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144話 あらあら、最終ラウンドですって

2話更新です。

とても長い話になっています。

 

 ここは……どこ?

 私は……私?

 暗くて、何も見えないわ。

 私は……何でここに居るの?

 誰かに会う為?

 誰かと話す為?

 夜よりも深い闇に、何も分からない……。


 私は……誰?





<「貴方! 貴方! ナナの魔石が! ナナの魔石が! ! 」>

<「ソノア? どうしたんだ? 」>


 今日は、ナナの卒業試験日だ。

 俺はスアノース地方にある屋敷に居た。

 妻のソノアも来たいと言い張ったが、息子のカムイがイヤイヤ期に入ってしまい言う事を聞かない。

 ハァ〜、再来年には学園への入学が控えている。

 ハァ〜、先が思いやられるぞ。

 その為、ルジーゼ地方の城に置いてきている。

 その、妻からスキル“意思疎通”で緊急連絡が入った。


<「ソノア? 落ち着きなさい。何があった? 」>

<「貴方……。カムイが突然、愚図りだしたの。姉ちゃん! ナナ姉ちゃん! そう、言い出したかと思ったら騒ぎだして、城の外に飛び出してしまったの。慌てて取り押さえて、落ち着かせて……その時、私たちの寝室に置いてあった、ナナの魔石が粉々に砕け散ったの。それを見たカムイがまた……。今は、泣き疲れて寝ているわ。貴方、ナナの卒業試験は……」>

<「砕けたのか? 」>

<「そうよ」>


 魔石が砕けた……だと? !


<「ソノア、すまないがカムイをしっかり見といてくれ。何かを感じたのかもしれない。俺はナナを探す」>

<「分かったわ。ナナに会ったらすぐ、連絡してと言ってちょうだい」>

<「あぁ……」>


 俺はスアノース地方にある、屋敷の執務室を飛び出した。


<「ナナ! ナナ! ……。ナナ! ナナ! ……」>


 おかしい。

 何度、呼びかけても返事が無い。

 俺は焦る気持ちを抑え、走った。

 嫌な予感が俺の心を押し潰しそうだ。

 苦しい。


<「ナナ! ナナ! ……。ナナ! ナナ! ……」>


 返事をくれ!


「ナナ! ! 」






「あ! ホゼ。青ちゃんは、どこに行ったのかしら? 」

「青? 知らないですね。なんか、用事があったのですか? ロキア」

「それが……。今日の昼から、読み聞かせの約束をしていたの。子供達も大勢、集まって来たのよ。それに、来なかったの。連絡しても繋がらないし。まぁ、わたくしが代わりにしたんだけれど……。本当にどこに行ったのかしら? 」


 本当に不思議ね。

 今は夕刻。

 ホゼは、わたくしのお薬を持ってきてくれたの。

 わたくし達は、まだ寮に住んでいるわ。

 最後のナナちゃんが卒業してから、退寮する計画なの。

 寮母のノジル様は寂しがっていたわ。

 わたくしも寂しいです。

 でも、いつまでも甘えている訳にはいきません。

 わたくしはマナスと2人で、メースロア地方を治めないといけませんもの。

 今は、お母様のベルネに付いて日々勉強ですわ。

 それに、もうすぐマナスから魔力をもらうの。

 風属性の魔力を、ね。

 不安と安堵感とが混ざっていて、不思議な感じですわ。

 不安な気持ちは、属性の魔力を持ったことがないから。

 安堵感は、大好きな妹マナスと同じ属性。

 これほど嬉しい事はないもの。

 ウフフ、明日、ハチちゃんにしてもらうのよ。

 楽しみで仕方ないわ。


「ロキア! 変です! 青には繋がらないですし、ナナにも。とっくに、卒業試験は終了しているはずです。ルバー様に確認してみます。ロキアはナナに、連絡を取ってみて下さい」

「分かりました」


 わたくしは鬼胎を抱きながら、ナナちゃんにスキルを発動さました。


<「ナナちゃん……。ナナちゃん……。ナナちゃん……」>


 ……応答無しですわ。


<「ナナちゃん! ……。ナナちゃん! ……。ナナちゃん! ! ……」>







「ふぅ〜。やっと終わりました。それにしても、遅いですね。セジル君。ナナ君から、連絡は無かったですか?」

「いいえ、ありません。次はこれに目を通して下さい。そういえは、遅いですわね。終わったら、姉さんから連絡があるはずです。ちょっと、してみます」

「僕がするからいいですよ」

「ルバー様は、その書類にサインして下さい。ちゃんと読んでくださいよ! 」

「分かっています。まったく、そんなところばかり姉妹そっくりですね」

「それは、褒め言葉として受け取っておきます」


 本当に仕方のないお方です。

 身の回りのお世話をする、オットの苦労が知れるようですわ。

 でも、たしかに遅いです。

 姉さんが嬉しさのあまり、連絡を怠った可能性が大ですけどね。

 ここは、ギルドの執務室。

 お昼の日差しはとっくに過ぎた午後。

 お茶をするには、少し早いかしらね。


「あ! ! ルバー様。私、今から帰ります。子供達を迎えに行かないといけないので。姉さんに連絡だけは、しておきます」

「あぁ、よろしく頼むよ。僕がハンナに連絡、するからいいよ。早く子供の元に行きなさい」

「ありがとうございます。お疲れ様です」

「おつかれ」


 ナナ様と私は、姉さんを通じて寄りを戻したわ。

 私の姉、火の勇者ハンナはルジーゼ・ロタ・ナナ様のお世話係をしているの。

 勇者が貴族の召使いをしているなんて! と、思っていたわ。

 でも、違ったの。

 ナナ様は、私と姉さんを結び直してくれた方。

 優しくて、強くて、物知りなナナ様。

 異世界人だったなんて、冒険者登録をするときに知ったの。

 本当に両足とも無い、犬に跨ったお姫様。

 私の恩人。

 ルバー様ほどでは無いけれど、心配だわね。


<「姉さん……。姉さん……」>

<「セジル? 今、それどころでは無いの。後からにして」>

<「ちょっと待ってよ。何があったの? 」>

<「だ・か・ら! それどころでは、無いのよ! ! 」>

<「簡単でいいから説明して」>

<「簡単でいいのね。だったら、話してあげる。……ナナ様が行方不明なのよ! ! ! 」>

<「嘘でしょう! 」>

<「貴女、まだギルドに居るの? 」>

<「出た所よ」>

<「悪いんだけど、ルバー様に報告して。

 昼少し前に、ナナ様が洞窟に入ったの。それから、1時間たっても出てこなかった。ご友人のマノア様たちから、プレゼントである義足を着けての、試験だったので時間がかかっていると思ってさらに1時間待ったわ。そして、この時間……まだ出てこないのよ! 何かあったと考え中に入ったわ。……どこにも居ないのよ。隅々まで探したわ! だいたい、1本道の洞窟よ。迷うはずないでしょう! 何度も、何度も、何度も! 往復して探したわ! どこにも居ないのよ! ! ! ! 」>

<「姉さん! 落ち着いて。私が、今から報告するわ。姉さんは、ナナ様に連絡し続けて。返事があるまで。いい、姉さん。お願いだから、落ち着いて。近くにハチくん達は居ないの? 」>

<「え? ! そう言えば……居ないわ」>

<「だったら、安心かも。ハチくんとロクちゃんが居ないのは、ナナ様の側に居るからじゃない? 深呼吸して、落ち着いて。呼びかけるのよ。もう一度、言うわね。落ち着いて、ナナ様に連絡をするの。分かった? 」>

<「フゥ〜〜。そうね。ちょっと落ち着くわ。セジル、ありがとう。じゃ、ナナ様の事をルバー様に話しておいてね」>

<「まかして! 」>


 大変な事になったわ。

 私は来た道を引き返して、執務室に飛び込んだの。


「セジル? どうしたんだ。君がノックしないで、入室するなんて……。何がありましたか? 」

「姉さんに、連絡をしたんです。すると、姉さんが……。ナナ様が、行方不明になった模様。卒業試験の洞窟に入ったきり、出てこなかったようです。今、姉さんがスキル“意思疎通”で通話を試みています。すぐに、対応をお願いします」

「……分かった。セジル、すまないがギルドを頼みます」

「はい! 」






 僕は走りながら、ハンナに連絡を入れてみた。


<「ハンナ君」>

<「ルバー様? 」>

<「セジルから、話を聞いた。詳しく知りたい。今、そちらに向かっています。ガロスには、僕から知らせます。君は、ナナ君に連絡をして下さい」>

<「はい。お願いします」>


 僕は走るのはやめた。

 運動に適していない僕です。

 こんな時こその魔術の力だ。


「魔術“スプリングボード・ストリーム”」


 この術は最近、僕が考査した術。

 “スプリングボード”は円盤状に風を密集した板です。

 風属性を持っている人なら、中級者が使える魔術なんですが、動く事は出来ません。

 その円盤状の中に流れを作り小さな大気を発生させる事で、行きたい方向へと動かす事ができるようにした術です。

 ただ、常に魔力で風を補充しなければダメなので、燃費はあまり良くないのが現状でね。

 考査のやり直しです。

 ですがそこがまた面白いのですが、ね。


「ルバー様! 」

「ハンナ君、落ち着いて下さい」

「セジルに散々言われました。落ち着いています」

「何があったのです」

「はい。昼過ぎにナナ様が、皆様に見送られ洞窟へご自身の足で入られました。青様、エディ様、ホゼ様、マノア様、ロキア様、マナス様は一旦、帰られました。私が1人残り、ナナ様が戻られたら皆様に連絡を入れる手はずだったのですが……。1時間待って戻られず……慣れない足だったのかと思い。もう1時間、待ちました」

「戻らなかった……と」

「はい、その通りです。私は洞窟の中に入り、ナナ様を探したのですが見当たりません。何度も、何度も、何度も! 探しましたが……」

「居なかったと」

「はい」

「分かりました。僕は王とガロスに連絡を入れてから、ギルドに対策本部を設置。君のそこに移動して下さい」

「ですが、ナナ様がまだ中に居るかもしれません」

「君が散々見たのでは? 」

「……はい」

「ハンナ君。僕は君を信じていますよ。ナナ君の事に関しては、ガロス以上に大切にしているのでしょう。そんな君が見て、居ないと判断したのなら、それが正解です。自信を持って下さい。とても落ち着いていますよ。ハチ君たちも居ないようです。だったら、安心できます。彼らはナナ君と一心同体。どんな事があろうとも側を離れる事はありません。君はナナ君に連絡をして下さい」

「はい! お願いします」

「いい返事です。行きますよ」

「はい」


 僕はガロスに連絡を入れた。

 2度ほど繰り返してやっと繋がった。


<「お前まで、行方不明かと思ったぞ」>

<「ルバーか。すまん。それより、俺は急いでいるんだ。後にしてくれ」>

<「ちょっと待ってくれ。僕の方も大変なんだ。結論だけ言うぞ。ナナ君が行方不明だ。卒業試験の洞窟から、戻らなかったようだ。ハンナ君が探したが見つからず。今、ギルドで対策本部を設置する。お前も忙しいだろうが、こっちを優先してくれ」>

<「……ギルドだな」>

<「あぁ、大丈夫か? 」>

<「すぐ行く」>


 様子がおかしい。

 いつもなら、騒ぎ出す場面だと思うのだが……。

 何かあったな。

 ギルドに到着すると、すでに対策本部は完成していたようです。

 セジル君に任せておけば安心ですね。

 さっきから、ハンナ君の反応がありません。

 きっと、スキル発動中なのでしょう。

 だったら、僕は僕の仕事をするだけです。


「皆さん、聞いてください……」


 一斉に注目を浴びましたがそれどころではありません。

 そこに、ガロスが飛び込んで来ました。

 早いですね。


「ガロス、何があったのですか? 」

「昼過ぎに、ソノアから連絡をもらった。ルジーゼ城にある、ナナの魔石が粉々に砕けたそうだ。それに、カムイがナナ! ナナ! と暴れ出したそうだ。ナナに何があったのか? 」

「実は……」


 僕はこれまで知り得た情報をガロスに話して聞かせました。

 落ち着いている。

 さすが、ガロスです。

 頼りになる男ですね。


「そうか。ハンナは、ナナに連絡をしていてくれ。王様にも報告を、俺は準備をしていつでも動けるようにしておく。ここは任せた」

「わかった。ただ、ハチ君たちもいない事から、命に別状は無いと思う」

「ルバー……本当にそう思うか? 俺は、不安で仕方がない。ナナは無理をする。俺たちのため、友のため、ハチやロクのために、平気で無理をする。俺は心配でならない」

「大丈夫です。僕は、ナナ君を信じていますから」

「そうだなぁ。俺も信じているさぁ」


 そう言い残し部屋を後にしたガロス。

 その後ろ姿が怒りに燃えていた。

 おそらく、誘拐されたか連れていかれたと思っているのでしょうね。

 果たしてそうでしょうか?

 僕は違う気がします。

 もう少し、情報が欲しいですね。

 さて、僕はナナ君の仲間であるトッシュ様とククル様にも連絡を入れねばなりません。


<「ククル様……。ククル様……。ククル様? ? 」>

<「トッシュ様……。トッシュ様……。トッシュ様!! 」>


 変ですね。

 こちらも不通ですか。

 僕が頭を捻っていると、ホゼ君が息を切らして入ってきました。


「ルバー様。実は、ナナと青に連絡が取れません。今、ロキアとマナスが連絡をしています。何が、あったのですか? 」

「そうですか。ナナ君が、行方不明になっています。青君までとは……。なるほど、ククル様に連絡がつかないはずです。コレは、本格的に困りましたね。ホゼ君は、ロキア君とマナス君をここに連れて来てください。揃ったところで、説明します」

「すぐに呼びます」


 峻烈な状況のようですね。

 何とかしてククル様に連絡を取りたいものです。


「ルバー様。……無理です、繋がりません」

「ハンナ君。諦めるなんて君らしくありませんよ。呼びかけ続けて下さい。他の皆様は、ナナ君に連絡をするのを止めてください。僕はククル様に連絡をしてみます。青君の連絡は僕がいたしますので……」


 納得してくれたようですね。

 さて、答えてくれると嬉しいのですが……。


<「ククル様……。ククル様……。お願いです。答えて下さい。そこに、トッシュ様もおられますか?ククル様……。ククル様……」>


 ……。


 返答無しですか。

 ククル様、トッシュ様。

 お願いです。

 答えて下さい。

 お願いです。


<「ククル様……。トッシュ様……。お願いです。お願いです……」>

間髪入れずに続きを読んでください。



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