19話 あらあら、恭順の首輪ですって パート1
さぁ!やるわよ〜。
勢いそのまま、忠大に恭順の首輪を着けてみたわ。
お爺様の魔術の様に派手な演出が……と期待したのに。
…………心地よい陽射しが私達をほっこり優しく降りそそいだ。
お父様、ハンナ、ルバー様を背にして、私を抱えたお爺様が訓練場の真ん中でポケーッとしている姿は滑稽だったわね。
慌てたのはもちろん私。
何でなの!!
狼狽える私に忠吉が進み出て助けてくれたわ。
『姫様。恭順の首輪は従魔の首輪を元に製作されたアイテムです。おそらくですが、内側の突起に姫様の血液を付着させ、本来の姿になった我々の首輪に装着させればよろしいと思います。忠大が本来の姿に変わりますのでお下がりください』
「え!あ!そ、そうだったわね。忘れていたわ。……お父様、ハンナ、ルバー様、そしてお爺様。忠大が本来の姿になるので下がりください」
「ナナ。どうしてかなぁ?」
私を抱えたお爺様が質問してきたの。
お父様もルバー様も頷いていたわ。
ひっとして……着け方を知らないの?
「お爺様?もしかして、ご存知ないのですか?」
「うむ……実は……使い物にならないと分かった段階で放置されたアイテムなんじゃ」
「しかし!魔獣を従える事が可能なら魔族に対抗する最高の手段です。魔族ですら使っている手法を僕達が使わないなんて事はありえないでしょう」
『あたし達は使い勝手のいい駒じゃないニャ!』
「ルバー様!ロク達は使い勝手のいい道具ではありません!バカにするなら何も話しませんよ!!」
「す、す、すまない。そんなつもりで言ったのでは……いや違うなぁ。ナナの言う通り道具としか見てはいなかった。魔獣に理性があるとは夢にも思っていなかったから。すまない」
「それにも、しっかりした理由があります!後ほどお話いたしますから、今はしっかり反省してください!!」
「……ナナ。そんなにルバーを攻めてやるな。皆、少なからずルバーと同じ意見を持っている。俺達でさえ、混乱しているのだから」
「お父様……。薄々、感じていましたわ。皆さんがあまりにも魔獣や魔族について知らなさすぎだと言う事に。私だってハチやロク、ネズミ達からしか聞いていませんがお父様達より知っています。それでは恭順の首輪を着けるので下がってください。それと、この子達が本来の姿に戻りますから、けして攻撃をしないでください。もう一度、言います。攻撃しないでください」
私はお爺様の腕の中から睨みつけた。
まったくも~、この子達を何だと思っているのかしら!
頭にくるわ。
そんな風にプリプリ怒っていると、お爺様が優しく諭してくれたの。
「ナナ。知らぬという事は罪なのかも知れんが、知ることが出来ぬのなら罪ではない。知っているのなら教えてくれないかな?」
「……お爺様。そうですわね。ごめんなさい。この子達が物のように言われて、我を忘れてしまいましたわ。こちらこそ、ルバー様すみません。少し言い過ぎました」
「ガウラ様の言われる通りです。ですが我々も知る努力をすべきです。ナナ、改めてお願いしたい!教えてほしい」
私に頭を下げたルバー様。
お爺様の話す通りね。
だったら私が教えてあげないと、私しか話せないのだから。
「ルバー様、もちろんです。ですがその前に恭順の首輪を着けさせてください。その為にも少し下がって、見ていて下さいね。攻撃その他はしないで下さいよ!ね!」
「ナナ……念を押しすぎ……ですよ」
「おほほほ!ごめん遊ばせ」
「あははは……ナナは凄いのぉ~。あの口から産まれたと称されたルバーを黙らせだぞ!面白いのぉ~」
「……」
このままではルバー様が悶え死にしそうだわ。
面白いけれど、可哀想ね。
「それでは皆様、下がってください!……お爺様、少し下がってください」
「うむ」
2歩下がったお爺様。
目の前の忠大が本来の姿になったわ。
その姿は体長40センチほどで、尻尾まで含めると44センチの大きさ。
1センチぐらいの黒くて短い毛に覆われた、よく見かけるドブネズミの倍サイズの獣がいたの。
チワワみたいね。
私は頷き、首輪の内側にあった突起に左親指を刺して血を付けたわ。
「お爺様。少ししゃがんでいただけますか?」
「も、も、もちろんじゃよ」
お爺様から緊張が伝わったわ。
もしかしたら……まじまじと魔獣を見るのは初めてだったりして……まさかね。
「忠大。行くわよ!」
『はっ』
私は忠大の首にかけようとした瞬間。
正確には、頭を通そうとした時にね。
私の手を離れ首輪が勝手に動き出したの。
大きくなったり小さくなったりしながら移動していたのよ。
そして一通り動いた後、忠大の体の上部に浮いたわ。
そうねぇ……不審物が持ち込まれていないかの確認する検査、あれの行動に似ているわね。
そんな事を思っていると忠大を中心にして、黒い魔方陣が現れて首にピッタリの大きさになり嵌ったわ。
当の本人はケロリンとしていたの。
それにしても地味ね。
お爺様の土属性の魔術は魔法らしく派手だったのに。
「忠大……大丈夫?」
『はい、痛くも痒くもありません………姫様!!コレがステータスなんですね。面白いです。なるほど……面白いです』
「確かに……面白いわね」
そう私の目にもステータス画面が見えていたの。
【忠大】オス Gランク
《配下魔獣 ケナガネズミ》
HP=2000
MP=2000
STR(力)=500
VIT(生命力)=1500
DEX(器用さ)=1000
AGI(敏捷性)=1500
INT(知力)=2000
《魔術=黒属性》
ダークボール(黒)
ダークシールド(黒)
ザイル(黒)
ヒプノティック(黒)
ロック(黒)
《特殊魔術》
魔獣化
《スキル》
影法師・意思共通・走破・完全擬装・闘気功
「確かに面白いわね。お爺様からはどんな風に見えていますか?」
とお爺様を見たら固まっていたわね。
もちろん、お父様もハンナもルバー様も。
「お爺様?お父様もハンナもルバー様も、どうされましたの?」
「ナナ……まずは魔獣に驚いている。ナナも知っている通り、魔獣は討伐されるべき者。その為に発見されれば速やかに倒される。マジマジと見たことすら無い。そして今、識別するべく視ている。冒険者同士の場合、目線を合わせればお互いの名前とランクが表示されるはずだよ。後から俺のステータスを見せてやるぞ……Gランクで配下魔獣……ルバーよ。本当に成功したんだなぁ」
「はい……そうですね。……ガロスよ。成功したなぁ……」
「お父様、ルバー様。それでは、他の子たちもすぐにしますね!」
「あぁ……頼むよ……。ルバー、俺は分からなくなった。魔獣とは何だ!何者なのだ!!」
『僕達は生きている者だワン』
「うふふ、そうね。お父様!魔獣とは生きている者ですわ!!」
私はネズミ達に恭順の首輪を着けて行ったわ。
順番にね。
そこで驚きの新発見があったのよ!
私が何も考えずに名前を付けてしまった事が問題だったの。
それは忠凶のステータス画面を見ての叫び。
【忠凶】メス Gランク
《配下魔獣 ケナガネズミ》
HP=2000
MP=4000
STR(力)=500
VIT(生命力)=1500
DEX(器用さ)=1000
AGI(敏捷性)=1500
INT(知力)=2000
《魔術=黒属性》
ダークボール(黒)
ダークシールド(黒)
ザイル(黒)
ヒプノティック(黒)
ロック(黒)
《特殊魔術》
魔獣化
《スキル》
影法師・意思共通・走破・完全擬装・闘気功
「キャー!忠凶、あなた女の子だったの!!女の子なのに凶なんて名前を付けてしまったわ……ごめんなさい。もう少し可愛い名前にすればよかった」
『はい、ボクはメスですが魔獣となった時からメスもオスもありません。それに姫様が気に入っているのでボクも大好きです』
「そ、そうなの……。忠凶が気に入ってくれたのなら良かったわ。でも……まぁ~気に入ってくれたのならいいわね。それと、本当に貴女だけMPが多いのね」
『はい、おそらくですがボクがメスだった為に多かったと思われます。獣でもメスの方が大きいです。それと同じでメスの方が魔力多めだったと思われます』
「ハンナ。聞いてちょうだい。この子、女の子だったのよ」
「そのようですね。私にも【忠凶 メス Gランク 配下魔獣ケナガネズミ】と見えています。それ以外は全く見えません」
『はい、こちらにも【火の勇者 ハンナ Fランク】と見えております。それ以外は見えません。面白いです。……姫様。もしよろしければ、ハンナ様にステータスを見せてもらう事は出来ませんか?姫様の許可の元、こちらもお見せしてもかまいませんので聞いては頂けませんか?』
『忠凶!ずるいぞ!私だってルバー様のステータスを見てみたいのを我慢しているのに』
「うふふ、後で聞いてあげるから少し待っていてくれるかしら?ハチとロクもしたいからその後でね」
『だったら僕はガウラ様がいいです』
『俺はガロス様がいい』
『オレだってガロス様がいい』
「あ・と・で!」
『『『『『はっ』』』』』
ネズミ達が一列に並んで片膝をついて胸に手を当て頭を下げた。
剣を持たせたら騎士の礼よね。
相変わらず可愛いわ。
ドブネズミより一回り大きくても、ハチと比べると小さいのよ。
ミニマムサイズって女心をくすぐるわね。
さぁ~、次はハチとロクよ!
問題が起きなければいいのだけれど……大丈夫かしら?
ネズミ達のステータス画面の登場です。
例文に違わず変わる場合があります。
そもそも、このステータスを考えるのにも苦労した次第です。
ご了承してください。
19話のメインは……忠凶はボクっ子だった!です。
可愛いですね。
来週はハチとロクのステータス公開です。
それではまた来週会いましょう。




