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143話 あらあら、ラウンド2ですって

 

「『僕が刀祢であり……黒龍神アークだ! ! 』」


 刀祢の姿と黒龍神アークの姿が重なって見えたわ。

 私は、最大の過ちを犯していたの。

 刀祢と対峙するために、魔族領へと来た私たち。

 北の大地は、黒の世界と変わり果てていた。

 と! 言っても、真っ黒の大きな箱がドォーンとある感じよ。

 空も森も洞窟も、そこに在るべき全てもモノが黒なの。

 一種異様よ。

 そこからニュルンと出てきた男こそ、刀祢昌利とねまさと

 当の本人は……童顔化学教師。

 でも、彼こそが魔族領に居たはずの全ての魔族、魔獣、動物、植物、鉱物、ありとあらゆるものを黒に呑み込んだ張本人。

 私は頼まれたのよ。

 ククルの情愛の相手だった黒龍神アークから話を聞いてきて欲しいと。

 それなのに……。

 初めは、刀祢の中に居る感じがしたの。

 この男が持論の講釈している最中、私は呼びかけたわ。


『黒龍神アーク! 私の問いかけに答えて! 白龍神ククルが貴方の事を心配していたわ。今も彼女は貴方のを事、愛しているのよ。……貴方もでしょう? だから、トッシュの仕事を奪ってでも、ククルの側に居たかった。違う? お願いよ! 私の問いに答えて! 私なら、貴方の声を聞くことができるから! お願いよ!』

『……』


 無回答。

 でも、そこに居ることを確信したの。

 さらに、続けたわ。


『アーク。私はルージゼ・ロタ・ナナ。転生者よ。前世での名前は鐡ナナ。名前の由来は、どちらも同じ7番目の子供だから。ウフフ、おかしいでしょう。接点なんかない、異世界でも名前の由来は同じなのよ。でも大好きよ、この名前。7はラッキーセブンだもの。幸運の7。

 アーク、私は転生者。この世界に来て12年しか生きていないわ。それでも、分かることはある。……いい所よ。足のない私を愛してくれて父に母。最初は、隔離され母恋しさに泣いた夜もあったけれど、お母様は私の事は忘れていなかったわ。自分にかかった呪いが私に降りかかる事を心配してのことだったの。自分の事より、愛する者の事を優先する。そんな事が出来るのは愛する事を知っている人だけね。

 アーク……今の貴方なら理解できるはずよ。ククルを愛しているんでしょう。彼女もよ。同じ想い。ねぇ〜、お願いよ。貴方の声を聞かせて! ! 』


 と、ね。

 あまりな必死な問いかけに、バレてしまたのよ。

 だって、答えてくれなかったんですもの。

 そう、このとき気が付けば良かったのよ。


 ……すでに……遅かった事を。


『同化して理解したんだ。この男は、母親しか居なかった。母親しか愛してくれなかった。母親が全てだった。その、母親は惜しみ無い愛情を注いで、愛してくれた。でも、その愛が歪んでいた………。

 僕にはククルしか居なかった。ククルしか側に居てくれなかった。ククルしか僕を愛してくれなかった。でも、僕の愛は……歪んでいたんだ。この男と僕は似ていた。悲しみも愛し方も愛に対する愛し方も……』


「『僕が刀祢であり……黒龍神アークだ! ! 』」


 この叫びを皮切りに、状況は一変したわ。

 刀祢を中心に黒が、魔術“ヘルシャフト”を侵食し始めたの。


「“封”。魔力を封じたワン」

「『へぇ〜、この空間はそう言う事だったんですね。なるほど、なるほど。ですが……僕を止めることは出来ませんよ』」


 その言葉通り、深層の黒の勢いを止まることは無かったわ。


「ハチ! 深層の黒は魔力では無いわ! 彼自身から発している何かよ」

「『深層の黒ですか……素晴らしいネーミングです。とても、気に入りました。では速度を上げてみましょうか』」


 スピードを増した黒は、私の飲み込む寸前まで来ていたわ。

 少しづつ下がるハチ。

 その様子を黙って見ていた忠大が叫んだの。


「ハチ様。魔力ではありません。ましては魔術でもありません。この“深層の黒”の正体は……生命力です。自ら命を放出し、全てもモノを取り込んでいると考査いたします。命を止めるしか、方法はございません! 」


 刀祢は、忠大をマジマジと見たわ。


「賢いネズミだね。なるほど、そのネズミが君の頭脳なんだ。そして、その犬が君の足。よく躾けているね。僕はね! 犬を飼うのが夢だったんだ! でも、ママが許してくれなくて。その犬……僕にくれない? 」


 手を伸ばす刀祢。

 なんだか、子供っぽい言動だわ。

 私が観察している間に、ハチが動きを封じたの。


「“停”」


 ドッタ……。


 ピタリと動きを止めたわ。

 そのまま後ろに倒れたの。


「ハチ……殺したの? 」

「全ての機能を停止させたんだ。死んでるよ。忠大“フリーザ・解析”だ」

「はっ」


 硬直している刀祢に触る寸前、笑いだしたの。

 全機能を停止して、死んでいるはずの彼の口から、盛大な笑い声が響いたわ。


『アハハハ! アハハハ……ヒィ、ヒィヒィ〜! アハハハ! 僕を殺せるわけ無いでしょう。あぁ〜、おかしい。コレでも僕は龍神ですよ。ナナくん、君が言っていたね。……ウフフ、バカな人ね。貴方が龍神を殺せるの? ……と。その言葉そっくりそのまま、お返ししますよ。貴女たちでは僕を止められない! ! さぁ! 深層の黒よ。全てを……染めてしまえ! ! ! ! 』

「ハチ! 術を解いて退避よ! 」

「“戻”」


 術を解いて、大きく後ろへと退いたハチ。

 あと一歩、遅ければ黒に飲み込まれていたわ。

 まさか、こんな力技で“ヘルシャフト”を破るとは思わなかったわね。

 そして、あの黒の正体は命そのものだったなんて想像すらしていなかったわ。

 何より驚いたのは、本当の黒幕が刀祢ではなくアークだった事。

 え? ! アーク……なの? ?

 自分で考査しておきながら、驚いてしまったわ。

 でも……でも……でも! !

 混乱している私をよそに、自体は進んで行ったの。


「『僕の命は無限にあります。なんせ、沢山の命を持っていますから。あ! 僕は神になったのかもしれません』」


 優越感に浸っている刀祢の姿が、またアークと被って見えている。

 感情の起伏が激しいわね。

 それに、刀祢なのかアークなのかの区別がつかなくなっているわ。

 後ろに、ジリジリ下がりながらつぶさに観察したの。

 それは私だけでは無く、忠大・忠吉・忠中・忠末も同様。

 その光景を眺めた刀祢は、楽しそうに、嬉しそうに、満面の笑みを浮かべて喋りだしたの。

 ミュージカルを観ているみたい。

 だって、小躍りしながら歌い出したのよ。


「ラララ〜♫ ナナ君でもォ〜〜、止められませんよォ〜〜〜♫ ……それにしても、犬君は面白いですね。支配する魔法ですか……まさに僕のためにあるようです。ですが……必要の無い魔法ですね。魔術ですか? フッ、全てを飲み込んでしまえば、支配も何もありません。言い換えれば、僕なりの支配です。そうか! ! 浄化ですよ浄化! 全てを黒く塗りつぶして、飲み込み次への生へと繋ぐのです」


 歌うのを止めて、拳を天へと突き上げた。

 今のは……話の内容から刀祢みたいね。

 でも、笑って話していたのは、アーク? ?

 これまでの彼を見ていると分かってきた事があるの。

 刀祢は、体と心のバランスが崩れてきているのかも知れない。

 アークと刀祢の心が混ざり、1つしかない体を引っ張りあっているのかも?

 そこにこそ勝機がある!

 私は、皆んなに連絡を入れたわ。


<「皆んな、聞いて! 刀祢は、心と体のバランスが壊れているわ。その証拠に、刀祢とアークの言葉が混じって聞こえているの。そこをツク事は出来ない? 」>

<『……了解ワン』>

<『『『『はっ』』』』>

<『『……』』>


 スキル“意思疎通”で、皆んなに話しをしたの。

 ところが、真っ先に返事を返してくれるロクの声が、聞こえなかったわ。

 忠凶も。

 そう言えば、全く彼女たちの姿も気配も感じなかった。

 心配になり、再度呼びかけようとスキルを発動させる直前、場面は一気に動いたわ。

 刀祢が一歩一歩、私の方へと近づいて来ていたの。

 手がかかる寸前。

 ハチが大きく後ろへと、ステップを踏んだわ。


『忠凶! 今だ! ! 』

『“スパイダーライトニング”』

『“ブラックボール”。ハチ、頼んだよ』

『準備万端、発動済みだワン』

『あんたには、あたし達の声は聞こえないが言わせてもらう。……バイバイ一生檻の中にいな! 』


 私は何が起こったのか、理解できなかったわ。

 目の前で繰り広げられた状況を話すわね。

 雷の金色網が、刀祢を雁字搦めに絡めていた。

 もがきながら、穴に吸い込まれて行っている。

 そんな光景が、私の面前で起こった事なの。

 刀祢が吸い込まれて行く様を見守りつつ、やっとロクが説明してくれたわ。


『あたしと忠凶は、ここに落とし穴を仕込んでいたんだ。その底に、この日の為に考査した術、魔術“フリーザ・檻”を仕込んで、落としたんだよ。それだけでは逃げられる事を視たから、忠凶に頼んで網で絡め動けなくしてから落としたんだ。最後は大技じゃない。基本の基本。ボールシリーズがとどめを刺した。あたしは、あんたをゆるさない。シャルルの想いを! マリアの願いを! 黒く塗りつぶしたんだ! ! ……その黒い監獄で生き続けな』


 完全に闇の中に溶け込んだ刀祢。

 ハチが仕込んでいた魔術“フリーザ・檻”で閉じ込めた……の?

 暫く、暗い穴の底を見つめていたわ。

 そこに、声高らかと笑い声が響いたの。

 声だけよ。


「『アハハハ! アァァァァ………アハハハ! ! この僕に、黒を支配している王に、楯突くとは笑止千万。笑うしかないよ。アハハハ……アハハハ……』」


 落とし穴の底には、ハチの術が発動しているはずなのに。

 いつのまにか、黒くてドロドロのヘドロ状の黒い靄が溢れるほど溜まっていたの。

 あっという間の出来事だったわ。

 笑い声が止まらず反響し私の耳に届いたのね。

 姿が見えず声だけがしている異様な光景に、ハチもロクもネズミ隊も、後ろへ後ろへと下り始めたの。

 ウフフ、後ろにも目が付いていれば良かったのにね。


「『アハハハ! アハハハ! ……それ以上、下がると危ないよ……と言っても遅いけどね。アハハハ! 』」

『ハチ! ! ナナを! ! ! ! 』

『『『『『姫様! 』』』』』

「ロク! 忠大・忠吉・忠中・忠末・忠凶! ハチ、下ろして! 」

『ダメだ。魔術“スプリングボード”』

「『僕が逃すと思ったのかい? 』」

『ウッ』

「キャーーーー! ! 」


 何が起こったのか?

 結論から言うと……私たちは失敗したの。

 刀祢とアークが完全に融合し、心のバランスを壊している事を知った時に撤退すべきだったのよ。

 それを置き去りにして、先に進んだの。

 自分たちの力を過信したのが原因ね。


「『おとっと、ナナ君。君はダメだよ。まだ、ダメだ。

 君は言っていたね。……自分の事より、愛する者の事を優先する。そんな事が出来るのは愛する事を知っている人だけね……と、ね。笑ってしまうよ。大笑いだよ。何が、愛する者を優先するですか! そんな事がある訳ない。あってたまるか! 全ての人間は、命に忠実なんだよ。生きる事が最優先されるんだ。たとえ母の愛でさえ……命には逆らえない。唯一、対抗できるのは、憎しみだけ。恨みや妬み、歪んだ愛も、遺伝するんだ。受け継がれるんだ。僕がそうだった。僕もだ。ナナ君。君は最後に取り込んであげるよ。この世に何も無くなった世界で、何が残るのか。見届ける権利をあげる。逃げるのは無しだ。反撃も許さない。ただただ、そこで見ているといいよ』」


 ロク・ハチ・忠大・忠吉・忠中・忠末・忠凶。

 私以外の、私自身を全て奪われた。


 ……深層の黒に飲まれてしまった。

 ……私を残して。

 ……私を……残して……。






「久しいの。ククル。トッシュ」

「フル。久しぶりじゃな」

「……」


 ここは、天界の寝室。

 神の稚児、ちょこ様が暮らす空間。

 そして、ゆりかごである下界の管理室。

 ちょこ様の世話をしているのがイン。

 下界の監視と管理をしているのがフル。

 魔族・魔獣・人属を管理しているのがエンサー。

 俺とククルは、龍神に姿を変えこの空域にやって来た。

 人の姿では無理だからな。

 それにしても、殺風景な場所だなぁ。

 何にも変わってない。

 ちょこ様の寝室と制御室のみ。

 白を基調としていて窓1つない、面白みのない部屋だ。

 下界に居たせいか、息苦しいぜ。


「フル」

「ククル、みなまで言うな。この世界は廃棄だ」

「しかし! まだ、立て直せる! 妾も動ける様になったんじゃ。これからなんじゃ」


 ククルが詰め寄った。

 俺にも何か言え! と目が語っているぜ。

 けど……。


「ククル、無理だ。フルは頭が堅い。何をどう言っても、首を縦にはフラねぇぞ。しかも、すでに決断は終わっちまったようだ。ここから覆す事は出来ない。なぁ、そうだろう? 」

「そうだ」

「チッ! 当たり前みたいに、頷きやがって。もう少し寛容になっても良いと思うぜ」

「フン」


 かなり頭にくる態度だなぁ。

 クッソ!

 ガチでどうにもならないのかよ。

 俺が悔しさで、壁に八つ当たりをした。


 ボコ!


「トッシュ! イラつくからと言って壊すでない」

「ハァ? うるせぇ! エンサー、お前は人も魔族も魔獣も見て来たんだろう。だったら何か言う事は無いのかよ」

「貴様から報告は、もらってない」

「ハァ? そんな暇は無いだろうが! 」

「報告・連絡・相談は、どの世界でも重要なファクターだと思うが」

「報告しなければ、考える事が出来ないのかよ! 連絡しないと、動けないのか! 相談しないと、前に進まないのかよ! ここで、見ていたんだろう? だったら、言うが易しなんじゃ無いのかよ」

「馬鹿者! それは、言うが易し行うは難しだ。意味が、全く違う。口で言うのはたやすいけれども、それを実行することはむずかしいと言う意味だ。百聞は一見にしかずが正しい」

「ククル、それもまた違うぞ。意味は、人から何度も聞くより、一度実際に自分の目で見るほうが確かでありよくわかるという意味だ。私は確かに見ていたが、他の者かたら聞いてはおらぬ」

「ダァーーー! そんな事を言ってんじゃねぇーー! ! もう少し待ってくれって言ってんだ。ナナが! ハチが! ロクが! 刀祢をぶっ潰して、アークから話を聞く。アークの意見を聞いてからでも、遅く無いはずだ。お願いだ、もう少し待ってくれ。……頼む」


 俺は頭を下げた。

 その横で、ククルも下げていた。

 今の俺たちに出来る事は、こんな事しかない。

 まぁ〜、俺の頭でどれだけの時間が稼げるか!

 そこがキーになるはずだ……と思ったのも束の間、事態は一刻の猶予も無くなっていたんだ。


「トッシュ、ククル。無理だ。ちょこ様が、長い眠りに付いている。目覚めると神龍へ、神化するであろう。ゆりかごの役目が終わる。この世界は、初めから間違っていたんだ。それを正す事が出来なかった、我々の責任だ。お前たちだけが、悪いのでは無い。私たちも責めを受けるべきだ。私は、そう思っている」


 インが俺とククルの肩に手を置き、優しい口調で話した。

 俺の中で、諦めの心が支配し始めていたんだ。

 そこに、ククルの叫びが俺を奮い立たせた。


「分かっている! それでも、それでも! もう少し待ってくれぬか。ナナが、アークの話を聞いてからでも遅くは無いはずじゃ。この世界の者は、やっとスタートラインに立てたんじゃ。妾たちの為に、邪魔され進歩を憚ってしまった。それが、漸く動き出そうとしている時なんじゃ。頼む。もう少しだけ、お願い……します。どうか、お願いします! 私の話を聞いてください! 」


 頭を再度、下げたククル。

 俺も必死に下げた。

 沈黙が怖い。

 俺はどんな奴と対峙しても、恐怖を感じた事は無い。

 俺自身が強いからだ。

 俺に正義があると確信しているからだ。

 しかし……今は違う。

 正しいのはインの方だ。

 俺では無い。

 たったこれだけの事で、こうも自信を無くし恐怖するだなんて思わなかったぜ。

 俺は弱かったんだなぁ。


 ……もう、無理だ……。


 そう言いかけたとき、最悪の瞬間を迎えた。


「キャーーーー! ! 」


 ナナの悲鳴が室内に木霊した。

 刀祢が……アークが……。




 終焉を迎えていた。

あと1話で終わる予定です。


最後まで頑張って書きますのでよろしくお願いします。


それではまた来週会いましょう。

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