表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/154

145話 あらあら、常闇の果てにですって

2月9日に少し書き足しました。

 

「キャーーーー! ! 」


 終焉のゴングが鳴った。

 ここは、天界。

 俺とククルは、ちょこ様の世話係のインとゆりかごの管理者フルと人・魔族・魔獣の監視者エンサーの説得に来ていた。


「エンサー! どうした? 今、悲鳴が聞こえたぞ」

「……最悪だ。説得どころか、すでに取り込まれていたようだ」

「ハァ? ! そんなバカな事があるか! ! アークが刀祢に取り込まれていたなんて……ありえねぇ! 」

「トッシュ、落ち着くんじゃ。妾は予感があったぞ」

「ククル」


 下げていた頭を上げて、ククルを見た。

 それは、こいつらも同じだった。


「……やはりそうだったんだ。アーク……。妾が側に居てやらねば、ならんかったんじゃ。

 アークは生まれた時から不幸だった。妾たちは同じ刻に産声を上げた。ところが、なぜか妾だけ先に取り上げられた。アークは、蓮子のゆりかごから落ちたんじゃ。暗い闇の中で産声を上げた。その事が、心のシミになった。

 ……愛に飢えていたんだ。……愛に憧れていたんだ。……愛される事、愛する事を夢見ていたんだ。妾は……愛していた。でも、側に居てやる事が、出来なかったんじゃ。アークを1人にしてしまった。アーク……アーク……」


 ククルの涙が、俺の心に刺さった。

 俺はもう一度、頭を下げた。

 そして、禁断の手を使う事にした。

 奥の手だな。


「すまない。アークとククルがこんなにも深く、結びついていたなんて思いもよらなかった。そこでだ! ククル、お前の命を俺にくれないか? 俺とお前の命で、ナナとハチとロクとネズミ隊は助けたい。俺たちの見込みの甘さで、死んだんだ。何にも悪くねぇ。それに、せめて、あの暗闇から救いたい。みんなと一緒に……みんなと同じ時に……死なせてやりたい。そもそも、お前たちの過ちで、こんな事になったんだ、アークの件があったにしても、責任の一端は担ってもらいたい。頼む! 頼みます! ! 俺とククルの命を魔力に変えて、あの暗闇からナナたちを助けてくれ! 」


 俺は直角90度で頭を下げた。

 謝罪する角度だが、そんな事はどうでもいい。

 ところが、反応は……無い。

 ダメかぁ! と諦めかけた時、思いもよらない事から思いもよらない事を言われた。


「トッシュよ。頭を上げてくれ。ククルよ。泣くのをやめてくれ。私たちとて、同じ思いよ」

「え?」


 優しい口調がインからの言葉だった。


「アークとククルを取り上げたのは私たちでは無いが……側に居た。あの時は本当に大変だった。フゥ……言い訳だな。トッシュ、ククルよ。私の話を聞いてくれ。

 正直、どうにもならない。こんな事は初めてのケースなんだ。龍神が人と同一化してしまうだなんて、起こってはならない事、起こりえない事なんだ。それが、起こってしまった。

 出会ってしまった。惹かれあってしまった、かもしれぬ。阻止する事が出来たのは、私たちだけだった。それなのに……何もしなかった。私たちとてナナたちや人属を助けたい。だが、前例が無いだけに、助け方が分からないのだ。私たちにできる事はただ1つ……破棄する事だけだ。何も出来ない」

「嘘だろう。そんなバカな話があるか! お前たちは神に仕える龍神なんだろう? だったら神に等しい存在のはず。なのに、何も出来ないのかよ! 闇に捕まったナナたちを助ける事も、人属であるルバーたちを救い上げる事も、アークの闇を祓う事も、何もかも! 出来ない……のか? 」


 インが力なく首を振った。


「私たちは子守の龍神。ちょこ様を神龍へと導くためだけに存在する。ちょこ様の身の回りの世話をしたり。食事であるゆりかごの管理をしたり。食事をする為の食材を管理したり。それが私たちの仕事なんだ。それ以上も以下も無い。また、それ以外、出来ないんだ。それももうすぐ終わる。ちょこ様が深い眠りに入られて、数日。そろそろ、目覚めるときやも知れぬ。そのときを待つしか無い。神龍の力で……無理であろう。目覚めたばかりの神龍に、それほどの力があるとは思えぬ。この世界は諦めるしか無い。私たちでは、対処できないんだ」

「じゃ〜何ができるんだよ! 」

「私たちに出来ることは……廃棄の決定。そして、実行だけだ」


 3人とも下を向いたまま動かなかった。

 俺もだ。

 こいつらを責められない。

 俺だって、同罪だ。

 俺が下界の体に構築し直している時に起こった事だった。

 アークとククルの暴走で、下界を混乱させてしまった。

 それを補うために、各龍神が持てる魔力を使い、この世界を安定させた。

 俺だけを残して。

 よくよく考えたら、インもフルもエンサーも大変だったろう。

 本来なら下界に降りるのは俺だけで、他のみんなはそれぞれの場所で管理し監視するだけだ。

 もちろん、天界での仕事もみんなでこなしていたはずだ。

 それを3人だけで、やっていたんだ。

 俺にもククルにも責める権利は、無い。


 ナナ……すまん。


『トッシュ! 僕に変わってください』

『ダメだ。お前が出てきたって何も変えられない』

『それでも……』


 チッ! 抑えが効かなくなってきたなぁ。

 ハァ〜、ときどき意識が途切れる時がある。

 そもそも、俺は竜に全てを委ねた身だ。

 ここまで、こいつの中で生きてこられただけでも、有難いのに贅沢は言ってられねぇかぁ。

 でもよ! それでもよ!


『竜、いくらお前でも、無理なもんは無理だ』

『それでも、ナナを、婆ちゃんを、助けたい! ……オレに全権よこせ! ! ! 』


 最後の言葉で俺の意識が途切れた。





 トッシュ、が下を向いたまま動かなくなった。

 妾とアークが起こした事とは言え。

 ここまで何もできぬとわ。

 龍神なぞ赤子と同じじゃなぁ。

 泣く事しか出来ぬ。


『すまぬ、青。そなたと竜は、妾たち龍神と同化しているために消滅する事は無い。本当に……すまぬ』

『いいよ。ククルの方が辛いもの。でも……でも……みんなが居なくなるのは……悲しいわ。大丈夫? その……』

『気を使わなくてもよい。妾が甘かったんじゃ。まさかアークの心と刀祢の心は完全同一化していたとは、思いもよらなかった。妾はアークの何を愛したのであろうなぁ。側にいて……愛していた……そう思っていたのは、妾だけだったのかも知れぬ。アーク……』


 涙が渇かぬ。

 こんなにも、出るものだったんじゃなぁ。

 そんな妾の横で、微動だにしなかったトッシュが突然、燃え出した。

 ハァ? いや、違うぞ。

 燃えているのではなく、真紅の光がトッシュから発していたんじゃ。

 あまりの事に、涙すら引っ込んだぞ。


「ト、ト、トッシュ? ? ? 」

「ククル。オレです。竜です。フゥ〜、やっと僕に変われた。その神様にお願いする事は出来ないのですか? 」

「君は……誰だ?」


 インがそう言いたくなるのも頷けるぞ。

 体格はトッシュで顔は竜。

 さらに、髪はざんばら頭で踝まである。

 その色が……。


「「「「『紅』」」」」


 ここに居る人の声が揃った。

 余りにも異質で異様な姿。

 龍神でも無く、魔族でも人属でも無い。

 魔力も変だ。

 龍神の世界を創る魔力と龍神の糧となる人属・魔族・魔獣の魔力が合わさり混ざり、化合した。

 この力なら……刀祢と闘えるやも知れぬ。

 その思いは皆、同じだったようだ。

 そんな視線を交わした。

 皆が皆、頷き合い確かめた。


 イケる……と。


「竜? トッシュ? まぁ〜、どちらでもよいぞ。そなた、今が自分がどんな姿をしているか理解しておるか?」

「え? 」

「誰でも良いから、鏡を持って来てくれぬか」


 インとエンサーが、回れ右をして大きな姿見を持って来てくれた。

 そこに写っていた人? 龍神? の姿を見た。


「え? ! コレが……オレ? え? ! ……オレ? オレ? オレなの? ? ? 」

「やっと理解したんじゃな。そなたは今、刀祢と同等の力を持っておる。刀祢を倒せるかも知れぬ。さすれば、創り治す事が可能かも知れぬのじゃ。アークの事は……気にしなくて良い。そんな事より。竜、頼むぞ! そなただけが最後の希望じゃ」

「………」


 竜は両手を見つめ、握り拳を作り自分の心臓を打ち付けた。

 目を瞑り数度、繰り返したんじゃ。

 深呼吸をして、顔を上げた。

 その顔は、竜でもトッシュでも無い。

 紅蓮の竜王の顔をしていた。

 名実共に、竜が名を継いだ瞬間だったようじゃの。

 ただ……。


「なぜ、おぬしは上半身、裸体なんじゃ? 」

「そんな事を言われても知りませんよ。筋肉で服が破けたようです。ズボンも限界のようですし……」


 そんな話をしていると、インが何かを持って現れた。

 服は中国の民族衣装である、漢服に似ていたのぉ。

 ただ、白地に龍の刺繍が施してる、無駄に豪華な代物じゃった。

 いったい誰が着るために用意したのやら、不思議じゃ。

 まぁ〜、着替えた竜はキマッていたがのぉ。


「竜王よ。“刻渡り”を授けておく。私たちが出来るのは、コレくらいしか無い。竜王、頼む。今しばらく時を稼いで欲しい。ちょこ様が目覚め、神龍に神化すれば救えかも知れぬ」

「エンサー……」

「私とて、下界いの人属は好きですよ。人らしく醜いところもあれば、人らしく優しい心もある。そんな、彼らだから私も愛したのです。どうか、頼みます」


 インもフルもエンサーも頭を下げた。


「了解しました。そして、理解しました。オレなら……止められる。ククルはここにいて下さい」

「共に行くぞ」


 大きく首を振った竜。

 食い下がろうと口を開きかけた瞬間、真剣な眼差しに反論できなかった。


「分かった。妾はあのモニターで見ておるぞ」

「はい。それでは行ってきます」


 竜に姿を変える事なく、そのままの姿で常闇の下界に降りて行った。

 そう、妾は見たんじゃ。

 あやつの上半身は裸身だったが、細かい鱗状態の肌をしておった。

 アレは竜化じゃ。

 人の姿で竜の肌。

 もはや、人では無いのぉ。

 モニターには、各地の映像が映し出されておったが……大きな画面が2分割されていた。

 なぜ? と聞くと……。


「他のモニター箇所は全て、黒に塗る潰されてしまったので」


 と、の答えに二の句が継げなかった。

 映し出されてた映像は……半分が常闇の黒で、もう半分はスアノース城が映っておった。

 その他は……。


「今、竜王を写します。音声も拾えますので、静かにして下さい」

「フル、頼みます」

「はい」


 フルが機会を操作して大画面に、ゆっくり舞い降りる竜の姿を映し出していた。


 “「お前が刀祢だな」”

 “「『君は誰です』」”


 対峙する2人。

 刀祢の姿を始めて見たぞ。

 アークの面影は……どこにも……あ! ! 右目の下にある泣き黒子。

 アレは、アークにあったものじゃ! ……この黒子があるから僕は泣きたくなるんだ……そんなバカな事を言っていた。

 妾は好きじゃったよ。

 優しい目元のチャームポイント。

 さらに、背中にも黒子があった。

 アーク……アーク……アーク……。

 アークのおもいは……刀祢あの中には……無い。

 アーク、聞こえてる?

 妾の声、聞こえてる?

 もう、いいよ。

 妾も一緒に行くから。

 妾がずっと側に居るから。

 その人属に、力を貸すのを止めて欲しい。


 アーク……愛しています。


 “「な、何が! ! 龍神の魔力が……消えた? 貴方が何かしたのですか? まぁ〜、いいです。これくらいでは、どうもしませんよ。これまで蓄えた命があります。大量の力があるのです! ! 」”

 “「フン! 」”


 常闇の拡大がピタリっと止まったじゃ。

 そして、妾の胸に温もりを感じた。

 やっと、やっと、妾たちは1つになれたんじゃ。

 アーク、ずっと一緒だよ。

 妾が優しさに浸っている内に、局面は大きく変わったようだ。

 刀祢の攻撃が質を変えたんじゃ。

 これまでは、常闇による捕食・吸収をメインにしていた。

 それしかしていなかった、と言っても過言ではなかったんじゃ。

 それが今は、自身の身体に大量の攻撃を書き込んでいる。

 本来の刀祢のやり方じゃな。

 勝てるかもしれぬ!

 竜王よ! 貴様の力を見せつけてやるんじゃ!

 妾の応援が功を奏したのか、竜王に流れが傾いたようじゃ。

 攻撃が単調になり、全く当たらなくなっておる。

 この分じゃと……勝てる!

 妾はそう確信した……が……。


 “「見え透いた攻撃。オレには当たらないぞ」”

 “「フン」”

「ククル、マズイですよ」

「エンサー? どうしてなんじゃ。どう見ても、竜王が押しているではないか! 」

「違うます。この男は狡猾ですよ。“黒を統べる王”の名は、伊達では無いようです」

「どう言う事なんじゃ? 」


 妾の問いに答えてくれたのは、ゆりかごの管理者フルじゃった。


「この人属は、大地から神の糧を得ている循環機能を応用して、吸収した大量の命を自身の力に変換しているようです。ゆりかごから供給されている魔力が滞っています。素晴らしい頭脳と応力力です」

「と、言うことは……」


 妾の答えを待たずに、状況は激変した。


 “「来ました。やっと、変換方法を確立し実行できました。こう見えても僕は医者であり、科学者ですよ。研究や探求は僕の得意分野です。取り込んだ命をどうやって、僕の力にするのか! そこが難しかったんですよ。龍神のおかげて情報を得ました。あとは僕に応用するだけ。まぁ〜、そこも難しのですが。僕にかかれば、こんなもんですね。さぁ、人型の龍神くん。君の僕の糧にしてあげますよ」”

 “「ウッ! クソッタレ! どこかにナナが居るはずなんだ!」”

 “「ナナ? ……ルジーゼ・ロタ・ナナの事ですか? 彼女なら、ここに居ますよ。ですが……意識はありませんがね」”


 刀祢が何もない暗闇から、まだまだ幼さが残るナナを取り出した。

 ただしナナの顔だけが、ボンヤリと見える格好じゃ。


「ナナ! 」

 “「ナナ! 」”


 妾の声と竜王の声が重なった。

 それを鼻で笑いながら、可笑しそうに話し出したんじゃ。


 “「フッ、話しかけても無駄ですよ。心は身体の奥底に沈めて、黒の力で押さえつけていますから。最後に何も無い真っ黒な風景を見せて絶望させてから、取り込んであげると約束したので。僕は約束は守る男ですよ。アハハハ! ! 」”


 ナナ……すまぬ。

 妾の為に! その想いは時として、奇跡を呼び起こすんじゃ。

 しかも、このとき生き残っていた全ての想いが1つと成り、神変を起こしたんじゃ。


 “「ナナ! ナナ! ナナ! ! ばあちゃん、僕だよ。竜坊だよ! ばあちゃん! ! 」”




 ……我を起こすのは誰ぞ……。




<「ナナ! ナナ! ……。ナナ! ナナ! ……。わたくしの娘ナナ! ナナちゃん! ! 」>




 ……我が目覚めるには、今暫しの刻がいる……。




<「ナナちゃん! ……。ナナちゃん! ……。ナナちゃん! ! ……。お願いしますわ。ナナちゃん! 貴女が必要なの。わたくしと、妹のマナスを助けてくれたじゃない。お願いします。ナナちゃん! 答えて! ! 」>




 ……不完全で目が覚めれば神化は出来ぬ……。




<「ナナ様。お願いです。ナナ様……。皆が心配しています。ナナ様……。ハチとロクとネズミ隊と一緒ですか? ナナ様……。セジルの子供達はスクスク育っています。ナナ様……。お願いです。無事でいて下さい。私の娘ナナ様……ナナ様……ナナ様……」>




 ……煩いわ! !……。

 ……そこに丁度良い憑代があるではないか……。





 妾がナナの事を思っていると、天界が白の世界に支配されたじゃ。

 視界が戻り、モニターを見た。

 そこに映し出されていたのは。


「神龍様……」

「いや違います。神化は完了していないようです」

「フルどう言う意味だ? 紛うことなき神龍のお姿、そのものでは無いか? ! 」

「イン! しっかりしろ! 」

「エンサー」

「よくよく見てください。安定性が悪いです。何より頭部に注目して下さい。ナナ君が居ます。彼女が憑代と成り、神龍を具現化しているのです。今現在、ゆりかごは彼女自身です」


 妾の目には、白銀の龍が悠然と揺らめきながら刀祢の前に現れておった。

 さらに驚いたのは、画面ではすでに“深層の黒”の世界に飲み込まれていたんじゃが、その黒の世界に煌々と光り存在していたんじゃ。

 さも、当たり前の様に。


 “「な、な、なんですか! どうして、黒に取り込まれない? ここは僕の世界だ! ! 」”

「黒? ……この世界の事……」


 画面を通してでは無く、直に響いてくる声。

 優しくもあり。

 暖かい。


「暗いぞ……フン」


 そう言ったかと思ったら、視界が明るくなったんじゃ。

 眩しいぐらいに。


 “「ウゥ、アァァァァ〜! 消える! 何もかも消える! ! アァァァァ、アッ、アァァァァ〜〜! 嫌だ……嫌だ……嫌だ……死に……たく……ない……」”


 呆気ない終わりじゃな。

 刀祢は、完全に消滅した。

 跡形もなくのぉ。

 じゃが、少し遅かった様じゃ。

 下界にはすでに人属も、魔族も、魔獣も、居らぬ。

 風龍神ポコ、水龍神ゴーゲン、土龍神イーガ、雷龍神チョンピ……みんなで創った、我々のゆりかご自体が無くなっていたんじゃ。

 黒の世界が今は白の世界。

 空も大地も森も、何も無い世界。

 ゆりかごは消滅したんじゃ。

 神龍は辺りを見回した。


「何も無いではないか。ここは我の糧場であろう? 」

「先程から煩いぞ。我の憑代よ」

「我か? 我は神龍。この糧場の主人」

「なるほど、ゆりかごとは良い表現ではないか。なるほど。そなたの声は、我にしか聞こえておらぬのか」

「容易い事」


 誰かと話している感じじゃったが、声は聞こえぬ……はずじゃった。

 そのはずだったんじゃが、今は聞こえる!

 ナナの声が聞こえる!

 先ほどの会話をナナの声入りで再現するとこんな感じ、じゃった様じゃ。


「何も無いではないか。ここは我の糧場であろう?」

『ちょっと! 私の話を聞いてよ! ! 』

「先程から煩いぞ。我の憑代よ」

『煩いって何よ! って私の声、聞こえているじゃないの! あなたは誰よ』

「我か? 我は神龍。この糧場の主人」

『さっきから、糧場糧場って、印象悪いわ。ゆりかごと言ってよ』

「なるほどゆりかごとは良い表現ではないか。なるほど。そなたの声は我にしか聞こえておらぬのか」

『そうよ。当たり前じゃない。私はあなたに取り込まれているのよ。外の人に聞こえる訳ないわ』

「容易い事」


 ナナには、こんな風に聞こえていたんじゃな。

 妾はナナの声が聞けただけで嬉しいぞ。

 ナナが! ナナが! !

 妾の想いとは裏腹に事は進んで行く。

 天界にいるためか? 妾が未熟だからか?

 とにかく、妾もそこに行くぞ! そう思い、動き出そうと忌引きを返したその時、イン・フル・エンサーに止められたんじゃ。


「離してくれ。妾はナナの元に行くんじゃ」

「ククル、止めるのです。不完全な神龍の前では塵と化すでしょう。今、下界に降りるのは危険です」

「しかし……」


 インともめている間に、話は進んでいたんじゃ。


「なるほど、理解したぞ。あの消滅した者が元凶だった、と。フム……フムフム。戻る命と戻らぬ命がある。復元できる物と出来ぬ物がある。それでも、良いか」

『どうして? 刀祢の“深層の黒”に取り込まれた命や物よ。アークは無理としても、その他なら……』

「無理な事を言うでないわ。この者は聡い者だったんだ。取り込んだ命を自身の力にしておった。さらに、だ。古いところから順に消化していた。良い魂を持っていたのなら……」

『おかしな事を言うのね。魂に良いも悪いもないわ。あるのは魂だけよ。良し悪しのラベルを貼るのは周りの人よ。刀祢もアークも、自分に正直で寂しい人。その魂を黒く染めてしまったのは、周りに居た人。出会いが、魂の色を染めてしまうの! 出会いが多ければ、色んな色が混じり合うわね。みんな、とても綺麗な虹色をしているわ。刀祢もアークも、ね』

「フッ、フッ、フッフフフ……アハハハ! 面白い! 実に良いぞ。我は目覚めるにはまだ早い、お前の中で眠らせてもらおう」

『お前なんて言わないで。私は、ルジーゼ・ロタ・ナナよ! それより、どうして私が分かったの? 真っ黒で何も見えなかったのに? 』

「いくつかの要因がある。まずは、意識が奥深く沈んでおった為に、我が入りやすかった事。次に、そなたの回りに7つの魂が浮いておった。そなたを、ナナを、守るかの様にの。すぐに見つける事が出来た。その魂は、今もナナの回りに浮いておるぞ」

『ハチ、ロク、忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶。みんな、私を守ってくれたのね。あなた達を守る事が出来なかった私なのに……』

「それは違うぞ。そなたが居るから、その魂はここに居るのではないか。ナナが居るからだぞ。我は神龍。この世界の神たる存在。我が居るから、そなた達が居る。存在する事こそ大切なのではないか。我はそう思うぞ」

『……その通りだわ。ありがとう。神龍さん、私の中で眠れる? 』

「もちろんぞ。大地の復元も終わった様だ。消化されていない魂は肉体に戻して置いた。ナナの守った魂も戻るだろう。では、眠らせてもらう……」

『おやすみなさい』


 そんな会話が聞こえてきた。

 また眩くなり、視界が遮られたんじゃ。

 戻ってきた目に飛び込んできた世界は……。





「ナナちゃん……本当に行くの?」

「お母様」

「ソノアやめなさい。ナナ……連絡は必ずしなさい」

「はい、お父様」

「ナナ〜〜! よかったぜ。間に合った」

「エディが、寝坊するからですよ」

「ホゼ、うるさい。ナナ! これ、俺の魔石のカケラ。ナナにやる。戻って来たら絶対、会おうな。また、一緒に飛ぼうぜ」

「これは、僕の魔石のカケラです。こちらは、ロキアとマナスのカケラ。ナナなら平気だと信じてます。土産話を楽しみしています」

「ナナ! これは、あたしのカケラね。それにこれもあげるわ」

「マノア! これは? 」

「宝石箱よ。みんなが自分の魔石のカケラをあげるって言っていたから」

「綺麗ね。まるで、この世界の様に色鮮やかだわ。ありがとう! 」

「本当に綺麗じゃのぉ」

「ククル! 来てくれたの? 」

「ナナの門出なんじゃ。来るのは当然じゃろう」

「お腹、大丈夫なの? 」

「アハハハ! 大した事ないぞ。少し動きにくいだけじゃ」


 そうなの。

 ククルは、アークの卵を宿しているの。

 新たな龍神の誕生ね。

 今、天界で暮らしているわ。

 おかしいのよ。

 ちょこ様が寝ていた所に、ククルが寝ているの。

 お世話をしているのは、もちろん……。


「良い訳無いでしょう。戻りなさい。何度も言っているではありませんか! 龍神が龍神の卵を身籠もるなんて、前代未聞の出来事なのです。どの様な龍神が誕生するか……不安です」

「イン、煩いぞ。ナナの門出を邪魔するで無い」

「しかし! 」

「ナナちゃん。これを受け取って」

「青! 」

「わたしの魔石もあげる」

「でも、これは……」

「森とも話し合ったの。わたしのイヤリングを持っていてほしいって……。ナナちゃん、わたしね。ずっと見ていたわ。何にも出来なかったけれど、ナナちゃんの事を信じていたの。みんなを助けてくれたものね。安心して見ていたわ。

 魔族領の調査に行くって言い出したとき……あ! やっぱり行くんだ! でも、それがナナちゃんよね……って思ったよ。ナナちゃん、無茶してはダメよ。みんなの所に必ず戻って来てね」

「青、ありがとう。イヤリングは大切にするわ。……必ずすると、言いたいけれど青は、天界のモニターで観てるでしょう」

「えへへ! 」

「青! あたし達にも情報を流してよね」

「マノアちゃん、任して! 」


 青のサムズアップを見つつ、お父様の腕からハチの背へと移ったわ。

 おかしいわね。

 肝心な人たちが来ていないわ。


「良かった! 間に合いました」

「ルバー様が、歩いて行くからですよ」

「ハンナは酷いですね。あれでも走っていたんですよ」


 ウフフ、この2人正式にお付き合いを始めたらしいの。

 次に会うときは、披露宴のときね。


「ナナ様、やはり私も行きます」

「ハンナが行くなら、僕も行きたいですね」

「ルバー様はギルドがあるでしょう。セジルに私が殺されます」

「たしかに……。彼女は強いね」

「はい。昔は可愛かったのですが……」

「「ハァ〜〜」」

「アハハハ! ハンナもルバー様も、いらないですわ。竜を繋ぎにしてください。彼なら“刻渡り”が使えます」

「あの魔術ですね。考査をしたいのですが……僕たちの範疇外の魔術の様です。大変興味があります」

「ルバー様は変わらないですわ」

「それはお互い様だと思いますよ。ナナくん」


 2人で笑いあった私とルバー様。

 お父様、お母様。

 エディ、ホゼ、マノア、青。

 ルバー様、ハンナ。

 みんなありがとう。




「それでは、行ってきます!!」



「ねぇ、ハチ。どこに行くの?」

『まだ決めてないワン』

『あたしはあの山の向こうが気になるニャ』

『それでしたら、私たちが調べて参ります。みんな、行くぞ!』

『『『『オウ!』』』』

「みんな気を付けてね」

『『『『『はっ』』』』』

「ハチ、ロク……何でもない」

『分かってるワン』

『分かってるニャ』




 終わり。

終わりました。


まず初めに読んでいただいた皆様に、大大大大大感謝です。

拙い文章と誤字脱字。

それでも、最後まで読んでいただいて本当に感謝しかありません。


まさか3年も書いていたなんて驚きです。

そして、最終話だけで144話5431文字。145話が9599文字。合わせて15030文字。

これを2日で書き上げました。

そんなことが私に出来るだなんて驚きです。


ナナたちの話はおしまいです。

次は2年も放置している「エンペラー」を再開させたいと思います。

そのために、地獄の読み返しです。


また、どこかで会いましょう!


本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ