139話 あらあら、科人の所在ですって
「イン、ちょこ様の様子はどうだ」
「最近、寝てばかりだ」
「何かあるのか?」
「分からない。こんな事は初めてだ。聞いたことが無い。ハァ〜、どうなっているのか。私にも分からない。分からない。分からない……」
「大丈夫か?」
「フル……何も言うな」
「分かった」
ハァ〜、なんでこんな事になったのか? 悔いばかりが私を責める。
私の名前、龍神フル。
この神に仕える龍神の1柱だ。
我々は、天界に住み神の幼体であるちょこ様の世話をしつつ、食料である魔力を得るための苗床の管理をする者。
インがちょこ様のお世話を、エンサーが人族・魔族・魔獣の管理を、そして、私フルが苗床を管理をする。
ハァ〜、なんでこんな事になったのか? 何度でも言いたい。
それくらい、後悔と後悔と後悔と後悔と後悔! ! 本当に後悔しか無い。
私が、他の神から種となる人族を貰い受ける時、まさかちょこ様のキックが私に炸裂するとは誰が想像できますか!
背中を押される形でボタンを押してしまった私が、悪いのでしょうか?
ハァ〜〜〜〜。
一頻り長いため息が出たところで、慰めてくれる同僚の声がした。
「フル。そんなに落ち込まなくていい。あれは私でも、無理だ。私なら分かる。ちょこ様のキックで何度、腰をやった事か。さらに、あの癇癪は凄まじい。私は、私は、ウゥゥ……」
「泣くなイン。たしかに、ちょこ様は凄い。聞き及んだ限りでも、凄いじゃじゃ馬っぷり……同情するぞ」
「フル」
「「「ハァ〜」」」
エンサーを含めた、3柱のため息が聞こえてしまったのか、隣の部屋から枕が飛んできた。
もちろん、派手な泣き声付きだ。
しかし、今はちょこ様より下界の状況が心配だ。
それにしても、ゆりかごとは上手い事を言ったものだな。
よし! 正式採用だ。
「ハァ〜」
「エンサーどうした?」
「フルか。すまんすまん。最近、ため息しか出てこないんだ」
「何となく理解している。あの者か?」
「それと、あいつらだ」
「あいつらとわ?」
「フル、分からんか? ……ククルとトッシュだ!」
「その通りだ! エンサー。何故に引っ掻き回す! 何のために、鐡ナナを送り込んだと思っているんだ! ! 彼女に任せておけばいいんだよ」
「たしかに。私もそう思う。苦労したんだ。足の無い者に代わりの足を、魔力の低い者に魔力量の多い者を、目端の利く家臣を! 探し出し、導くのは本当に大変な作業だったんだ。それを台無しにしやがって……」
「エンサー、分かるぞ! 分かるぞ! それだけでは、無いだろう」
「あぁ、そうだ、そうだった、そうだった。だいたい、トッシュが1番悪い。あの男が、“刻の先読み”と“豊潤の宴”を回収できなかった事にある。刀祢の監視の意味で、近い善良な心の者に渡した。それが、ダメだった時のためのお前だろうが! 何のために、トッシュの近くに落としたと思っている。回収も含めての2手先、3手先の事であろうが! 言わずとも理解してくれる者と思っておったのに! ! ! ! ……ハァ〜〜」
怒りに拳を天へと突き出した。
その手が力なく落とされる。
その背中に、ポンポンと労いの仕草で叩かれた。
「エンサー、フルよ。気持ちはよくよく分かるぞ。私も、ククルには失望した」
「インか。たしかに……。しかし、気持ちは分からぬでは無い。愛しく思う気持ちは、人族も龍神も変わらぬ。心がある以上、仕方のない事よ」
「しかし! たった1つだけ、良い事をした! 」
「「フル? ? 」」
首を傾げる2柱。
改めて見ると、我らは3つ子のごとく似ている。
俗に言う、オヤジスタイルだ。
もちろん、筋骨隆々なマッチョなオヤジだがな。
育児や家庭菜園をするには、1に体力2に体力3と4が無くて5に体力。
何をするにしても体力が必要なんだ。
こんなに、大変とは夢にも思っていなかった。
マニュアルに掲載されている事を読むだけであったが……飛びっきりハードなんだ。
「「フル? 」」
「あ! すまんすまん。ククルは、たった1つだけ良い事をした。それは、ルバーの覚醒だ。あの者が魔力を集めてくれるおかげで、食料難では無くなった」
「あぁ、その事か」
「インは、助かったのではないのか? 」
「たしかに助かっている……が! なんでもかんでも、やりすぎなのだ。大地に還元しなければ、良い土にはならぬのではないか! 加減の知らぬ子供か! 」
「「「ハァ〜〜」」」
またまた、ため息が出た。
そして……。
「イャャャーーーーー! ! ! 」
「「「ハァ〜〜〜」」」
これが我らの日常。
それが今日、変わろうとしていた。
私が送り込んだ鐡ナナが、旅立ったのだ。
科人の元へと。
「ふぅ〜あぁぁぁぁ〜〜〜! ! よく寝た。さて、僕の愛しい人はどこに居るかな? そうか、僕は感知する事は出来ないのか! 僕としたことが、マズイなぁ〜」
新品の白衣を着ている。
僕の力では衣類を作り出す事は出来ないが、地田幹夫の能力で今、作った。
本当に便利だね。
それに、面白い。
ただ残念なのは、僕に使いこなせる器量が無い事かなぁ。
アハハハ!
「だったら、どうしたら良いかなぁ? 僕としては、向こうから来てくれると楽できるのに、ね」
ウフフ。
僕は昔から、独り言が多い子供だったらしい。
死んだ母さんが言っていたのを思い出したよ。
そして……怒りも。
僕と母さんを殺した男への怒り。
僕の仮説を認めてくれなかった病院への怒り。
全ての人間が僕を異端視した事への怒り。
怒り怒り怒り怒り怒り! ! !
「アハハハ! アハハハ! ! 死ぬがいい! 僕の怒りを買った者は、死ぬ定めにあるんだ! ! アハハハ! アハハハ……」
力無く仰向けに倒れた。
空腹を感じ、口を開けモグモグと食べるフリをしてみた。
大の字になり、孤独を食べてた。
「ウフフ。僕は仙人になったのかな? 霞を食べて生きるのが仙人。僕は闇を食べて生きているんだ。お腹がいっぱいだ」
僕は正座をして腕組みをした。
僕の考える時のスタイルなんだ。
変わっているだろう。
でも、これが1番の思考できるんだ。
「そうか! 僕が事を起こせば、向こうからやって来る! とりあえず、地田幹夫を食った場所まで行ってみるか」
そこでハタと気がついた。
「なるほど、この“次元縫い”には弱点がありますね。何より、ネーミングが悪い。ウンベカントテューアなんていいですね。ドイツ語がしっくりきます。ですが……少し長いですね。……カンテューアでいいですか? ウン、良さそうです。だいぶん落ち着いてきましたよ。まずは、弱点の見直しです。この“カンテューア”ですが、マッピング機能が付いていない事です。頭の中の地図と記憶で、次元を超えて行きます。要は、出たとこ勝負の術な訳ですね。まさに、未知への扉です。ですが……僕は人一倍記憶力が良いんです。1度でも読んだり見たりした事は、覚えています。ウフフ、僕にピッタリの術ですね。
さて、大きな花火でも打ち上げてみますか。僕はココですよ! と、ね。ウフフ……アハハハ! ! 」
コツコツコツ。
湿地帯だった大地は、黒く硬質な物に変えられていた。
岩城秀幸の特殊魔術“硬化軟化”の力で、歩くところを硬い部質に変えているんだ。
歩いやすくする為だけの行為。
その後どうなろうと、彼には知る気も術も無い。
大地に還る事無い大地は、永劫の闇に残る。
歩いてきた道、歩く道には闇しか……無い。
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最後のキャラクター設定です。簡単にしか記載しておりません。
刀祢昌利 35才
32人を殺した大罪人。護送中、ワゴン車と正面衝突し崖から車ごと転落。刑務官は激突の衝撃で車外に飛び出したために助かる。特殊魔術“死の宣告”は体に血文字で名前を書くだけで殺すことができる。もしくは、殺害方法を書くだけで、必要な道具を出すことができる。人は死から生へと繋がるをモットーにした医学者。白髪混じりの黒髪ボサボサ。黒縁メガネをかけた男の子にしか見えない。
岩城秀幸 20歳
マリアの恋人。4人でドライブの帰り道。護送車と正面衝突で崖に転落。特殊魔術“硬化軟化”は触れた物や人を硬い性質に変えたり、柔らかい性質に変えることができる。自分自身にも使うことは可能。剣道で気耐え抜かれた好青年だった。剣道では大将。教育大学2年生。あだ名ヒデ
地田幹夫 20歳
岩城の幼なじみ。特殊魔術“裁縫師”は魔力を糸状に出すことができる。何でも、どんなものでも縫い止めることができる。その糸でどんなものでも縫い止めて、意のままに操ることができる。剣道の副将をしていた。実生活でも岩城に振り回されている一番の被害者。体は小さいが心は広い。あだ名ミッチー
楽満俊哉 21歳
大学からの友達。動けるデブ。特殊スキル“冷蔵庫”は食べられるものに限らず、全てのものを食べることができる。体の中で保管することも可能。捕食するときのスピードは誰にも負けない。しかし、何かを食べ続けなければならず、常に空腹。性格は柔和。ことなかれ主義。普段は意見もせずに後ろから着いてくるだけなのに危険を察知すると、意見する。あだ名マンプク
北岡真理亜 20歳
大学で秀幸と知り合い恋人になる。特殊魔術“祈り”はお祈りの仕草をし祈ることで、その願いは現実となる。ただし、自分にふりかかる願いしか改変されない。12歳離れた妹、愛隣がいる。保母さんになるのが夢。正統派の美人。あだ名マリア
最後を意識してとても短いです。
いつもより半分の量しか書いていません。
終わりまで付き合って頂けると嬉しいです。
今年最後の更新です。
来年1月11日に更新開始です。
それでは、良いお年を!
来年また会いましょう。