、致します』
「『『……』』」
開いた口が塞がらないとはこの事ね。
ロクもハチも私も、ポカーン状態で話を最後まで聞いた挙句、次の言葉が出て来なかったわ。
このネズミ達はどんな生き物なのかしら?
たった一晩でこれだけの事を調べて来るだなんて信じられないわ。
「す、凄いわね。たった一晩でコレだけの事を調べて来るだなんて、驚きだわ」
『いえいえ、まだまだ、こんなものではありません。もう少しお時間をいただけるのならば、ロタ家の成り立ちから調べることも可能です』
「え!!そうなの!それって凄すぎない」
『私達は姫様のお役に立ちたいのです。……実は……姫様に話そうかと迷った事がございます。いかがいたしましょうか。あまり良い話ではございません。お聞きになられますか?』
「この際だから聞きたいわね。悪い話でも平気よ。聞かせて頂戴」
『はい。ソノア様が嫁いで来られて13年になります。姫様をご出産されたのが25歳の時でござきます。実は……姫様の前に6人もの赤子を流産や死産、なされております』
「え!あ!それでなのね。それは……辛いわね。やっと産まれた赤子には足が無い。顔も見に来ない訳だ。それにしても、ここでも7番目でナナね。ウケるわね」
『どうするニャ。親の顔を拝みに行くニャン?』
「そうねぇ……どうするかしら?ハチはどう思う」
『ナナが決めたらいいワン。僕達はナナに従うよ」
「う~ん……。少し気になることもあるし、様子を見ておくのもいいかもね」
『気になる事ですか?私達が先行して調べてまいります』
「え!頼めるの?」
『もちろんです。ハチ様……ゆっくりお散歩がてら来ていただけると助かります』
『分かったワン』
『で!結局、行くニャンね。それにしてもナナ。気になる事ってニャにかしら?』
「あ~ねぇ。17歳から25歳までの間に私を含めて健常児が誰も産まれてこないのは、少し異常なような気がするわ。流産しやすい人はいると思うのだけれど、死産まで含めると……やはりおかしいわ。呪系の何かが起こっている感じがするの。ロクもハチも何か、感じない?」
『ナナ……僕達には分からいワンよ』
『そうよ。普通の犬と猫ニャんだし、分かるわけニャいじゃん』
「確かに!ちなみに私も分からないわ。うふふ」
『姫様!そろそろ行きますか?私がご案内いたします』
「あら?忠大だけなの?他の子達は」
『他の者は調べに行かせております。姫様がお城に着く頃には調べ終えているはずです。お城にて報告いたします』
「すぐに支度するからちょっと待っていてくれる?」
『はい!お待ちしております。ごゆるりとお支度をなさってください』
「ありがとう」
私達は遠出の準備をしたわ。
スカートをヒザ下10センチまで短くして、中にショートパンツを着て、水筒とおやつを入れたバッグをたすき掛けにして準備万端。
ハンナに一言、散歩に行きますと、あくまでも散歩よね!
さ・ん・ぽ!と話してハチに跨りお出かけしたの。
本当に散歩気分で、器用にハチがスキップなんかしながら軽い気持ちでお出かけをしたのに……。
私の未来が動き出した。
行かなきゃ~よかった。
犬のスキップは可愛いよね。でもその上に乗るのは……ロデオ?