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2話 あらあら、ネズミですって

 

 ことの起こりは昨日の昼過ぎ。


 いつもの散歩をハチに跨り、ロクを携えて少しだけ山奥に足を伸ばしたの。

 足は無いんだけれどね。

 美味しそうな山菜がね……あったのよ……それがマズかったわね。

 出会っちゃったのよ。

 元の世界でも山によく居た彼らが、この世界にも居たの。


 そう!か・れ・ら!


「貴方達は……ドブネズミ?」

『……だったらどうだ?と言っても俺らの言っていることは分からないよね』

「そんなことは無いわよ。ねぇ!貴方達は5人家族?兄弟?こちらの世界では一族って言うのかしら?」

『『『『『?』』』』』


 私はハチから下りて、木陰で休んでいる時にチロチロ〜っと目の端に現れたの。

 5匹のネズミ達。

 うふふふ、びっくり眼がなんだか可愛いわね。


「そんなことはないわよ。どうせ分からるから話すけれど……誰にも言わないでね。

 私、異世界人なの。異世界人は魔の力が宿るでしょう。私の場合、獣の声を聞くことが出来るの。まぁ〜それしか出来ないのだけれどね。ハンナの話を聞くと私は魔力は無いらしいわ。笑っちゃうわね。

 でもハチもロクも大切な友達よ。あ!ハチと言うのは白い犬で、ロクは黒猫の事よ。

 あははは!!おかしいわね。ロク!ハチ!ちょっと来てよ!口がパクパク………口がパクパク…」


 5匹のネズミが、まんまるお目々で口をパクパク。

 金魚の餌食いのような光景に大笑いしてしまった私。

 そこに魚を咥えたロクとウサギを咥えたハチが帰って来た。


『あはははニャ〜。あたしは金魚もネズミも大好物だよ』


 その言葉を聞いたネズミ達のパクパクがカチンコチンと固まった。

 本当に面白いわね。

 なんだか可愛そうになった私は、ポケットにあったパンを5個にちぎってネズミ達の前に並べたわ。


「も〜そんなにからかったら可哀想よロク。

 これでも食べて落ち着いて。毒なんて入ってなから食べてよ。ねぇ」


 パクパクからカチンコチンで涎がタラ〜リ。

 あまりの滑稽な流れにまた笑い出した。

 もちろん私もロクもハチも。

 すると我慢が出来なくなったのか、私から見て一番最後にいるネズミがそっと短い足を動かし始めたの。

 それを察知した先頭のネズミが鋭く動くのを制したわ。


『動くな!私が先に食べる。もし何かあったら……あとは頼んだぞ』

『はい』

『『おう』』

『いいなぁ〜』


 三者三葉の言葉が聞けた。

 どうも、先頭にいるネズミがリーダー格のようね。

 で最後にいる子が食いしん坊……うふふ、楽しいわ。

 そんなふうに思っていると、先頭の子が大きく口を開けてひとくち食べた。

 と言っても私から見ると小さいけどね。

 リーダー核の子がもうふた口食べ始めた。

 よほどお腹が空いていたのね。

 私はさらに、ポケットを探ってビスケットを見つけたわ。

 細かく割って、今度はハンカチの上に置いた。

 私達も食べるためにビスケットを全て出したの。

 やれやれと思って顔を上げるとそこには、すでにパンを食べきったネズミ達がこちらを見ていたわ。

 ビスケットにロック・オン!

 今すぐ飛びかからんばかりに、走り出したネズミ達。

 そんなネズミをロクの一声で静止させた。


『まちな!まずは自己紹介からしニャ』


『わた……ゴホン。私達は隣町から来たドブネズミです。本当はもう少したくさん仲間がいたのですが……残りはこの5匹のみです』


 何故か顔を見合わせるネズミ達。

 みんながみんな頷き合い何かの結論が出たようだ。

 で、何?


『お願いがあるのですが、よろしいですか?』

「はい、どうぞ」

『ありがとうございます。……私達を貴方様の配下に加えていただく訳にはいきませんか?

 私達はただのネズミですが何処にでも行けますし、いろんな情報をお届けします。役に立って見せますから!お願いです!』


 そう言ったかと思うと小さい体をさらに小さくし、一列に並んで土下座をした。

 その姿がも~可愛くて、可愛くて、新たなる癒やし系を発見したわ。

 すぐにでも頷きそうになる気持ちを押さえてハチとロクを見た。

 ハチは我関せずで辺りを警戒しているし、ロクは……楽しそうにニタニタしているわ。

 おそらく、新しい玩具が出来た!と企んでいる顔ね。


「ロク!いじめちゃダメよ」

『……分かったニャ』


 ロクはチェ!と舌打ちが聞こえるかと思うような顔をして、そっぽを向いたのよね。

 それでも座っている私の膝に、長い尻尾が触れていた。

 その尻尾から、言われなくても分かっているわよとの答えを感じ取れたわ。

 ハチもロクも私の事を信じて、信用して、愛してくれるの。

 だから私も精一杯、愛するのよ。


「もちろんいいわよ。これからよろしくね。で貴方たちの名前は?」

『え!私たちの名前……は無いです』

「それじゃ〜。私がつけてもいいかしら?」

『もちろんです。お願いします』

「それでは、一列に並んで!そう、それでいいわ。

 こちらから順番に名前を言うわね。忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶ね。この名前は……。

 さっきも言ったように、私は異世界人なの。しかも日本って言う島国から来たのね。

 忠は真心を込めて国や主君に使えることを意味する漢字で、大、吉、中、末、凶はおみくじの番号みたいなものよ。前の世界では1年の始まりにおみくじを引くのね。

 おみくじって言うのは占いの事なの。大が一番良くて、凶が一番悪いの。私、そのおみくじが大好きだったの。私が引くとね……たいてい凶になるのよね。確かに一番悪いのだけれど、落ちるとこまで落ちると後は上がるだけだとも言うしね。

 うふふ、私、凶が一番好きよ」


 私が楽しく昔話をしていたら、当のネズミ達は全く聞いてなかったよう。

 上の空でもらった名前を呟いていたわ。


『私が忠大』

『僕が忠吉』

『俺が忠中』

『オレが忠末』

『ボクが忠凶』

「気に入ってくれたかしら?」

『『『『『はい!姫様』』』』』』

「はぁ?姫様!?私が姫……ムリよ!こんなお婆ちゃん。姫だなんてぇ〜」

『『『『『え?』』』』』

『あははは。ナナは異世界人ニャ。しかも100歳まで生きた強者ニャ。この世に生まれて5年位しか生きてニャいから、前世の感覚に引っ張られるニャ。ちょっと待ってなぁ。ナナ……あんたは若い……ナナは若い……』

「私は若い……私は若い……うん、大丈夫!ロクありがとう。あ~びっくりした。突然、姫なんて言うもの!驚くじゃない。姫なんていうの止めて」

『あら、いいじゃニャいの。ここは人間の世界で有名な多数決で決めましょうよ。ハチもネズミ達もいいね』

「え!!」


 ロクがとんでもない事を言い出した。

 ハチも私の側に来て頷いてるし、ネズミ達はさもあらん。


『それでは行くよ~!ナナを姫と呼ぶことに賛成ニャら手を上げてニャ』


 ロクの掛け声で……みんなが手を上げたのよ!

 何とかして~誰か助けてぇ~!と身悶えている私に助け舟を出してくれたのは忠大だった。


『少しお待ちください。私達は姫様、ロク様、ハチ様の配下の者です。ロク様とハチ様はこれまで通りお呼びして私達は様付けで呼ばせて頂く、と言うことにしてはいかがでしょうか?』


 この忠大の発言に私が乗っかった。


 ここいら辺が落とし所よね。

 ここしかないわ!


「そうよ!そうしましょう!」

『僕はそれでいいワン』

『あ~あ~。あたしは姫って言いたかったニャ。まぁ~いいニャ。そう言うことにしとくよ』

『はぁ。ありがとうございます。私達はどんな情報でも拾ってきてみせます。何でも言ってください』


 この言葉が私の中で沈めていた想いの蓋を開けてしまった。


「だったら……お父様とお母様の様子を調べて来てくれるかしら?あ!でも無理しなくてもいいわよ。別に知らないなら知らないでいいのよ……うん!知らないでいいのよ」

『私達にお任せください』

「ちょっと……そんなに急がなくても……いいのに」


 私が言い終わる間にネズミ達はいなくなりました。

 私達は顔を見合わせてひと笑い。

 山菜とウサギを手土産に帰宅したわ。

 ちなみに魚は……ねぇ……ロクのお腹の中。




私は辰だけれど子も好きだ!!

ピカピカ光るネズミも好きだ!!……身内が。

「エンペラー」もよろしくなのだ!!

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