138話 あらあら、美しい世界ですって
この2年間、本当に苦労したわ。
みんなの思いが詰まった贈り物なんでもすもの。
無下に出来ないわ。
それにククルの……「ハチが入れぬ所や此奴が戦わなければならぬ事も出てくるじゃろう。ナナが、1人で立たなければならぬ事もあるんはずなんじゃ。そんな時、コレがあれば良いであろう。それにしても、面白いのぉ〜。マノアの持つ力は独特で、有用性は抜群じゃ。じゃが、上手く使うには幅広い知識が必要になる。案外、宝の持ち腐れになる際どいスキルじゃのぉ……だって」……との事。
思わず納得してしまったのよね。
たしかに、そんな場所はこれから沢山あるわ。
式典とか、ね。
必要な事は認める。
でも……でも、ね。
やりすぎだと思うの。
その……使われている……技術によ。
それもこれも、忠大に問題があるわ。
あの子が自重しなかったせいよね。
本当にやり過ぎよ! !
「あ! その事なんだけどさぁ。俺たち全員、忠大の実査に参加したんだ」
エディのこの一言で事実が発覚。
なんと、なんと、なんと! ! !
忠大ったら、魔術“フリーザ・解析”の精度を上げる目的と、情報収集のために有志を募ったみたいなの。
ハァ〜、おそらくルバー様が加担したに違いないわ。
だって、強制的にギルド職員は参加だったらしいもの。
全く何を考えているのよ。
もちろん、しっかりと説教したわ。
懇々と切実に……と言いたいんだけれど、聞いていないわね。
せめてもの救いは、実査に参加したマノア達が自分の能力を再発見できて事。
しかも、楽しかったみたい。
その成果が私へのプレゼント。
高性能の義足なの。
この世界は、異世界人の知識で成り立っていると言っても過言では無いわ。
それほど、この世界いに前世での知識が蔓延しているの。
それでも、それだからこそ!
前の世界を超える知識は、生まれて来ない。
この世界の独自の知識も、ね。
私はこの世界の成り立ちを知り、そう感じていたわ。
悪い事では無いでしょうけれど、この世界特有のモノが無いのは寂しい気がするわね。
と・こ・ろ・が! !
マノアが忠大の“解析”から得た新発見で事態が一変。
「わたしも自分のスキルを勘違いしていたんだ。ナナに言われて、わたしの力を知ったわ。でも、それだけじゃ無かったの。特殊スキル“絵師”はスキルだったのよ。そう! スキルだったの。しかも、常時発動型の!」
驚いたのなんのって。
忠大が導き出した答えは……マノアの特殊スキル“絵師”……だったの。
スキルだから常時発動型なのね。
では、何を描くのか?
そうでは無くて、見たモノ聞いたモノ感じたモノを記憶するのが“絵師”の能力だったの。
そして、リアル化する事を魔術“絵師・真成”としたみたい。
その能力は、実際に描かなくてもリアル化出来るの。
描けないモノ、液体や気体にも描けるらしいわ。
そのリアル化したモノは、材質の影響を受ける。
そこを利用して完成したのが、私の義足。
「で、ね。この義足のココの部分ね。関節の部位なんだけれど……関節ってね。大腿骨と脛骨、そして膝蓋骨から構成されてんの。脛骨の関節部分はほぼ平らな形をしていて、その上を、大腿骨の丸い先端が転がるようにして動くのね。その骨をエメラルドで作って、神経や筋肉をナナのスキル“闘気功・纏”で担えば歩けるんじゃないかと考えたの! 試してみる価値は有ると思う! ナナやってみてよ!」
ハァ〜。
ハチに風属性の魔石エメラルドを、平らに魔術“フリーザ・アトリビュート”で作り出し、そのエメラルドをマノアが絵に描いて、義足をリアル化したの。
あら! 不思議?
あっという間に風を纏った義足の出来上がり、なのよ。
まぁ、ハチにしてもマノアにしても、実査をしてみたかっただけとも言えるわ。
それでも、私のために作ってくれた事には変わりないもの。
とっても嬉しかったわ。
ハァ〜、あとは私の問題だけ。
「あ! スキル“闘気功・纏”だったわね。今すぐ唱えるわ。……かんじーざいぼーさーつー〜〜〜」
ハァ〜、私にはコレがあったの。
どうしても、スキル“闘気功・纏”を使うとき、集中しないと発動しないのよ。
私の集中の仕方は、般若心経を唱える事。
精神安定剤なのよね。
でも、ずっーーーと唱える訳にはいかないわ。
そこで、特訓をすることにしたの。
1人じゃないのが、幸いだわね。
「ナナには俺が教える。ナナ行くぞ! ……そうじゃない! ! 感じるんだ! 魔力はココにある ! ! なんで分かんないんだよ」
「ロキアは僕が教えるよ。肩の力を抜いて……。そう、目を閉じて……感じるんだよ。どう?」
ウゥゥ……優しくしてエディ。
『ナナ、本当に1人で行けるワンかぁ?』
「平気よ、ハチ」
『あたしは心配してないよ』
『視たから言える事ワン』
『だったら、心配する必要は無いじゃないか。あたしが保証してんだよ。はっは〜ん、さては……足を取られてスネてんだね。ナナ、気にする事なんてないからね! ナナなら、楽勝でいけるニャ』
「ありがとう、ハチ、ロク。大丈夫よ。これでも、30分は保つようになったんだから! 行って帰るぐらいなら楽勝だわ。まかしてよ。……行ってくるわね」
『行ってらっしゃいワン』
『行ってきな』
「うん」
私は、みんなに貰った義足を装着してスキルを唱えたわ。
「まかはんにゃーはーらーみたしんぎょう
かんじーざいぼーさーつー
ぎょうじんはんにゃーはーらーみたじー
しょうけんごーうんかいくう
どーいっさいくーやく
しゃーりーしー
しきふーいーくう
くうふーいーしき
しきそくぜーくう
くうそくぜーしき
じゅーそうぎょうしき
やくぷーにょーぜー
しゃーりーしー
ぜーしょーほうくうそう
ふーしょうふーめつ
ふーくーふーじょう
ふーぞうふーげん
ぜーこーくうちゅうむーしき……。
スキル“闘気功・纏”」
私の体を透明な膜が覆ったの。
そして、義足に血が通ったわ。
「よし! 足の指! 踝! 土踏まず! ! ふくらはぎ! 膝! 屈伸! ! 動作確認終了」
「「「「「「……」」」」」」
みんなの呆れた顔が私を見ているわ。
「エディ、ホゼ、ロキア、マナス、マノア、青。そんな顔しないでよ。仕方ないじゃない。1度、般若心経を唱えないと集中できないんですもの」
「俺は知ってるぜ、ナナの努力を! そして、俺の苦労も……ここまでだったんだ」
「泣かないで! エディの苦労は僕が1番知っています」
「ホゼ! 」
「エディ! 」
肩を落とすエディに、優しく手を置くホゼ。
「そ、そんなことないですよ! ナナさんは、すっごく成長しまいた! わたくしが見ていました!」
「お姉ちゃん……フォローになってないよ」
「ウッ、マナス〜〜」
追い討ちをかけるロキアとマナス。
「まぁまぁ、ロキアちゃんも、マナスちゃんも、それくらいにしてあげて。ナナちゃんも、行くんでしょう。卒業試験、頑張ってね。……マノアちゃんんからも何か言ってあげて……マノアちゃん?」
「ナナ! 最高! ! 」
最後にマノアのサムズアップと最高の笑顔を見せてくれたわ。
ウフフ、私の背中を押してくれた人たち。
私の味方。
大切な仲間たち。
本当にありがとう。
さて、動作確認も終わったし行きましょうか。
私の卒業試験の洞窟へと。
ザック、ザック、ザック。
「ハァ〜、ハァ〜、ハァ〜〜。さずがにキツイわね。でも、まだ行けるわ。もうすぐ龍神の祠。頑張れ! 私! ! 」
コッツ、コッツ、コッツ。
「この辺りは石が多いのね。砂地より歩きやすいわ。あ! 祠だわ! ! 」
私は、光の矢が突き刺さる祠に最後の一歩を踏み出した。
卒業の印である名前が書いてある札を納め、中から王家の紋章が刻まれている札を取った。
「居るんでしょう。ククル! 」
祠の先に、広がるのは海。
そのポッカリ空いた洞窟の縁から、ひょっこり現れたのは白龍神のククル。
「バレておったか。コヤツが心配してのぉ〜」
「ハァ? バカ言ってんじゃねぇ。俺がそんな事を言うわけ無いだろう」
「ウフフ、貴方も居たのね、トッシュ。居るんでしょう? ハチ、ロク、忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶……みんな、出てきなさい」
祠の陰からハチとロクが、その横にある岩からネズミ隊が姿を現したわ。
「全く、待っていてくれるんじゃなかったの?」
『無理ワン』
『仕方ないニャ。ククルの姿を視たからね。あんた達だけ、ズルいじゃないの』
「まぁ、ロクったら」
私は、ククルとトッシュに向き合ったわ。
ハチとロクとネズミ隊は、私の後ろに並んだの。
ハチだけは、私の左側に居るわ。
ウフフ、私の支えになってくれるのね。
ありがたいわ。
「貴女に会ったのはここよね。あれから2年? かしら。あっという間だったわね」
祠で待っていると、側まで来てくれたククル。
あれ? 少し大きくなった?
私が、不思議な顔をしていると、一瞬で青が現れた。
「私の身長が伸びたのよ。ナナちゃん」
「なるほどね! 」
「ナナ……行くんじゃな」
また、ククルに戻ったわ。
忙しい龍神ね。
「行くわ。私って欲張りなの。
ウフフ、凄いでしょう! エディ、ホゼ、ロキア、マナス、マノア、青。私の大親友たちがくれたのよ。多分だけれど、エメラルドを提供したのはお父様とルバー様だわ。これだけの上物、エディ達には用意できないもの。
ククル、私の周りには優しい人ばかり。前の世界でも、鐵ナナを愛してくれた人は居たわ。でも、それと同じくらい私の事を嫌っている人もいた。だってしょうがないじゃない。生きていたんですもの。あの世界では、上手くいかない事の方が多いの。それでもね。それでも! 歯を食いしばって生を全うしたわ。そんな私に、この世界は何を望むの? 初めは理解できなかった。100歳まで生きたご褒美だったの? とも考えたけれど、それにしては足が無いのは大きなハンデだったわ。じゃ〜、何んでよ! そこに現れたのが、紅蓮の龍王トッシュだった。驚いたの何の。私の唯一の心残り。竜坊に会えるなんて。ウフフ、その時はっきり理解したの。私の役目は、トッシュの中に居る竜を助ける事だって。でも……違ったのよね。私の役目は……ハチとロクを育てる事。ネズミ隊に役目を与える事。みんなを導く事。そう、よ、ね。ククル、トッシュ」
「「……」」
私の目を見つめる2人。
何も語らない2人。
「そして……あなた達は……この世界を……壊す事が最終目的……よ、ね」
「「……」」
だんまりを続ける2人。
何か言いたそうな2人。
最初に口火を切ったのは、トッシュだったわ。
正確には竜ね。
「ばあちゃん! そんな……そんな事は無い! 初めは、そうだったかも知れないけれど、今は違うよ。トッシュもククルも、この世界の住人なんだ。無くしたいと思って……」
「竜、もう、良い、いいんじゃ。ナナの言う通りじゃ。妾は、アークの消息と想いを知りたかった」
「俺は、俺は……分かんねぇよ。竜族の奴らも、俺を慕って気の良い奴らだった。それに、ルバーもガロスも漢だ。それも最高にイカしたヤツらだった。俺に、居場所をくれたナナに感謝してる。この世界も……悪く……ねぇ」
いつの間にか、トッシュに変わって居たわ。
そんな2人に、私は話し出した。
怒る事も諭す事も無く、淡々と事実だけを述べた、つもりよ。
「そう、地上の降りた竜族はこの世界の監視者、傍観者だったのね。不要の判定を下すのは、上にいるイン様、フル様、エンサー様の3柱。そのための資料を作るのが、地上に降りたトッシュの役目。そこに、イレギュラーな事故が起こった。それが、ちょこ様の暴走が引き起こし、間違った人間の渡来と……道ならぬ恋にあたふたした龍神。1つのミスが連鎖を起こし、次から次へと問題が発生した。その、対応をするため地上に残る龍神へ渡すはずだった力を善良な渡来者に渡した。小さな不安の監視役としての意味だったと思うわ。それもまた……間違いだった。ウフフ、コレは私の主観ね。そして、地上に残った龍神にも、問題が起こった。黒龍神アークと白龍神ククルの恋。道ならぬ恋は、燃え上がりやすいから。盲目になりやすいのよ。それが、最悪の結果となった。渡してはいけない相手に、龍神の力が渡ってしまった。本当の私の役目は、地上に降りた龍神トッシュの後継者、竜の補佐……だったはずよ。そんな私に、刀祢と対抗できる可能性を秘めていたハチとロクの育成を託した。補佐としてネズミ隊が加わった。コレが真実よ、ね」
「「……」」
沈黙が正解を表していたわ。
でも、私は声が聞きたかった!
「ククル! 答えてちょうだい! ! 」
「……すまぬ……その通りじゃ」
絞り出すよう声に驚いたわ。
いつもの横柄な声では無かったんですもの。
「分かっておる。妾、龍神の責任なんじゃ。そなた達、人族、魔族、魔獣、異世界人には、何の罪は無い。我ら龍神の罪なんじゃ。この2年間、青の中で色んな事を見聞きした。彼らの生きてる様は、美しい。懸命に生を全うしてる姿は、美しい。辛く悲しい事があっても前を向き立ち上がる心は、美しい。この世界は、美しいモノで溢れておった。醜いのは妾の方。恋に溺れ、周りが見えなくなっていたのは妾たちの方。……ナナ……この世界は消えさせたりはせぬ! 妾と此奴で何とか掛け合ってみる。その間に……刀祢を消して欲しいんじゃ」
「ククル ! ! 」
「分かっておる。妾とて、逢いたい。刀祢の中で眠っているアークに、一目でいいから逢いたい。じゃが、妾は龍神。この世界を守る義務がある。それに……ナナ……そなたなら、何とかしてくれそうではないか? 妾が行かずとも、妾の心を1番理解してくれておるじゃろう。ナナ……アークの事を頼む……ぞ」
「もちろんよ! 貴女の想いをぶつけてやるわ! ! 女の想いは重いのよ! ! ! 」
「アハハハ! そうじゃ、その通りじゃ! 女の想いは重いんじゃ! ! 」
「「『アハハハ』」」
私とククル、そのククルの中にいる青。
3人の笑い声が重なって聞こえたわ。
一頻り笑った後、真顔になったククル。
トッシュの首根っこを引っ掴み、引きずりながら言い放ったの。
「そなたも来い」
「バカ! 俺が行けるわけ無いだろう! 俺はお前と違い、完全にこの世界に受肉している。精神生命体の龍神とは違うんだ。そんな事は、百も承知だろうが! 離せ!」
「馬鹿め! ! 龍の姿なら上に上がれるであろうが! この世界が不適合と判断した際、上への上がり方も忘れたのか! ! お前は、刀祢と戦いたいだけであろう。この戦闘狂め。妾と共に、上の連中を説得するぞ。この世界を守りたいんじゃろう。だったら、何をすべきなのかは明白。とっとと行くぞ! 刀祢と……アークの事は、ナナに任せて置けば良いんじゃ」
「分かった! 分かったから、引っ張るな! 行くから、手を離せ」
「フン! 」
ククルの束縛から、解放されたトッシュ。
ハチとロクのところに来て、2匹を一緒に抱きしめたわ。
「ナナの事、頼むぜ。お前たちが頼りだ。この世界の消滅は、俺とククルが何とかする。安心しろ」
『任せるワン』
『明るい未来しか視ないニャ』
訳さなくても理解しているみたい。
ウフフ、自身に満ちた顔をしているもの。
そのあと、ネズミ隊の元に行き。
頭を下げたトッシュ。
最後に私のところに来たわ。
その時は竜の姿へと変わっていたの。
「竜坊……気を付けて行くんだよ」
「もう、婆ちゃんはいつまでも竜坊って呼ぶんだ。……僕は大丈夫だよ。婆ちゃんも……大丈夫だね」
「竜坊だって、婆ちゃんと言うじゃないかい。ウンウン、婆ちゃんは平気だよ。しっかりやって来るんだよ。竜坊なら出来るから……」
「婆ちゃん! 」
「竜坊! 」
硬く抱きしめ合った2人。
私は想いを託したわ。
竜からも、温かい想いをもらった。
トッシュに戻り、固い握手を交わして、旅立ったの。
「さて、私たちも行きましょうか?」
『挨拶なしで行くのかニャ』
「湿っぽいのは嫌いよ。それに、ルバー様ならついて行く! とか言い出しそうじゃない。なんだか、それをしてはいけない気がするの。私たちだけ……託された私たちだけで行きたいわ」
『了解ニャ』
私は義足を外し、マジックバック改に入れてハチへと跨ったわ。
誰にも何も言わずに行くのは、後ろ髪を引かれる思いがしたけれど、ククルとトッシュの想いは誰にも渡したくなかったの。
スアノース地方の卒業の洞窟から1匹の白い魔獣と、その魔獣に跨った少女が、風のように走り去って行くのを、警備兵が確認した。
しかし、あまりに速くその獣が何者なのか? そこに誰が乗っていたのかを、認識することは出来なかった。
そして、見過ごされた。
「ふぅ〜あぁぁぁぁ〜〜。よく寝た。僕の愛しいの君はどこにいるのかなぁ? 」
最後が見えてきましたね。
年内に……神のみぞ知る……です。
それでは、また来週会いましょう。




