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25話 あらあら、風儀の勇者と大地の勇者ですって

 お父様達から異世界人に対する差別や、勇者による勇者至上主義を唱えている馬鹿共がいる事などを聞いたわ。

 虐めや差別、私の嫌いな言葉よ!

 するのもやれるのも嫌悪感しか無いわ。


 そう言えば、忠大から10日後来襲の話を聞いてから、2日過ぎてしまったけれど大丈夫なのかしら?

 忠凶に魔獣ワイヴァーンの様子を見に行ってもらいましょうね。

 もしもの時の情報は正確に!よね。

 忠大にでもと考えたのだけれども、何かあっても困るので魔力の多い忠凶に出かけてもらったわけだけれど……大丈夫かしら?


「なんで私があの男の言う事を聞かなければいけないのだ!本当にふざけやがって……」

「イヴァンよ。何を取り乱しているのだ」

「マギノ……ルバーからふざけた連絡をもらったのだが……どうしたものかなぁ」

「何がだ」

「ルバーの話によると、10日後にルジーゼ山よりの低い所から魔獣ワイヴァーンが2匹来るから討伐してくれ。さらにその遺体は灰すら残らぬように燃やしてくれ。侮るな、被害が出ても知らんぞ。お前達が行けよ……だ。たかが魔獣ぐらいで私に行けだと、偉そうに言いやがって!」

「まぁ~、そんなに怒るな。ただ気にはなるなぁ。ルバーがイヴァンに行け、と言ったのならそれ相応の強さなのだと思うぞ。オレが行って見るよ。もし何かあれば連絡をするから、そんなに怒るなぁ」

「しかし、客人に行ってもらう訳には……」

「あははは!客人だと言ったなぁ!同じ釜の飯を食べた仲じゃないかぁ。他人行儀な言い方をするなよ。どうせ暇を持て余していたんだ、視察がてら見てくるさぁ」

「すまん。炎の勇者シャリラを同行させよう」

「いや。オレ、1人で大丈夫だ」

「そう言うと思っていたが、それではこちらが困る。親しき中にも礼儀ありだ。連れて行ってくれ」

「さすが風儀の勇者だなぁ。分かった。連れて行こう。よろしく頼む」

「なんのなんの、大地の勇者よ。こちらこそ、よろしく頼む」


 と言うワケで炎の勇者と一緒に居るのだが……。


「大地の勇者様を案内できることを光栄に感じております。魔獣の事ですが、どうせルバー様のことです。異世界人からの嘘情報だと、私は考えますので気にする必要はないと思います。ゆっくりお見せできると思います。見て頂きたい所は……」

「ちょっと待った!オレはルバーも仲間だと思っているし、異世界人にも親友がいる。お前たちの考えに異論を唱えるつもりは無いが、賛同する気持ちも無い。ルバーが10日後に襲来すると言えばオレは信じる。その為のスケジュールを組んでくれ」

「……はい。分かりました」


 まったく勇者至上主義にオレを巻き込まんでほしい。

 そもそも“大地の勇者”とも呼んでほしくないと思っている。

 ガウラ様より預かりしこの名。

 オレには荷が重いように感じるのだが、まぁ~今更だなぁ。


 オレはマーウメリナ地方を統治する者、モア家の当主マーウメリナ・モア・マギノだ。

 民を守り命を支える勇者でありたいだけなのだ。

 豊かに暮らすため、ガーグスト地方を視察しに来たのだが……。

 とんだ視察になったものだなぁ~。

 そんなやりとりをしつつ、ガーグスト地方を見て回った。

 さすが風儀の勇者を名乗るだけはある。

 ノラ家の当主にして、風使いの名手ガーグスト・ノラ・イヴァン。

 規律と秩序を重んじている家風に、統制の取れた民と当地。

 さすが、さすがと感心しつつ10日が過ぎた。


「……本当に……来るのですかぁ?」

「それは分からん。こんな朝早くから来るとは思えんが……」


 テンプレと言うヤツかもしれんなぁ。

 そこは山頂に向かう2キロ手前、足が埋まるくらいの雑草が広がる観賞地。

 山頂を見るもよし、テントを張るもよしの大地がある。

 そこに足を踏み入れる直前、魔力を感じ取り木陰に身を潜めた。


「マギノ様?」

「静かに!」


 空から飛来したのは、オレより倍の大きさがある魔獣ワイヴァーンだった。

 魔力的には隣りにいるシャリラとたいして変わらんが……どこか変だ。


「マギノ様。魔力的には私とさして変わりはしないと思いますが……その……」

「分かっている。……そうかぁ……暴れていない。シャリラ、1匹づつ倒すぞ。まずはオレが分断して、灰汁色のワイヴァーンを閉じ込める。その間に2人で灰緑色のワイヴァーンを倒すぞ」

「たかが魔獣に!」

「否はない」

「はっ」

「それでは行くぞ」


 先手を取る!はずだったが目が合ってしまった。

 だったらこうするまでだ!


「チィ!すまん!」

「え!?キャー!!」


 そう叫ぶなり、シャリラの襟首を掴み後方に投げて大地に手をつき叫んだ……が術を発動する前に、突風がオレを阻んだ。


「クソ……タレ!!」


 オレは飛ばされまいと、ついた手で雑草を掴んで耐えた。

 そんなオレを嘲笑うかのように舞い降りたワイヴァーン達。


「グゥ〜、グゥガァ。グゥガギィギィ。ガァ?ギィガァ?」

「ガァ。グゥガァガァギィギィグゥガァ?ガァ、ガァ。グゥガァギィギィガ」

「グゥ……ガァグゥ?グゥギィギィグゥガ」

「……ガァグゥガァ……ギィガァガァグゥギィガァ」

「ギィギィグゥガァ」

「グゥガァ」


【忠凶通訳】

『ほぉ~、アレが勇者かぁ。魔力だけはありそうだ。どうする?ついでに持ち帰るかぁ?』

『止めとけ。シャルル様が腹でも下したらどうする?止めとけ、止めとけ。さっさと殺して行くぞ』

『しかし……美味そうだぞ?とくに後ろのメスは柔らかそうだ』

『……確かに美味そうだが……魔力の大きさから言えば手前のオスだなぁ』

『おやつの時間だなぁ』

『仕方ない』


 何を言っているのかさっぱり分からないが、状況は最悪らしい。

 2匹のワイヴァーンは不敵な笑みを浮かべつつ、オレ達を見た。

 その瞬間、風の刃がオレとシャリラを襲った。

 とっさの判断でサンドウォールを使ったが、相殺しきれずオレの頬を斬った。

 後ろを振り向き確認もせぬまま、シャリラにサンドドームを使ったが……生きてる?

 正面を向くと、よだれを垂らさんばかりの口から風の塊ブレスが放たれた。

 サンドウォールでは無理だと思い、あまり使いたくないが、それどころでは無い!


「アイアンウォール!」


 これを使うと視界が悪くなるばかりか、スキルを使っても魔力や気配の察知が出来なくなる。

 ただし強度は、どのウォールシリーズより強硬だ……のはずが……ヒビが入り破壊される寸前、隙間から見たものにオレは死を予見した。

 暴れるだけしか能の無い魔獣が、協力してアイアンウォールを壊しに向かって来る。

 協力して……お前達が行けよ……なるほどルバーの進言通りイヴァンと共に来るべきだったのだ。

 今さら何を言っても後の祭りだなぁ。

 コレでも大地の勇者を名乗る者、犬死にだけはしてなるものかぁ!

 せめて1匹でも倒してやる!


「アイアンウォール解除。ウッドドリルからサンドドーム、グラスノット……くたばれ!ストーンアックス!!」


 オレは壊れたアイアンウォールを解除してウッドドリルで意表を突いた。

 魔術ウッドドリルは大木1本を使い、根をドリル状に削り大地に刺す建築用魔術だが……人に向けて放つと危ないので、良い子は真似し無いように。

 隙が出来た、灰汁色のワイヴァーンをサンドドームで閉じ込めた。

 そしてグラスノットで灰緑色のワイヴァーンの足を引っ掛けて拘束した。

 そこからのストーンアックスで灰緑色のワイヴァーンを倒すことがでしたが、閉じ込めていた灰汁色のワイヴァーンは呆気無く壊して出てきた。

 頭を半分にかち割られた仲間の死体を見て、我をなくした灰汁色のワイヴァーンが牙をむき出しにして襲ってきた。

 魔術を放ったばかりで体勢が崩れている、オレにはどうする事も出来ない。

 魔力はまだ残っている。

 しかし、あの牙をこの距離で防ぐ魔術は……オレには無い。

 ほんの一瞬だけ時間ができればストーンアックスを放つ事が出来る。

 この距離なら確実に仕留める事が出来るのに……無念。

 諦めかけたその時、オレの横を風が走り去った。


「ウインドランス!今だ!!」

「ストーンアックス!」


 ウインドランスがワイヴァーンの右目に突き刺さり怯んだ隙に、ストーンアックスを頭部に叩き込んだ。

 頭に石の斧を生やしたワイヴァーンが右側に倒れた。

 後ろを振り向くとそこに居たのは……。


「イヴァン!来てくれてありがとう」

「……今のは何だ!アレは何なんだ!!」

「魔獣だろう。サンドドーム解除。シャリラ……無事だなぁ」

「はい……かすり傷程度です。イヴァン様!」


 オレは2匹のワイヴァーンを重ね合わせサンドドームで覆い、上と下に穴を開けた。

 陶器等を焼く時によく使う手法だなぁ。


「シャリラ。火を付けてくれ」

「え?あ……はい。ファイヤボール……」


 ファイヤボールが下の穴から入りワイヴァーンに命中した。

 燃え盛るワイヴァーンを確認してから下の穴を塞いだ。

 上の穴から勢い良く火柱が上がった。

 それを見上げながら、オレはつぶやいた。


「アレは……何者なんだ……」

「あの男だ……あの男の情報だ。私は城に上がるぞ。殺してでも聞き出してやる……ルバー!!」



 悪寒が走ったわ。

 私の背中にね。

 誰かの怨みを買ってしまったみたい。

 まぁ~いいわ、そんな事より忠凶の報告を受けたの。

 話によると、魔獣ワイヴァーンを倒したのは風儀の勇者ガーグスト・ノラ・イヴァン様と大地の勇者マーウメリナ・モア・マギノ様ですって。

 貴族よね~、当主よね~、勇者よね~、と話よりも引っかかるワードがどうしても気になったのは内緒ね。


「報告、ありがとうね。絵まで書いてくれてとても解りやすいのだけれど……ごめんなさい。大きく書いてくれないとよく分からないわ?」

『何ですと!!姫様それは本当にですか?』

「う~ん……前々から気なっていたのよね。一生懸命、書いていたのを見たんだけれど、どれも小さ過ぎてよく分からないのよ。……大丈夫?」

『忠大!忠吉!忠中!忠末!みんな!!えらい事だ!!!』


 と大騒ぎして影の中に飛び込んでしまったの。

 まだ聞きたい事があったのに!!

 まぁ~、急がないからいいかしらね。

 ネズミ達のスキル絵心は、スキルポイントが5だから先があるの。

 頑張って熟練度を上げて、早く使えるスキルになるといいわね。

新大地の勇者マギノ目線で書いてまたした。

4貴族は歳も同じで仲良しではないけれど、認め合った仲間。

ナナから齎される情報で……どうなるんでしょうかね〜?


来週は父の才能が爆発し母の愛が奇跡を起こす話です。

お楽しみに!!


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