15話 あらあら、姉妹ですって パート2
「ルバー様……何かあったのですか……」
「何も無いよ」
「あ!待ってセジルさん。貴女に用があるの。少しお時間いただけるかしら?」
「え!ナナ様……分かりました。何でしょうか」
私はセジルを呼び止めてから、ハンナを見たの。
当のハンナは胸ポケットを握りしめていたわ。
私の目はごまかせないわよ。
「セジルさん、そこに座って下さい」
お腹が大きいんだもの、着席を進めるのは当然よね。
テーブルには大きさの異なる水晶が2個と屑ダイヤが入った袋が1個、5カラットのダイヤが1個あるわ。
そのうち、屑ダイヤを持ってルバー様の前に置いた。
「この屑ダイヤはギルドに寄贈します。好きに使って下さい」
次に5カラットのダイヤを持ちセジルの前に置いて、ハンナを見たの。
も~、何をやってんのよ!
「ハンナ!今が出し時でしょう。私の目は誤魔化されませんよ」
「で、ですがそのダイヤがあれば……」
「はぁ~。セジルさん、そのダイヤは出産祝いに差し上げますわ。そして失礼を承知でお聞きしますが、お腹の赤ちゃんは双子ですよね」
「え!そ、そうですが……なぜ……どこで……」
「私は異世界人です。お腹の大きさと貼り具合である程度、勘ぐることぐらい出来ます。さぁ!ハンナ!その胸ポケットから出して、自分の口で言いなさい!!」
目を白黒していたのはセジルさんで、俯いていたのはハンナ。
ひと呼吸して、意を決したのか胸ポケットからハンカチを取り出し、中の青い石を晒したわ。
大きさは5カラットのダイヤとほぼ一緒ぐらいで……アレは……。
「コレは守り石の欠片です。無理を言って分けてもらったもの。セジル……結婚と出産、おめでとう。私からお祝いをもらっても、貴女はいらないだろうけれど上げるわ。
私の事は嫌いよね、それとも怖いのかしら?それは仕方がないと思うの。おそらく貴女の記憶にいる私は、火に包まれた魔族のように見えたはず。でもね……でも、私は助ける事が出来て嬉しかったし、勇者に成れたことを誇りに思うわ。
この石が貴女と赤ちゃんをきっと守ってくれる。ガロス様、ソノア様、ナナ様、石を譲って頂き本当にありがとうございます。そろそろ、行きましょう。ハチとロクがきっと待っています」
「そうね。ルバー様、いろいろありがとうございました。5カラットのダイヤは何かの加護を付けていただけますか?その後、セジルさんに上げてください」
「もちろん、カワイ子ちゃんお願いなら是が非でも叶えてみせるよ」
私はお父様に抱えてもらいハンナを連れて、部屋を出ようとしたの。
その時、叫びにも似た声で待ったをかけられたわ。
「ちょ、ちょっと待って下さい!このダイヤを受け取るいわれはありません。お返しいたします」
「やっぱり。私から……だからでしょう」
「ハンナ!ちゃんと話を聞いていたの?
セジルさんは、私のダイヤを返してきたのよ。も~話はしっかり聞いてちょうだいね。
それとセジルさん。そうねぇ~。私にとってハンナは家族であり、育ての母なのよ。私がこの足でしょう。ハンナが、自分で出来る事は自分でする!私1人になっても生きていけるように、と言いながら育ててくれたの。本当はかまいたい気持ちでいっぱいだったのに、ただ黙って私のする事を見守っていてくれたの。ありがたかったし嬉しかった。そんなハンナの家族は私の家族。お祝いを上げるのは当然の事だと思うわ。そうよね!お父様」
「その通りだ。ハンナにはいつも済まないと思っているよ。俺とソノアが至らないばかりに迷惑をかけた。これからもナナの良き家族として接して欲しい」
「ガロス様……もったいない事です。ありがとうございます。ナナ様は私がいなくても立派な姫様ですよ。これからは先輩勇者として、仲間として、側にいたいと思います」
「ハンナ、ありがとう。これからもよろしくね。ついでに小言を1つ。セジルさん……セジル、思いは言葉に乗せないと伝わらないわよ。この際だから、思いの丈を言ってみたらどうかしら?」
セジルは私とハンナが上げたダイヤと守り石を握りしめ、一気に爆発させた。
「あたし、お姉ちゃんの事を怖いと思った事ないよ!
あの時は確かに怖かった。でもお姉ちゃんが怖かったんじゃなくて熊が怖かったのよ!だって鋭い爪と牙があたしに振りかかろうとしていたもの、そりゃ~怖いわよ!恐ろしかったわよ!でもお姉ちゃんが助けてくれた!」
「でも!貴女に傷を付けてしまったわ。消えない傷よ!大切な家族なのに……」
「お姉ちゃん」
泣いているハンナに手を伸ばしたわ。
するとお父様が私を渡したの。
私はハンナの背中を擦って話しだした。
「ハンナもセジルも私の話を聞いてね。違っていたら、違うと言って。セジル、傷が残っているの?」
「はい……背中に火傷の痕があります。でも、でも!」
「落ち着いて。捉え方が違うだけよ。ハンナは大切な妹に傷を付けてしまった証が火傷の痕なのでしょう。でも、セジルは違うのよね」
「はい!確かに火傷を負いました。でも、アレはあたしを助ける為に負ってしまった傷で、お姉ちゃんが悪い訳では無いの!」
「セジル、お願いだから落ち着いて。お腹に障るわ」
「ごめんなさい……」
「ハンナ、セジルはね。背中の傷は命を守ってくれた証なのよ。ハンナにしてみたら悲しみの象徴がセジルの火傷かもしれないけれど、セジルにしてみたらお姉ちゃんが身を挺して自分を助けてくれた火傷なの。そうじゃなかったらこんなに近くにいないでしょう」
「そうよ!ナナ様の言う通りです!も〜お姉ちゃんたら、あたしがギルド職員になったのにどこかに行っちゃうんだもの。行っちゃったら、行きっぱなしで帰ってこないし……あたしはお腹が大きくなるし……も~やぁ~」
ハンナは私を抱えたままセジルを抱きしめた。
私はサンドウィッチにされているわけね。
泣いている2人の背中を擦ったわ。
見方が違うだけでこんなにもすれ違うのね。
私も気を付けないといけない、そう感じたわ。
泣き止んだ2人が笑いながら、これからの事を話し始めたので私もついつい話に混じってしまったのよね。
いらぬ事を口走った気がするわ。
「お姉ちゃんはもう少しここにいるの?」
「いるわね。ナナ様が学園に入学しても……はぁ~心配だわ」
「ナナ様に足が無いから?」
「違うの。ナナ様はそれくらいなら平気よ。私が心配しているのは、前の世界の感覚に引っ張られることなのよ。それで、余計な事に首を突っ込んでしまわないかが心配なの。はたまた巻き込まれたりとか、巻き込んだりとかね」
「それはちょっと心外だわ。確かに引っ張られてしまうわよ!だって仕方がないじゃない、100歳まで生きて、こっちの世界に来たのだもの。100歳と5歳では100歳の方が長いでしょう。無理よ!」
「やっぱり、ナナ様は100歳まで生きてこちらへと来られた方なのですね!100年生きた強者、と言っていたのでもしやと思いました」
「セジル……そうだけれど……私、余計な事を言ったみたいね」
「はぁ~。それくらいなら平気ですけど」
「平気ではないよ」
「ルバー様!」
「ナナ。異世界人は平均して10代前後が多くて最長が25歳だっけ?100歳は聞いたことがないよ。
さぁ、セジル。このダイヤに白属性最上級の魔術、女神の祈りを付けておいた。産まれてきた子に持たせるといい」
「ルバー様、ナナ様、お姉ちゃん……ありがとうございます。産まれたら必ず報告しますね。お姉ちゃん、勇者なんだからスキル意思疎通を取得済みでしょう。あたしと登録して」
「え!セジルもギルドカード持っているの?」
思わず反応したのは私。
さらに驚いたことに。
「ナナ様、今は身分証の代わりに取得する人が多いのですよ。冒険者に成らなくても初回に100スキルポイント頂けるので、職業に合ったモノを取る為に登録する人もいます。私もスキル意思疎通と口述筆記を取得し、仕事に活かしています。お姉ちゃん登録してよ」
「もちろんよ!」
そう言うと私を挟んだまま、お互いのギルドカードを出し重ねたの。
何かブツブツ言ったかと思ったら顔を上げて笑い合っていたわ。
「セジル、そのギルドカードは……」
「えへへ、一緒のにしちゃった。あたしのは小ぶりの水晶5個だったけれど、可愛いでしょう」
「うふふ、とっても素敵だわ」
「本当に素敵ね。今のが登録?」
「そうですよ。ナナ様。ギルドカードを合わせて、登録と念じると終わりです。ちなみにスキル意思疎通どうしではないと出来ませんので気をつけてください。それにしてもセジルがギルドカードねぇ~。子供も産まれるのだし無理しないでよ」
「お姉ちゃんこそ、メイドとか無理でしょうが。ナナ様、お姉ちゃんが問題を起こしませんでしたか?」
「そんな事なかったわよ。うふふ……スキルに歌とかないのかしら?ハンナの声は子守唄に不向きだったのよね」
「あははは、あははは、お姉ちゃん!昔のまま治ってないんだ!!」
「………ナナ様、ガロス様。行きましょう」
まだまだ笑っているセジルを尻目に、ハンナは扉を出て行ったわ。
去り際に人差し指をビシッとセジルに向けて言い放った。
「落ち着いたらすぐ連絡するから。私の美声を聴かせてあげるわ。待ってなさい!!」
「うん!うふふ、待ってるわ」
冒険者へ登録するのに半日もかけてしまったのよね。
本当は数分で終わるはずなのに……何でこんなに時間が経ってしまったのかしら?
さて、後は恭順の首輪を着けるだけ、待っててね!ハチ、ロク、ネズミ達!!
姉妹の仲直りの話でした。
ほんの少しのすれ違いでも、取り返しのつかない事になるものですよね。
まぁ~、取り返しのつかない事など早々ありませんけどね。
ちなみに私と姉は大の仲良しですよ。
お嫁に行きましたが……大変心配ですね。
来週はハチとロクとネズミ達が戻ってきます……本当かしら??
それではまた来週会いましょう。




