17話 あらあら、お爺様ですって
私が冒険者ギルドで遊び呆けている間に、ハチとロクは何をしていたのか?
じつは忠凶を通じて知っていたりして。
ただ聖徳太子ではないので断片的にしか耳には入らなかったけれど……少し心配ね。
さて忠凶の話によると……。
「ハチ、ロク。そろそろ、お屋敷に着きますよ」
ここから先は、僕こと忠吉がお伝えいたします。
姫様たちと別れてスアノース城の南にある、ロタ家のお屋敷へ僕達は向かっております。
ルジーゼ地方に御座います居城と、造りも規模も似たような感じでございますね。
スキル闘気功の修得いらい、兵士の皆様たちから恐怖の眼差しが消え僕達ネズミにまで信頼の情を向けて頂いております。
世話をしてくれている方は隊長のフアド様、ありがたいことで御座います。
入り口から馬車で向かうこと15分ほどの所にある屋敷に入り、迎えてくれた方がいたのです。
その方は……。
「長旅ご苦労。で……ワシの孫は……ど・こ・か・なぁ?」
「ガウラ様。ガロス様、ナナ様、ハンナ様なら冒険者ギルドに寄られてからこちらへと来られるそうです」
「はぁ~、ワシの孫はおらんのか……」
この落胆した方はガロス様の父親であり、大地の勇者ガウラ様。
彼が全盛期の頃は、学園制度など無く勇者はそのままの意味、民を守り命を支える者として人々に崇められていたと聞いております。
今はガロス様に家督を譲り趣味のマジックアイテム集めと改造、創作を楽しんでいるようです。
隊長のフアド様から触れて読ませて頂いた情報です。
ありがたいことです。
そのガウラ様がハチ様とロク様を舐めるように見ています。
なにか起こりそうです。
「フアド……そやつらが……ペットかぁ」
「ペットでは」
「クゥ〜ン、ワン」
ハチ様が気にするなと言っております。
その後にロク様と僕達で打ち合わせをいたしましたが、何だか怪しい雰囲気です。
『ロク、ネズミ達。魔力を使うな!挑発に乗るな!ナナが戻るまで、恭順の首輪を試すまで、おとなしくするんだワン!』
『偉そうに言うニャ!あんたが言わなくても分かっとるわ!でも……あの爺さんから、ごっい魔力を感じるニャ』
『ハチ様、ロク様。あの方はガロス様の父親で、姫様の祖父。大地の勇者ガウラ様にございます』
『大地の勇者ねぇ。土属性の魔術を使うのかニャ?魔力は高いし……あたしと、どっちらが強いかしらね』
『確かに……強そうワン。僕ではギリ勝てる?』
『あんたじゃ無理ニャ』
『カチンときたワン!!』
姫様がおりませんので、不毛なやり取りが終わりそうにないです。
ところが、そのやり取りを終わらせる一言がガウラ様の口から出てまいりました……余計なことを言ったものです。
「どれほどのものか試してやろうぞ。おい!誰か訓練場に円を書け!なに、獣でも理解しやすいルールにしてやった。この線から出るな……たったこれだけだ。コレならペットでもわかるだろう」
「ガウラ様!それは言い過ぎではないでしょうか。この子達は」
「ニャ~ン!ゴロゴロニャ」
「ウゥ〜ワン」
「やる気のようだぞ」
ロク様、ハチ様は軽く挑発に乗ってしまわれましたね。
しかもノリノリです。
『ニャ〜に!やったろうニャ』
『あぁ~ワン!』
だそうです。
準備運動を始められましたが、良いのでしょうか?
確かに馬車の中では少し退屈でしたので、気晴らしにいいかもしれません。
僕はフアド様の肩に移りまして移動いたします。
ハチ様とロク様は嬉々として訓練場へと行かれておりますね。
そこには200人が素振りをしても当たらないほどの広場がございます。
今は7メートル程の円が引かれておりますが、いとおかしくも左半円に来たばかりの兵士、右半円にはここに居た兵士とに別れております。
僕を肩に乗せた隊長フアド様は円の中心に立ち、ざわついております皆々様に声を上げます。
「静まれ!今から模擬戦を行う。ルール簡単。この円から出たものは負けで最後まで残っていた者が勝ちである。それでは……始め!」
フアド様の号令で始まったのですが、実は円に入った辺りからすでに陣取りの攻防戦が始まっていたようです。
どうもお客様であるハチ様達に譲られたようで、中心から2歩ほど前に出られた形で開始されるようです。
ハチ様を頭にして1歩づつ詰め寄り、その周りをロク様が隙をつくかのようなスピードで翻弄されております。
素晴らしい連携です。
もちろん3人様ともお身体にはスキル闘気功を纏っておらますが……やはり歴戦の勇者でございます。
纏う気の質が違うようです。
ジリジリと詰め寄り、接触寸前の距離まで来ましたが纏う闘気功の差でハチ様が弾き飛ばされてしまわれます。
ですが出てしまわれる直前、ロク様の体当たりでハチ様は助かります……がロク様代わりに負けとなります。
その事に我を忘れてしまったのがハチ様です。
『ロクが僕の代わりに……ロクが!!』
ハチ様は猛ダッシュしながらガウラ様に迫ります。
口の中には風属性の魔力とスキル闘気功を練り合わせ圧縮し、放とうとしています。
『ハチ!止めなぁ!!』
ロク様のこの一言でハチ様の目が覚めます。
口の中に出来上がった、風の魔力と闘気功を練り合わせた玉を飲み込んだ模様です。
ですが勢いは止まらずガウラ様の横を通り過ぎ、敵方の兵士達の目の前で止まりはしましたがもちろん負けです。
ところが悔しがっていたのはハチ様達ではなく……。
「何で撃ってこんのだ!!ワシならあれぐらい平気だわい、まだまだ老いぼれとらんぞ!!」
などど宣っておいでです。
この爺様はある意味、迷惑という化物ですか?
これはこれは、言葉が過ぎた模様です。
ですが心からそう思う次第です。
それと言うのも……。
「第2ラウンドだ!次はてぬぐいを持って来い!尻尾に括りつけろ。取られたら負けじゃ。簡単だろう。さっさとせんか!!そうそう、次は魔術解禁じゃ。ワシは土属性の魔術を使うぞ」
本当にどこまでもお元気なお爺様です。
使える者も大変でしょうね。
さて“魔術を使うぞ”の言葉に乗っかったのはハチ様、ロク様です。
『そっちがその気ならあたしはやるニャ!』
『だ!ワンね』
意味不明です。
ですがロク様は化け猫スタイルになりハチ様も一回り大きく大きくなられましたが、魔力は獣の枠を超えておりません。
流石ですね。
「むむ!こ奴らもやる気のようだぞ」
……言葉も出ないとはこの事です。
狂戦士とはガウラ様の名前でしょうか。
そしてハチ様もロク様も狂戦士の要素はあるようです。
ここでもノリノリです。
姫様……お早いお帰りを心よりお待ちしております。
さて、第2ラウンドですが、訓練場から兵士達の姿は無くなり高台へと移動。
僕はフアド様の肩に乗ったまま動いております。
端まで来ると叫び声を上げ。
「それでは始めてください!」
申告制なの?
審判らしき人もおらずに試合は始まりす。
これはマズイかもしれません。
姫様に起こっている事をしっかりとお伝えしなければ!
僕は肩から飛び降りてハツカネズミの姿からいつものドブネズミの姿に戻り、見やすい位置に移動いたします。
その間に始まっておりますが……どちらもヒドイ有り様です。
「ふぅはははは!お主ら獣では無いし魔獣でも無いなぁ。お前達は誰のためにいるのだ!そこのネズミもぞ!!」
『ナナのためだワン』
『ナナのためニャ』
『姫のためでございます』
「何を言っているのかは分からんが……その主を守る為に力をつけよ!!」
そこまで言い放つと近くにおりましたハチ様ロク様はもちろんの事、少し離れておりました僕まで盛り上がる大地に吹き飛ばされてしまいましたが、そこは魔獣なので無傷でございます。
しかし、ハチ様ロク様の魂に火をつけるのには十分でございます。
あとは野となれ花となれ……でございます。
ナナは一切出てきませんでした。すいません。
ギルドに行っている間に起こった出来事を書いてみました。
元気なお爺様の登場でした。孫が好きすぎる、溺愛っぷり満点の爺様。
実際にいると……ウザい気がしますね。
来週はナナが中心の話に戻ります!おそらく……?
それではまた来週会いましょう。




